岡村靖幸

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

ファン上級者向けの問題作 - 岡村靖幸 『Me-imi』

folder 2004年リリース、岡村ちゃんにとっては6枚目、そしてなんと9年振りとなるオリジナル・アルバム。前作の『禁じられた生きがい』が1995年で、こちらも5年のブランクがあってのリリースとなっており、その寡作ぶりは大滝詠一・山下達郎に匹敵する。みんな手間ヒマかける作風だしね。
 デビューからずっとエピックに所属していた岡村ちゃん、まぁその、何やかやいろいろあって、『Me-imi』は設立されて日の浅いデフ・ジャムからのリリースとなっている。そう、あのデフ・ジャムである。Beastie BoysやPublic Enemyが代表的アーティストとして有名な、ヒップホップ・レーベルの。
 80年代歌謡曲とファンクとのハイブリッド・サウンドを志向していた岡村ちゃんの復活と、デフ・ジャムの日本進出とがうまくリンクしたことは、奇跡的な邂逅と言ってもよい。ちょっと大袈裟かな。どっちにしろ、デフ・ジャムでのアルバムはこれ1枚きりだし。
 オリコン最高14位はもう仕方のないところ。何しろ9年振りの新作なんだから、普通なら「満を持しての活動再開」といったムードで盛り上がるはずだったけど、何やかやのおかげもあって大々的にキャンペーンを張るにはリスクが大きすぎた。日本では新興扱いであるデフ・ジャムのプロモーション体制が整っていなかったのも、ひとつの原因ではあるけれど、まぁやっぱり岡村ちゃん自身の問題だよな。
 この時期の彼はある意味、火中の栗であって、誰も好きこのんで手を差し伸べようとはしなかったのだ。筑紫哲也のニュース番組に出演したこともあったけど、あれだって「犯罪者の更生」といった左翼的な視点であって、別に音楽性について突っ込んでるわけじゃないし。

 もともと友達の少ない岡村ちゃんにとって、数少ない友人、同世代でよくつるんでいたのが吉川晃司と尾崎豊だった、というのはわりと知られている話。調べてみると、みんな1965年生まれだった。
 よく遊んでいたのが18,9の頃で、尾崎と吉川はすでにデビューしており、岡村ちゃんはまだ「ダンスがうまい作曲家」の域を出ない、なかば業界人に足を突っ込んだだけの存在だった。デビュー曲「モニカ」が大ヒットしたことによって、ザッツ芸能界に取り込まれようとしながらも馴染めず、独りもがいていた吉川と、まだヒット曲はなかったけれど、すでに十代のカリスマとして、知る人ぞ知る存在になりつつあった尾崎、で、当時はまだ「その他大勢」「吉川と尾崎、それともう一人のデカいの」的扱いだった岡村ちゃん。考えてみりゃ、接点ないよなどう見たって。
 もろ体育会系の吉川と、ナンパな文化系の尾崎、そうなると岡村ちゃんは帰宅部といったところか。あまりにかけ離れた三者三様は、逆に接点の無さによって、ビジネスを超えた友情を育むことができた。ライブで共演なんかはいくつかあるのだけれど、ガッツリ組んだコラボはないものね。

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 岡村ちゃんのデビュー前後までは、大きなガタイの3人組の深夜の徘徊が、たびたび六本木界隈で目撃されていた、ということだけど、次第に3人とも多忙になったせいもあって、出会う頻度は少なくなってゆく。
 時期的には、確か尾崎の逮捕がターニング・ポイントになったと思われる。「ひたすら飲んでダベってナンパして」のズッコケ3人組は、それぞれの生活を背負うようになった。それなりに知名度もあるため、互いに顔を合わせると、それだけで周囲が騒ぎ出す。
 -もうあの頃のように、無邪気に遊び回ることはできない。気ままな青春時代は終わったのだ。

 ザッツ芸能界への不信感がピークに達していた吉川は、ナベプロから独立して音楽活動に専念、これまで以上にロック・サウンドへの傾倒を強めていった。これまでと違うフィールドをサヴァイブしてゆくため、パートナーとして選んだのが布袋寅泰で、その後はコンプレックス結成へと動く。
 彼ら2人に遅れは取ったけど、岡村ちゃんもまた「ピュアでちょっぴり不器用な十代の代弁者」というソニーお得意のメソッドから脱却して、「ピュアで不器用だけれどエッチな君のことが好きなんだよベイベ」というキャラクターを見出した。その純粋な変態性がコアなファンを生み出し、両者とは別な意味でのカリスマ性を築き上げていた。
 もう、「その他大勢」じゃない。
 ないのだけれど、もう一人。
 青春時代をうまく終われなかった男が独り。

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 尾崎の死と前後するように、次第に岡村ちゃんの活動はペースダウンしてゆく。そんなアクシデントが引き金となった、と言えばドラマティックなのだろうけど、多分関係ないだろうと思われる。25、6という年齢は、男にとっても女にとってもひとつの曲がり角なのだ。
 当時のインタビューで岡村ちゃん、「曲は書けるけど詞が書けなくて、たびたび作業がストップする」と漏らしている。世の中はバブルが弾けて経済的にも曲がり角だったけど、「またそのうち、景気だって上向くさ」という希望が残っていた。享楽と喧騒に満ちた永続的モラトリアムはまだ続いていたはずだったのだ。だったのだけど。
 岡村ちゃん自身のジャッジの基準が上がっていたのは、真摯なミュージシャン・シップからすれば至極当然な経緯ではある。
 題材は変わらない。愛はいつだって不変のものだ。
 でも、その表現の仕方を進めるには?今までと同じだったら、それじゃいけないんじゃない?
 かつて尾崎は「ファンと共に成長する」ことを強いた挙句、そのファンのニーズから大きく乖離した方向へ迷走し、そして志半ばで息絶えた。
 岡村ちゃんもまた、自己成長を急ぎ過ぎた挙句、袋小路にはまり込んでしまったのだ。

 その後の岡村ちゃんの音楽は、混迷と流浪の歴史である。その軌跡が生々しく刻まれているのが、この作品集というわけで。
 『Me-imi』での岡村ちゃんが放つ音は、どれも攻撃的になっている。ピーク・レヴェルや定位バランスは二の次で、90年代の主流であるテクノやレイブ、ハウスから大きく影響を受けた、歪みの多い暴力的なビートが支配している。これまでエフェクト的に使われていたパーカッションや複雑なリズム・アレンジは後退し、四つ打ちに代表される、トランス効果を狙ったミニマルなアレンジが多くを占めている。
 ラウドな響きに呼応するように、発声のインパクトを重視した単語の羅列は、これまでのストーリー性を放棄している。十代二十代の童貞臭漂う切なく笑っちゃう叫び、前向きに生きていきたいけれど変に自虐的な過去の自分。想い出とは常に郷愁の中にあるものなのだ。
 岡村ちゃんの青春時代は終わってしまったのだ。

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 青春時代を総括するため、尾崎は「その後」を探し求めて迷走し、確かな答えをつかまぬまま、生きることをやめてしまった。良くも悪くも「完結」しなかったことで、尾崎は伝説となった。本人的にはどう思ってるんだか。
 『誕生』のレビューで書いたけど、別に成長なんかしなくても良かったのだ。自分が良いと思ってるのなら、永遠に少年少女に向けた歌を歌ってたって構わない。それが「商業主義すぎる」とか「ユーザーのニーズにベッタリし過ぎ」とか言われたって、誰に迷惑をかけるわけでもない。どんな時代においても、そんな歌を求めているファンは必ず一定数は存在するのだから。
 何も強引に、「成長しなくちゃ」と無理に変えることはなかったのだ。

 『Me-imi』リリース後、岡村ちゃんは再度、世間をお騒がせすることになる。その後も紆余曲折を繰り返し、完全復活までにはもうちょっと時間が必要だった。
 「好きなこと歌って気持ちよくなって、みんなに喜んでもらえりゃソレでいいんだよベイベ」と開き直れるのは、もうちょっと先の話である。


Me-imi
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1. 5!! モンキー
 リズムにこだわりがあるのは変わらない。『家庭教師』期に確立した、複合リズムのごった煮。ただ、以前の岡村ちゃんの作るトラックには「え?」と思わせる隙間があり、そこでひと息つかせる余韻を感じさせる余裕があった。最も伝えたいのは言葉であって、リズムが前に出過ぎると、そのメッセージは薄れてしまう。「高慢ちき」「抜本的思想」「土・天・冥王」など、普通なら歌詞として使うには難しい言葉を躊躇なくチョイスするのは岡村ちゃんらしいけど、ストーリー性より発声の語感を優先しているため、散漫な印象ばかりが残る。
 なので、後にリメイクされた『エチケット』ピンク・ヴァージョンではもうちょっとサウンドがトリートメントされており、本意が伝わりやすい。

2. モン-シロ
 先行シングルとして発売。これもやたらエフェクトが多い乱雑なリズム・アレンジとなっているのだけど、1.ほどヴォーカルがそれほど歪んでいないので、なぜかソフトに聴こえてしまう不思議。でもどっぷりファンクなのは変わりない。

 モンシロみたく直接 花のひだに密接したいな
 おいしいもん見たら即決 力の限り いま飛び越える

 岡村ちゃん得意のエロソングだけど、以前のようについ笑っちゃうようなナルシシズムな視点はなく、比喩は使っているけどダイレクトなエロを展開している。「大人になった」ってことなのかな。

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3. ア・チ・チ・チ
 このアルバムの中では最も人気も高く、外に開かれたキラー・チューン。その後のライブでもほぼセットリストから外されていないので、本人的にも会心の出来だったんじゃないかと思われる。
 かなりクラブ・シーンに接近したファンクとなっており、ひとつひとつのパートの音は軽いのだけど、それらがうまく融合し合って独特のグルーヴ感を創り出しているのは、岡村ちゃんの面目躍如といったところ。かなり80年代Princeの影響が強く出ているのだけど、オマージュと呼んでおこう。

4. ファミリーチャイム
 「ペンション」の世界感を想起させる、このアルバムの中ではどストレートなバラード。ただ、このアルバムのテイストではちょっと浮いた感じ。宅録打ち込みの薄いサウンドじゃなくって、これこそベタなストリングスを使ってゴージャスなサウンドの方がもっと映えるはずなのだけど、この時期じゃ無理だったか。岡村ちゃんのヴォーカルも手クセが強く、もっとドラマティックに表現できるはずなのに。ラストの適当英語は結構好きだけど。

5. ミラクルジャンプ
 先行シングル・カットの2枚目。エロさを排除して、さわやかな青春時代をヴァーチャルに表現することに長けた岡村ちゃん渾身のエヴァーグリーン・ソング。ファンのニーズど真ん中の歌詞なのだけど、やっぱこの世界観の量産はキツいのかな。3.なんかと違って時事風俗的な言葉は使われてなく、普遍的なパーツで構成されているのだけど、風化しない物を作り続けてゆくのは困難だし、本人が先に飽きちゃうんだろうな。
そこを開き直るには、まだ数年待たなければならない。

6. 未完成
 よくライブの小休止的に行なわれていた、弾き語りコーナーをそのまま移植したようなバラード小品。シンプルであるがゆえ余計な味付けがなく、まるでアドリブのような岡村ちゃんの語りが堪能できる。アルバム全体が同じテイストだからしょうがないのかもしれないけど、これもサウンドにもう少しガッツがあれば。バックがピアノのみなのはいいんだけど、せめてヴォーカル。エコーかけようよ。ノンエコーだとサウンドがドライ過ぎる。

7. 軽蔑のイメージ
 岡村ちゃんにしてはギターが前に出ており、音もちょっとアメリカ・オルタナ気味で珍しい。ハイハット・バスドラの響きがやたら重厚で、その他にも多種多様なエフェクトがとっ散らかった印象を受ける。それでいてメロディはやたらキャッチー。歌詞は支離滅裂であっち行ったりこっち行ったりなので、まともに分析しようとするとバカを見る。一応ライムにはなっているけど「超マブ 総立つ」はダサいと思う。

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8. マシュマロハネムーン~セックス
 ハウスのフォーマットをいち早く導入しながらも、ちょっと消化不良気味でフワッとした微妙な仕上がりとなってしまった2001年のシングルと、リズムがダウナー過ぎて試行錯誤ぶりが表出してしまった1999年のシングル。
 それら2つをくっつけるとあら不思議、高機能なダンス・ファンクとして生まれ変わっちゃった。曲調はまったく違うのに違和感なく馴染んでしまうのは、ハウス・ビートの消化によるトラックのスリム化が勝因。
 -John Lennonがある日、プロデューサーGeorge Martinに、「まったくテイストの違うこの2曲をひとつにまとめて欲しい」と無理難題を押し付けた。「また始まったか」と内心思いながら、どうにかこうにか工夫したり加工したりして、望み以上の楽曲を仕上げた。それが「Strawberry Fields Forever」。
 まとめ上げたMartinもすごいけど、そんな突拍子もない発想をするJohnの方がやっぱ偉大。天才と変人の紙一重だな。


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「帰って来てくれるだけでうれしい」って、こういうことなんだ - 岡村靖幸 『幸福』

folder 岡村ちゃん11年ぶりのニュー・アルバム。近年は結構短いペースでシングルだDVDだエッセイだと、何かとニュー・アイテムのリリースが多かったし、短期ではあるけど年に1、2度コンスタントにツアーも行なっていたので、正直お久し振り感は薄いのが印象。まぁ音信が途絶えることもなかったので、マイペースでやってんだな、と安心していたのは俺だけではないはず。
 それでも、このペースの活動がしばらく続くのかなぁと思ってた矢先、年の瀬の一面広告に全国の岡村ちゃんファンはびっくりした。
 え、ほんとに出すの?

 信頼できるメディアを中心にした露出や、若手アーティストからのリスペクトに応えたコラボなどによって、ファン層は大きく広がっている。もちろん俺のように、もう四半世紀に長きに渡って追い続けているファンもまた健在である。
 不思議なことに、岡村ちゃんのファンというのは一途な人が多い。昔は好きだったけど今はキライという人はあまりいない。そりゃ人間だから、他のジャンルに興味が行く場合もあるけど、岡村ちゃんだけはずっと聴き続けているという人は、思いのほか多い。一度虜になると離れられないオーラがあるのだろう。
 なので岡村ちゃんのCD、ブックオフではほとんど見かけない。

 ファン同様、岡村ちゃんもなんやかや紆余曲折やら変遷やらがあって、卓球と組んでテクノに走ってしまった頃はこれじゃない感が強く、一応音楽に対して真面目に取り組んでる姿勢はわかるけど、微妙な心持ちでいたファンも多かったんじゃないかと思う。
 やたらとダンス・ビートを強調して、ヴォーカルもバック・トラックと同じレベルにセッティング、そんな2つをひとつのトラックに無理やり押し込めているので、全体のサウンドにコンプがかかって潰れてしまい、窮屈で聴きづらい音像になっている。
 当時はこれが良かれと思ってリリースしたのだろうけど、どこか無理が生じてこじれちゃってたのがこの時代。そのかなりレイヴ寄りのサウンドに新たな可能性を見いだしていたのだろうけど、あいにく岡村ちゃんにそういった方向性を求めてる人は少なかった。
 アーティストが自らの信念で鳴らしている音なのだから、ファンとしては行く末を見守るしかなかった。まぁ手放しで絶賛する気にはなれなかったけど。

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 そんな時期にリリースされたのが、前回のオリジナル・アルバム『me-imi』だけど、正直2、3回くらいしか聴いてない。それまでの持ち味のひとつだったファンクの部分を大きくクローズ・アップしたサウンドが、そこでは暴力的に展開されていた。グルーヴ感の少ない無機的なビートの中で、喘ぐようにシャウトしまくる岡村ちゃん。意図的なミックスなのか、そこでは岡村ちゃんの声もサウンドの中に埋没しており、変にいびつでアンバランスな音の濁流が蠢いていた。そのアルバムでは、岡村ちゃんのもうひとつの持ち味である口ずさみやすいメロディは軽視されていた。歌詞も荒んで斜め上ぽかった上に、歪んだヴォーカルでは何を言ってるのかもわからなかった。

 いろいろ紆余曲折もあって、久し振りに現場復帰した岡村ちゃん。スタッフの中には、早々と見切りをつけて離れていった者も少なくなかった。それは誰も止められないことだ。彼らにだって生活がある。それでも、そんな岡村ちゃんに惚れ込んでいたスタッフ、それにファン達はじっと待っていた。
 誰も岡村ちゃんを急かそうとはしなかった。ちょっとずつでいいから、まずは自分のペース、自分の言葉をしっかり掴むことが先なことはわかっていたから。じゃないと、また同じ過ちを繰り返してしまう。
 次のステップへ進むために、ひたすら前を見ることは重要だけど、自分の足元をきちんと見直すことも必要だ。もう同じ失敗を繰り返すことはできない。じゃないと、信じて着いてきてくれた人たちをまた悲しませてしまう。
 結局のところ、最期は自分でなんとかするしかない。ファンだろうが支援者だろうが、結局は見守ることしかできない。

 そんな岡村ちゃんが最初に始めたのは、もう一度ファンの前に姿を現わし、いまの自分を見てもらうこと。まずはライブからだった。
 これだけみんなを裏切り続けてきたけど、いまの自分を普通に受け入れてくれるのか―。
 最初はすごく勇気がいったと思う。ヤジや罵声が飛び交っても何も言えやしない。
 ―でも、やらなくちゃ。
 どれだけ無様であろうとも、前に足を出さない限り、はじめの一歩は踏み出せないのだ。
 思いのほか、みんな快く受け入れてくれた。
 お詫びや謝罪ではない。
 いま自分はこうやって生きている。それをありのまま見せることが、いまの自分の義務なのだ。
 謝る必要なんてない。それはただの「言葉」でしかないのだから。それよりは、思い立ったらすぐ行動だ。

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 でも、「前のめりな自分」を見せることはできたけど、「新しい自分」を形として出すのはまだ難しかった。
 「これまでの自分」と「これからの自分」。
 どう表現していいのかわからなかったのだ。

 これまでの岡村ちゃんは、音楽に対して真摯に向き合いすぎたあまり、ネガティヴな自分との折り合いが付かなくなっていた。
 煮詰まる創作作業と、終わりの見えないレコーディング。その作業は孤独の極みだ。
 毎日スタジオに通い、終日エンジニアとの共同作業だった昔とは違い、今はDTMが劇的に進化しているおかげもあって、極端な話、外へ一歩も出ず誰とも会わなくても、それなりの作品が出来てしまう。むしろ技術スキルが上がれば上がるほど、他者の介在を拒むようになる。やろうと思えばすべて独りでできちゃうし。
 ただし、スキルが上がるということは、自ずとジャッジメント、自分の要求水準も確実に上がっていくということ。作り込めば作り込むほど、以前のレベルでは満足できなくなる。なので、細かなディテールに手を入れる。そうなるとトータル・バランスが崩れて一旦組み直しになる。そして、その繰り返し。
 遅々として進まないスケジュール、そして差し迫る締め切り。
 そんな生活は確実に人を蝕んでゆく。

 そういった轍を踏まぬようにしたのか、近年の岡村ちゃんの行動範囲はかなり広くなった。とは言っても、そのほとんどはスペシャ界隈かブロス関連、いずれも長い信頼関係に基づくメディアに限定されているのだけれど。
 これまでとは異ジャンルの人たちとも積極的に交流することによって、そのおかげなのか、人間としての幅も広く深くなった。表情から卑屈なねじれは消え、満面の笑顔とまでは行かないけど、少なくとも攻撃的な姿勢は消えた。
 ジャパニーズ・ファンクのフロンティア的存在のひとりだったため、若手からリスペクトされることは昔から多かったけど、かつてはどう接してよいのかわからなかったのか、どこかぎこちなさが見て取れた。
 それに引き換え、近年はどこか吹っ切れたのか、お声がかかれば積極的にコラボに顔を出しているし、むしろ若手に対して「好きにいじってくれ」とでも言いたげに、わざと不遜な態度を取ったりしている。そういったことが衒いもなく、自然に振る舞えるようになったのは、ひとつの人間的成長である。

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 そんなこんなもあって届けられたのが、このアルバム。
 確かに既発シングルの曲は多い。新たに書き下ろされたのは半分弱で、しかも最後の曲はあの”ぶーしゃかLOOP”だ。
 ほんとリリース直前まで収録曲が公開されず、ネット上でもありとあらゆる予想が出ていたけど、まぁ開けてみれば何となく思ってた通りの結果である。肩透かしに合った人もいただろうけど、ここは何事もなくリリースにこぎ着けることができたのを素直に喜びたい。
 なんとなく今後もこのパターン、不定期にリリースされたシングルを、頃合いを見てまとめるというスタイルが続くんじゃないかと思われるけど、岡村ちゃんが元気に歌い踊り、時々苦虫を噛み潰したような表情を見せるだけで充分だ。

 取り敢えずお帰り、岡村ちゃん。
 札幌に来たら顔を見に行くよ。もう決めた。


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1. できるだけ純情でいたい
 ミディアム・テンポのファンク・ナンバーからスタート。耳を惹くのは手数の多いベース・ライン。重心の低いサウンドに有機的なアコギを絡ませるのは、岡村ちゃんの数ある手法のひとつ。間奏のスパニッシュ風ソロ・ギターが無国籍・時代感を喪失させる。ここは21世紀?それともはるか未来のファンク・サウンド?いつの時代に持って行っても通用してしまう、岡村ちゃんサウンド。終盤のゴリゴリ・ベースとギター・カッティングの絡みはオーソドックスなファンクそのもの。でも、誰も今じゃやりたがらない。今どきこんな使い古されたサウンドでオリジナリティを出せるのは、岡村ちゃんだけだ。
 サウンドに合わせたのか、歌詞は終始ネガティヴなムードが漂っている。「会いたくて会いたくて震える」のはひと昔前の西野カナだけど、ここでは会いたくてもどかしく独りよがりな独身男が、身悶えながら想いを吐き出している。
 復帰一発目のオープニングとしてはめちゃめちゃ地味だけど、岡村ちゃんを長く見守り続けてきた長年のファンとしては、赤裸々なスタイルが逆に信頼できる。
 
2. 新時代思想
 2011年ごろからスタートした別プロジェクト、覆面DJユニット「OL Killer」の活動をフィードバックしたような、クラブ・サウンドに接近したナンバー。以前はエッセンス程度でしかなかったけど、それなりに力を入れているのか、各地でのライブ終了後のアフター・ショウでは盛況、とのこと。
 「世間じゃ戦争だ政治だ経済だとかいろいろ騒がれてるけど、僕はそんなのどうでもよくて、ほんとはただキミとイチャイチャしたいだけなんだっ」というのが90年代の岡村ちゃんのスタンスだったのだけど、あれから年月を経て、もうちょっと世間に目を向けるようになったのか…、と思ってたらやっぱ全然変わってなかった。結局は「ただイチャイチャしたいだけなんだっ」と言いたいことをまどろっこしく大掛かりな舞台装置を誂えて訴えたいだけなこと、それを50近くになってやってしまうところに、多くの男たちは希望を抱く。
 でも、勘違いするなよ、岡村ちゃんだからいいんであって、他のアラフォー男がやってもイタイだけだから。 

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3. ラブメッセージ
 映画「みんな!エスパーだよ!」主題歌としてリリースされたシングル。時期的にはもっとも近作。ちなみにオリコン最高23位をマーク。まぁ近年のシングル・チャートになんてほとんど意味はないけど。
 リリースされた頃は正直、岡村ちゃんのシングル・リリースもコンスタントになって来ていたので、若干食傷気味であまりちゃんと聴いてなかったのだけど、このアルバム・この曲順で聴いてみると、まったく違った表情。ちょっとだけ時代に遅れたダンス・ビートに乗って、ポジティヴなメッセージが歌われている。
 ブリッブリのベースもサビのコーラスもカッコイイのだけど、全体的に音が割れ気味なのがちょっと気になるのは俺だけ?もうちょっとミックスに配慮してほしかった。



4. 揺れるお年頃
 ほとんど岡村ちゃんのヴォーカルと叩きつけるようなアコギだけで成立しているナンバー。岡村ちゃんのサウンドを聴くたび、あぁアコギというのは弦楽器じゃなくって打楽器なのだな、といつも思う。
 90年代ならもっとファンキーに仕上げたアレンジになったと思われるけど、ここはメッセージ性を強く押し出し、敢えてシンプルなサウンドで勝負している。

 新しい靴を履いたら
 どんなスマイルでも なっちゃうもんさ Baby

 俺的にはこのクダりが気に入っている。

5. 愛はおしゃれじゃない
 2014年リリース、Base Ball Bearの小出祐介とのコラボレーション名義で発表された。打ち込みメインの四つ打ちビートにギター・リフが絡む、今風のバンド・サウンド仕様。俺的にはこのアルバムではベスト・トラックだし、正直、岡村ちゃんのこれまでの楽曲の中でもベスト5には確実に食い込んでくるほどの出来なんじゃないかと思ってる。
 多分、岡村ちゃん単独じゃなくって、小出君と組んだのがキーだったんじゃないかと思う。「かつての岡村ちゃん」サウンドを「学習」として知ってはいるけど、当然小出君は世代的に全盛期を知るはずもない。そんな小出君が昔の岡村ちゃんをシミュレートして、「岡村さん、ちょっとこんなのやってみてくださいよ」とか何とか言ってみて、「じゃあちょっとやってみっか」的に岡村ちゃんもその気になって昔のテンションでやってみた感が強く出ているのだ、悪い意味じゃなくって。
 「90年代の岡村ちゃんサウンドをそのままビルド・アップして、若手バンドのアップ・トゥ・デイトな息吹を吹き込んだモダン・サウンド」として創り上げられたのが、こういった成果として現れた。

 くちびるをつけてみたい 君のそのくちびる 今夜
 くちびるをつけてみたい

 春色 夏色 秋冬 君色々

 マスカラつけたなら僕も 君のように泣けるのだろうか
 君と同じ口紅つけたなら そのくちびるが 何味かわかるのかな

 50も近い男がこれを歌えてしまうのだから…、勘違いするなよ、岡村ちゃんだから許されるんだ。



6. ヘアー
 シングル”ラブメッセージ”のカップリングとしてリリース。復活後にリリースされたシングル・カップリングはどれもここには未収録だったので、これは多分お気に入りだったんじゃないかと思われる。
 結構なロック・テイストも強いファンク・チューンになってるけど、歌詞の詰め込み具合やサビのスタイルなんかに絶好調だった90年代初期の香りがする。特に「全身ヘアーが立つ クレイジーな気分」の譜割りなんて、ゾクッと来る。

7. ビバナミダ
 前作”はっきりもっと勇敢になって”から6年1か月ぶりに発売されたシングル。ここから復活に向けての歩みが始まった記念すべきシングル。この頃はもう、まず新譜が出たというだけで大騒ぎになっていたことを思い出す。
 打ち込み主体のダンス・ビートにアコギのかき鳴らしというのは復活以前にも基本フォーマットとなっていたけど、近年はさらにスラップ・ベースをかませて来るのがマイブームになっているらしい。ファンク・リズムのボトムがグッと下がることで、グルーヴ感が増すこと、単調なリズムにアクセントをつけるのも、ミュージシャンとしての勘がそうさせるのだろう。
 ちょっとチープなシンセがディスコ・テイストを強調しているのと、以前のシングルよりヴォーカルがオン・ミックスになっているのがポイント。

 いくら便利なれど 星は未知なもの
 だから電車を飛び降り 会いに行こう
 ミニ履く子 いつも気になるよ
 だから電話もかけずに 会いに行こう



8. 彼氏になって優しくなって
 復活後3枚目のシングルで、オリコン最高15位。まぁそれはどうでもいいか。
 これも実はシングルでリリースされた時はあんまり聴きこんでなかったのだけど、やはりアルバムのこの流れで聴いたら、メッチャカッコいいことに気づいてしまった。ていうか、気づくのが遅かった。
 岡村ちゃんのヴォーカルも全盛期並みに復活しているのももちろんだけど、バック・トラックはもしかして一番かもしれない。ベースとドラムの絡み、アコギの入り方、どれも特別な音色は使っていない。なのに、このグルーヴ感って何?なんでこんなファンキーなトラック作っちゃえるの?



9. ぶーしゃかLOOP
 もともとはオフィシャル・サイトのトップで流れていたループ・トラックをきちんとした形に編集したもの。うーん、シングル・カップリングならアリだと思うけど、このアルバムにはちょっとなぁ、という印象。特にこのアルバム、全9曲というコンパクトさだけど、もっと長尺で曲数が多い中でのブリッジ的な扱いなら活きたんじゃないかと思えるけど。それかアナログ盤で最後に『Sgt. Pepper’s』パターンで延々ループするとか。



 取り敢えずリリースしてくれただけで嬉しいのだけど、ファンの勝手な注文としてひとつ。
 やっぱりバラードが欲しいよね、しかもちょっとベタなやつ。
 “カルアミルク”や”イケナイコトカイ”クラスのスローバラードを聴きたいところ。
 ファンキーでダンサブルな岡村ちゃんもいいけど、メロウでドラマティックな岡村ちゃんもまた魅力のひとつなのだ。
 次回はその辺を期待したいところ。

岡村靖幸 結婚への道
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君には僕のこと、もっと知ってほしいんだっ - 岡村靖幸 『早熟』

51ovm8WqP2L キャラの性質上、どうしてもセックスの臭いが強すぎるだエロチックだと誤解されやすい岡村ちゃんだけど、できるだけ先入観を抜きにして、この初期のベスト・アルバムを聴いてみると、下ネタ関連のキーワードというのは、岡村ちゃんサウンドの構成要素としてはあくまで副次的なものであることがわかる。
 その本質はピュアな恋愛シチュエーションを軸としたものであり、当時所属していたソニーが編み出した青春系歌謡の延長線上に位置するものであることは、年季の入ったファンなら、結構知られていることなのだけど。

 そのソニーに所属していたキャンディーズや山口百恵あたりに端を発する、主にティーンエイジャーのプラトニック性を前面に押し出した70年代アイドル歌謡は、従来の職業作家だけでなく、当時のリアルタイムの洋楽サウンドをダイレクトに吸収した若手作家を積極的に起用したことによって、当時の流行歌のフォーマットを一新していった。筒美京平や穂口雄右などは、特に従来の歌謡曲の詞曲より、ひと捻りふた捻りも手をかけた作品を量産し、それに続く宇崎竜童と阿木陽子のタッグが大胆なロック・テイストを持ち込み、それまで大御所クリエイターの変わりばえしない楽曲しかなかった歌謡界に一石を投じる結果となった。
 ニュー・ミュージックやソウル/フュージョンのテイストをも吸収して、次第に洋楽のクオリティに近づきつつあったアイドル歌謡なのだけど、ここで一旦、ピンク・レディーの登場によって、今度は全世界を席捲したディスコ・サウンドが台頭して、いわゆるソニー系アイドルは一時撤退を余儀なくされる。

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 で、国内での人気の勢いを借りて、ピンク・レディーがアメリカ進出、その空白期間が仇となって人気は急落、その空席に割り込むように攻勢をかけてきたのが、80年代アイドルのデビュー・ラッシュ。同時期にデビューした河合奈保子や柏原芳恵は、後に路線変更はあったけど、デビュー当初は従来の歌謡曲の延長線上だったのに対し、ソニーの松田聖子は作詞家松本隆のバックアップによって、自らのコネクション、はっぴいえんどやキャラメル・ママの人脈を駆使して、他のアイドルよりもクオリティの高い楽曲を提供、その後のソニー系アイドルの方向性を決定づけた。

 大滝詠一やユーミンなど、当時キャリアのピークに達していたニュー・ミュージック/シティ・ポップ系統の作曲家を積極的に起用したことが松田聖子の躍進につながったのはもちろんだけど、プロジェクト責任者として、イメージ戦略やアーティスティックな方向性を統括していた松本隆の功績は、計り知れないものがある。
 軽薄短小という言葉に象徴されるように、80年代初頭という時代は、70年代の虚無感から脱してライト・メロウに傾きつつあったので、阿久悠のような、ダイナミックかつ直情的な歌詞よりも、詩情あふれてちょっと言葉足らずな、行間に意味を持たせる松本隆の方が時代にはフィットしていたわけで。

 自分でも明言してるけど、初期の岡村ちゃんのサウンドは、松田聖子の一連の作品からの影響が強い。
 それはデビュー前、渡辺美里のブレーンとして活躍していた時期にまで遡るけど、基本、上昇系のコード進行でテンションを上げてゆくメロディに乗せて、仲よく手をつないでウィンドウ・ショッピングを楽しむ二人、そしていつまで経ってもそれ以上の関係になかなか進めないもどかしさとヒリヒリした痛がゆさとが相まった歌詞世界は、当時はまだ多勢を占めていた童貞処女のティーンエイジャーたちの妄想を、それはもうソフトに刺激していった。
 80年代初頭の普通の少年少女にとって、異性とのコミュニケーションはもっぱら夜の家(いえ)電か、授業中の手紙のやり取りが主だった時代、ケータイほどの簡便さがなかった分、彼らの歩みはひどくゆっくりだけど、時間をかけて濃密になっていったのだった。

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 で、本格的にデビューしてからの岡村ちゃん、裏方としての実績は十分積んでいたのだけど、思ったほどのセールスは得られなかった。
 これまでに培ったソニー系青春歌謡のシチュエーションはそのまま残し、美里向けに女性目線だった歌詞を男性目線に置き換えて表現してみたのだけど、このジャンルには松岡英明や大江千里という、同系列のアーティストが同じソニー・グループに所属していたため、既に実績のある彼らとの差別化を図ることは困難だった。ソニー内の岡村ちゃんセクションとしては、同系列のアーティストをひとまとめにして、互いの相乗効果を期待する戦略だったのだろうけど、このジャンルにおいては大江千里が一強過ぎたため、抜きん出ることは至難の技だった。

 岡村ちゃんからすれば、自身がメインのレコーディング作業は初めてだったため、取り敢えずプロデューサーさんにお任せせざるを得なかったのだろうけど、多分自分なりに試してみたかったこともあったはず。でも、のっけから自己主張を強く押し出すのもなんだし、一応言われた通りの作業を行なってみたけど、あまり自分の持ち味が活かされてなかったことを悔いていたんじゃないかと思う。
 -じゃあどうする?

 ということで、デビュー・アルバム『Yellow』がなんとも微妙な成績に終わり、それを受けた結果、岡村ちゃんが選んだのは、当時としては極端なほどのDIYスピリット。可能な限り、自分の作品は自分で作り込むことを決めた。
 取り敢えず、ポピュラー音楽を構成する上で必要最低限である、ギター・ベース・ドラム・キーボードの演奏はこなすことができた。もちろん、それを人に聴かせられるレベルに持ってくまでは努力したのだろうけど、でもなんとか自分の思い描くビジョンを具現化できるくらいにまでは上達した。
 初のセルフ・プロデュースによって岡村ちゃんが作ったセカンド・アルバム『DATE』は、これまでのソニー系アイドル歌謡を踏襲した覚えやすいメロディーはそのままに、そこにプラスしたのが、当時リスペクトしていたPrinceのエッセンス、ファンクのリズムとビートを強調したサウンドだった。
 で、最大の変化というのが、歌詞の世界観。
 これまでの岡村ちゃん的青春の1ページ、プラトニックなままの「友達以上恋人未満状態」で満足してます的にスカすのではなく、そのもっと先、「君とイチャイチャしたいんだっ」という欲望を、もっとストレートに出すようにした。これまでのうすら寒いハニカミ笑い的態度ではなく、もっと肉体と本能とが直結した、妄想とミックスされて熟成した想いをダイレクトに伝えることによって、インパクトの強いサウンドとの相乗効果が生まれた。

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 そうやってできあがったのが、岡村ちゃんの熱情が100パーセント詰まった濃厚エキス。歌うのは岡村ちゃんで、演奏するのも岡村ちゃん、曲も歌詞もアレンジも、何から何まですべてが岡村ちゃんワールドとなり、そのむせ返るような体臭やら滴り落ちる体液は、まだ一部ではあるけれど、熱狂的なファンを惹きつけた。

 ある意味、退路を絶って自らを崖っぷち状態に追い込んだことによって、ところどころ未整理な部分もあったけど、『DATE』には、妙に人を惹きつけるパッションで溢れていた。ソニー系のある意味弱点でもある、ドンシャリ感の強いサウンドと、眩しいくらいにポジティブ色の強い青春応援歌的な歌詞から脱脚して、サウンドのボトムは太くなり、「なんか小難しかったりスカしたことばっか言っちゃったけど、ほんとはただ女の子にモテたいだけなんだよねベイベェ」と素直に言えるようになった。
 で、その岡村ちゃん流ファンク・サウンドの最初のピークに達したのが"聖書 "であり、またそこから一巡して、再びまっ正面からメロディの強い歌謡ポップに取り組んだ末、完成形を見たのが"だいすき"である。
 曲調としては両極端なのだけど、どちらも岡村ちゃんのやりたかったことであり、赤裸々に欲望を吐露したメッセージそのものである。

 で、この『早熟』、デビューからのまとめとして、旧作またリ・アレンジ、リミックス・ヴァージョン満載の大サービス作となっているのだけど、それと共に、独自で練り上げた分裂型ファンク・サウンドに乗せて、ほとんど無内容な歌詞、ていうかほとんどその場で思いついたかのようなキーワードを羅列した傑作"Peach Time"を新機軸として打ち出している。プレ『家庭教師』ともいうべきそのサウンドは、これまでとは段違いに情報量が多く、これだけでもアルバム一枚分の熱量が真空パックされている。
 単なるベスト・アルバムと侮ってはいけない。
『早熟』とは、岡村ちゃんの今後の流れを決定づけた、キャリアの中でも結構重要な位置を占めるアルバムである。


早熟
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岡村靖幸
ソニー・ミュージックダイレクト (2012-02-15)
売り上げランキング: 5,998




1. Peach Time
 『早熟』リリースに先立ちシングル・カットされた、このアルバム唯一の新曲。オリコンでは最高31位と地味なアクションだったけど、オープニングとしては最高の選曲。
 とにかくやりたい放題のサウンド。もうほんとにやりたいことが多すぎて、出したい音を詰め込みまくった印象。でも、そんなカオスな状態こそが岡村ちゃんワールド。
ところどころPrince、特に同時代である『Black Album』~『Lovesexy』あたりの影響がモロに出てるサウンドは、今にして思えばコピーそのまんまなのだけど、当時、日本のミュージシャンで、しかもほぼ独力でこのサウンドを創り出せる者はいなかった。
前述したように、「とにかくナンパをしようぜされようぜベイベェ」という歌詞世界は、あまり深読みする必要はない。そのまんまを素直に受け止めればよいのだ。

 「なんで僕らが生まれたのか ゼッタイ きっと 女の子なら知ってる」

 なのに、こんな意味深な言葉を平気でぶっ込んでくるのが、岡村ちゃんなのだ。



2. Dog Days
 1987年にリリースされた4枚目のシングル。オリジナル・アルバムには未収録なので、ここで初めて存在を知った人も多かった。まだ爽やか路線の名残りがあった頃で、強気な女の子に恋い焦がれているのに勇気を出せず、結局言えずじまいになっちゃった、というソニー系青春のフォーマット通りの歌詞は、どこかこそばゆくなってしまう。
 ちなみに1フレーズだけヴォーカルを取っているのは、PSY・Sのチャカ。特徴ある声質なので、すぐわかっちゃうよな。

3. Lion Heart (Hollywood Version)
 『DATE』収録曲のゴージャス・アレンジ・ヴァージョン。オリジナルはまるで久保田利信のバラードのようなアレンジだったのだけど、ハリウッドにふさわしく、荘厳としたストリングスを大々的にフィーチャーしている。
 確かにここでの岡村ちゃん、大きなステージと朗々と熱唱するように堂々としている。対して『DATE』での岡村ちゃんは、まだ充分自分のなかで消化しきれていないのか、時折自信なさげな、どこか歌いこなせてない雰囲気が漂う。
 ただこの曲、当時の岡村ちゃん的いくじなしな男の情けなさがテーマなので、ある意味、こうした未完成なサウンドも、味があって良い。ま、好みだけど、

4. だいすき
 恐らく岡村ちゃんの曲の中では、最も知名度の高い曲。多分、ここからファンになった人も多い。車のCMに起用されただけあって、良い意味で万人向けのポップ・ナンバー。
ファン歴も長くなると、ヒットした曲や有名曲などは避けられる傾向にあるけど、年季の入ったファンの中でも人気は相当高い。セルフ・カバー・シリーズ『エチケット・ピンク/パープル』において、どちらにも収録されているくらいだから、岡村ちゃん・ファン共に愛されている楽曲である。

 「ねぇ3週間 ハネムーンのフリをして 旅に出よう
 もう劣等感 ぶっ飛んじゃうくらいに 熱い口づけ」
  
 こんなぶっ飛んだ歌詞をメロディに乗せて、それでカッコよく歌い切れるのが、アーティストとして最初のピークを迎えていた岡村ちゃんならでは。いやほんと、ここの部分、歌ってると気持ちいいんだもの。

 終盤、アウトロに乗せて子供のコーラスと共に歌われる謎の言葉、「ヘポタイヤ」
 意味なんてない、多分。
 ただ何となく楽しくなる、ウキウキする言葉。それが「ヘポタイヤ」



5. Out of Blue
 記念すべきデビュー・シングルにして、しかも『Yellow』のトップを飾るリード・ナンバー。なのに、なんか地味なのはナゼ?
全編を彩るアコギのかき鳴らしはちょっとカッコいいけど、まぁ若手アーティストの普通の楽曲であって、まだ岡村ちゃんらしさはそれほどではない。歌詞も変にカッコつけてるというのか、横文字多用でスカしてるし。
 まぁ『Yellow』というアルバム全体がこういったコンセプトだったので、仕方ないか。

6. いじわる
 この曲はずっとシングル発売されてるものだと思ってたのだけど、調べてみると当時は『DATE』にのみ収録のナンバーだった。それくらい、インパクトの強い曲なのだ。
 セルフ・プロデュースでハジけた岡村ちゃんが、当時めちゃめちゃリスペクトしていたPrinceのサウンドをほぼそっくりコピーして創りあげたこの楽曲、とにかくサウンドの攻撃力がハンパない。ストレートなエロさを前面に押し出したファンク・サウンドからインスパイアされた歌詞は、これまでのスカした半笑い男ではなく、妄想がこじれてこじれてこじれまくった挙句、今で言うストーカー的視点を手に入れた。
 嘗めるように見つめまくる視線、偏執狂的にユカのディティールを丹念に活写する岡村ちゃん。ユカの一挙一動に過敏に反応し、気が狂いそうになるのを必死で抑える岡村ちゃん。
 ユカとは誰だ?それは誰の心の中にも少なからず残っている、妄想の中の彼女(彼氏)のはずだ。
 「君がどのくらいエッチな女の子だか知ってるよ…」から始まる、終盤のモノローグ。その最後のダイレクトな言葉は、きっとユカの耳に届きはしない。岡村ちゃんも、そんなことはわかっている。でも、この言葉を言いたいがため、このトラックを完璧に構築したのだ。じゃないと、この曲はまったくの無価値になってしまう。

7. イケナイコトカイ
 リリースされた当時から名曲認定された、岡村ちゃん初期の名作バラード。
 『DATE』が岡村ちゃんエキス100%注入の渾身作であり、女の子への妄想力のピークが6.で表現されていたけど、こちらは同じ『DATE』収録曲ながら、もう一つの側面である、ピュアな恋心をうまく切り取った作品に仕上がっている。
 流麗なストリングスを効果的に使ったアレンジは、舞台装置としてうまく機能しており、強く感情移入しながらステージで熱唱する岡村ちゃんをイメージできる。

 「風に尋ねてるんだ ねぇドン・ファン 空しいことなのか」

 字面で見ると、相変わらずスカした歌詞のように思えるけど、この曲での岡村ちゃんはピュアな男の子になりきっており、月夜の下、膝を抱えながら空を見上げるシルエットが思い浮かんじゃうのだ。



8. Vegetable
 オリジナルは『靖幸』、後にシングル・カットされた12.のB面に収録された。
 ちょうど『靖幸』リリース当時のことだけど、『ミュートマJAPAN』などの音楽番組で、この曲のPVがやたらヘビロテされていたため、記憶に残ってる人も少なからずいるはず。ていうか、これがA面だと思ってたけど、違うんかい。
 この頃の岡村ちゃんの好みだったのか、アコギのストロークが多用されており、カントリー・スタイルのロカビリーを高速で演奏したような印象。同時に、この頃のアップ・テンポ系のナンバーに共通するように、歌詞もほぼ無内容。なんだよ愛犬ルーって、「持ち帰りのジャンク・フードとパック入りのウーロン茶 冗談じゃない」…。
 こうやって書いてると、なんだかバカらしくなってきた。
 意味なんてない、楽しけりゃいいじゃん、「ていうか、俺が楽しいんだから、みんなも楽しいじゃん?」

9. 聖書
 この曲はいくつかヴァージョンがあり、圧倒的にここでのリミックス・ヴァージョンが人気があるのだけど、まぁ俺も同感。俺はこのアルバムが岡村ちゃんデビューであり、シングル・ヴァージョンについては後追いだったため、どうしても最初に聴いたヴァージョンに思い入れが強い。
 岡村ちゃんサウンドの一つの到達点であり、他の収録曲と比べても、詞曲・アレンジ・ヴォーカルともクオリティが段違い。一応ライトなファンクがベースとなっているのだけれど、西城秀樹を思い出させるオープニングのモノローグ、時々挿入されるピッコロ・トランペットの間の抜けた音色、ここで初登場の「ぶーしゃか」コーラス、うねるりまくるベース・ライン、ファンク直系のギター・カッティング。こうして羅列してみるとメチャメチャな組み合わせだけど、それらがこの一曲の中にすべてぶち込まれ、そしてなぜか奇跡的に融合し合って見事な調和を創り出している。
 
 「Baby なんか強引ですが今 
  ティーンエイジャーのあなたが
  なんで35の中年と恋してる 
  学校じゃもちきりだよ そのことで」

 俺だけに限らず、世の中の岡村ちゃんファンの男性はみな、35になると中年呼ばわりされること、そしてまだ若い女の子と恋愛できることを妄想した。
 妄想したあげく、35になってオジサン扱いはされたけど、若い子と付き合う機会は訪れなかった。そんなもんだよね。



10. Shining(君がスキだよ)
 シングル”Dog Days“のB面曲。これがアルバム初収録。
 実はあまり書くことがない。岡村ちゃんの楽曲だけど、なんかヴォーカルを取ってるだけで、それほど印象に残る曲ではない。
 美里あたりが歌ったら元気な応援歌的ムードになって盛り上がるのかもしれないけど、濃いテイストの楽曲が多いこのアルバムの中では、どうしても埋もれてしまう。

11. Young Oh!Oh!
 個人的に『Yellow』収録曲の中では、最もお気に入りのナンバー。どこかSwing Out Sister的アレンジが時代を感じさせるけど、速いテンポの中でメロディにメリハリがあるため、自然と気分が高揚してくるのが、この時期の中では気に入っている。
 キャッチーなナンバーゆえ、シングル・カットされたのも納得できる。けど、そんなに売れなかったけどね。
 まぁそんなうまくはいかないか。

12. 友人のふり
 サウンド的には2.と同じテイストの、ゴージャス感あふれるストリングス満載のバラード。ここでの岡村ちゃん、あまりギミックは用いずに、優柔不断で意気地なしな男の子を、素のままに演じている。なのに、卑屈にならないのは、やはりヴォーカルの基礎体力の強さ、そして女の子へのピュアな下心である。

13. Peach Time(修学旅行MIX)




 復活後はなんやかやで結構忙しく働いており、ファンの間では、そろそろアルバム・リリースも間近か?とも囁かれているけど、なかなか納得できるレベルの作品が少ないのか、相変わらず断続的なライブ・ツアーの情報しか入って来ないのが、今のところの現状。
 ここまで引っぱっているのだから、こうなれば変に妥協したりせず、納得ゆくまでじっくり仕上げてほしいものである。
 なので岡村ちゃん、間違いは起こさないでね。
 それが全国の岡村ちゃんファン共通の願いである。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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