好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

誰が何を言おうと、「俺は俺」。 - Van Morrison 『Poetic Champions Compose』

folder 1987年リリース、17枚目のソロ・アルバム。Themを脱退して間もなくレコーディングされた『Blowin’ Your Mind』が1967年なので、20年間ほぼ一定のリリース・ペースを守っていることになる。それに加えて何枚かライブ・アルバムや2枚組オリジナルもリリースしているので、アイテム数は相当な量にのぼる。なので、軽い気持ちで「ちょっと集めてみようかな」と思うのは早計。とんでもない量だから。
 ちなみに、そんな大量のオフィシャルもほんの氷山の一角に過ぎず、ブートの世界に足を踏み入れたら、そりゃもう奥深い迷宮から抜け出せなく恐れがある。Grateful Deadのファン・コミュニティーによって確立されたテープ・ツリー・システムが御大のコミュニティー内でも運用されており、比較的初期の未発表音源も聴くことが容易となっている。今じゃ普通にトレント・ファイルでも出回っているので、コンプしようと思ったが最後、一生を棒に振ってしまう。
 ダメだよな、これからレビューするのにこんなこと書いてちゃ。

 以前、布袋寅泰『Guitarhythm』をレビューした際、「問答無用の音楽」と形容したことがあったけど、デビューから一貫してその「問答無用の音楽」ばっかり作り続けてきたのが、Van Morrisonである。
 日本のアーティストで例えれば、浜田省吾あたりが最も近いポジションなんじゃないかと思われる。「団塊ジュニアの演歌」とも例えられる彼の楽曲は、その長い熟成を経て余分な雑味や脂が削ぎ落とされ、バラード系は一聴して判別がつきづらい楽曲も多いけど、それを「拡大再生産」と指摘するものは少ない。彼が奏でるのは、真摯に音楽と向き合った姿勢の末、紡ぎ出されたものだ。安易に一朝一夕で仕上がる、そんなお手軽なものではない。
 80年代中葉の『J. Boy』で心を鷲づかみにされた俺世代以上からは、熱烈な支持を受ける浜省だけど、全盛期を知らない若造にとっては、堀内孝雄との区別がつかないかもしれないし、人によって「合う/合わない」や「好き/嫌い」もあるだろうけど、でもそんな瑣末な個人の嗜好を鼻で笑い飛ばしてしまうのが、浜省の音楽であり御大の音楽である。
 多分、浜省なら言わないだろうけど、「ゴチャゴチャ言わんでいいから黙って聴けやっ、嫌なら聴くな」と言い放ってしまえる豪快さこそが、御大のキャラクターである。

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 年季の入ったヴォーカリストのアルバムというのは、「圧倒的な存在感を有する歌声」と、「あくまで引き立て役としてしゃしゃり出ず、それでいてそこそこのオリジナリティを付与した堅実なバッキング」という構図が一般的となっている。なので、それほど興味のない人にとっては楽曲の優劣がつけづらい。要するに、どれを聴いても同じに聴こえてしまうのだ。
 浜省のバラード系同様、御大もまたビギナーにとってはハードルの高いアーティストである。「一貫した音楽性」ということはイコール「初期の段階である程度、基本フォーマットが完成されている」のと同義である。時を経るにつれて熟成加減は深まるけど、その作品群は時系列とは無関係の座標にある。繰り返すけど、どれを聴いても同じに聴こえてしまうのだ。
 微妙な声の若さやアレンジの素っ気なさなんかで、「これは60年代後期のアルバムかな?」というのは判別できるけど、これがリマスターされたものになってしまうと、どっちが1976年モノでどっちが2015年モノなのか、ちょっとわからなくなってしまう。
 たまにちょっと寄り道して、アイリッシュ・トラッドやジャズ、カントリーに手をつけたりはしてるけど、基本、ブレの少ない人である。ていうか、「俺が歌えば全部Van Morrison なんだから文句ないだろ?」という無言のプレッシャーが、音から滲み出ている。その辺の圧は浜省よりかなり強い。

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 そういった人なので、どの時代から入ったとしてもクオリティは高く、一度馴染んでしまえば居心地の良い環境は保証されている。ただ、いくら同じような作風といっても前述の深化とリンクして、時代を追うごとに微妙に変化しており、当然好みも分かれてくる。
 一般的に間口の広さとして、ロック名盤ガイドなんかで紹介されることの多い『Moon dance』〜『Astral Weeks』を入り口とする場合が多い。実際、俺もワーナーの廉価版CDで入ったクチだし。
 その2枚を入手したのは確か20歳頃で、当時はロックの歴史をなぞるように、名盤ガイドに載ってるアルバムを片っぱしから聴き漁っていた。最初は、上位にランクインしているBeatlesやStones、Dylanなどの手堅いところを攻めてゆくのだけど、聴き進めるにつれて、あまり興味のないモノが残るようになる。そのうちリストを埋めることが目的化してゆき、一応下位打線のアイテムも聴くことは聴くのだけれど、そう何回もプレイヤーに入れることもなく、早々に売っ払ってしまう。

 当時の俺にとっての御大が、その中古レコ屋行き物件に当たっていた。その渋く地味な作風を受け入れる準備が、俺にはまだ整っていなかったのだ。結局のところ、自ら望んだモノでないと身につかない、という教訓は得た。汎用性の高い教訓だよな。
 「『Moonsance』周辺の70年代の作品群を抜きにして、Van Morrison を語ることはできない」という空気が、昔から日本の権威的メディア周辺では蔓延している。Stonesだったら『Let it Bleed』、Pink Floydなら『Dark Side of the Moon』が最高傑作だ、という論調。前評判や絶賛のレビューによって期待値が上がり、で実際に聴いてみると…、で、速攻中古レコ屋行き。そういった「何か思ってたのと違う」名盤をかき分けて、ずっと底の方で打ち捨てられた「真の名盤」たちよ。

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 Van Morrisonの場合だと、初期の泥くさいブルー・アイド・ソウル路線と併せて、本線から大きく逸脱したフォークロア作品『Irish Heartbeat』なんかも、評論家筋に結構持ち上げられている。民俗学的には貴重な記録かもしれないけど、正直、聴いてて面白いものではない。どうせやるのなら、大滝詠一『Let’s Ondo Again』ぐらいまでパロディーに噛み砕いてくれればまだ聴けるけど、あまりにアカデミック過ぎるそのスタンスは、ちょっと肩が凝ってしまう。

 そんな彼の音楽をきちんと聴けるようになったのは、ほんとここ数年、60〜70年代のソウル/ファンクを通過した耳を持ってからである。評論家の見当違いな絶賛に惑わされず、能動的にジャンルの開拓を行なうことによって、やっと自分のフィーリングとシンクロしたVan Morrisonサウンドを見つけられた、といった経緯である。単純に、年を取ったおかげもあるんだけどね。
 最大公約数的に、70年代派がファンの多勢を占めるのは事実だけど、それでも80年代以降の洗練されたAOR的サウンドを好むユーザーも多いのも、また事実である。俺がよく聴いて入るのも、ちょうどそこら辺だし。
 特別なギミックや小技もなく、単純に良い曲を素直に、感情の赴くまま歌い上げるだけ。
 たったそれだけなのに、お腹いっぱいになるくらいのクオリティが保証されている。あまりに安心できる仕上がりなので、良い意味で高機能なムード・ミュージックとしても活用できるのが、80年代Van Morrisonの大きな特徴である。

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 そういったわけで、この『Poetic Champions Compose』も品質保証付きのクオリティである。いつも通りなので特別な新機軸はないのだけれど、ちょっと御大、この時はジャズをやってみたかったのか、自らサックスを吹きまくったインストを3曲も収録している。アルバム構成上、ほんとは大して必要ないパートであり、無理やりねじ込んだ感もあるのだけど、でも案外サマになってるのはキャリアの為せる技。
 何かに似てるかと思ったらアレだ、部下の結婚披露宴の余興で自ら立候補して楽器演奏してしまう上司。やらせてみたら案外うまくて注目を集めてしまい、ドヤ顔で席に戻って酒を煽る中年男。いつも上から目線だけど、でも何だか憎めないんだよな。


Poetic Champions Compose
Poetic Champions Compose
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1. Spanish Steps
 
2. The Mystery
 御大自身によるサックスを大々的にフィーチャーしたインストの後に広がるのは、雄大なアイルランドの地を思わせる、スケール感のある力強いバラード。広々とした農作地帯を思わせる奥行きは、ストリングスの音色さえフィドルのような響きに変えてしまう。

3. Queen of the Slipstream
 その肥沃たる大地をクローズアップしたかのような、古き良き19世紀の情景を振り返るような、懐かしささえ感じさせるバラード。考えてみりゃバラードばっかりだよな、この時期って。さらにカントリー志向が深まって、御大自ら弾くギターの音色も時々バンジョーっぽく響く。一応、シングル・カットはされているらしいけど、チャートインせず。



4. I Forgot That Love Existed
 ノスタルジックなムードから趣を変えて、もう少しリズムの効いたミドル・バラード。ヴィンテージ・ソウルからインスパイアされたメロディもフックが効いており、俺的には好きな世界。
 ほんと色づけ程度にシンセが使われているのだけど、この程良さ加減が絶妙である。同時代のアーティスト、例えば名前を出しちゃ悪いけどDylanのこの時期の作品なんて、変に時代に色目を使ってしまったのが仇で自爆しちゃってるし。
 ボトムがしっかりしてれば、無理にトレンドを追うことはないのに、つい目先に食いついて黒歴史化してしまったのが、多くのシンガー・ソングライター系のアーティストである。

5. Sometimes I Feel Like a Motherless Child
 こちらもメロディにメリハリがついたバラードで、ヴォーカル・スタイルはもう少しソウル寄り。基本のドラム・ビートに加えてアンビエント・テクノっぽいシーケンスが裏でなっているのだけど、こういった使い方ってあまり注目されてないけど、生音とのミックス具合はもっと注目されても良いと思う。スローなのに程よい疾走感がうまく表現されている。

6. Celtic Excavation

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7. Someone Like You
 B面冒頭のインスト、ていうか御大の独演会をプロローグとして、多分、一般リスナーも含めて最も良く聴かれている正統派バラード。最近になって、どこかで聴いたことがあると思ってたら、映画『ブリジット・ジョーンズの日記』でフィーチャーされていたのだった。そりゃ知名度あるよな。
 もう少し調べてみるとこの曲、映画挿入歌としてかなり優秀らしく、他にも6本の映画で何かしらのシーンで採用されている。クセがなくて、それでいてセンチメンタルで熱いバラードなので、ビギナーにも入りやすいんじゃないかと思われる。



8. Alan Watts Blues
 女性ヴォーカルが入ると、やっぱりゴスペルになるのは定番。タイトルにブルースって入るくらいだから、サウンドはほんと黒い。手クセの多いギターも粗い響きのドラムも、すべてがアメリカン。知らされずに聴いてると、ほんと黒人のヴォーカルと勘違いしてしまう。

9. Give Me My Rapture
 ニューオーリンズ風味は再び続く。アーシーなオルガンと強いリズムが曲をリードする。しかしこういった曲を聴いてると、ほんと演歌と同じ土着性の強さを感じさせる。

10. Did Ye Get Healed? 
 これまでの曲より洗練された、サックス・ソロからリードするジャズ・タッチのミドル・チューン。心もちヴォーカルの圧も抑え、オールディーズ・スタイルの女性ヴォーカルとのコンビネーションがレトロ・フューチャー。間奏のソロも軽やかだし、聴いてるとついついスウィングしてしまう。
 いい年だけど、ちょっぴりファニーで一皮むけた大人の茶目っ気を見せる御大。こういった大人に憧れてしまう。ていうかリリース当時の御大は42歳。今の俺よりだいぶ下じゃないの。まずいな。

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11. Allow Me
 ベッタベタなカクテル・ジャズだけど、まぁムード・ミュージックとして捉えれば充分な仕上がり。最後くらい、好きにやったっていいじゃん。あ、でも全部好き放題か。


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アーサー・ケストラーなんて怖くない- Police『Ghost in the Machine』

folder 1981年リリース、前作『Zenyatta Mondatta』 からきっちり1年のブランクで制作された、4枚目のオリジナル・アルバム。この時期になると、世界的にもパンク~ニューウェイヴバンドのオピニオン・リーダーとしてのポジションが確立されており、UK1位US2位は指定席みたいなものだけど、日本ではオリコン最高29位と。
 これだけ見ると、洋楽アーティストとしてはまぁ健闘したかな?といった感じだけど、前作が16位、これの次の『Synchronicity』が17位となっているため、このアルバムで失速してしまった感が強い。なので、日本ではちょっと影の薄く、習作的扱いとなっている論調が強い。「『Synchronicity』において完成されたPoliceサウンド」に至るまでの過渡期の作品、てな感じで。

 世界中で売れに売れた『Zenyatta Mondatta』を引っ提げて行なわれた世界ツアーは、1年強で全86回ものショウに及んでおり、その間に『Ghost in the Machine』制作に向けてのプリプロや曲作りも行なっているのだから、彼らが質量ともにハンパないレベルのハードワークをこなしていたか。それにつけ加えて、各メディアからの取材やらTV・ラジオ出演やらも行なっているので、とにかく休まるヒマがなかったはずである。彼らだけに限らず、この時代のアーティストらのワーカホリックぶりが窺える。

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 今ではアーティスト・サイド主導による余裕を持った活動ペースが主流となっているけれど、90年代くらいまではレコード会社コーディネートによる「アルバム・リリース → プロモーション・ツアー → アルバム・リリース」という無限ループが当然とされていたため、楽曲制作に多くの時間をかけられないケースが多々あった。ツアーの合間を見ながらレコーディングしたり、またはレコーディング最中に楽曲制作に追われたりなど、クオリティの追求とは相反する状態こそが、むしろ通常でさえあった。当然、ライブ会場とツアー先のホテルとの往復ばかりの毎日では、アーティストとしての耐用年数は加速度的に減じてゆく。作品の出来はムラが多く、同じ曲ばかりリクエストされるライブでは、心身ともに消耗が激しくなる。
 何やかやのストレスの捌け口、爆発手前のガス抜きとして、大抵のアーティストなら一度は過剰な酒やセックスに走ったりする。もともと清廉潔白な者の方が少ない業界なので、多少のおいたは致し方ないところ。ある程度遊び慣れてる者ならそれで済んじゃうんだろうけど、変に真面目というか依怙地な人だったら、その辺の切り替えがうまくできなくて、終いには怪しげな宗教やドラッグに走っちゃったり、あげくの果てには自ら死を選択したり。何ごとも根を詰めすぎるのは良くないよね。
 Policeの場合だと、そこそこ分別はあった人たちっぽいので、大きくハメを外したエピソードは聞かない。まぁ世界各国を回ってるうち、ちょっと過剰サービスの接待や乱痴気騒ぎはあったんじゃないかと思われる。そういった情報統制やメンバーのメンタル面のケアなど、世界的にメジャーなアーティストになると、きちんとした管理が重要となる。その辺はStewart Copeland の実兄Milesのマネジメント力によるものが大きい。

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 新人パンク・バンドとしてデビューしたPoliceだけど、新人というわりには3人ともとうが立っており、素人に毛が生えた程度の他のバンドとは明らかに毛色が違っていた。パブ・ロック上がりのようにパンク以前からの下積みが長かったわけではない。別のジャンルで相応のキャリアを積んでいた熟練プレイヤー達が、パンク・ムーヴメントの追い風に乗って戦略的に結成されたバンドである。「売れる」ことが大前提にあったため、そもそもの成り立ちが違っていたのだ。
 プログレやジャズ、60年代ロックをバックボーンに持つ卓越したプレイヤー達が、敢えてそのテクニックを封印し、単調な8ビートとルート音のベース、シンプルな3コードでデビューしたのも、戦略のうちだった。変拍子や速弾きプレイが前時代的なものとして受け入れられなくなった70年代中葉、注目を集めるためには熟練の職人技はむしろジャマでしかなかった。
 後方伸身宙返りもマスターした優秀な体操選手が、近所の体操教室のレベルに合わせてでんぐり返しばっかりやっていると、フラストレーションは溜まるし技術レベルも低下する。朱に交れば何とやらで、自らミッションを課しないと思考レベルまで周囲に引き寄せられてしまうのだ。そんな事態を憂慮したのか、他のチンピラバンドとの差別化としてレゲエを取り入れたり、暗喩や隠喩を絡めた歌詞世界など、自分たちで飽きが来ないように手を尽くしていたわけで。

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 今でこそ、wikiやらファン・サイトやらで、彼らの詳細なバイオも簡単に調べることができるけど、活動当時は前述のバックボーンや音楽性のルーツなど、よほどのマニアでもない限り、広く知られていなかった。Curved Airや後期Animalsのファンと、パンク〜ニューウェイヴのファン層とがほぼ被らなかったおかげもあって、彼らの前歴がばれることもなかった。その辺はマネジメントの方も、巧妙に隠していたわけで。
 なので、前歴を知っていたPoliceファンというのはほぼいなかったため、3ピース・パンク色が払底された『Ghost in the Machine』の登場は、青天の霹靂だった。これまではあくまでパンク~ロックンロールの文脈で組み立てられていたサウンドが、80年代を代表するプロデューサーHugh Padghamの手によってコンテンポラリー色が一気に増した。前作とは大きく色合いを変えたサウンドは、ほんの少しだけ物議を醸した。
 シンプルな3ピース・パンクこそ至上のサウンドである、とするPolice原理主義者らはその路線変更を良しとしなかったけれど、そこまでガチガチだったのはごく少数で、彼らの声は論議にもならずフェードアウトした。

 破壊と創造の連鎖だった70年代が終わり、虚無と享楽の80年代が始まっていた。「何でもアリ」のニューウェイヴ・ムーブメントの最中に提示された「プロフェッショナルにカスタマイズ」されたサウンドは、新たなファン層の拡大に貢献した。
 シンプルなサウンドも3枚続けば、さすがに新味も薄くなってしまう。わずか3つの楽器だけでは、バリエーションといったって限界がある。あとは自己の無限コピーか拡大再生産、または思いっきりアバンギャルドに向かうしかなくなってしまう。「売れる」ことは一先ず達成したけど、「売れ続ける」には臨機応変な判断が必要となる。3ピースで構成されるサウンドの臨界点が『Zenyatta Mondatta』だとすれば、次回作は新たな切り口が必要となる。
 路線の軌道修正には、ちょうどいい頃合いだった。周囲に右ならえのでんぐり返しから、いきなり2回転半宙ひねりを繰り出した瞬間である。
 彼らが本気で世界レベルでのスターダムに向けて動き始めた。

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 デビューからの3作がプラモデルでいう、色もデカールもつけていない素組みだったとすれば、その後の2作はカラーリングや陰影をつけた立体感のある完成品である。ただ、半ば活動休止を前提として制作された『Synchronicity』を総決算として捉えるとすれば、この『Ghost in the Machine』こそがPoliceサウンドの完成形ということになる。今後の3人それぞれの方向性を示唆する作品の集合体『Synchronicity』以前、ソングライターStingの覚醒を素材として、他2人が対等の立場で料理していった結果が、『Ghost in the Machine』という近未来テイストの濃い作品として結実している。
 彼らの演奏スキルを持ってすれば、そのStingの成長より以前、もっと早い段階から完成形のビジョンは見えていたはずである。ここまで哲学的にならなくとも、楽曲テーマの深化、またサウンドのゴージャス感アップは可能だったんじゃないかと思われる。
 ただ、彼らはここに至るまではそこに手をつけなかった。
 「機が熟すのを待っていた」という見方もあるけど、彼らのアイディアの具現化に、レコーディング技術やマシン・スペックがやっと追いついた、というのが真相に近いだろう。これがもう1、2年早かったら、リズムにメリハリの効いたプログレ程度で終わってたんじゃないかと予想される。

 デビュー当時からほぼエンドレスで続けてきた、足かけ3年に及ぶ世界ツアーを終え、彼らはカリブ海に浮かぶ孤島モンセラートへ向かう。そこにはGeorge Martin所有のエアー・スタジオがあり、当時は数々の著名アーティストらがレコーディングで訪れていた。人里離れたリゾート地も兼ねていたため、まぁ長期休暇には格好の立地だったとも言える。実際、どのアーティストもレコーディングよりビーチでくつろぐ時間の方が多かったらしいし。
 Policeの場合も例外ではなく、バカンスを兼ねてだったけれど、そこは前述のCopeland兄の仕切りによってレコーディングの方に比重が置かれていた。バカンスのくせに作業工程表はタイトに組まれており、しかも凝り性ばかりの3人がゆえ、結局はスタジオ内にいることが多かったというのは何とも皮肉。
 デビュー当時から、3人顔を突き合わせると殴り合いのケンカになるのは日常茶飯事で、この時も何かあるたびに衝突が絶えなかったらしいけど、Hugh Padghamの采配によって、どうにかレコーディングは工程通り進められた。バンドとして一丸となってサウンド・メイキングに注力した最後の作品が、この『Ghost in the Machine』である。個の集合体としての結果報告が『Synchronicity』なら、バンド総体の相乗効果の最終形は『Ghost in the Machine』ということになる。
 マルチ・レコーディングの功罪として、メンバー個別でブースに入ることが多くなるのが、この時期からである。この後は、バンド・サウンドとしてのPoliceを第一として考えていたCopelandから、バンドの主軸がSting に移り、ソングライター視点でのパーソナルな色彩の楽曲が多くなってゆく。次第にバンドとしての存在意義が薄くなってゆくのだ。


Ghost in the Machine (Dig)
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1. Spirits in the Material World
 コード弾きシンセのリズムはレゲエというより、もはや優美なワルツの如く。のっけから「僕たちは物質文明社会の魂なんだ」という、ポップ・ミュージックの語彙にはないサビを無機的にリピートするSting。ゴシック・ロック調のミニマル・フレーズは淡々と、それでいて既存のPoliceのイメージを次第に浸食してゆく。明らかに手触りが違っている。よく初っ端からこんな重い曲持ってきたよな。

2. Every Little Thing She Does Is Magic
 入口をダークなテイストで彩ることによって「これまでと違う」感を演出したのだけど、営業政策的なのか打って変わってポップなロック・チューン。彼らにしては歌詞もお手軽なラブ・ストーリー仕立てとなっており、シングルとして選出されたのも頷ける。シングルでUK1位US3位は、彼らの歴史の中でも大きく売れた部類に入る。



3. Invisible Sun
 『Ghost in the Machine』が彼らの作品の中でもダークな部類に入ることはファンなら周知の事実であり、大抵の楽曲なら好意的に受け取るものだけど、しかしこの曲をリード・シングルとしたことに違和感を覚えたユーザーは多かったんじゃないかと思われる。あまりに違うもの、以前とまったく別のバンドだし。
 当時、社会問題として英国では深刻化していた北アイルランド紛争をテーマとした楽曲は、必然的に陰鬱なテイストで彩られることになった。そういったメッセージ性・告発を行なうことはアーティストとしての義務である、と目覚めたのがStingだけど、他2名はあまり気乗りしなかったことは、後のインタビューでも明らかになっている。そういった視点を持つことが後のロック・セレブ化に繋がるわけだけど、いまにして思えば胡散臭さの方を強く感じてしまう。

4. Hungry for You 
 なので、極端にメッセージ性を露出させていない、旧来Policeサウンドに最も近いこの曲は、重苦しいムード漂う中においてはひと休みできるポイントであり、ごく普通に楽しめる。そうだよな、初めてこのアルバム聴いた時、何回か聴いただけで投げ出しちゃったけど、この曲だけはよくリピートして聴いてたもんな。



5. Demolition Man
 後にSylvester Stallone主演の同名映画に発展した、ソリッドなロック・ナンバー。ここではAndy Summersが大きくフィーチャーされて、印象的なリフとオブリガードを数多く披露している。ちょっと不協和音気味のホーンもアンバランスな状況を示唆しており、ダークではあるけれど当時から好んで聴いていたナンバー。もともとはGrace Jonesのために書かれた曲らしいけど、そっちはまだ未聴。ちなみにこの曲、彼らの中では6分と、最も長尺の曲。内容的にはプログレ的なテイストであるので、そういったテーマをたった6分で収めてしまうところに、彼らの気前の良さと構成力の妙が発揮されている。

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6. Too Much Information
 ここからアルバムではB面。ちょっと軽快なホーンとフリーキーなAndyのギター・ソロ、威勢のいいStingの掛け声。何となくこの辺にリゾートっぽさを感じてしまうけれど、リズムの重さはダークな世界観を支配する。たった3分にまとめられた勢い一発のナンバー。

7. Rehumanize Yourself
 B面曲のくせにやたらとポップで性急なスカ・ビートが印象的なナンバー。以前だったらこういった曲を軸にアルバムが制作されていたのだけれど、この配置だとまるでオマケの曲、アウトテイクから引っ張り出してきたかのような場違い感を醸し出している。いや俺はこういったPoliceが好きなんだけど。間奏の消防車のサイレンのようなホーンは特に印象的。

8. One World (Not Three)
 前曲に続き、リゾートっぽさが出たポップ・レゲエ。リズムの組み立ては完全にダブで、ほぼワン・コードでサビのフレーズのみで構成されている。灼熱の太陽の下、ジンライムでも飲みながら延々と聴き続けていたい曲である。

9. Ωmegaman
 多分、2枚目か3枚目に収録されていれば、アルバムの核として人気を博したナンバーになったのだろうけど、ここではいまいち場違い。程よいロック・テイストとちょっぴりの狂気。シンプルな8ビートは疾走感に支配され、リズム・アレンジも絶品。だからこそ惜しいのだ、こんな扱いで。

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10. Secret Journey
 アメリカでなぜかシングル・カットされ、46位にチャートインしたロック・ナンバー。ちょっと骨太なニューウェイヴ・バンドのシングルB面的な扱いの曲で、構造的にはシンプルでありながらエフェクトなんかで遊んでる感じ。曲はいいと思う。想うのだけれど。要するに、俺はこの曲、それほど興味がないのだ。


11. Darkness
 ここまでいわゆる「ロック」の文脈で構成されてきたこのアルバムだけど、Stewart作のこの曲だけ、ちょっとテイストが違っている。落ち着いたテイストでありながら、地を這うように鳴り響いているのは複雑に細かく刻まれたリズムの洪水。Andyも滅多に使うことのない逆回転ギターで存在感をアピールしている、。よく聴くとかなりアバンギャルドな実験が飛び交う曲でもある。
 そんな中でただ一人、朗々とペースを崩さず歌い、リズム・キープに徹したベースを奏でるSting。みんながみんな、あっちこっちへ行ってしまっては収拾がつかなくなる。それぞれのポジションを窺いながら振る舞うことが、バンド維持の秘訣でもある。



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すごいぜ!カマキリ号 - Donald Fagen 『Kamakiriad』

folder -このアルバムは、ナレーターがハイテク自動車「カマキリ号」に乗って旅をする、というテーマの近未来的な連作歌曲である。タイトルの『カマキリアド』とは、日本語の「カマキリ」と、ギリシャ古典文学『イリアス』の英語表記である「イリアッド」を合わせたものである。

 厨二病を拗らせた漫画青年が、少年雑誌に持ち込んでボツになった作品のようなコンセプトで作られた、Donald Fagen 2枚目のソロ・アルバム。久しぶりの表舞台にもかかわらず、何でこんな捻くれた設定を思いついたんだろうか。いや、長いブランクが逆に仇となったんだろうな。目玉集団のResidentsが喜んで取り上げそうなテーマだもんな。
 現実寄りのレトロ・フューチャーを狙ったと思われるSFっぽいインパネのイラスト・ジャケットは、正直、センスの良さは感じられない。ていうか『Aja』から『Nightfly』に至る洗練されたジャケット・デザインが特別であって、Dan関係のジャケットはほぼすべてが悪趣味の塊である。「遅れてきたサイケデリック」満載のデビュー・アルバムといい、正面切ったカマキリのズーム・ショットの『Katy Lied』といい、どの辺にアピールしたいのか、さっぱり見当がつかない。
 こういった底の浅い思わせぶりもまた、Danの魅力のひとつである、と言いたいところだけど、真剣に受け取ってはいけない。多分、彼らにとってはすべてがジョークの範中なのだから。

 まだビルボード・チャートがラップやグランジに支配されていなかった1993年、世間的には大ヒット映画『Bodyguard』相乗効果によるWhitney Houston 「I Will Always Love You」が首位を独走していた頃、『Kamakiriad』はリリースされた。ジャケットといいコンセプトといい、普通に考えれば一般ウケしそうにない作品であるにもかかわらず、『Nightfly』以来10年ぶりのソロ・アルバムということで、リリース前からマスコミ、メディアは盛り上がりを見せていた。正直、日本での知名度は高い方ではなく、その『Nightfly』のジャケットは見たことはあって、多分、ラジオや有線で耳にしたこともあるだろうけど、そもそもDonald Fagenって誰?という程度の扱いだった。ただ、当時の洋楽配給においてほぼ独り勝ち状態だったワーナーの販促キャンぺーンはかなりの力の入りようで、ロキノンを始めとする雑誌媒体への出稿やFMでのパワー・プレイ、タワレコでのレコメンド展開など、出せる手はとにかく尽くしていた。
 その甲斐もあって、US10位UK3位、日本でもオリコン最高7位にチャートインしている。CDセールスにおいてミリオンが連発、輸入盤販売もピークの時期だったため、もしかするとSteely Dan関連では日本で最も売れたアルバムかもしれない。

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 その反面、初動はめちゃめちゃ良かったけど、売り上げ・評価も含めてその後の落ち込みようはハンパなく、リリースされて間もなくして途端に話題にのぼらなくなり、中古CD市場には大量の『Kamakiriad』があふれ、ほぼ新譜にもかかわらず値崩れを起こした。
 それまでの熱烈な『Aja』『Gaucho』原理主義的コア・ユーザーにとっては淡泊すぎ、キャンペーンに乗せられて雰囲気で購入してしまったライト・ユーザーにとって、曖昧でわかりづらい彼のサウンドはヘビロテする類のものではなかった。
 一聴するとシャレオツで機能性抜群のサウンドと受け取られる後期Danを好む層は、どの時代にも一定数存在していたため、『Aja』~『Nightfly』の作品群は、恐ろしく長いロングテール型の販売曲線を描いていた。決して大きくバズッたりはしないけど、その軌跡は今も連綿と続いている。
 で、その連鎖をぶった切ってしまったのが、この『Kamakiriad』と言われている。

 要はユーザーが要求する『Aja』~『Nightfly』のクオリティに達していなかった、ということではある。ただ、構想も含めて10年かけて熟成された作品なので、完成度が低いわけではない。テンション・コードを多用した揺らぐメロディと形而上学的な主題は相変わらずだし、いくらでも深読み可能な言葉もそこかしこに散りばめられている。
 Steely Danの音楽を形容する際、「謎解きのような音楽」と称されることがあるけれど、ただそれなら『Kamarikiad』も同様である。変ちくりんなコンセプト・設定が象徴するように、思わせぶりな態度は相変わらず、以前にも増してその狡猾さは磨きがかかっている。
 なのに、これまでと扱われ方が違うのはなぜなのか。

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 末期Steely Danで顕著となるのが、今も語り継がれるアナログ・レコーディング技術の総決算、限りなくマニアックでありながら、あらゆるシーンにおいて汎用性を持つ、アーバンでメロウなAOR的世界観である。ミュージシャン・クレジットにこだわる音楽通を唸らせるだけでなく、シャレオツな空間でも何ら違和感なく、環境音楽と同じ機能性を有しながら、どこか不穏な後味を残せるのが、彼らの優位性だった。消費型のBGMとして聴き流すこともできると同時に、不特定多数のごく一部の琴線に、わずかな揺らぎを与えることができたのは、彼らくらいである。
 プラチナ獲得アルバムを連発しながら、そのあまりに選民性に満ちたサウンド世界は、レコーディング時間の増大と比例して袋小路にはまってゆく。完璧さを追求するがゆえ、その空間は息が詰まるようになる。すでにDan末期、マン・パワー頼りのアンサンブル構築は時代遅れになりつつあり、もっと効率的なMIDI同期機材の進歩が取って変わりつつあった。彼らが追い求める「完璧なサウンド」は、その強い断定性がゆえ、帰着点を失ってしまっていた。

 ある意味、Dan時代の余力で制作された初ソロ『Nightfly』以降、Fagenの足取りはパッタリ途絶えてしまう。
 とっくの昔にライブ活動からは引退していたので、当然のようにツアーは行なわれず、いくつかのインタビューに応えた以外は、ほぼ表舞台にも出なかった。最小限のプロモーション活動を行なった後は雲隠れしたかのように、忽然と姿を消してしまう。
 『Kamakiriad』リリースの少し前、ほぼ仲間内で行なわれた『The New York Rock and Roll Revue』に参加するまでのほぼ10年、彼は音楽シーンからきれいに痕跡を消し、沈黙を貫いた。
 その10年間、プライベートでの良からぬ噂も囁かれているけれど、イマイチ真偽がはっきりしないので、憶測で書くことはやめておく。ただ、創作上のスランプについてはホントっぽいので、そこの部分に絞って憶測で書いてみる。

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 70年代に主に活動していたにもかかわらず、Danが他の同時代アーティストと違っていたのが、「アルバム・コンセプトの曖昧さ」である。
 一部の難解さを装ったプログレやファンタジー性の強いシンフォニック・ロックに代表されるように、特異な大風呂敷が許されていた70年代において、一曲入魂の小品集スタイルを貫いた彼らのスタンスは、小細工を弄じることのない潔さがあった。彼らの多くが、文学的かつ哲学的なお題目を掲げながら、その割にはえせメランコリックなオーバーチュアや底の浅い紋切り型のメッセージで尺を稼いでいたのに対し、ほんの僅かなワンフレーズにも大量のリテイクやミックスを重ね、膨大なマテリアルを推敲し削ぎまくった末に、これ以上足しも引きもできない純度の作品を、Danは作っていた。二流のアーティストがアルバム1枚に注ぎ込むエネルギーを、わずか一曲に落とし込んでゆくことこそ、彼らの制作ポリシーであったと言える。
 それが80年代になると、前述したようにテクノロジーの進化が従来のレコーディング・プロセスを浸食し、職人技を存分に発揮したサウンド・デザインは次第に減ってゆく。普及化に伴うデジタル機材の廉価傾向と反比例するように、スタジオ使用料の高騰は作業時間の圧縮を余儀なくされ、Danの特性である長期間のスタジオ占有と有名ミュージシャンの起用は難しくなりつつあった。輝かしい実績を持つ彼らでさえそうなのだから、他の二流ミュージシャンなどは推して知るべし。

 そんな事情もあって、Fagen並びにプロデューサーWalter Beckerらが新機軸としえ設定したのが、冒頭の「カマキリ型オートモービルが云々」といった70年代的コンセプト。個々のミュージシャンの力量に頼ったバンド・アンサンブルではなく、アルバム全体としてのトータル・コンセプトを揃えることで各曲の相乗効果を得る、という方向性を見出した。
 ご存じのように、彼ら2人揃ったということは、実質的にDanのアルバムであるわけだし、だからといって従来のやり方は予算的に厳しいわけだから同じことはできないし、どこかで新たな視点を設けることが必要だったのだろう。とは言っても彼ら自体はそれほど引き出しが多い方ではないし、思いつくことといえば旧知の手法のアレンジでしかないわけだし。
 とはいってもネガティヴな側面ばかりだけではなく、『The New York Rock and Roll Revue』というリハビリ的なワン・クッションを置いたおかげでライブでの偶然性に目覚めたDonald、プリプロには相応の時間をかけたけれど、以前のようにニュアンスにこだわったリテイクの連続はなくなった。それよりライブ感覚を重視し、これまで無縁だったバンド・グルーヴを前面に出すように努めた。

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 カマキリ型の乗り物が結局何なのかは、正直どうでも良い。ていうか、ヘヴィー/ライト・ユーザー双方、興味を持った者の方が少ない。サウンド自体にコンセプトが如実に反映されているのかといえば、そうでもない。特別、近未来的な設定やSFチックなテイストも窺えない。先入観があってもなくても、実際に聴いてみると、普通に完成度の高い「いつもの」Steely Danである。まぁライブ感覚を強調しているのか、これまでのジャズ/フュージョン寄りではなく、も少しR&B色が濃いかな、というのが特徴と言えば特徴。

Kamakiriad
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1. Trans-Island Skyway
 「移動し続ける物語」のオープニングとして、軽快なファンク・チューン。バッキングはほぼリズム・キープに徹しており、どのパートも特別にフィーチャーされることはない。これはこのアルバム、そしてこれ以降のDan 関連の作品に共通している。キラ星を集めたスーパー・チームではなく、地道ながら確実なテクニックを有した個人の集合体が、これまでに見られなかったライブ感を演出している。

2. Countermoon
 タイトルはFagenの造語らしく、Google様に頼った訳詞で判断するに「月の逆光」じゃないかと思われる。英語はネイティヴではないので、間違ってたら素直に訂正する。
 ホーンと女性コーラスが大きく前に出ており、ソウル色が強い。曲調はジャズ・タッチそのものだけど、バンド・アレンジはかなり泥臭い。

3. Springtime
 リズムが『Aja』期に大きくかぶっているけど、仕上がりが全然違っているのはリズムのハネ方が全然違っている。こうして比較してみると、Chuck Rainey というプレイヤーは後期Danにおいてのキモだったのだな、と納得してしまう。ただ、Fagenの構想としては当時をそのまんまなぞりたかったわけではなかったはずだし、この若返りメンツの中では浮いてしまうだろう。
 適材適所というのはそういうことである。

Donald Fagen - Kamakiriad (back)

4. Snowbound
 リリース当時、Beckerとの共作クレジットということで話題となった、Danも含めたディスコグラフィ中、ポップな風合いのナンバー。Fagen自身も珍しく歌い上げるようなヴォーカルを披露しているし、案外楽しいレコーディングだったんじゃないかと思われる。「楽しい」「Danのレコーディング」、並べてみると反語表現だよな、これって。
 Larry Carlton (g)のプレイをなぞったようなBeckerのギター・プレイはご愛嬌。ただひとつ難点を挙げればこの曲、7分という微妙な長尺サイズ。ギター・ソロを削って5分程度にまとめていれば、ソリッドに収まったと思われるのだけど。まぁ久しぶりの共同作業で張り切っちゃったんだろうな。

5. Tomorrow's Girls
 またまたデジャ・ヴュ的な、シンプルな8ビートながらジャジー感たっぷりな新生Dan的なナンバー。古くからの顧客にとっても明快なサウンドのため、このアルバムの中では唯一のシングル・カット。一見さんではなく、昔からDanに慣れ親しんでいるユーザーには最もウケは良いはず。事実、俺もこの曲は好きだから。何ていうか安心できる。
 そんな中、目立つのはBeckerの追体験的オブリガードを含めたギター・プレイ。かつてのCarlton や Lee Ritenour (g) へリスペクトするような、ていうかまんまコピーのフレーズから聴こえるのは、40過ぎてライブのカタルシスに覚醒してしまった中年2人のはっちゃけ振り。まぁこれまで苦行のような作業ばっかりだったしな。



6. Florida Room
 共作クレジットされているLibby Titusは、当時のFagen夫人。まさか20年後、DV容疑でFagen逮捕 → 離婚の危機(離婚したのかな?)に陥るとは、想ってもみなかったはず。もともとそれほどアクティブなキャラではなかった人だけど、やはりプライベートだと何かと溜まっていたものがあったのかな。何しろあんなストレスの溜まるバンドをずっとやっていたくらいだし。
 そんなムードは露ともみせず、女性コーラスとホーンを前面にフィーチャーしたラテン・テイストの楽曲は、享楽さを通り越して脳天気ささえ漂わせている。

7. On the Dunes
 このアルバムでは唯一ストレートなバラード。ここにきてBeckerの指示なのかFagenによる楽曲が希求したのか、バンド・アンサンブルがタイトに引き締まった印象。音数は決して多くない。楽曲も従来Danのセオリーに沿っている。セオリー通りだからこそ、変に崩すことのできない完璧に閉じた空間がここでは展開されている。全編この調子だったら息が詰まるけど、どこか曖昧さの漂うコンセプトに支配されたアルバムの中、こういった曲が一曲くらいあった方がピリッと締まる。

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8. Teahouse on the Tracks
 エピローグにピッタリな、1.の続編的ドライビング・チューン。旅ももうすぐ終わり。大団円的な拍手や歓声なんて、これまでのDanにはあり得なかったラスト。リズムはあくまで軽いけど、最後は重くならない方が良い。正直、最初と最後以外はコンセプトと何の関連性もなさそうだけど、まぁ細かいことはいいじゃない。
 変にシリアスになり過ぎない分、彼のソロの中ではすごく聴きやすい。
 前評判に捉われず、一回聴いてみな。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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