好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

姐さん、まだまだ現役っすネ - Marlena Shaw 『Who Is This Bitch, Anyway?』

folder 以前Steely Dan『Aja』のレビューで、影の主役はChuck Rainey(B)である、と書いたのだけど、その彼のまた別方面での良い仕事が、1974年にリリースされた、このアルバム。
 同じく『Aja』で名演を繰り広げたLarry Carlton(G)も一緒に参加しており、その他Harvey Mason(D)、David T. Walker(G)、Jim Gordon(D)など、当時のジャズ/フュージョン名盤では常連のメンツが勢ぞろいして、ほぼ好き勝手に最高のプレイを披露している。ただし、誰もがエゴを剥き出しにはせず、あくまで最高のシンガーMarlenaの最高の歌を引き立たせることを前提に、最高のコンビネーションでプレイしている。
 
 このアルバムがリリースされた1970年代のモダン・ジャズ・シーンと言えば、当時所属していたブルー・ノートも含め、業界全体に往年の勢いが失われており、時代はほぼフュージョン一色となっている。純粋なスタンダード・スタイルの4ビート・ジャズは、ほぼ伝統芸能レベルにまで廃れており、クロスオーバーというネーミングが表すように、ソウル/ファンクのテイストをあしらったサウンドが主流となっていた。
 メインストリームのジャズがそういった様相だからして、ましてや、どスタンダードなジャズ・ヴォーカルのニーズはさらに失われており、こちらも絶滅寸前にまで追い込まれていた。
 
 もともとブルース系レーベルのチェスでデビューを果たしたMarlenaは、ブルー・ノートにおいては、どちらかといえば異端的存在だった。逆に言えば、そのソウル/ファンク・テイストの強いキャラクターであったことが強みとなって、従来の古臭いジャズ・ヴォーカリストらに混じることなく、後世まで生き残ることができた。

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 リリースされてちょうど今年で40周年、もはや威光の失われた往年のジャズ・レーベルという不利な条件だったため、大きなセールスを上げたわけではないけど、いつまでも語られることの多い名盤である。
 レコーディング・メンバー、ヴォーカリストの個性や卓越したテクニック、ストーリー仕立てのコンセプト・アルバムである、などなど、様々な要因はあるのだけど、どれが決定打かといえば、それはちょっとわかりかねる。こういうのって、結局は人それぞれだから。ただ、どんな理由で惹きつけられようと、一度手に入れてしまったらなかなか手放すことのできない、もし手放してしまったとしても、再び手に入れたくなってしまう、そんな不思議なアルバムである。誤解を恐れずに言えば「緩慢な麻薬」のようなアルバムである。
 
 ジャズ・ヴォーカルというのは、かつて日本でも人気のあったジャンルだったらしいのだけど、今ではもうその勢いも見る影はなく、伝統芸能のような扱いとなっている。戦後間もなくだと、ポピュラー音楽と言えばジャズくらいしかなかったので、安定したセールスを誇っていたのだけど、1950年代後半からのロックやポップスの台頭によって、その座も失われて久しい。ジャズ・ヴォーカルのピークをFrank SinatraやHelen Meriillの時代として、それ以降もまったく絶滅してしまったというわけではなく、一応時代ごとに歌姫的な存在のアーティストは出てきてはいるのだけど、あいにく往年のブームを凌駕するまでには至っていない。

 日本でも1970~80年代にかけては、阿川泰子やマリーンなど、スタンダード・スタイルの女性ヴォーカリストが定期的に出てきてはいたのだけど、彼女らのタレント化に伴い、そういったムーヴメントも徐々に収束してゆき、今ではもう見る影もない。ましてや、男性ヴォーカリストなんてもう、誰かいたっけ?といった惨状である。

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 今後のジャズ・ヴォーカル界に未来はあるのだろうか?
 残念ながら、「純粋な」ジャズ・シンガーの需要というのは、もうほとんど見込めないのが現状である。純正のジャズ・ヴォーカルの復権はないだろうけど、歌の上手いシンガーという需要は、どの時代でも確実にあるので、ポップ・シーンとのコラボレーションによる生き残りは可能だろう。大きなヒットは見込めないし、絶対数は少ないけど、どの時代にだって、ディーヴァは必要なのだ。Aretha Franklinだって、もともとはジャズ/ゴスペル出身だし、近年だとAdeleのサウンドもジャズ・テイストが強い。
 そう考えると、Amy Winehouseの早逝は、実に痛いところ。
 
 全盛期にも増して、近年精力的なライブ活動を続けているMarlenaもまた例外でなく、フュージョン系ミュージシャンとの共演も多く、ワン・ショットではあるけれど、若手ジャズ・ファンク・バンドへのフィーチャリング参加など、他ジャンルからの需要はコンスタントに続いている。演奏レベルが高いバンドにとって、サウンドに負けないポテンシャルを持つシンガーというのは、必須アイテムである。彼女のような本物のシンガーを積極的に起用していることが、近年のNu-Jazzやアシッド・ジャズの成しえた貢献の、最も大きなひとつである。


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1. Dialogue ~ Street Walking' Woman
 なかなか曲が始まらない。
 全体では6分の長尺だけど、実際の曲は後半3分くらいで、前半3分はまるまる男女の会話。バーの喧騒の中の会話という設定のため、聞き取りづらい上、ネイティヴな英語は日本人ではなかなか理解しづらい。他のサイトでの訳を読んでみると、まぁシャレオツながら中身のない会話の応酬なのだけど、アルバム全体のムードを印象づけるには、これくらいでちょうど良いのだろう。
 HarveyとChuckによる変幻自在のリズム・セクションは、彼らのキャリアの中でも特筆するほどのクオリティ。4ビートと16ビートがめぐるましく変化し、それに対して相変わらずのマイペースなDavid T.、ナチュラル・トーンと性急なカッティングの使い分けが絶妙。Mike Lang(P)もこのメンツの中では地味な方だけど、転調ごとにいなせなオブリガードを聴かせている。
 最後になってしまうけど、やはりMarlenaのBitchっぽいヴォーカルが熱い。終盤に差し掛かると、バンドとヴォーカルの相乗効果で、テンポも次第に上がってゆくことでファンク色が強くなり、最高潮の盛り上がりで占める。
 あぁもっと書きたいのだけれど、いまいち伝わらない。とにかく、聴いてほしい曲。

 
 
2. You Taught Me How To Speak In Love
 “いとしのエリー”の元曲。
 デビュー間もない頃のサザンは、この曲に限らず、「影響された音楽を素直に形にしてみました」感の強い曲が多い。パクリ疑惑も流れているけど、サザンの場合、そこまで悪意めいたサウンドではないので、むしろオマージュと考えた方がよい。だって俺、サザン好きだもん。
 演奏の主役はやはりDavid T.、このとろけるギター・ソロに、いったいどれだけのギタリストが憧れを抱き、そして夢潰えていったのだろう。単純な音色なのだけど、やはりこのタイム感、世界観の作り方はマネできるものではない。
 
3. Davy
 前半は正統なジャズ・ヴォーカル的ナンバー。効果的なストリングスが導入されており、往年のビッグ・バンドをバックに歌うMarlenaの姿が思い浮かぶ。この曲のギターはDennis Budimir、一般的な知名度はほぼないけど、当時のセッション・マンとしては人気があったらしく、彼のソロが入った頃になると空気感が変わり、Carole King系のポップ・バラードで軽やかに締める。
 
4. Feel Like Makin' Love
 オリジナルがRoberta Flackというのは、有名な話。
 LarryとDavid T.のダブル・ギターだけど、オブリガード中心のプレイで決して歌を邪魔していない。Marlenaのヴォーカルも終盤こそテンポ・アップしているけど、終始抑えたムード。良い曲とわかっているからこそ、大切に歌っているのだろう。
 とにかく様々なアーティストにカバーされまくってる曲であり、変わったところでは、なぜか今井美樹がカバーしている。これはこれで透明感のあるヴォーカルが好印象。

 

5. The Lord Giveth And The Lord Taketh Away
 Marlena自身による、ピアノ弾き語りのブルース・ナンバー。1分足らずの曲なので、セッションの合間の余興だったのだろうけど、多分思ったより出来が良かったので、収録に至ったのだと思う。こうして聴いてみると、ほんと幅の広いシンガーという ことがわかる。
 
6. You Been Away Too Long
 このアルバムのプロデューサーであり、アレンジャーでもあり、そしてこの曲の作者でもあるBernard Ighnerが現場でがんばった曲。まとめ役という立場上、どうしても裏方的作業が多くなりがちだけど、ここではフリューゲルホーンで参加。
 比較的メロウな曲で、もう少し甘くなれば類型的なA&M系のポップスになりがちなところを、Dennisのギターとドスの効いたHarveyのドラムがうまく締めている。

Marlena-Shaw

7. You
 こちらは少し甘みを強くしたバラード。こういう曲は、シンガーとしては歌ってて気持ち良いのだろうけど、聴き手側としては、よほど思い入れが強くない限りは、ただただ眠たくなってしまう場合が多い。演奏自体もメロウ感が強く、辛うじてMarlenaの声・歌唱で最後まで聴くことができる。
 そう考えると、ここ数年の徳永英明というのは、すごい存在である、と改めて思う。
 
8. Loving You Was Like A Party
 レア・グルーヴの中では、結構名の知られた曲。ちょっとクラブ系を齧ってる人なら、曲自体は聴いたことがある人は多いと思う。そう、Marlenaが歌っていたのです。
 Bitch再び、といった感じで気怠いアバズレ感漂うヴォーカルが、LarryとDavid T.のケツを引っぱたいて必殺フレーズを弾かせてるシーンが思い浮かぶ。いかにも70年代を連想させる、間奏からのシンセがまた泣きを誘う。グルーヴ感がハンパない曲なので、バラード以外のMarlenaを求めるのなら、ゼヒ。

 
 
9. A Prelude For Rose Marie
 
10. Rose Marie (Mon Cherie)
 映画音楽のような荘厳としたプレリュードに続き、アルバムのシメは穏やかで、ちょっぴりスウィートなポップ・ナンバー。これまで技の応酬だったセッション・メンバーを一新して、メロディを活かした音作りになっている。
 Marlenaも力を抜いて軽やかなヴォーカルを聴かせている。




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Teo、これちょっとまとめといて - Miles Davis 『A Tribute To Jack Johnson』

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 いわゆる電化マイルス、"Electric Miles"と称される1968~1975年に至る間、Milesは多くのライブを行ない、それに伴った膨大な音源を残している。当時リアルタイムで発表された物も数多くあるが、それもほんのごく一部氷山の一角に過ぎず、1975年の最初に引退時から断続的に小出しに蔵出し音源がリリースされている。
 引退の真相は諸説あるが、多分ドラッグの乱用で心身ともにガタガタになってしまったことが多くを占めるだろう。70年代までのミュージシャンは嗜みとして、ドラッグと乱交が当たり前だった。
 
 いくら帝王Milesとはいえ、レコード会社の契約には勝てない。
 ジャズ・ミュージシャン、ましてや当時の黒人にとっては、その契約の内容は白人と比べても不利極まるものだった。
 いくらモダン・ジャズが大きなムーヴメントだったとしても、その契約内容によって、印税などは微々たるもの、その日の暮らしにも事欠くくらいの窮状においては、どうしてもドラッグに手を出してしまうのはやむを得ないことだ。その日のドラッグ代欲しさのため、たとえ不利な契約でもサインして小銭を稼ぐ、そしてまた同じように…、この無限ループが死ぬまで続く。

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 Milesの場合はそこまで極端ではなかったにしても、かなり歯がゆい思いはしていたはずだ。ましてや同時代のロック・サウンドが自分たちの何十何百倍も稼いでることを目の当たりにして、嫉妬に狂う夜もあっただろう。
-白人どもは俺たちから音楽をパクるどころか、稼ぎさえも自分たちで独り占めしていやがる。
 純粋に音楽的な成長といった面もあると思うけど、多分こういった嫉妬の面も多かったと思う。

 そんなMilesが自然と向かいつつあったのが、従来の行き詰まったモダン・ジャズとは対極の、フリーフォーム中心のエレクトリック路線である。
 Milesだけの問題ではなく、4ビート中心の生楽器演奏が限界に達しつつあり、もともと雑食性の強いジャズというジャンルが、ソウルやボサノヴァなど、他ジャンルの音楽を貪欲に吸収し侵食し始めた頃である。
 最初は電気ピアノなど従来の延長線上の楽器が導入されたが、次第にエレキ・ギター、ベースやドラムも電気的に増幅され、終いにはMiles自身のトランペットも電気的にエフェクトされ、何の音だかわからなくなってゆく。
 その凝縮された混沌の結果が引退前の最終作『Agharta』『Pangaea』に結実するのだけれど、この『A Tribute to Jack Johnson』くらいの時期は、まだそこまで突き抜けていない。
 
 このアルバムのコンセプトは一応、不当逮捕された黒人ボクサーを追ったドキュメンタリー映画のサウンドトラックという体だが、まぁそういった予備知識を抜きにしても問題ないと思う。コンセプトに縛られて音楽を聴くものではない。コンセプトに縛られてはダメなのだ。

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 ちなみにこのアルバム、よくレビューされているのが、「Milesが当時のロックに最も近付いた作品」「ロック好きな人にもオススメ」という感じなのだけれど、実際聴いてみると…、なんか微妙である。これまであまりジャズを聴いたことがない人でも、なんか普通のジャズと違うことは一聴してわかるだろう。
 一般的に「ジャズ・ビギナーが思い描くジャズ」とは、Bill EvansかSonny Rollins、または思いっきり飛んでケニーGあたりだ。そういった通常フォーマットの、口当たりの良いジャズではない。
 
 今回のアルバムのメインであるJohn McLaughlinによるギターのパワー・コードが延々と流れるサウンドが、一般的なロック・ファンにもとっつき易そう、とも言われているが、ほんとにそうか?という気もする。多分、これが当時のMilesの思い描いた、いわゆるロック寄りの音なのだろうけど、ロック/ポップスと違ってそれほど起承転結があるわけでなし、一般層が思うメインストリームのロックではない。
 後にMahavishnu Orchestraというバカテク・バンドを結成するMcLaughlinだが、ここでは単純なコードを押さえて適当にストロークしてるだけにしか聴こえない。ただファンク寄りのリズム・セクションは古びることなく、いま聴いても十分通用するレベル (このリズム感だけはMilesがしつこくメンバーに力説していたようである)。
 
 ここまで書いてみると、何だか悪口ばかりに聴こえるようだが、まぁ半分くらいは当たっているけど、言いたいのはそういうことじゃない。
 どのジャンルにも当てはまりづらく、居心地が悪そうな音楽がある。空気なんか読む気もない、独立独歩オンリーワンの音楽。ジャンル分けされることをとにかく嫌う音楽。
 それがMiles Davisというジャンル、Miles’ Musicである。


A Tribute To Jack Johnson
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1. Right Off
 影の主役はHerbie Hancock。
 McLaughlinだって、もともとロック方面の人ではない。Milesによって、なんとなく今までと違った感じのギターが弾けそうだから、とスタジオに押し込められて適当なパワー・コードを振り下ろしてたのを、「何かロックっぽいぜ」と勘違いしたMilesが長回ししたテープをいつものようにTeo Maceroに丸投げしただけである。
 そんな中、たまたま近くを通りかかったHerbieがFARFISAオルガンをつま弾くことにより、サウンド全体に締りが出た。
 Milesもそれで奮起したのだろう、久しぶりにトランペットのミュートを外し、オープン・スタイルで吹きまくっている。
 McLaughlinがいくらロック・スタイルでプレイしたとしても、所詮は付け焼刃であり、自分のスタイルを崩さず、よりファンきなープレイを魅せるHerbieこそが、Milesの意図だったのかもしれない。
 
 
 
2. Yesternow
『In A Silent Way』を思わせる、静かなオープニング。多少のヤマ場や盛り上がりはあるけれど、ほぼこのスタイルで演奏は続く。Michael Hendersonの地を這うベース、薄く被さるHerbieのオルガンに導かれて、再びMilesのオープン・トランペット。
 3分以上経ってからBilly Cobhamのハイハット中心のドラムが入ってくる。13分過ぎくらいからのMcLaughlinとHendersonの技の応酬は聴きどころ。
 俺的にはMcLaughlinのプレイはこちらの方が好き。変にロックにすり寄ってる感じがなく、アバンギャルド性が強いので。あ、もちろんMilesのプレイもいいっすよ。
 最後は映画の主役を務めていたBrock Petersのナレーションで終わるところがサントラっぽい。




 この時期のMilesはほんとライブが多く、まともなスタジオ音源が蔵出しされるのは、もっと後年のことである。レコード会社としてはオリジナル・アルバムをどんどん作って欲しかったのだろうが、あいにく帝王Milesはスタジオ・ワークよりライブを優先しており、日々変化してゆくMiles’ Musicの育成に忙しかった。もちろんそういった表向きの理由だけでなく、バンドを維持するためには日銭の入るライブを優先せざるを得なかったのだろうけど。
 
 やはりここでもTeo Maceroの出番となる。このアルバムだってぶっちゃけた話、彼がいなければまともな形にならなかった。というかこれまでの細切れのセッションを繋ぎ合わせ、無理やりオファーの内容にこじつけただけなのかもしれないが。そう言う時代だったのだろう。


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Joeさん、あれこれ詰め込んだ世界一周旅行の巻 - Joe Jackson 『Big World』

folder で、しつこくJoe Jackson の続き。
 大ヒット作『Night & Day』には及ばなかったけど、前作『Body & Soul』もそこそこのヒットを記録し、いわゆるヒット・メーカーの仲間入りを果たしたJoe、でも純粋な作品クオリティの面においては満たされぬままだった。
 いくらヒット・チャートの常連になったとはいえ、すべてはポップ・フィールドでの出来事、前述したようにRoyal Academy of Musicで学んできた音楽的素養を十全に活用しているとは言えず、実際、ヒット・ソングとは対極の世界である現代音楽界においては、ほとんど評価は与えられていなかった。

 ちょっとその気になれば、フル・オーケストラのスコアを書くことくらい何でもない事なのに、来るオファーはポップ・ソングの依頼ばかり。ちょっとした片手間仕事でサウンドトラック(『Mike’s Muerder』)を手掛けてみたはいいけど、セールス的にも作品クオリティ的にも、評価はほとんど無に等しかった。
 現代音楽の世界においては、セールスはさほど重要な事柄ではない。そこは非常に内部完結した仲間うちの狭い世界であり、ごくごく少数の愛好家や評論家に一目置かれることが何よりも重要なのだ。
 
 セールスが膨れ上がれば膨れ上がるほど、その手のコンプレックスが増大してゆくのは、アーティストの常である。どこかでガス抜きをしなければならない。
 
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 そういった事情もあったのか、アルバム・リリースの狭間の仕事として、ちょうどこの頃開催されたつくば万博で上映された映画『詩人の家』のサウンドトラック制作で来日、東京交響楽団とのリハーサル・レコーディングを5週間かけて行なっている。
 『Mike’s Murder』での実績はあったものの、映画畑においてはほぼ無名のJoeにどうしてお声がかかったのか、その経緯はいまいち不明だけど、当時の日本はちょうどバブル突入目前、プラザ合意によって好景気の波が押し寄せつつあった頃で、要するに金があったのだろう。まとまった時間を取れるアーティストがたまたまJoeだけだった、とも考えられるけど。
 
 当然、かなり限定された環境での公開ゆえ、反響はほぼ皆無に近かったのだけど、久しぶりのオーケストラとの作業によって、アーティスト・エゴを満たすことができたのだろう、Joeはここで一旦現代音楽モードをリセットし、再度ポップのフィールドに帰還することになる。
 とは言っても生粋の英国人、そんなにストレートな物を作るはずもなく、ちょっとひねったアルバム・コンセプトに着手する。
 
 前述しているけどこの『Big World』、正確にはニューヨークのRoundabout Theatreという古めかしいホールでの「実況録音盤」である。何故わざわざ「実況録音盤」という古めかしい物言いかといえば、ライブ特有の歓声や拍手など、その他諸々の客席の状況が一切排除された、ライブ感がまったくないライブ・アルバムとなっているからである。
「ライブ会場を使っての一発録り、間違えたら最初からやり直し、観客は静かに見ているだけで、声援禁止」
 以上、このようにかなり屈折したコンセプトで制作されたアルバムとなっている。
 要するにコンサート・ホールを巨大なレコーディング・スタジオとして使用しているのだけど、だったらわざわざ観客入れる必要ないんじゃね?とツッコミたくもなる。
 
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 もう一つ変わっている点として、LPレコードでリリースされたこのアルバム、リリース当初は2枚組だったのだけど、すべての面を使っているわけではなく、溝が刻まれているのは2枚目A面まで、B面に当たる箇所には溝が刻まれておらず、ツルツルの平面になっている。
①当初シングル・アルバムの予定だったのが、思ったより曲があふれ出てこのような結果になったのか、
②それとも最初から3面のみ使用の予定だったのか、
③はたまた4面すべて埋めるつもりだったのが、曲が足りなくなったためこのような結果に落ち着いたのか。
 それについてJoeのコメントはないのだけれど、俺的には多分②だと思う。こういったコンセプトが、現代音楽経由のアーティストにとっては、とても重要なのだ。


Big World
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1. "Wild West" 
 ここ2作では封印していたアコースティック・ギターのストロークからスタート。Joeのリコーダーがどことなく西部劇っぽい趣き。『Body & Soul』から参加しているVinnie Zummoが大活躍。敢えてシンセを使わず、生演奏での真っ向勝負を選んだJoeがリード・プレイヤーとして選んだだけあって、テクニック・表現力ともずば抜けている。

 
 
2. "Right and Wrong" 
 日本ではシングル・カットされているのだけれど、海外ではどうだったのだろう、データが見つからなかった。
 ”Stop, Everything”後のブレイクが絶品。これが大人のロックなのか、と思った18の頃。ソリッドなロックン・ロールである。
 初参加のRick Fordの、リード・ベースと言ってもよいリフも、かなり黒い。

 

3. "(It's A) Big World" 
 香港の妖しげな夜会を思わせるオープニング。しかし引き出しの多いバンド・メンバーが、よくもこれだけ揃えられたものだ。
 中国雑技団のようなハイハットが、無国籍な淫靡さを演出。
 
4. "Precious Time" 
 このアルバムの中では、ややハードめのギター・リフが演奏を引っ張っている。ここでコーラスが前に出てきており、ゴージャスなサウンドとなっている。
 『Beat Crazy』辺りに入ってても違和感のない、ストレートなロックン・ロール。
 
5. "Tonight and Forever" 
 同じくデビュー間もない頃のテイストのサウンドが続く。ただし編成は同じだとしても、ミュージシャンの力量がまるで違う。
 考えても見てほしい、これらはすべてワン・テイク、一発録りなのだ。疾走感がハンパないので、曲自体もものの2分程度で終わる、勢い勝負の曲。
 でもこれこそが、ロックン・ロール。
 
6. "Shanghai Sky" 
 ちょっぴり落ち着いて、ピアノ・ソロを聴かせるJoe、サスティンを聴かせまくったVinnieのアルペジオが幕間のようにまったりと流れる。たっぷり2分半の長い長い前奏に続き、感傷的なJoeのヴォーカルが朗々と続く。
 でも、どの辺が上海?

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7. "Fifty Dollar Love Affair" 
 哀しげに響くバンドネオンが、善からぬ男と女の情事を掻き立てる。
 
8. "We Can't Live Together" 
 今度はベースがスパイ映画のようなサウンドを奏でる。次第に演奏は情熱的に、しかし冷や汗交じりにヒート・アップする。
 モノクロ映画のぎらつく太陽のように、それ自体に色はないけれど、内にこもる熱は周囲を焼き尽くす。
 
9. "Forty Years" 
 タイトル通り、リリースから40年前、第二次世界大戦前後のヨーロッパを歌った曲。
 辛辣ながら諦念さえ感じさせる、あまり前向きではないメッセージを、それでもピアノ一本でがなり立てるJoe。
 まるで孤軍奮闘するかのように。
 ここまでが、レコードでは1枚目。

10. "Survival"
 ライブで完全生演奏という縛りのため、サウンド的には『Night & Day』『Body & Soul』と比べて、小編成で再現しやすい曲が多い。
 この曲も例外にもれず、シンセやホーンも使っていないので、シンプルなサウンドがこのアルバムの特徴。
 ただし演奏スキルは過去最高レベル、現在においても、ここまでのバンド・アンサンブルには至っていない。
 
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11. "Soul Kiss" 
 ソウルというよりは、ブギウギ・ピアノが楽しげ。緊張感で張りつめることの多かったセット・リスト中、比較的自由度が高くラフな感じの曲。
 Joeのヴォーカルもいい意味で力が抜けて、ラフ気味に歌っている。
 
12. "The Jet Set"
 日本語ではジェット族、ジェット機で遊び回る金持ち連中とwikiにあったので、要するにセレブの方々と言えば分かりやすい。
 アメリカやヨーロッパなどの有閑階級、由緒正しき生い立ちの方々の事を皮肉っている。日本ではあまりリアルではないと思う。
 
13. "Tango Atlantico" 
 タイトル通りタンゴの曲だが、いまいちバンドの消化能力が足りない。そりゃそうだ、だって一発録音だもの、完奏することで精一杯なので、踏み込みが足りなくなるのは仕方ない。
 音楽による世界一周というコンセプトのため、あらゆるジャンルの音楽を入れたかったのだろうけど、普段やり慣れてないものは、やっぱり付け焼刃っぽくなってしまう。まぁ、あれこれ詰め込みすぎだったのだろう。
 
14. "Home Town" 
 このアルバムの中では、最もポップと言える曲。テンポも軽やか、ギター・リフも余計なエフェクトはごく最小限、ナチュラル・トーンのため、初心者でもとっつき易いサウンド。
 相変わらずJoeは肩に力の入った歌い方をしているが、逆にこれがクルーナーのように甘い囁きだったら拍子抜けだろう。たまにライブでも演奏しており、お気に入りだと思われる曲。

 
 
15. "Man in the Street" 
 この曲だけ本編ではなく、前日のリハーサル音源より。ややインドっぽいオープニングから、次第に演奏が熱を帯び、最期は大団円。
 コーラスもJoe同様、思いっきり前のめりになっている。



 この後、Joeは古巣A&Mと契約終了、これまでの集大成『Live 1980-85』、またまた現代音楽『Will Power』、懲りずにサントラ仕事『Tucker』リリース後、当時飛ぶ鳥を追い落とす勢いだったVirginと契約、2枚のポップ・アルバムをリリースすることになる。
 Virginの持つ巨大な販売網を足掛かりとして、さらにワールド・ワイドな活動を展開しようと目論んでいたのだろうけど、この『Big World』をピークにセールスは下降の一途を辿り、そのおかげでJoeは鬱病を発症、しばらく表舞台から遠ざかるようになる。
 俺的にも今でも良く聴くのはこの時代まで、Virgin以降はそれほど熱心に聴いていない。
 
 最近は3ピース・バンド編成でコンパクトなツアーをヨーロッパ界隈で行なっているようだけど、全盛期をリアルタイムで追っかけてきた者としては、一応活動はしているけれど、その地味さ具合は寂しささえ感じる。できることなら、もっと大編成のバンドでハデな音を鳴らしてほしいのだが、まぁ予算もあまりないのだろう。
 
 どうせなら手練れの職人的バンドより、もっと威勢の良いサウンドを聴きたいと思っているのは、多分俺だけではないはず。どうせなら固定メンバーでツアーを廻るのではなく、現地の若手バンド、特にブラス・セクションの入ってる連中と組むのはいかがだろうか。
 日本にもSOIL&"PIMP"SESSIONSやPe’Zなど、イキの良いバンドはたくさんいるし、ヨーロッパにも、ジャズ・ファンク系のソリッドなバンドが腐るほどいる。そういった世代間交流を行なっていった方が、互いの創作意欲も湧くんじゃないだろうか。
 取りあえず日本のイベンターの方、これを読んでいたら、一度ご一考くださいませ。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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