好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

俺が歌えば、何でもロック。 - 忌野清志郎 『Razor Sharp』

folder 1987年リリース、清志郎初のソロ・アルバム。チャート・アクションは不明だけど、当時のRCのアルバム・チャートが大体20位前後だったので、多分そのあたりだったんじゃないかと思われる。
 日本のロックの礎を築いたアーティストの1人として、後進に残した影響力は計り知れないけど、データ面だけで見ると、実はそれほど大きなセールスを上げていたわけではない。日本のロックの名盤として取り上げられることも多い、彼らの代表作『ラプソディー』や『カバーズ』も、バカ売れしていたかといえば、そうでもなかったりする。
 その後、完全版が発掘されたりして、累計枚数ではペイしている『ラプソディー』も、最初は宝島周辺の斜め上なサブカル村が騒ぎ立て、次にテレビ出演でのやりたい放題なパフォーマンスでお茶の間に浸透したけど、実際の売り上げには結びつかなかった。発売中止騒動が新聞の社会経済面で取り上げられた『カバーズ』も、話題先行型で瞬間最大風速的に売れたけど、純粋な音楽的評価での結果ではなかったし。

 テレビ出演を拒否することがロックバンドのアイデンティティだった80年代初期、RCはテレビ出演を厭わない、それでいて大衆に媚びたりもしない、独自のポジションをすでに築いていた。演奏する時こそ傍若無人な態度を貫きながら、翻ってトークの場面になると、居心地悪そうに言葉少なくなり、明らかな場違い感を醸し出していた。そんな異質な存在だったからこそ、過剰に芸能界寄りになることもなく、かといって斜に構えてマニアックに走ることもなかった。
 小学生からお年寄りまで、誰もがうっすらその存在を知っており、有名曲もしこたまある。素人に毛が生えた程度の新人から、超絶テクニックを誇る大御所まで、どんなバンドも歌うことができるのが「雨上がりの夜空に」、フェスのエンディングの定番だ。
 誰も知ってるはずなのに、みんなが買った気になっていたため、案外セールス的にはパッとしなかったバンド、それがRCサクセションである。

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 全キャリアを追っている古株のファンは別として、これだけ活動期間が長いと、時代によって嗜好もバラけてくる。単にRCファンといっても、ひと括りにはできない。
 多分、最も多いのは80年代以降、チャボ加入後のファン層だと思われる。いま現在も続く彼らのパブリック・イメージ、派手なステージ・アクションとストーンズ・タイプのロックンロールは、ここで確立された。いまも歌い継がれている名曲も多く、80年代初頭という時代の趨勢とシンクロしたバンドの勢いが詰め込まれている。
 次に多いのが、その前の『シングル・マン』時代前後。いわゆる暗黒期だけど、ここでも「スローバラード」という一世一代の名曲を残している。加えてこの時代、清志郎は井上陽水と「帰れない2人」を共作、『氷の世界』に収録されたおかげで、一瞬だけ印税成金の生活を享受したりしている。
 そこまでのインパクトはないけど、デビュー間もないフォーク時代が至高というマニアも、少なからず存在する。地味だけど味わい深いデビュー曲「僕の好きな先生」は、ちょっとだけヒットしたらしい。当時からフォークの常道を外したステージは、まだ素人だった泉谷しげるに大きな影響を与えている。
 さらにずっと時代は下って、過激さに拍車がかかった『カバーズ』時代が好きなファンも多い。笑ってしまうほどの怒りと焦燥が表面化した、一連の言動やパフォーマンスは、ロックな生き方が生活に根ざしたものであることを、多くの人たちに再認識させた。

 で、俺が好きなRCは、この中には当てはまらない。レーベルで言えば東芝EMI時代、『Feel so Bad』から『カバーズ』以前までという、自分で言うのも何だけど、ちょっと変わった嗜好である。あんまりいないんだよな、この辺を語る人って。
 個人事務所設立で心機一転、新レーベルに移籍したにもかかわらず、セールス的には頭打ち、バンド活動もマンネリ化してまとまりのなかった時代である。知名度の高まりと共に、メンバー以外のスタッフが関わることが多くなり、バンド内の意思疎通がままならなくなるのは、和洋問わず、どのバンドでも起こりうる事態である。
 当時、バンド内のムードは決して良いとは言えなかった。極度の人見知りで知られていたチャボが先行してソロ・アルバムをリリースするくらいだったから、よほどバンドの居心地が悪かったんじゃないかと察せられる。かく言う清志郎もまた、単発的なゲストや客演を積極的に行なっていた。これじゃ人のことを、とやかく言えない。

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 いまと違って80年代の音楽情報収集は、もっぱら雑誌メディア主体だった。たまに出る歌番組でのトークは適当すぎたため、深く掘り下げたい音楽ファンは、音楽雑誌の批評やインタビューを隅から隅まで熟読していた。そんなニーズに応えるように、雑誌編集の方も熱気を放ち、主観と客観おり混ぜた記事を発信していた。名物編集者やライターなんてのもいたし、いい時代だったよな。
 そんなメディアの活況を盛り立てていたのが、ロキノンの渋谷陽一、80〜90年代の洋楽バブルの立役者である。トップ40だけにとどまらない、ニッチなジャンルにもスポットライトを当て、洋楽マーケットの裾野を広げたのは、彼の功績である。
 「ジミー・ペイジこそ至高」といった自身の趣味嗜好とは別に、経営者判断として雑誌拡販のため、シーン全体の活性化を図った。80年代のニュー・ウェイブ、90年代のオルタナ・シーンが日本に根付いたのは、ロキノンを入り口とするユーザーが多かったから他ならない。なんかちょっと持ち上げすぎだな。
 80年代中盤の渋谷は、ロキノン・ジャパンの創刊によって、裾野を日本のロックにまで広げている。ロキノン時代から長きに渡って、渋谷がインタビューを行なっていた1人が清志郎だった。

 俺世代にとって、RCのインタビューといえば渋谷陽一、というのが決定的に刷り込まれている。他メディアのインタビューなら、ロックンロール的なアバウトさで挑んでいる清志郎も、ある意味、断定的かつ緩急使い分けた渋谷の話術に引き込まれ、ペースが乱れているのが紙面を通しても伝わってくる。
 掛け合い漫才のような導入部から、次第に渋谷の独断ありきのトーク運び、それをおちゃらけてはぐらかす清志郎。あらゆる角度から深堀りして本音を引き出そうとする渋谷に対し、ほんの少し言葉少なげに本音を口にしてしまう清志郎。
 他のインタビュアーとはひと味違う掛け合いは、ひとつの芸として昇華していた。なので、北海道の中途半端な田舎の高校生は、新譜がリリースされるたび、そのページを繰り返し読んだのだった。
 日本語のロックでは、主に歌詞の言及にこだわりを持っていた渋谷であったため、RCに対しては、特に言葉使いや世界観を深く突っ込んでいた。セックス&ドラッグ&ロックンロールのセオリーをなぞりながら、半歩はずれたセンテンスやストーリー性、そして垣間見えるロック少年の叙情性は、渋谷がクローズアップしたからこそ、広まったイメージだと思うのだけど、なんか渋谷ばっかり持ち上げすぎだな。

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 ロキノンだったかジャパンだったか、それともブリッジのインタビューだったか記憶に定かではないのだけど、歌詞に重きを置いて進行する渋谷の手法に、清志郎が不満を呈したことがあった。実際のインタビューでは、サウンドやアレンジのことだって喋ってるのに、誌面ではいつもカットされている。歌詞もそりゃ大事だけど、バンドマンなんだから、もっと音楽面のことも書いてほしい、と。
 それに対して渋谷、「だって、みんな関心があるのはそっちだから」と、流してしまう。で、またいつもの掛け合いが始まる。
 インタビュアーであると同時に、編集長であり経営者である渋谷からすれば、読者のニーズは歌詞の背景、そして作者のキャラクターにある、といった主張である。活字では、サウンドのニュアンスを伝えるにも限界があるので、編集者判断としては間違っていない。
 粗野でワイルドなビジュアルとは対照的に、少年の目線を通した心象風景を描く清志郎、といったアーティスト・イメージは、戦略的には間違っていなかったと思う。渋谷を含むメディア側もまた、彼の存在を広く知らしめるため、それが良策と判断したわけだし。

 初期のフォーク・トリオ・スタイルは、清志郎が能動的に選択したものではない。日本のフォークのセオリーである、叙情的でもなければ高らかなメッセージを唱えるわけでもない。フォーク村の中において、彼の書く曲は明らかに異質だった。
 長いことかけてどうにか口説き落としたチャボの加入によって、やっと理想のロックコンボ・スタイルが整うことになる。ギター一本の弾き語りでも、充分間を持たせることが可能な清志郎だけど、やっぱり彼は派手な演出が似合う。
 いくら理想形とはいえ、バンド運営も安定してくると、表現者としては何かと欲が出てくる。せっかくなら、もっといい音でレコーディングしたいし、バンド以外の音も入れてみたい。ストーンズ・ベースのバンド・サウンドも悪かないけど、たまには違うベクトル、アバンギャルド・ジャズや歌謡曲だってやってみたい。
 ソロでどくとる梅津バンドやピンククラウドに客演したり、RC本体でもハワイ・レコーディングを敢行したり、スタジオ・ライブ一発録りを行なったり、実は様々な試行錯誤を繰り返しているのが、80年代のRCである。ただ、セールスに結びついたのは話題先行型の坂本龍一とのコラボくらいで、そのほとんどはあまり話題にならなかった。
 バンドマンとしての成長を目指しながら、その姿勢が世間のニーズと重なることは少なかった。そんな世間とのギャップが、のちに解散を招く遠因となる。

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 で、『Razor Sharp』。やっとたどり着いた。
 ソロ・デビュー作となるこのアルバム、もともとソロ製作ありきで作られたものではなく、ある意味、成り行きでこうなっちゃった、という経緯がある。
 当初、ロンドンで行なったミニ・アルバムのミックス・ダウンの仕上がりが気に入った清志郎、次回はレコーディングもロンドンで行なうことをメンバーに打診する。ただチャボを含め、他のメンバーがそれを拒否、痺れを切らした清志郎が単身ロンドンへ向かうことになる。渡英ギリギリまで折衝が続いたので、バンドは現地調達、顔合わせしてすぐレコーディングという、何とも泥縄なスケジュール。
 なので、レコーディングにあたって召集されたブロックヘッズのメンバーは、清志郎の希望でも何でもなく、向こうで勝手にコーディネートされたものである。準備期間もほとんどなかったため、取り敢えず手の空いてるバンドに片っ端から声をかけ、どうにかスケジュールを抑えたスタッフの苦労と言ったらもう。
 ブロックヘッズからすれば、東洋の得体の知れぬバンドマンが、ジャパン・マネーを振りかざしてやって来るわけだから、なめてかかっていたことは明白である。どうせ暇を持て余していたし、適当に合わせておけば、いい小遣い稼ぎになるんじゃないか、と。
 当時、フロントマンのIan Dury は、俳優業ばかりで音楽活動に本腰を入れていなかった。要は開店休業状態が長く続いていたため、まとまった期間のまとまった収入は、彼らにとってもありがたいものだった。
 対して清志郎、RCを連れて来れなかったからオファーしたのであって、ブロックヘッズには何のリスペクトもない。バンドの存在はおろか、Ianのことさえ知ってたかどうか、それすら怪しい。事前に彼らのアルバムくらいは聴いてたと思うけど、実際にスタジオに入ってみないと、ほんとのところはわからない。
 言葉も通じなければ音楽性だって微妙に違う、ましてや手合わせしたことのないバンドマンらの思惑が同期するまでには、ある程度の時間が必要になる。もともと饒舌とは言えない清志郎、ただでさえ言葉の壁があるため、意思疎通もままならない。
 バンド側もまた、怪しげな扮装の寡黙な東洋人が何を考えているのか、何を求められているのかイメージがつかめず、演奏はどうしたって探り探りになる。微妙な忖度が交差するおかげで作業は綱渡り、残された時間はどんどん少なくなる。

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 もともと能動的に製作したソロ・アルバムではない。準備期間も少なかった。ホワイト・ファンク色の強いブロックヘッズの演奏と、80年代UK特有の硬質なサウンド・プロダクションは、スタックス・ソウルをバックボーンとした清志郎との相性は、決して良いわけではなかった。
 ただ、円熟という名の予定調和にまとまりつつあったRCのサウンドに最も危機感を抱いていたのが、清志郎である。できあがってしまったものを崩すためには、相応のエネルギーが必要となる。そのエネルギーが足りない場合は、別方向からの衝撃、外部からの刺激が効果的となる。
 いわばRCを仮想敵として、清志郎はこのアルバムを作った。疲弊した既存のロックを打ち壊すため、ミック・ジョーンズとジョー・ストラマーは、粗くラウドなパンク・ロックを世に問うた。歴史は何度も繰り返す。
 まとめることを目指していないため、ヴォーカルとバンドとのギャップは、違和感としてそのまま投げ出されている。でも、それこそが清志郎の求めたビジョンだったのかもしれない。


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1. WATTATA (河を渡った)
 基本は変則リズムを交えたベーシックなブルースだけど、異質なギターの音色がインダストリアル感を演出している。弾いているのはSteve Hillageというプログレ畑の人。フランスの大御所プログレ・バンドGongに参加していたり、カンタベリー畑のKevin Ayersとコラボしたりしている。俺もよく知らないけど、ひと言でまとめると、「レココレ読者が好きそうなアーティスト」。これで何となくわかってもらえるんじゃないかと思う。
 サウンドに100%満足してるわけではなさそな清志郎、ブロックヘッズのプレイ自体は至極オーソドックスなものだけど、スタジオ・ブースでの作業ウェイトが大きいので、ニューウェイブ感が強い。G2との共作なので、渡英前から準備していた曲なのだろうけど、RCでやってたらどうなっていたのか。多分、テンポの速い8ビートだろうな。



2. 90 DAYS - 免停90日
 アクの強いオープニングから一転して、RCタイプの王道ロックンロール。官憲批判と下ネタとの絶妙なブレンドは、清志郎のお手のものだけど、バンドにそれが通じていたのかどうか。多分、雰囲気でわかっちゃうんだろうな、こういうのって。
  このアルバム、ほとんどのドラムを叩いているのは、元クラッシュのトッパー・ヒードン。80年代を象徴する、極端に加工されたドラム・サウンドとは相性が悪いんじゃないかと思っていたけど、案外違和感ない。考えてみれば、パンクの源流のひとつがパブ・ロックであったため、ブロックヘッズとの相性が悪いはずがない。
 
3. AROUND THE CORNER / 曲がり角のところで
 シングルとしてもリリースされ、夜ヒットでも披露された軽快なポップ・チューン。当時、TV出演の際は英国からの来日アーティストといった設定で、清志郎のトークはすべて英語、通訳を介して行われていた。まぁいつも通り設定は甘いので、すぐボロが出ちゃうんだけど。
 話は飛ぶけど、サザンが「チャコの海岸物語」をリリースした際、大衆のニーズをつかむため、敢えてヘタウマにトシちゃん(田原俊彦)の歌い方を参考にした、と発言していた。ここでの清志郎もまた、敢えてポップ性を強調したかったのか、トシちゃんっぽいヴォーカルで通している。
 ブロックヘッズの面々による、拙い日本語コーラス「アイタイ」「アブナイ」が味わい深い。ちなみにドラムは、ブロックヘッズのチャーリー・チャールズにチェンジ。軽いグルーヴ感は、清志郎との相性も良い。ほんとなら、レコーディング・メンバーはほぼブロックヘッズなので、彼がメインで叩くのが当然なのだけど、チャーリーの体はガンに侵されており、無理の効く状態ではなかった。その後、一時快方に向かったけど、1990年9月、彼はこの世を去る。



4. ワザト FEEL SO SAD (CANADA SEVEN)
 穏やかな16ビートに導かれる、ファニーなポップ・バラード。柔らかなアコギを軸に、肩の力を抜いたヴォーカルの清志郎。でも、これってブロックヘッズじゃなくても良かったんじゃね?と、ふと冷静になって思う。RCとのレコーディングを前提としての曲作りだったため、新たに書き下ろすには時間が足りなかったのだろう。ブロックヘッズのキャラクターは生きていないけど、これは仕方がない。

5. MELODY MAKER / メロディーメーカー
 いくらRC向けだったとはいえ、このようにソウル・ベースの楽曲なら、むしろブロックヘッズの方に分がある。ここでの主役はギターのJohnny Turnbull。手クセっぽいオブリガードをたっぷり聴かせてくれる。この泥臭さはやはりパブ・ロックならでは。サウンドのエフェクトも控えめなので、バンドの素の姿が浮き上がっている。

6. RAZOR SHARP・キレル奴
 CureやJesus & Mary Chain辺りのUKゴシック的なテイストの響きでありながら、演奏自体は至極まっとうなパンク・ロック。ミックスやエフェクトが時代性を感じさせるのは、各楽器の分離が変に良すぎるから。これが支持された時代だったのだ。
 終盤のオーティス張りの清志郎のフェイクは、すでに唯一無二。演奏自体も熱がこもっている。良い音楽は万国共通という事実を象徴する楽曲。

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7. SEMETE (GOING ON THE ROAD)
 この曲だけ、RCのホーン・セクション、梅津和時と片山弘明が参加している。山下洋輔(P)も参加しているため、変拍子で乱れまくりのジャズ・セッションがベースとなっている。アクの強い3人が参加していることもあってか、全体的に演奏はまとまりがない。まとまることを求めていないのが、このセッションのテーマでもある。でも、こうして聴いてみると、ブロックヘッズの方がきちんとしてるよな。

8.  CHILDREN'S FACE
 コンソールでの調整は最低限に抑えられているため、このアルバムの中では比較的素のバンド・アンサンブルを聴くことができる。しかもブルース・タッチのファンク。清志郎・ブロックヘッズとも、最もオイシイ展開の楽曲でもある。俺的に一番好きなトラックは、実はこの曲でもある。

 子供の顔したアイツより 信頼できるぜ大人の方が
 子供はすぐに 気が変わる
 約束なんかは 破られた方だけが 覚えてるのさ

 少年の心や視点なんて評価を笑い飛ばすような、中身が子供な頭でっかちの連中への痛烈なメッセージ。いっぱしの大人を気取りながら、ガキみたいな所作の連中は、いつの時代も一定数存在する。そんな連中とも、折り合いをつけたりつけなかったり。あぁ世の中ってめんどくさい。

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9. あそび
 もともとは1971年頃に書かれており、そのまま忘れられていたけど、今回復活して収録された。多分、制作中に曲が足りなくなって、ストックから引っ張り出してきたんじゃないかと思われる。わざわざこの曲をやるために準備していたとは思えないし。
 かなり初期の曲なので、ボキャブラリーも少なく、コード進行も近年の作風とは違って浮遊感がある。いわゆるロック・バンドとしてのRCとはまったく違うテイスト。でもブロックヘッズに合う曲じゃないよな。

10. IDEA / アイディア
 この時期の清志郎の楽曲の中では、最も破綻なくまとまっており、構成もしっかりしたロック・バラード。俺的には「スローバラード」と双璧をなす傑作と思っているのだけど、RC名義じゃなかったため、埋もれてしまっている。G2が絡んでいるため、もともとRCでもある程度、デモテイクは作られていたんじゃないかと思われるけど、それを凌駕する演奏のブロックヘッズ、一世一代の演奏。言っちゃ悪いけど、彼らがこんなロック的な演奏ができるだなんて、思いもしなかった。

11. BOO-BOO-BOO
 ラストはシンプルなパーティ・ロックンロール。完全に清志郎のフィールドで演奏は進む。ファンクもロックも関係ない、単にノリの良いロックンロール。これがRCなら、もう少しザラッとした肌触りのソリッドな演奏でまとめたんだろうけど、ブロックヘッズの連中も、こういったプレイはお手の物。しかもここで大きくフィーチャーされているのが、Ian Dury。ダミ声で入る「アラヨ」とか「ホラネ」といった合いの手は、時に攻撃的になりがちな清志郎のヴォーカルをほどよく和らげている。



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コステロさん、ビートルズっぽくやってみる。 - Elvis Costello 『Imperial Bedroom』

 というわけではないけど、もう一回ちゃんと聴いてみようと思い立ち、実際聴いてみた。当初は最新作『Look Now』との関連性がどうした、とか半分アラ探し・ネタ探し的な向き合い方だったのだけど、しばらくぶりに聴いてみたら「アラ案外いいじゃないの」と見方がコロッと変わってしまった。コステロに限らず、しばらく振りに昔のアルバムを引っ張り出して聴いてみると、たまにこんなことがある。
 前回もチラッと触れたけど、コステロ7枚目のオリジナル・アルバム『Imperial Bedroom』、UK6位US30位を記録している。必要以上に地味で、必要以上に老成したカントリーのカバー・アルバム『Almost Blue』さえ、UKゴールドを獲得しているにもかかわらず、それすら届かなかったアルバムである。
 実際、聴いてみると中期ビートルズからインスパイアされたと思われるサウンドは、丁寧で手が込んでおり、気合いの入りようが伺える。ただリリース当時は、コステロのコア・ユーザーに、そんな混み入ったスタジオ・ワークの意図が伝わらず、何となくスルーしてしまった感が強い。

 あくまでザックリした分類だけど、ファンの中では、デビューからこのアルバムまでが、初期コステロとして位置づけられている。『Punch the Clock』以降からワーナー移籍までが第2期、でワーナー時代が第3期というカテゴライズになっている。その後、ユニバーサル移籍から現在に至るまでが、何となく第4期といった感じ。
 で、その第1期をさらに要約してみると、『Armed Forces』までが、初期衝動に突き動かされたパワーポップ・テイストのパブ・ロック、続く『Get Happy』では、モータウンからビートルズから、過去に影響を受けたR&Bへのリスペクトをあらわにし、『Trust』でニューウェイブ色を一掃して中堅アーティストの仲間入り、その後は直球ストレートのコンテンポラリー路線を目指すのかと思ったら、何をとち狂ったか単身アメリカへ乗り込んで、問題作『Almost Blue』でのカントリー回帰、そして吹っ切れた末の『Imperial Bedroom』、といった流れになる。
 こうして書いてみると支離滅裂だけど、コステロ自身の中では、多分筋は通ってるんだろうな。
 いや、ないか。

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 なにゆえ今さらここに来て、40年近く前のアルバムをフィーチャーしたツアーを行なったのか。Bruce SpringsteenもStevie WonderもSteely Danも井上陽水も、過去の名作の再現ライブを行なっているけど、選ばれているのはいずれも好セールスを記録したアルバムばかりである。
 正直、『Imperial Bedroom』は彼の代表作ではない。セールス基準で行けば、選ばれるのは『Spike』あたりだろうし。
 会心の出来とは言いがたいけど、でも大コケしたほどの失敗作でもない。一般的に名作の基準となっている、ローリング・ストーン誌の「500 Greatest Albums of All Time」では166位にランクインしており、評論家筋からの再評価はされているのだけど、でもファンの間では何となくスルーされがちである。
 当時はあまり高い評価は得られなかったけど、年月を経てクオリティの高さが再評価されたということなのだろう。考えてみれば、彼の数あるディスコグラフィーの中では、最もライブ感の薄いアルバムである。
 なので、返して言えば、ライブ向けにアレンジするには、最もやり甲斐があるのも、このアルバムである。他のアルバムで再現ライブをやろうとしても、通常営業のセットになってしまうため、あまり面白くない。
 いっそ極端に、オーケストラを率いてシンフォニー・アレンジにしちゃうの手だけれど、まぁしないわな。「Watching the Detectives」のストリングス・ヴァージョンなんて、どこからも需要なさそうだし。

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 とはいえ、デビューからずっとアトラクションズと一蓮托生でやってきたのだから、たまには凝ったアレンジを試したくなったり、ストリングスやホーン、女性コーラスを入れたゴージャスなサウンドに憧れたりするのは、それはそれで自然の流れである。日々書き溜めてきた作品の中には、4ピースのバンド・サウンドにはそぐわないものも、どうしたって出てくる。
 楽曲にフィットしたサウンドを得るため、後のポップ・スター路線やクラシックへの接近、ヒップホップの大胆な導入も、そういう考えで言えば、筋が通っている。すべては楽曲ありきなのだ。
 アトラクションズとのプレイを前提としたサウンド・メイキングに行き詰まりを感じたコステロ、ここでは中期ビートルズのスタジオ・ワークを司ったジェフ・エメリックにプロデュースを委ねている。ここまでのキャリアからすれば、突然変異的なキャスティングだけど、こういった試みは何もコステロに限ったことではない。
 同じくニューウェイブで括られていたPoliceは『Ghost in the Machine』で大々的にシンセを導入し、Joe Jacksonはジャズやラテンなど、違うジャンルの音楽性に活路を求め、『Night & Day』でひとつの到達点を迎えた。パンク第一世代のClashやJamも、直情的なロックンロールには収まりきれない雑多な音楽性を志向していた。
 ほぼ同時多発的に、真摯にクリエイティブな音を志向するアーティストにとって、「ロックはダセェ」という価値観が芽生えていたのだ。

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 せっかくなので、『Imperial Bedroom』を主軸に置いた、去年のツアー音源を入手して聴いてみた。一部はYouTube にも映像がアップされているけど、スマホでの撮影がほとんどのため、遠いアングルなのは仕方ないにしても、大抵音も割れててあまり良くない。しかも1曲単位の細切れ動画しかないので、全貌が掴みづらい。
 なので、どうしてもフルセットの音源が聴きたかったため、大声では言いづらいルートから入手した。あんまり推奨はできないけど、ブート関連で検索すれば、簡単に見つけることはできる。興味がある方はご勝手に。
 再現ツアーと銘打ってはいても、1曲目から通しで演奏するのではなく、ランダムに組み合わせて時々代表曲を挟む、といった構成になっている。基本、ライブではあまり演奏されて来なかった楽曲が多いので、コアなファンからすれば、レア曲揃いでウケがいいんだろうけど、ビギナーにはちょっと着いて行きづらい流れかな。なので「Accident Will Happen」など、知名度の高い曲も時々織り交ぜている。
 もともと『Imperial Bedroom』、ライブでの再現を前提としないサウンド・メイキングだったため、盛り上がる要素の多い初期楽曲と比べると、キャッチーなメロディやフックはちょっと弱い。そんなハンデを背負いながらも、ライブ向けにバランスの良い構成にすることによって、きちんとエンタテインメントとして成立させている。この辺は、コステロを始め、メンバーらの成長に依る部分も多いのだろう。

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 このアルバムを製作するにあたり、コステロはこれまでのギターによる作曲から、初めてピアノにコンバートしている。そのせいもあって、これまでの8ビート主体のロックとは趣きが違っている。
 これまでとは違うメソッドの使用によって、つい出てしまいがちなギターの手癖が抑えられ、これまでとは違うコード進行や展開が可能になった。スタジオ・ワークを重視したレコーディング作業は、これまでのラフなヘッド・アレンジから一歩進んで、より緻密なサウンド・メイキングが可能になった。
 エメリックとのコラボで培った、ギター・ポップにこだわらないサウンド・メイキングは、後の『Spike』や『All This Useless Beauty』でも活かされることになる。逆に言えば、ここで得たスキルは、すぐ成果には繋がらなかった。当時のコステロやアトラクションズらでは、このサウンドに応じた表現力・演奏スキルが至らなかったせいもあるだろうし。
 じゃあ、コレをもっとわかりやすく、キャッチーな方向性でやってみたら、どうなるだろうか?トップ40ナンバーと並べても遜色ない、売れ線のサウンドにしてみたら。
 そんな感じで色気が出てしまったのが、その後のポップ・スター時代ということになる。本人的には気合いを入れてやったはずだし、俺世代としては、むしろこっちの方が好みだったんだけど。


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1. Beyond Belief
 てっきりシングルかと思ってたのは勘違い。生まれて初めて買ったコステロのベストに収録されていたので、俺の中では知名度の高い曲である。ストレートなロックンロールかバラードの二択だったサウンド傾向に当てはまらない、なんとも不思議な味わい。スパイ映画のサントラみたいなイントロのベースが印象的。
 終始クレバーに徹するヴォーカルと演奏、だけど後半に差し掛かった頃、Steve Nieveのオルガンが炸裂するのを皮切りにカオスさが増してゆく。考えてみりゃ、シングル向きじゃないよな、これ。なんでベストに入ってたんだろうか。



2. Tears Before Bedtime
 レゲエ・ビートを使った軽めのポップ・チューン。英国人がレゲエを扱うと、大抵重たくなる傾向があるのだけど、ちょっとソウル風味のコーラスも入った肩の力の抜けよう。初期ヴァージョンはもっと店舗を落としたカントリー・ロック風でまとめており、こっちはこれでイイ感じ。で、去年のライブはもっとスローになって、ゴスペル・タッチのドラマティックなバラードに変貌している。

3. Shabby Doll
 『White Album』期のJohn Lennonがマジメにレコーディングしたら、こんな感じに仕上げただろうロッカバラード。コステロが絶賛したように、ここでのBruce Thomasのベース・プレイ、ブレイクを効果的に使って緊張感をうまく演出している。
 
4. The Long Honeymoon
 ランバダを思わせるアコーディオン・ソロから始まるポップ・バラード。キーとテンポを下げると『Spike』に入れても違和感がなさそう。すでにこの時代から、ロック以外の可能性を模索していたのかしら。

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5. Man Out of Time
 Dylanっぽい歌い方でスタートする、コステロ史上最も凝りに凝ったサウンド。自分なりの解釈による「俺的A Day in the Life」なのだろうけど、UK最高58位とあまり受け入れられなかったことは、コステロの野心を挫いたことだろう。ラウドなロック・サウンドを冒頭とエンディングに使い、大半を中期ビートルズ的ソフト・サウンドという展開は、当時としては冒険だったのだろう。
 初期ヴァージョンはそのラウド・サウンドで全篇通しており、これはこれで荒ぶる感じがバンド・イメージを象徴しているのだけれど、まぁアルバム・コンセプトにはちょっと当てはまらない。むしろシングルのみの別ヴァージョンでリリースしていれば、世間の反応もちょっと違ってたかも。



6. Almost Blue
 なんでこの曲がこのアルバムに入ってるのか、いまだによくわからん。そう思ってるのは、俺だけじゃないはず。前のアルバムのタイトル・チューンが収録されている。ここまではギリギリわかる。でも、本来ならメインとなるべき「Imperial Bedroom」という曲があるにもかかわらず、こちらはアルバム未収録となっている。どうなってんだこりゃ、と思って「Imperial Bedroom」を聴いてみたら、なんか腑抜けしたワルツでピント来ない曲だった。これじゃ「Almost Blue」の方が出来はいいよな。でもなんでこの曲が…(以下無限ループ)。

7. ...And in Every Home
 エメリックのプロデュース・ワークが強く反映された、コステロ版「Magical Mystery Tour」。先に書いた「Imperial Bedroom」をボトムアップして本気で取り組んだら、こんな感じに仕上がる。そう考えると、「Imperial Bedroom」が叩き台となった、と考えればよいのかな。

8. The Loved Ones
 エメリックとコステロとのバランスが最も良いバランスで形になったのが、このパワー・ポップ・チューン。「Help!」期ビートルズのビート・バンド的エッセンスのコステロと、ほど良いデコレーション・スキルを持つエメリックとの嗜好がうまくシンクロしている。
 昨年のツアーでもオープニングで演奏されており、ノリの良さとオーディエンスのつかみはOK的な楽曲。

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9. Human Hands
 ヴォーカルのキーが高いので、初期コステロ色が強い。歌心のあるBruceのベース・ラインは聴き入ってしまう。性格には難があって袂を分かつことになった彼だけど、考えてみればアトラクションズはみんな英国人、みんなひと癖ふた癖あるに決まってる。

10. Kid About It
 明らかにこれまでとは文脈も作風も違う、メロディ・ライクなナンバー。こういう曲まで無理やりアトラクションズ単体でやるには、そろそろ限界だったんだろうな、作家性としては。リヴァーブ多めのサビ部分なんかは、すっかりAORシンガー。別名義でシングル切ってもよかったんじゃないか、と思うのは今さらヤボだね。
 デモ・ヴァージョンは、シンプルなバンド・アンサンブルはまぁいいとして、コステロのヴォーカルが探り探りといった印象。ちゃんとプロデュースされたサウンドでこそ活きる曲なのだ。その後は、こういった性質の楽曲が増えてゆく。

11. Little Savage
 軽めのR&Bタッチなので、むしろ『Get Happy』の方がうまくハマっている。なんで入れちゃったんだろうね?昨年のツアーまで、ライブではほとんど演奏されていないし、しかもやったりやらなかったりで、扱いにくい曲なのかもしれない。
 デモ・ヴァージョンは、やたらオルタナ的なラフなセッション風。うまくまとめづらかったのかね。

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12. Boy with a Problem
 10.同様、バンド・サウンドでは表現しづらい楽曲。実際、この曲も去年まではほとんどライブでは披露されていない。年月を経て、ワーナー時代ならもっとうまく広げられたんじゃないかと思われるけど、当時はコステロもNieveも若すぎた。

13. Pidgin English
 2タイプの曲を強引につなげた「Man Out of Time」と比べて、素直にコステロとエメリックとの意図が合致したのが、これ。ポップ性と疾走感とが同居して相乗効果を生み出している。間奏のアコギ・ソロが何気にいい味出している。
 去年のライブ・ヴァージョンはImpostersよりのアレンジになっているので、これは逆にスタジオ・ヴァージョンの方が的を射ている印象。

14. You Little Fool
 昔だったら勢い一発で片づけていたのを、きちんと段取り付けたプロダクションで組み立てると、こんな感じのヒット性を併せ持ったパワー・ポップに仕上がるといった典型。でもシングルはUK最高52位。時代的にはちょっと早すぎた。
 デモは簡素なアレンジで、初期ビートルズっぽい。このままバンド単体でレコーディングしたら、いつものコステロで終わっちゃったんだろうな。

15. Town Cryer
 ラストでこんないい曲を持ってくるとは。ベタなストリングスも気にならない楽曲の腰の強さ。オーケストレーションがかなり強く入っているけど、コステロのヴォーカルの見事さが、イージー・リスニングに陥らずに食い止めている。Paul McCartneyならもっとロマンティックになりがちなところを、オンリー・ワンのコステロ・サウンドとして構築している。
 ここで方向性をつかんだはずだったのに、当時のマーケットの反応は薄かった。ポップなセンチメンタリズムを獲得したコステロはその後、マスに寄り添ったアーティスト戦略を図ることになる。



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大人になった(風を装う)コステロ - Elvis Costello 『Look Now』

folder 何かと物議を醸したヒップホップ・ユニットRoots とのコラボ・アルバム『Wise Up Ghost』 以来、5年振りのオリジナル・アルバムとなる。さらに遡ってImposters名義だと、『Momofuku』以来10年振り。さらにさらに、その10年の間にリリースされた『Secret, Profane & Sugarcane』と『National Ransom』はソロ名義、しかも思いっきりレイドバックした、マジのカントリー・アルバムだった。どちらも通好みの趣味性が強いアルバムなので、きちんと商業性を意識したアルバムというのは、ずいぶん久し振りということになる。
 特にこの5年、まとまった新作はなかったのだけど、だからといって隠遁していたわけではない。オフィシャル・サイトより詳しくマニアックな、唯一無二のニュース・ソースであるwikiを見ると、ソロやバンド名義を使い分けて、年間100本近くのライブを世界中で行なっている。ここ最近、コステロ名義のアルバム・リリースは、ベストやライブ・アーカイブばかりだったけど、単発的にあちこちのプロジェクトに顔を出し、音源提供したりしている。まぁこういうのは昔からだけど。
 とっくに還暦を迎えているはずなのに、活動ペースは何ら昔と変わってない。むしろ音楽以外の活動、トーク・ショーのホストや自伝執筆など、若い頃より行動範囲は確実に広がっている。
 なので、あまりブランクが空くこともなく、案外話題が提供されていたので、まぁ元気でやってるんだな、と思ってはいたのだけど、そんな矢先、今年の夏アナウンスされたのが、悪性腫瘍の手術というニュースだった。俺を含め、世界中のコステロ・ファンは居ても立っても居られなかっただろうけど、幸い回復も早く、みんなホッとした。俺もホッとした。
 そんな不穏なニュースからさほど間を空けず、『Look Now』のリリース・インフォメーションが届いた。世界中の音楽ファンが喜び、そして俺も喜んだ。

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 デビューしてからずっと創作ペースが落ちることがなかったコステロ。リリース契約の関係でブランクが空くことは何度かあったけど、5年も空いたのは多分初めてなんじゃないかと思われる。前述したように、ライブ・パフォーマーとしてはずっと第一線で活動していたため、現場感覚が失われたわけではない。
 21世紀に入ってからの音楽業界の主流が、音源リリースからライブ活動にシフトしてしばらく経つけど、もともとデビューから一貫して、ライブ活動に主軸を置いてきた人なので、活動ペースにあまり変化はない。ただ21世紀に入ってからは、アルバム・プロモーションのためのツアーは少なくなる。
 以前、巨大ルーレットを回して針の止まった曲をプレイする「Spinning Wheel Tour」がちょっとだけ話題になったけど、あの時もニュー・アルバムがあったわけではない。コステロだけではなく、アルバム宣伝のためのライブ自体が少なくなっているのが、今のご時世なのだ。
 それが顕著になったのが、2010年代に入ってから。コステロもまた、新曲リリースの機会が格段に少なくなる。

 オフィシャルでリリースされた楽曲が少ないとはいえ、単純に「創作ペースが落ちた」「才能が枯渇した」というのは早計である。ここまでのキャリアを振り返ってみると、そんな短絡的な理由じゃないのは、ファンなら誰でも知ってるはず。
 今はもう廃盤だけど、かつてライコからリリースされていた、『My Aim is True』から『All This Useless Beauty』までの2枚組デラックス・エディションを持っているファンも多いと思う。持ってない人もいるかもしれないけど、たぶん「多い」という前提で進める。
 リイッシュー・レーベルとして評価が高かったライコの丁寧な編纂によって、1枚目がオリジナル・テイク、2枚目には各曲のデモ・テイクとアルバム未収録曲が詰め込まれていた。『Get Happy』なんて50曲入りだもの、そりゃファンならみんな買うでしょ。
 ユニバーサル移籍後も、アルバムごとに結構な量のボーナス・トラックを収録したりして、ソングライティングへの意欲は失われていない。近年はあまり流出しなくなったけど、ブートレグ・サイトを覗いてみると、スタジオ・アウトテイクもあちこちで見つけることができる。興味があったら探してみな、大声でお勧めはできないけど。

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 さすがにペースは落ちているだろうけど、息を吐くように作曲する人なので、今さら特別な行為じゃないんだろうけど、ベテランゆえの問題も出てくる。歳を経るにつれ、レベルの水準は上がってゆく。以前なら充分アベレージ越えだったとしても、今の基準で測ると「発表できるレベルに達してない」と、ボツにしちゃう曲も多いんじゃないかと思われる。
 それとやっぱり、環境の劇的な変化。ストリーミング・サービスの普及に伴うCDメディアのマーケット縮小によって、欧米ではとっくの昔に、音楽出版は旨味がないビジネスになってしまっている。
 労力に見合うリターンが、以前より比べものにならないくらい少なくなっちゃったので、いくら曲を書いても報われない。そりゃ新曲書くより、ライブで定番曲歌う方に向かうわな。モチベーションだって違ってくるし。

 で、『Look Now』。
 通常、コンボ・スタイルでのレコーディングだったらある程度の期間、スタジオにこもって一気呵成に作り上げるのが一般的だけど、今回はバラバラの時期に行なわれた、いくつかのセッションを組み合わせたスタイルになっている。20年振りの競演となったバート・バカラックとの作品は、ここでは2曲のみだけど、これまでも断続的にセッションを繰り返していた事実が明らかになっている。まだ25曲ほどストックがあるらしいのだけど、それらは後日小出しにされるのか、それとも充分なレベルに達していなかったのかさて。
 今回のアルバムのテーマは、そのバカラックとのアルバム『Painted from Memory』、そして82年リリースの『Imperial Bedroom』との融合だ、とコステロはコメントしている。実際に聴いてみると、あまりロックっぽさを感じないサウンドで統一されているため、前者は雰囲気的にわかるけど、後者については、なんかピンと来ない。

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 これまでコステロのアルバム・レビューをさんざん書いてきた俺だけど、『Imperial Bedroom』にはまだ手をつけていない。要するに、「俺の好きなアルバムたち」とはちょっと違う、俺にとってあんまり思い入れの少ないアルバムでもある。
 ニューウェイブの流れを汲んでデビューしたコステロ、基本、ライブ映えする楽曲を中心にレパートリーを増やしていた。それはそれで好評だったけど、でもキャリアを重ねるにつれ、ロックだけでは表現しきれないテーマも出てくる。いつまでもシンプルなパワー・ポップだけでは、せっかくのSteve Nieveも宝の持ち腐れだったし。
 もっとワールドワイドな市場に色目を使おうとしたのか、ここではライブ仕様、4ピースで再現しやすいアレンジやアンサンブルを一旦チャラにして、スタジオ・テクニックを駆使したサウンドに挑戦している。主にソングライティングにはギターを使用していたコステロ、ここではそれをピアノに変えたことによって、今までと違うコード進行を多用している。スタジオさえ1つの楽器として捉えるGeoff Emericのプロデュースによって、後期ビートルズを彷彿させる、ライブ・パフォーマンスを前提としないサウンドに仕上がっている。
 コステロの中に眠っていたビートルズDNAを全面開放した自信作だったはずなのだけど、マーケットの反応は芳しいとは言えなかった。あれだけ地味だった前作『Almost Blue』さえUKでゴールド獲得しているのに、『Imperial Bedroom』はゴールドに届かなかった。マジか?俺もいま知ったわ。
 そんな結果を踏まえてコステロ、サウンドにこだわるんだったら、もっとキャッチーに、もっと徹底的にやらなくちゃダメだ、と思い直したのか、当時の売れっ子Clive Langer & Alan Winstanleyにプロデュースを依頼、トップ40ソングとも引けを取らない、ポップ・スター路線を志向することになる。
 まぁこれも、結局頓挫するんだけどね。

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 いわゆるMOR、コンテンポラリー色の強いアレンジから強いパッションは感じられない。だからと言って、リラックスできる癒しのサウンドでもないんだよな。言っちゃえば、「イイ感じでうまく枯れたよなぁ」といった印象。
 とはいえコステロ、昔からサウンドの振り幅が激しい人として知られている。地味なサウンドの後はラウドなサウンドに回帰する、そんなのを幾度も繰り返している。『King of America』の後の『Blood & Chocolate』 、『Juliet Letters』の後の『Brutal Youth』、前述した『Painted from Memory』の後の『When I Was Cruel』といった具合で、ひとつの音楽性にとどまらないのが、彼の魅力でもあるのだ。
 なので、本当のコステロ・ファンは、むしろこの後に淡い期待を抱いている。近いうちにラウドなロック・アルバムに回帰するんじゃないか、と。
 すでにそれを期待しながら、今日も俺はコステロを聴く。


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1. Under Lime
 イントロはCCRっぽいフォーク・ロック調だけど、次第にコーラスやホーンが入ってきて、ビートルズのオマージュ的なアレンジ。その辺がちょっぴり『Imperial Bedroom」っぽい。昔だったらシングル候補だったんだろうけど、もうそんなの興味ないんだろうな。リリースしたって、大して意味ないだろうし。
 ベーシックな部分はImpostersの演奏だけど、中盤の能天気なコーラス・ワークなど、いろいろ遊びも交じっててやりたい放題。誰が仕切ってんだと思ってプロデューサーを調べてみたら、Sebastian Krysという、もともとラテン畑の人。グロリア・エステファンやシャキーラを手掛けてた人らしい。まったく畑違いじゃん。

2. Don't Look Now
 バート・バカラックとの共作となった大人のアーバンなバラード。彼とのコンビでは、どうやっても名曲になっちゃうのは保証付き。時にイージー・リスニングになりがちなメロディを、コステロのアクがいい感じで作用してキリッと締めている。
 ヴォーカル・スタイルは思いっきりベッタベタなんだけど、やっぱキャラクターが強い分、ロック・ユーザーの耳にも違和感ない仕上がりになっている。3分弱でコンパクトにまとめてるのが、大人の粋を感じさせる。

3. Burnt Sugar Is So Bitter
 こちらもリリース前からインフォメーションされていた、Carole Kingとの共作。もともと1999年頃からステージではプレイされていた古い曲で、ここにきて正規レコーディングとなった。
 ここではちょっぴりKing色が強いメロディとなっているのだけど、それをうまく自分のフィールドに取り入れながら、Kingのエッセンスもしっかり残す、バランスのとれたコラボレーションになっている。何気にPete Thomasの後半ドラム・プレイが圧巻。



4. Stripping Paper
 並行して『Painted From Memory』も聴いていたのだけど、大きく変わったのがコステロのヴォーカル力の向上だった。いやうまくなってるわ、この人。以前だったらこのサウンド、このメロディだったらアーバンなAORに流されちゃってたところを、きちんとコステロ独自の色に染めてしまっている。
 このトラックではバカラックは絡んでおらず、一聴するとコラボ曲なのかな?と勘違いしてしまったけど、すっかり自分の中に取り込んでしまっている。

5. Unwanted Number
 ソリッドなロッカバラード。ここではコステロ自身もミニ・ムーグをプレイしており、このアルバムの中ではライブ映えしそうな楽曲。でもね、敢えて言うとコーラスはちょっと余計。Imposters単独で聴きたかったな。



6. I Let the Sun Go Down
 中期ビートルズというより、以前コラボしたポール・マッカートニー色の強いポップ・バラード。甘く凝ったメロディ、そこにストリングスとコーラスが絡む。『Imperial Bedroom』のビジョンが強く反映されている。
 以前はスキルやアイディアが至らず志半ばだったけど、ようやくここで形にできた。雑多な音を詰め込むでのはなく、然るべき音を、適切かつ最小限に配置することによって、アレンジの輪郭がはっきりした。

7. Mr. and Mrs. Hush
 ダークに堕ちたビートルズのような、ちょっとソウル風味も入ったロック・ナンバー。こういったソリッドな楽曲はお家芸のようなもので、安心して聴ける。気の抜けたフレンチ・ホルンがちょっと余計だけど、お遊び的なものと思えば気にならない。昔からのコステロ・ファンには、最もウケはよいと思われる。

8. Photographs Can Lie
 再びバカラック共作ナンバー。多分、2人でピアノやギターを介しながら、このレベルの楽曲はいくらでも書いてるんだろうけど、発表するかしないかの基準はどこにあるのだろうか。ハイレベル過ぎて、もはや常人には感知しえない世界。
 プレイヤーとしてのバカラックのピアノは、伴奏に徹して抑制が効いている。ドヤ顔でしゃしゃり出ないところが、重鎮としてのこだわりか。

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9. Dishonor the Stars
 やっとここにきて、Imposters単独のトラック。コステロ自身の多重コーラスがダビングされているけど、ほぼ100%通常営業のスタイル。バカラック・スタイルをバンドでやってみた体のアレンジ・メロディになっている。でもwikiを見てみると、現時点でこの曲、最新ツアーでも披露されていない。ライブ映えしそうなのにね。

10. Suspect My Tears
 Elton Johnあたりが歌うと、もっとウェットになっちゃうところを、独特のアクの強さで甘いアレンジにビターな風味を加えている。「Man Out of the Time」をヴァージョン・アップさせると、こんな感じになる。かつてはとっ散らかったサウンドでしか表現できなかったけど、ここに来てやっとビジョンが具現化できた。

11. Why Won't Heaven Help Me?
 この流れにきて、フェンダー・ローズから始まるイントロで不意を突かれた。カクテル・ラウンジっぽいムードのサウンドをベースに、Impostersが徐々に絡んでくる。ある意味、このサウンドって新境地だよな。なんとなくディナー・ショーっぽいけど。

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12. He's Given Me Things
 ディナー・ショー風味をさらに強めるかのように、ラストは3たびバカラック。ヴォーカルもここに来て、かなりドラマティックかつ直情的。レコーディング・アーティストとしてのコステロの方向性は、今のところはこういったコンテンポラリー系なのだろう。
 このサウンドではもうやり切ってしまった感が強い。なので、次回作だな。
 弾けたコステロが聴きたくなってきた。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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