#Vocal

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

凛とした雰囲気の女は、怒らせると怖い - Sade 『Stronger Than Pride』

folder フッフッフッ、ここ1か月近く、ポケモンgoばっかりやってて更新できなかった。何やってんだ、もうすぐ47歳の俺。

 1987年リリース、3年ぶり3枚目のアルバム。もともとは80年代中盤のUKアーバンR&Bの流れから登場してきた人で、ミステリアスなアーティスト・イメージが功を奏し、当初から妙な大物感を醸し出していた印象がある。デビュー曲の「Your Love Is King」からUK最高6位に入るヒットとなったため、低迷期や下積み時期のイメージがあまりない。逆に言えば、コンディションが基準値に達するまでは活動しない、というスタンスを最初から貫いているんじゃないかと思われる。究極のマイペースだよな、これって。
 普通のアーティスト、またはエージェントなら、売り出し時期にはとにかくやたらめったらメディア露出を徹底させるものだけど、そこを最小限に抑えた戦略は最大限の効果を発揮した結果となっている。まぁ、「バラエティでMCに絡まれれて言葉に詰まるSade」というのも見てみたい気もするけど、絶対受けないよな、そんなオファー。

 いわゆるSadeサウンドもすっかり定着した時期にリリースされた3枚目『Stronger Than Pride』、欧米ではUK3位US7位、また全世界的にもサウンド・クオリティの高さが評価され、好成績を記録した。
 80年代中盤の日本のミュージック・シーンでは、欧米のトレンドが結構そのままダイレクトに反映された時代だったので、こんな高尚で洗練された、言ってしまえば地味なアルバムにもかかわらず、オリコン・チャートでも最高8位にランク・インしている。少なくとも彼女のアルバムが日本で実売10万枚くらいは売れていたという、今となっては考えられない時代である。Stingだって売れてたもの。
 この年のアルバム年間チャートを見てみると、洋楽部門ではMichael Jacksonの『Bad』とWhitney Houstonが圧勝しているのだけど、前年と比べると変化が生じているのがわかる。70年代ヒッピー文化と袂を分かった邦楽ロックの洗練化、それに伴う国内音楽ビジネス基盤の整備によって、洋楽/邦楽のパワー・バランスが2:8くらいになっちゃっている。これ以前は3.5:6.5くらいだったのに。
 70年代の残り香が薄くなったと共に海外アーティストへの憧れが少なくなり、入れ替わりに台頭してきた国内アーティストのレベルが高くなってきたのが、この辺から。バンドブーム前夜ということもあって、邦楽ロック界隈が騒がしくなっていたし。
 それと、80年代前半の一世を風靡したWham!やCulture Clubなど、お茶の間でも受け入れられるキャラクターが少なくなっちゃったのも要因。欧米シーンがダンスビートに傾倒しつつあったため、日本人好みのメロディアスな曲も減っていった。

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 で、そんなお茶の間系とはまったく別のベクトルを持つSadeが日本で受け入れられたのは、R&Bと親和性の高いシャレオツ系界隈、業界人向けのスポットが中心だった。
 世間はバブルの真っただ中、代官山六本木西麻布方面が勢いづいており、トレンディな情報発信の拠点となっていた。カフェ・バー/プール・バー文化の隆盛に伴って、ソフィスティケートされた空間にフィットするBGMへのニーズが高まりつつあった頃である。
 その流れでごくごく一部で流行っていたのが「環境音楽」。今で言うアンビエントのハシリで、Penguin Cafe OrchestraやVangelis、遡れば大御所John Cageなど、ちなみに言い出しっぺはBrian Eno。シンセのロング・トーンを流しっぱなしにして、リズムもメロディも何もない、ほんと純粋に単音の響きを楽しむ(?)雰囲気音楽。その後もニューエイジやらアンビエントやら、名前を変えて細々と生き残っているのは、音楽に癒しを求めるニーズがそれだけ多いということ。ニーズを創り出すということに関しては、ほんと天才だと思う、Enoって。こういったインテリっぽい大風呂敷が広がる時って、昔はだいたいこの人が一枚噛んでいた。
 「Enoが絡んできた途端、そのジャンルはうさん臭くなる」というのが俺説なのだけど、そんなEnoを受け入れる度量が充分あったのが、当時の欧米ロック/ポップス・シーンであった、という見方もできる。忘れられない程度に不定期なメディア露出を行ないながら、基本、地味なポジションである今のEnoがどんな音を奏でているのかは不明だけど、少なくともこの時代、Enoに限らず80年代の音楽は、DTMも発展途上だった分、マン・パワー中心できちんと手間をかけて作られている。

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 『Sade』というクレジットがソロ・アーティストではなく、「ヴォーカリストSade Aduを中心とした4人バンドの総称」であることを知る人は少ない。俺だって、つい最近まで知らなかった。だってジャケットに写ってるのって、全部彼女だけじゃん。
 フロントマン以外のメンバー露出が少ないバンドということで、日本で言えばZARDに似た編成なのだけど、そのZARDが当初フワッとしたバンド・スタイルだったのが、後期は事実上個人プロジェクトと化してしまったのに対し、Sadeはデビュー以来、メンバー編成は不動である。なので、例えとしてはちょっと適切ではない。
 バンドという概念が有名無実化していったZARDに対し、SadeはAduの休養期間を利用して、Sweetback名義でアルバムもリリースしている。どっちが偉いというわけではない。バンドの運営方針の違いなのだけど。経営的に見れば、フレキシブルな編成のZARDの方が収益性は高いのかな。
 ちなみに、坂井泉水以外のZARDの正式メンバーを知ってる人が、一体日本似にどれだけいるのだろうか。wikiで調べてみると、歴代で4人いた。まぁどうでもいい話。

 いちいちZARDと比べる必要はないのだけど、共通しているのはフロントマンの情報の少なさ。オフィシャル・サイトを見ても、よく言えば洗練された今風デザインではあるけれど、その実、大した情報は書かれてない。何しろ最終更新データが2年前だし。wikiもディスコグラフィと授賞歴くらいで、それほど詳しい情報は公開されていない。
 ナイジェリア人の父と英国人の母を持ち、ファッション関係の仕事の傍らラテン・バンドのヴォーカルとしてステージに立っていたところをスカウトされ、メジャー・デビュー。結婚・離婚を経て新パートナーとジャマイカへ移住、そこで長女をもうける―。
 3行でわかるSadeの生涯である。いやそりゃもっと波乱万丈あるんだろうけど、わかってるのはこのくらい。誰かわかる人いたら教えて。

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 何年かに一度、Aduのヴォーカルをメインとしたジャズ風味のR&Bサウンドを提示するSade。30年前のデビュー作も近作も、ほとんど遜色ないクオリティであり、時代性を感じさせない作りではある。あるのだけれど、まったく世間のトレンドを無視してるわけでもなく、Aduの研ぎ澄まされた感性を軸として、時代から浮き過ぎないよう巧妙にアップデートされている。
 安定したハイ・クオリティの作品を、じっくり熟成させた上でリリース、それに伴うツアーを行なうと、再び沈黙。特にAduは再びジャマイカへ引きこもる。
 ほんとごくたまにインタビューを受けることもあるけれど、それもほんの限られたメディアだけ、アーティスト以外の側面はほぼ謎に包まれている。
 デビューして30年も経っているのだから、何かしらセレブっぽい振る舞いやスキャンダルのひとつもありそうなものだけど、そんな話も聞かない。パーティやイベント、アウォード関係に出席したという話も聞いたことがない。プライベートのHelen Folasade Aduだけじゃなく、アーティストSade Aduでさえ、我々にとって、フィクションの存在なのだ。

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 Adu以外のSweetbackの3人はバンドマンらしく饒舌なため、ごくたまに行なわれるインタビューにおいて、ほんの少しではあるけれど彼女の普段の姿を明かしている。
 ナイジェリア育ちの彼女は、我々とは違う時間軸に沿って過ごしている、とのこと。その透徹とした風貌からして、やたらきっちりシステマティックでクールな印象が強いように思われるけど、恐ろしく時間にルーズであることが伝えられている。とは言っても、彼女にとってそれはごく自然の感覚であって、西洋の習慣に慣れた我々がどうこう言うことではない。
 音楽から離れた彼女は一介の母であり、ちょっとハイソサエティな主婦でしかない。普段は家事に勤しみ子育てに奮闘し、たまにママ友とのランチに興じるといった、ごく普通の主婦としての人生を歩んでいる。アーティストSadeであることは、彼女にとってはごく自然なことではあるけれど、主婦Sadeもまた同列の存在である。
 彼女の中で、ジャマイカ的日常を生きることとアーティスト活動との線引きは、あまり意味がないものである。だって、それはどちらも等価のものだから。何年かに一度、彼女の中のアーティストSadeの機運が高まった頃、どこか突然スイッチが入り、主婦モードから創作モードへ突入する。
 ただそのスイッチは、いつ何のきっかけで起こるのか。
 それは誰にもわからない。周囲のスタッフも、そして我々リスナーもまた、その岩戸が開かれるのを、ただじっと待つほかない。
 彼女の中ではほんの一瞬も10年も同じこと、すべては彼女の時間軸に沿って行なわれているのだ。

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 彼女の曲を聴くと、いつも南国の孤島を夢想する。
 文明と隔絶された南海の孤島、何百年もの間、他者の介在を拒んで内部完結してきた集落。あるものはいつもそこにあり、ないものはいつまでもない。白か黒かはっきりして、とてもシンプルだ。
 誰が「女王」と呼んだのか、そもそもなぜ「女王」なのか。その答えは誰もわからない。
 彼女はいつの間に「そこ」にいて、すでに女王だった。それを誰も疑うこともなく、さりとて特別崇め奉ることもなかった。彼女はただ、「そこ」にいるだけの存在だった。
 集落から少し離れた磯の岩場、奥まった洞窟に居を構える女王は、滅多にその姿を人に見せることはない。集落の民もまた、そんな女王を遠巻きに見守っている。
 月に一度、彼女は民の前に姿をあらわし、そして歌う。潮は満ち、風も止まる満月の夜。
 自分の掌も見えぬほどの漆黒が降りた帳を切り裂くが如く、強烈な月の光は島の暗部を露わに照らし出す。夜も更けて、いつもなら獲物を求めてそぞろ歩くはずの獣たちも、満月の夜だけは物音ひとつ立てない。
 月に一度、その日だけはじっと息を殺し、彼女の歌に耳を傾ける。
 月に一度、産み落とされた新しい歌を。
 誰かのために歌うのではない。自分のため、また大海原のためにでもない。
 それはただ、シャーマンである女王によって産み落とされたものなのだ。それはもはや女王の意思によるものでさえない、ただ歌自体の強いエゴによって世に出てきたものなのだ。
 誰のためにでもない。でも、人間にも獣にも、そして大自然さえも強く惹きつけられてしまう力を、その歌たちは持っている。

 -どこ知れぬ孤島を想いながら、真夏の昼下がり、Sadeを聴く俺。
 夏の終わりも近い。


Stronger Than Pride
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Sade
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1. Love Is Stronger Than Pride
 アルバムのリード・シングルとしてリリースされ、UK44位。孤島の暗黒を思わせる、静かで力強い、求心力がハンパないバラード。バラードというよりもむしろ、Sadeオリジナルのサウンドがここにある。エスニックなリズムは密林の獣らを蹂躙し、コード感の希薄なメロディは、群衆を不安の淵へと誘う。
 心地よいけど、どこか不安定。そんな楽曲。



2. Paradise
 第2弾シングルカットとして、UK29位US16位と、このアルバムの中では最もポピュラーなナンバー。
 機能的かつ肉感的なダンス・ビートは、Aduのヴォーカルにぴったり寄り添っている。普通、こういった構造の楽曲だとリズムが立ち、ビート主導で曲が展開するのだけど、ここでは完全にAduがリズム隊をねじ伏せている。彼女の歌の前に、80年代ゲートエコーのドラムは添え物でしかない。



3. Nothing Can Come Between Us
 UK92位にようやくチャートインしたシングル第3弾。いつもよりトーンが少し高め、ハスキーなヴォーカライズはボサノヴァとシャンソンのハイブリット的展開。俺的にSadeの曲に合うシチュエーションとは、アーバン・テイストなナイトライフではなく、もっと生活感のある、日射しの強い炎天下の木陰、スッと涼風が差し込む瞬間にアイスコーヒーを飲んでいる時なのだけど、これって変わってるのだろうか?

4. Haunt Me
 アコギのアルペジオを主体とした、シャンソンのフォーマットを使用したナンバー。あらゆるサウンド・フォーマットを借用しながらも、どうしたって結局Sadeになってしまうのは、それだけアーティストとしての個性が際立っているから。もっと我が強くてフェミニストだったら、Annie Lennoxみたいになってたかもしれない。

5. Turn My Back On You
 ほぼベースが主役の、ほぼリズムだけで構成されたナンバー。サンプリング処理されたSadeのヴォーカルも、ここではエフェクトの一部でしかない。ないのだけれど、そこはやっぱりSade。わかりやすいキャラクターだ。

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6. Keep Looking
 LPで言うとここからアルバムB面に突入。個々からはシングルカットもなく、良質だけど地味なナンバーのオンパレードとなっている。いるのだけれど、余計なフックも下世話な泣きのメロディもなく、至ってサウンドの妙を堪能できる。
 コード・ワークもしっかりしているので、何分何時間続いても聴き続けることができる、バンドのコンディションが良好であることが感じ取れる良作。こういったナンバーを聴くと、Sadeというのがフロントマン一枚岩のバンドではないことがわかる。

7. Clean Heart
 ちょっと甘めなEverything But the Girlのようなミドル・チューン。ギターの軽快なカッティングとミュートが控えめなリズムを演出し、透徹とした世界観を崩さずにアクセントを添えている。

8. Give It Up
 ラテン・テイストのパーカッションの響きが軽妙で、これまでよりシリアスなAduのヴォーカルが絶妙なコントラスト。静かなテイストながらも、ベース・ラインはもろどファンクのルートである。だから疾走感が落ちないんだな。

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9. I Never Thought I'd See The Day
 「遊びでDX7で作っちゃいました」的なシンセ丸出しのサウンドは、どこかギクシャクしている。Sadeにはやはり生音が良く似合う。もう少し後の年代になると、デジタル機材を適度に使いこないしているのだけれど、やっぱり過渡期だな、これって。雰囲気で埋めてる感が強いので、この辺になるともう飛ばして聴いている。

10. Siempre Hay Esperanza
 ラストはSweetbackらによるエピローグ的インスト・ナンバー。ドラムの音がやっぱり時代を感じてしまって、素直に入り込みづらい。サックスが入ると、途端にTVドラマのサントラっぽいテイストになってしまうのはご愛嬌。




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心臓を鷲掴みする声、最後の歌たち - Amy Winehouse 『Lioness Hidden Treasures』

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 2011年リリース、生涯で2枚のオリジナル・アルバムしか残せなかったAmy Winehouse、死後に出された追悼アルバム。多分、これからも何年かごとに発掘音源がまとめられるのだろうけど、とりあえず最初のお蔵出し。デビュー前の音源から最後のTonyとのデュエットまで、敢えて時系列はバラバラに構成されている。もともと活動期間自体が短いので、その辺の違和感はほとんどない。
 データだけ見ると寄せ集め感満載であり、アルバムの性質上、統一されたコンセプトはないのだけど、彼女の個性的なヴォーカルによって不思議と統一感が生まれ、サウンドのニュアンスの違いはほとんど気にならない。
 
 とにかく突っ込みどころの多い女である。絵にかいたようなアバズレというか、あまりにも類型的なビッチっぽいルックスのため、どうしてもパパラッチの餌食になりやすい女でもある。なのに、そんな自分を曲げようともしない。もう少し、品行方正とまでは行かないにしても、うまい魅せ方ややり方だってあったはずだし、多分周囲のスタッフも口を酸っぱくして身辺に気を付けるよう助言していたはずだけど、最後まで変わることはなかった。
 年中スピリタスとシガーとを交互にせわしなく口に運び、朦朧とした意識のままステージに上がってマイクを握る。ステージ前はあれだけボロボロだったのに、歌が始まった途端、誰もが虜になる。何だこれ、聴いたこともない。でもスゴイ。ステージでは特別なパフォーマンスはない。今どきの女性シンガーなら複雑なダンスや振り付けも当たり前だけど、彼女はただ歌うだけ。たまに体を揺らしてステップらしきものを踏むこともあるけど、振りというほどのものではない。ていうか、歌だけで充分観衆の視線を釘付けにできる。そんな自信に満ちあふれたパフォーマンスだ。オフステージではあれほど破天荒な所業を繰り広げたというのに、ステージ上では真摯に歌うことに全霊を傾けていた。そう、末期をのぞいては。

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 デビュー前後はメジャー・シーン進出にあたって、多少は畏まった部分もあった。今ではトップ・プロデューサーのMark Ronson主導で作られたトラック、それはちょっとダルだけど基本はヒット・パターンに則った、今どきのヒット・ソングだった。実際ヒットもしたし、おかげでAmyのキャラも浸透した。
 いい事ばかりあるわけじゃない。自分ではごく普通のつもりなのに、どこか人に映る印象は違う。自分はただ、かつてのBilly Holidayみたいに歌いたいだけなのに、注目されるのはビッチなファッションとビッグ・マウス。レーベルの戦略上、そういった自分を演じていた部分もあったけど、見てもらいたいのはそこじゃないのに。
 増大するセールス、それに伴って激増するプレッシャー。そして、日に日に増えゆくアルコールと紫煙。一時のストレス発散や安息に、それらは最適だ。だけど、確実に躰を蝕んでゆく。少しずつではあるけれど、パフォーマンスにズレが生じてくる。
 最初、それはごくわずかなものだ。大して気に留めるほどじゃない、自覚できてるうちは修正だって簡単だ、大丈夫、私はできる
 しかし、ズレは次第に多くなってゆく。でも次の日にはすぐ軌道修正できた。そんな深刻に受け止めなくたっていい。ていうかオーディエンスも予想外のハプニングは大歓迎だ、サプライズとして受け止めてくれる。そう、まだ私はできる
 さらにズレは大きくなる。しかもそのズレ幅は、もはや自分ではどうにもならないくらい大きくなる。最初はまっすぐだった線も、次第に蛇行してゆく。ここまでゆくと、ステージ上のサプライズは日常的になる。平穏な日常と突発的なサプライズとは相反するものであり、ただでさえ奔放だったライブ・パフォーマンスは次第に予測不可能となる。
 進行を無視したパフォーマンス、ロレツの回らない意味不明なMC、そしてバック・バンドから乖離してゆくヴォーカル―。
 終いには、歌が歌でなくなる。リズムは走るかヨタるもの、スキャットは歌詞を忘れたのを誤魔化すため、世界中のオーディエンスを魅了したハスキー・ヴォイスは、アルコールと不摂生のおかげですっかり焼け爛れてしまった。
 それでも観客のため契約消化のため、そしてかつての自分を取り戻すため、何とかステージを最後まで勤めようとする。深刻な体調不良の中、無理やり上げたテンションが続くはずもなく、結局はライブを中断、最期にはステージへ上がることすらできなくなった。死後1か月前、セルビアの野外コンサートが、彼女が公に姿を現わした最期となる。

 入念にプロデュースされたオリジナル・アルバムと性質が違い、死後4か月ほどでリリースされたこのアルバムは、モノによってはデモ・テープ・レベル、それほど大がかりなオーバーダビングも施されておらず、サウンド的にはさほど意匠を凝らしていない。この種のアルバムはタイミング命、出しちゃったモン勝ち的なところがあるので、多少のやっつけ仕事には目をつぶり、取り敢えずリリースしちまえ的になっちゃった部分が大きい。ただ余計なスタジオ・ワークで過剰に悲劇的になることもなく、結果的にはサウンドがシンプルな分だけ、生身のAmy、初々しいデビュー当時から末期までのヴォーカルの変遷を俯瞰することができる。

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 Amyのように歌うことは努力すれば可能だ。だけど、Amyのように人の心を動かすことはできない。そういうことだ。


Lioness: Hidden Treasu
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Amy Winehouse
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1. Our Day Will Come
 2002年録音、デビュー作『Frank』がその翌年リリースなので、プレ・デビュー前、ほぼデモテープと考えてよいテイクだけど、サウンドはともかくとして、彼女のヴォーカルはすでに完成されている。バック・トラックは敢えてベタなレゲエ・ビートのオールディーズだけど、それが却ってAmyの個性を引き立たせている。
 
2. Between The Cheats  
 2008年録音、やはりオールディーズっぽいスタンダード調のナンバーが続く。
 生前はポップ歌手としての認知度が高かった彼女、こうして続けて聴いてみると、やはりジャズ・スタンダードとしての素養が高かったことがわかる。
 
3. Tears Dry (Original Version) 
 少しテンポの速い『Back to Black』収録ヴァージョンが先に世に出てるけど、録音時期としてはこちらの方が早い。
 ドスの利いたバラードが、聴く者の心臓を鷲掴みにする。一気に引き込まれるようなヴォーカル・パフォーマンスが繰り広げられる。両ヴァージョンを比較すると、確かにこちらのテイクの方が惹きつける力は強いのだけど、ポップ・ソングとしては濃厚過ぎるのかもしれない。ワールドワイドで売れるためには、多少マイルドにしておいた方が口当たりは良い。ただすぐに物足りなくなる。
 それが消費サイクルの速いポップ・ソングの宿命ではあるのだけれど。



4. Will You Still Love Me Tomorrow? 
 往年のハリウッドのミュージカル映画オープニングを思い起こさせる、壮大なストリングスのイントロ。なんと作者はあのCarole King、もともとはブリル・ビルディング一派のコーラス・グループThe Shirellesに書いたナンバーで、オールディーズでは結構定番とのこと。まぁ俺はそっち方面は詳しくない。
 ここでのリズム・トラックはお馴染みThe Dap Kings。近年ではずっとフォローし続けてきたSharon Jonesのバック・バンドとしての顔が強く、Amyとのコラボもすっかり目立たなくなってしまったけど、彼らとAmyとの相性はSharonをも凌駕する瞬間がある。もともとベクトルが全然違うので、比べるものじゃないけどね。
 
5. Like Smoke [feat. NAS] 
 デュエットという感じではなくて、あくまでAmyのヴォーカル・パートとNASによるラップ・パートとの組み合わせ。スタンダード一辺倒だけでなく、こういったリアルタイムのアーティストとも積極的にコラボしていることも、Amyの飽くなき探究心の表れであるだろうし、プロデューサーとして終生永く寄り添ったSalaam Remiの舵取りの上手さなのだろう。

 
 
6. Valerie ('68 Version)
 『Back to Black』ヴァージョンよりギター・カッティングが強調されている、The Dap Kings参加のナンバー。バンドの音が少し大きくなっており、それに呼応してなのか、Amyもサウンドの一体感を感じてリラックスしたヴォーカルを披露している。
 Amy本人もお気に入りの曲だったとのことなので、ライブで歌い込んでゆけば、もっと違ったヴァージョンも聴くことができたのかもしれない。
 
7. The Girl From Ipanema
 あまりにスタンダード過ぎるため、今までオリジナルをまともに聴いたことがなかったけど、改めてこのアルバムで「こんな曲だったんだ」ということを知った。
 あらゆるシンガーに歌い尽くされた曲ながら、当時若干18歳のAmyが臆することなく、奔放に自分の解釈で歌い上げている。古色蒼然としたスタンダード・ナンバーにドラム・ループを導入して、現代にうまくリンクさせたRemiのサウンド・メイキングが良い仕事。
 
8. Half Time 
 やはりRemiプロデュースによる、ややポップ寄りのバラード・ナンバー。ドラム・ループを中心とした、シンプルなバック・トラックは同時代性ときちんとリンクしている。ちゃんとしたリズムさえあれば、彼女的にはバックはあまりこだわらなかったのかもしれないけど、やはり熟練の技がそこかしこで光るナンバーはAmyの神がかったパフォーマンスが脳裏に映る。
 めずらしく噛みしめるように、丁寧に歌うAmy。こんな一面もあるんだな、と再発見できる。

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9. Wake Up Alone (Original Recording) 
 いわゆるデモ・テイクをどうにか商品レベルにブラッシュ・アップしたナンバー。エンジニアの苦労が偲ばれる。シンプルなギターのアルペジオとドラムのみのバッキングで、まだアルコールやドラッグに蝕まれていない頃のAmyが聴ける。
 ファースト・テイクに近いせいもあって、まだあまり曲を呑み込めていないのか、手探りで歌ってる感が強い。なので、『Back to Black』ヴァージョンとは違うフェイクも聴こえる。
 
10. Best Friends, Right?
 ライブではオープニングの定番だった曲が初収録。
 なぜこれほどクオリティの高い曲が今までリリースされなかったのか―。まぁ諸事情はいろいろあるだろうけど、単純にアルバムのどこかに嵌め込みづらかったんじゃないかと思われる。こういった形と言ってはなんだけど、まずは公式に音源化されたことを素直に喜びたい。
 ジャズ、ソウル、ポップそれぞれのオイシい要素がうまくイイとこ取りされた、ほんとオススメのナンバー。ご挨拶代わりとしては最適。
 
11. Body And Soul
 生前最後となった、憧れの大先輩Tony Bennettとのレコーディング。
 プロデュースは大御所Phil Ramone、ド定番のジャズ・スタンダードのカバーと、直球メインストリームのフィールド。さすがに小手先技や誤魔化しが効くはずもなく、さすがのAmyもここでは若干畏まった表情となっている。
 もともとTony主導で始まった企画なので、ある意味ゲスト的なスタンスで参加したAmy、無理やり振り絞るような晩年のパフォーマンスとは打って変わって、いい意味で責任丸投げでリラックスした感のAmyがそこにいる。

 
 
12. A Song For You
 Leon Russell作曲による、まぁ誰もが知ってるポップのスタンダード・ナンバー。
 実は俺がAmyに引き込まれたきっかけとなった曲である。生前のAmyについてはタブロイド紙のスキャンダルな側面しか知らず、このアルバム・リリースに伴うラジオOAで集中的に流れていたのが、ちょうどこの曲だった。
 初めて耳にした時のことは、結構鮮烈に覚えている。前述した通り、何というかこう、音楽を聴いて心臓を鷲掴みされた感覚を覚えたのは、結構久しぶりのことだった。
 ”Rehab”くらいは耳にしたことがあるけど、単なるポップ・スター程度の認識であって、それ以上の関心は起こらなかった。「スキャンダラスな死に方をしたビッチっぽい人」という、まぁほとんどの人が思ってた程度の認識だったため、先入観としてはネガティヴな印象だった。
 それがこの曲、Amyの歌い出しを聴いた瞬間、すっかりその世界に引き込まれ、ほんとその場ですぐamazonにオーダーしたくらい。そのくらい、Amyの歌は一時俺を虜にさせた。
 体調的には最悪だった2009年のレコーディングということもあって、ヴォーカルはかなり荒れている。ピッチも正確でじゃないし、曲間のフェイクだってヨレヨレだ。
 でも、そんなことは大した問題じゃない。どれだけきれいに譜面通りに歌おうとも、大勢の人を感動させるのは、また別の問題だ。聴く者の心臓を鷲掴みできるほどの衝撃を与えるためには、技術以外の才能が必要になる。
 しかも、それは自ら努力して獲得する類のものではない。神に選ばれし者のみが、その力を行使できる。そして選ばれし者は、決して歌うことを止めてはならないのだ。






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Amyの遺していったもの - Amy Winehouse 『At the BBC』

folder 近年の女性シンガーの中では圧倒的にキャラが強くてゴシップも多く、それでいてただの流行りものではない、記名性の強いヴォーカライズで世間を魅了したAmy、非業の死からそろそろ4年経過しているのだけど、今ではすっかり話題に上ることもなく、潮が引いたように忘れられつつある。亡くなった直後はそれなりにエンタメ業界にも激震が走り、アウトテイクをかき集めたようなラスト・アルバム『Lioness: Hidden Treasures』がリリースされたのだけど、その後はこのBBCライブがリリースされたのみで、それ以降の動きはほとんどない。未発表音源や他アーティストによるトリビュートの動きもあると思っていたのだけど、そういった盛り上がりもなさそうである。

 音楽業界に限らず、現在エンタテインメントの第一線で活躍するアーティストには、その才能とは別に、コンプライアンスの遵守が強く求められている。かつてのようなドラッグまみれで自堕落なロックン・ロール・ライフを送る者への風当りは強く、今じゃチャンスすら与えられない状況が続いている。
 スキャンダラスな言動やパフォーマンスによって注目を浴び、スターダムにのし上がる行為自体は、今でも続いている。しかし、一旦ヒットを産む存在になると、そこから路線変更を強いられる。ソフィスティケートされたエンタメ業界において、ファッションとしてのアウトローは、今でも十分セックス・シンボルとしての需要はあるけど、あくまでビジネスとして割り切って演じなければ、次第に隅に追いやられてしまう。イメージの世界以外では、常識人としての立ち振舞いが求められるのだ。

 そういった制約を窮屈に思っていたのか、はたまたそこまで考えが及んでなかったのか。結果的に破滅的な生涯ばかりが取り沙汰されるAmy、ある意味、生まれ来る時代を間違えてしまったんじゃないかと、都度思ってしまう。

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 Amyと同じような流れを歩んだアーティストで、俺が真っ先に思い出したのがJanis Joplin。彼女もまたAmy同様、本当に心を開ける友人や恋人が周りにいなく、孤独な生涯を短く生きた人である。キャリアの絶頂でオーバードースで亡くなってしまった部分も、Amyと重なっている。ちょうど次のアルバムのレコーディング途中だったため、残された音源をどうにかこうにかつなぎ合わせ、追悼盤として『Pearl』が作られ、皮肉にもJanis最大のヒットとなったのは有名な話。
 Janisの場合、その後も破天荒な生き様が70年代ロック特有のロマンチシズムと合致して、無数のフォロアーやインスパイアされた作品も含め、彼女自身の発掘音源も時々リリースされているのだけど、Amyに至っては、そういった動きもほとんどない。

 Janisが亡くなったのが70年代初頭、当時はまだロック・ビジネスも黎明期で、彼女のように波瀾万丈なストーリーも、話題性のひとつとして寛容に受け入れられるような雰囲気はあったのだけれど、現在ではAmyのようなアーティストにとって生きづらい時代になっている。表舞台での破天荒ぶりは許容されているけど、一旦プライベートに返ると、良き家庭人としての側面を見せなければならないのだ。

 Amyの場合、生前フル・アルバムとしてリリースされたのは実質2枚、死後に1枚と、物量的にはかなり少ない。しかも最近のリリース傾向として、1年も経たないうちに2枚組デラックス・エディションが出るという流れ なので、すでにマテリアルが使い尽くされている状況である。実際の活動期間も短いため、掘り返したとしてもリリースできるほどのクオリティのアイテムがどれだけあるか。
 あとはライブ発掘に期待するしかないのだけど、これまた末期はアル中の度合いがひどすぎて、まともにフル・ステージ演じ切れなかったケースも多々なので、さてどれくらい残っているか。

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 Mark Ronsonのディレクションによる華々しいデビューによって、主にポップのフィールドで活躍してた人だけど、本来はBilly HolidayやHelen Merrillの流れを汲んだ、正統なジャズ・ヴォーカルの人である。特にそのスキャンダルに翻弄された生き方は、Billyと被る部分が多い。
 AmyとBilly、そして前述のJanisにも言えることだけど、どうしてもこの3人、スキャンダラスな面ばかりが強調されてしまい、純粋に音楽的観点での評価がしづらいところがある。音楽と対峙するその姿勢はとても真摯であるのだけれど、どうしても音楽自体より、そのバックボーン、音楽以外の生きざまやら行動様式に注目が行ってしまうことは、アーティストとしては不幸なスタンスである。

 Amyに絞って話を進めると、コンディションの違いはあれど、どのライブでも一回一回が真剣勝負、全身全霊を込めて感情を叩きつけるような姿勢でステージに上がっている。なので、ライブ・テイクを聴いてみると、どれひとつ同じ歌がないことに気づかされる。いい時は歴史に残る名演になるのだけれど、悪い時は、そりゃもう呂律も回らないくらいひどいもので、とにかくムラがある。
 ユルい構成によるサプライズが許容された昔と違って、緻密に構成されたエンタテインメントが求められる現代において、玉石混交な彼女の歌は規格外なのかもしれない。

 だけど、音楽に規律を求め過ぎるのは、ちょっと違うんじゃないかと思ってるのは、俺だけじゃないはず。


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1. Know You Now (Live At Leicester Summer Sundae 2004)
 デビュー・アルバム『Frank』収録。スタジオ・ヴァージョンはシンプルなバッキングでAmyのヴォーカルを引き立たせるサウンドだったけど、ここではホーン・セクションが目立っており、Amyの歌もサウンドの一部に過ぎない。
 やはり生バンドが入ると気合も違うのだろう。

2. Fuck Me Pumps (Live At T In The Park 2004)
 同じく『Frank』収録。UKでは4枚目のシングルとして切られ、最高65位。まだ”Rehab”フィーバー前なので、この時期のシングルはどれもチャート・アクションは弱い。
 基本、スタジオ・テイクと変わらないシンプルなアレンジで、60年代ソウルとジャズの融合した形。ジャジー・ソウルではない。そんな洒落たテイストの曲ではない。

3. In My Bed (Live At T In The Park 2004)
 『Frank』からの3枚目のシングル・カット。これだけの数のシングルがあったということは、アルバムもそれなりのアクションだったのだろう。最終的にはUKではプラチナ獲得まで行ってるのだけど、多分”Rehab”以降のセールスも多かったと思われるので、リリース直後の動向は、ちょっとわからない。
 スタジオ・テイクはMark Ronsonコーディネートによるムーディーな現代版ビッグ・バンド的アレンジだったのだけど、ここではブラス・セクションが大活躍している。俺的には、スウィング時代のディーヴァが甦ったという設定の、スタジオ・ヴァージョンも好き。
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4. October Song (Live At T In The Park 2004)
 この時期もそうだけど、Amyは主にバック・バンドDap-Kingsとの行動が多かった。以前も書いたけど、Amyとのコラボによってバンドの維持費を稼ぎ、そこで得たノウハウや資金をSharon Jonesとの活動につぎ込む、というループだったのだけど、近年ではSharonとの活動も軌道に乗り、安定した活動振りである、と言いたいのだけど、肝心のSharonも最近体調がよろしくない、とのこと。無事を祈りたい。
 ここまでがデビュー間もないAmyのパフォーマンスが聴けるのだけれど、まぁ見事に変わってないアバズレ振り。手練れのバンドの振り回し具合、そしてどれだけAmyが脱線しようとも、最終的には帳尻を合わせてくるバンド陣。絶妙なコラボレーションが堪能できる。

5. Rehab (Live At Pete Mitchell 2006)
 ここから2枚目『Back to Black』収録曲が続く。UKではチャート最高7位だけど、世界各国でゴールド、プラチナムを獲得しまくった、言わずと知れた大ヒット・ナンバー。日本でもFMを中心にヒットしたし、結構TVでもサウンド・クリップとして、いろいろなところで使われている。なので、老若男女、知ってる人は意外に多い、データだけでは計り知れない認知度を誇る楽曲でもある。
 ここでのアレンジは至ってシンプルなため、ドスの効いたAmyのヴォーカルが前面に出て迫力が引き立っている。Rehabの意味は文字通りリハビリ。その後の経緯を思うと、歌詞が突き刺さってくる。

6. You Know I m No Good (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 こちらもUK最高18位にとどまったけど、同じく人気の高い曲。俺的には”Rehab”よりこっちの方が好きだし、実際ネットでもこの曲へのリスペクトは高い。50~60年代の古いジャズ・ソングかと思ってたのだけど、後にオリジナルと知って、ちょっとビックリ。2枚目でこの貫禄だったのだから、さらにキャリアを積んだら、とんでもない存在になってたんじゃないかと思うのだけど、うまくいかないものだ。



7. Just Friends (Live At Big Band Special 2009)
 この曲もそうだけど、『Back to Black』における双頭プロデュース体制というのはかなり的を射ていたんじゃないかと思ってしまう。ヴィンテージなソウル・テイストのジャズ・ヴォーカル・ナンバーはSalaam Remi、キャッチーなポップ・ソウルはMark Ronsonと役割分担することによって、アルバム的にもバラエティ感が出、チャートでも十分健闘できるスタイルを、この時点ですでに築き上げていた。
 実はスタジオ・テイクはちょっと大人しめなのだけど、やはりここはDap-Kings、そろそろヘロヘロになりつつあったAmyをサポートしつつ煽り立てている。

8. Love Is A Losing Game (Live At Jools Holland 2009)
ご存じイギリスの有名な音楽番組『Later With Jools Holland』からのテイク。時々CSミュージック・エアでも再放送しているので、うまくいけば見れるかもしれない。
 この曲もスタジオ・テイクは無難なポップ・バラードなのだけど、ここではAmyがドスを効かせたジャズ・バラードに仕上げている。ミックスのせいなのか、ピアノのアタック音も強く、演奏陣も力が入っている。やはりJools Hollandの前では手を抜けないのか?
 
9. Tears Dry On Their Own (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 UK最高16位まで上昇した、こちらもファンの間では人気の高い曲。なので、追悼盤『Lioness: Hidden Treasures』にも初期ヴァージョンが収録され、ここでもまだ元気な声の頃のAmyのヴァージョンで収録されている。俺的にAmyは『Lioness: Hidden Treasures』が最初だったため、どうしてもこのヴァージョンが基本となってしまっている。



10. Best Friends, Right (Live At Leicester Summer Sundae 2004)
 ヴォーカル・プレイとしては、多分これがベスト・テイク。もっとも声も通ってるし、フェイクやアドリブも効いている。ジャズ・ヴォーカル特有の崩し加減が苦手なビギナーも多いのだけど、このレベルなら充分人を惹きつけられる。

11. I Should Care (Live At The Stables 2004)
 ただ、この曲以降になると、本格的なジャズ・ヴォーカルが多くなる。まぁアルバム構成上そうなったのだし、普段のライブでも、何曲かはこのようなスタイルのスタンダード・ジャズを演っている。
 もともとは1944年、Bing Crosbyに書かれた曲ということなので、スウィングの入ったジャズ・ソングである。

12. Lullaby Of Birdland (Live At The Stables 2004)
 同じライブから、もう1曲。Birdlandはもちろん、Charlie Perkerのライブハウスにちなんだもので、こちらもゴリゴリのジャズ・ナンバー。Ella FitzgeraldのためにGeorge Shearingが書いたことは、いま知った。

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13. Valerie (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 オリジナルは2006年UKインディー・バンドZutonsによるもので、2006年のワールドカップで頻繁にメディアに使用され、イギリスではお馴染みの曲らしいけど、まぁそんなことは俺もいま初めて知ったくらい。
 Mark Ronsonとのフィーチャー・シングルとしてリリースされ、こちらもUK2位、EU圏でも数々のトップ10入りを果たしている、近年にしてはめずらしくジャズ・テイストの強いポップ・ソング。

14. To Know Him Is To Love Him (Live At Pete Mitchell 2006)
 これも昔から有名な、Phil Spectorによるオールディーズ・ポップ・ソング。シンプルなバッキングに、素直なヴォーカルを乗せる、ゆったりとした秋の夜長を感じさせる、夜にピッタリのナンバー。



 と、ここまで書いてから、Amyのドキュメンタリー映画がひっそり公開されていたのを、すっかり忘れていた。7月にイギリスで上映されたのだけど、その後日本で公開されるのか、それともDVDのみの発売なのか、情報は入ってこない。そこそこのヒットはしたようだけど、まぁ作品の性質上、大々的なロードショーというわけにはいかないようだ。
 本国イギリスでは、まだ忘れられていないことがわかっただけでも、充分としよう。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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