好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Soul

熱くなり過ぎない、平熱のソウル - Milton Wright 『Friends And Buddies』

jpeg ミュージシャンとは基本、つぶしの効かない職業である。専業一本で食っていけるのはほんのひと握り、ほとんどはそのレベルにたどり着く前にあきらめてしまう。才能や適性だけじゃなく、さらに運とタイミングがうまくかみ合わないと、チャンスにさえ恵まれないのだ。
 もしうまく行ってそのチャンスをつかんだとしても、そこで安心できるわけでもない。そのステージを狙って這い上がって来る者は、いくらだっている。常に引きずり下ろされないよう踏ん張り、そして走り続ける。それがトップランナーの条件だ。
 そんな自分だって、かつては他人を蹴倒して今のポジション獲得に至ったわけで。 

 厳密に言えば、どのレベルからがプロの基準なのか、まぁケースバイケースなんだろうけど、事務所所属やメジャー・リリース契約までには至らなくても、地道なライブ活動や自主制作リリースで食っていける者も、いるにはいる。
 ネットを利用しての自力販促が容易になった今では、メジャーに所属するメリットが少なくなってきているため、セルフ・マネジメントという選択肢もアリっちゃアリだけど、すべてがすべて良いことばかりではない。
 中間搾取が少なくなることによって、昔より多少実入りは良くなったかもしれないけど、逆に言えば大きな販促費をかけられない分、大きくひと山当てることは難しくなった。無名のアーティストのサクセス・ストーリーだって、昔よりスケールが小さくなった。もうハナッからミリオン超えなんて狙っちゃいないだろうし。
 何だか夢のない話ばっかりだな。

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 なので、先行きのよろしくない日本をマーケットにするのではなく、世界に視野を広げると、もうちょっと過ごしやすくなる。
 レコーディング契約とは縁遠くても、国土も広けりゃ人種も多様なアメリカになると、多少ニッチなジャンルでもどうにかなる。決してヒット・チャートに上がってくることはないけど、延々終わりのないネバー・エンディング・ツアーを繰り返しているジャム・バンドは山ほどいる。本気ですみずみ回ろうとしたら、2~3年は覚悟しなくちゃならないので、結局、年中ライブばっかりというスタイルになってしまう。逆に言えば、それだけニーズがあるということで。
 アメリカに限らず、最先端を追い求めているのはほんのごく少数、多くのリスナーは昔から馴染んだジャンルを聴き続けていることが多い。Taylor Swiftだって、カントリーがベースだったから、あれだけ売れてるわけだし。
 なので、とっくの昔に忘れられたバンドだって、小まめにロードを繰り返していれば、それなりに食っていける。例えば、日本じゃすっかり話題に上がることもなくなったREO Speedwagonだって、現役でライブを続けている。ライブ音源のアーカイブ・サイト「etree.org」のラインナップを見ると、同様に懐かしい名前がゴロゴロ出てくる。Cowboy Junkiesなんて、まだやってたんだな。

 キャパの広いアメリカだからできることであって、これと同じスタイルを日本に持ち込むのは、ちょっと難しい。
 まず、ハコ自体が少ない。さらに地方になると、絶望的に少ない。需要がないから供給が少ないのか、それとも逆なのか、どっちにしろ、今後もあんまり増えていくことはなさそうだ。昔と比べると、野外フェスの件数は増えているけど、バンド側から見れば、それだけで食っていけるはずがない。
 なので、音源販売とライブハウスでの活動が、バンド運営の柱になる。ある程度、知名度が上がらないことには、グッズ制作だって経費がかさむだけだし、在庫を持つというのは結構なリスクである。
 じゃあ、「ライブで評判を呼んで、知名度アップだ!」と意気込んではみても、これもなかなか。固定ファンの少ないバンドにとって、チケットノルマの負担が深刻な問題となっている昨今、よほど交友関係が広いか、それともメンバーに金持ちのボンボンがいないと、活動継続は難しい。
 あ、でもそれって昔からか。グループ・サウンズだって、楽器を買ってもらえる金持ちの息子が多かったっていうし。

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 なので、どの辺で音楽に見切りをつけて足を洗うのか、切り替えのタイミングを見据えることも、必要になってくる。夢と想いだけじゃ、どうにもならないことだってある。それを理解することだって、ひとつの成長だ。
 デビュー前なら、学業に専念やら結婚やら実家を継ぐやら、何かしらひと区切りしやすいけど、変にうまいことデビューできちゃって、多少なりとも脚光を浴びたりしちゃうと、なかなか抜け出せなくなる。これがまったく鳴かず飛ばずで、あんまり深みにはまるうちならまだいいけど、中途半端に一回売れてしまって、「夢よもう一度」とズルズル続けちゃったりすると、引き際が難しくなる。
 どの業界でもそうだけど、まったく畑違いの職種にくら替えするのは、リスクが大きい。それまで積み上げてきたスキルをチャラにして、新たな道を選ぶのは、とても勇気のいることだ。
 個人的な話だけど、俺だって昔、別の業界に転職したけど、結局同業種に戻っちゃったしね。人間、そうそう違う水には馴染めない。

 で、やっと本題。
 Milton Wrightが、以前レビューしたBetty Wrightの兄であることは、あまり知られていない。俺もつい最近、知ったばかりだ。
 音楽の神に愛されたBettyの大ヒットを受けて、どちらかと言えば裏方気質だったMiltonも、2匹目のドジョウ的に表舞台に引っぱり出された。出されたのだけど、発表した2枚のアルバムは大して売れることもなく、また彼もそこで踏ん張ることなく、静かに活動をフェードアウトしていった。
 もともとIQも高く、何かと高スペックだったMilton、ミュージシャン引退後は大学へ戻り、司法試験にも難なくパスしている。ちなみに、妹BettyもIQ190クラスらしい。知能指数がすべてとは言わないけど、地頭がいいというのは、その後の選択肢にも何かと都合が良い。
 ボストン裁判所の地方判事という正業に就いたMilton、音楽とは何の接点もない職業ではあるけれど、家族兄弟の絆が切れたというわけではなく、その後も目立たない範囲でBetty のバックアップは続けている。定年を迎えた現在はセカンドライフに入ったため、自身の音楽活動も再開しているらしい。
 以前レビューしたJames Masonも、最初の引退後は大学に入り直してまったく別のキャリアを歩み、生活基盤が安定してから、地道に活動再開を目指している。一旦リタイアしても、セカンドキャリアの選択肢が幅広く用意されていることも、大国アメリカの良い点である。

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 せっかくなので、Milton の他に、法曹関係に転職したミュージシャンがいるのかどうか、ちょっと調べてみた。何がせっかく?ただの興味だよ。
 裁判官だけに絞るといなさそうだったので、弁護士や会計士も含めて検索してみたのだけど、全然ヒットしなかった。まともに1日中勉強していても、3浪以上は当たり前の業界なので、転職先としては、めちゃめちゃハードルが高い。世界的にもこの事情は変わらない。

 さらにせっかくなので、同じく畑違い、政治家になったミュージシャンはいないものか調べてみた。「人前に出て熱い想いを訴える」というプロセスは似通ってるので、もうちょっといるかと思ったけど、これも案外少ない。知ってる範囲では山本コータローと内田裕也。でもこの2人、落選してるんだよな。なので、除外。
 世界に目を向けてみても、そんなにいるわけではない。シェールの元相方Sonny Bonoがアメリカ上院議員になっている程度。世代的にかなり上の人なので、正直ピンと来ない。
 もう少し俺世代でも「おぉっ」と思える人物がいないものか、欧米以外にも範囲を広げて調べてみると、あらいたわ、Midnight Oil。
 環境問題を含めた政治的メッセージを強く打ち出していた、80年代オーストラリアを代表するバンドのリーダーPeter Garrettは、バンド解散と前後して政治家に転身、2010年には学校教育・幼児・青年問題担当大臣に就任している。Garrett 同様、政治的な発言が多かった同世代として、R.E.M.やU2のBonoあたりが思いつくけど、キャリアを捨ててまで、そっち方面へ行く気配はなさそうである。
 そういえば、いま何やってんだMichael Stipe。

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 話は戻ってMilton Wright 。あり余るエモーションが爆発したパフォーマンスを見せたBettyとは対照的に、落ち着いたジャズ・ファンク系のサウンドと脱力系のヴォーカルは、ディスコ黎明期だった1975年のニーズとは、噛み合わせが悪かった。
 今でこそ、レアグルーヴの定番として持てはやされ、すっかり定番化しているけど、リリース当時は、ジャズなのかファンクなのかソウルなのか、どこにもカテゴライズしづらい音楽性が、一般ウケしなかったんじゃないかと思われる。多分「Bettyの兄」というキャッチフレーズでもって売り出されたんだろうし、彼女と同じ傾向を求めるユーザーからすれば、ちょっと肩透かしを食らったことだろう。
 シンプルなファンク・ビートをベースに、声を張り上げない朗々としたヴォーカル、ペンタトニックを主体としたセオリーはずしのコード進行など、21世紀になって聴くには「こういったのもアリ」なのだけど、まぁわかりづらいわな。ちょっと早すぎだった。



Friends & Buddies
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1. Friends And Buddies
 スペーシーなシンセとハイハットから始まるグルーヴィー・ソウル。Stevie Wonderをもっとジャズに寄りにしたサウンドは、泥くさく騒々しいマイアミ・ソウルからは遠いところで鳴っている。サウンド自体はベースもブリブリ、Bettyを中心としたコーラス隊もソウルフルなのだけど、Miltonの声が入るとAORになってしまう。



2. Brothers & Sisters
 強烈なアープの歪みが印象的なオープニングで、同じく女性コーラスによるサビもインパクトがあっていいのだけど、地味だよなやっぱり。シンガー次第ではもっとアゲアゲのディスコ・チューンになりそうなところを、淡白なヴォーカルが全体の温度の上昇を抑えている。でも、そんな平熱を保つ態度だったからこそ、同時代に消費されず真空パックされ、後年の再評価につながったのかなと思えば、結果的には良かったのかな。

3. Get No Lovin’ Tonight
 ちょっと調子のはずれたフルートの音色が印象的な、フリーソウル系でも評価の高いミドル・テンポのファンク。ベースのブリブリ加減と、時々挿入されるネチッこいギター・ソロがベースになっているのだけど、まぁクドいファンクネス。Isleyあたりが歌ってたら売れたかもしれないけど、今になって聴いてみると、このホドホド加減がちょうどいい感じでまとまっている。



4. Po’Man
 シタールっぽいエフェクトをかけたギター・ソロが好きだったのか、ここでもイントロから使われている。そこにユニゾンさせるような、スペーシーなシンセのコード弾き。誰だったかすぐ出てこないけど、こういった使い方ってロックの話法だよな。単純にソウル一筋でやってきた人の発想ではない。

5. Keep It Up
 再発見のきっかけとなった、ジャジーかつスペイシーというしか形容のしようがない、シンセとアコギとのハイブリット・サウンドは、多くの人に開かれている。さらに知的になったBill Withersといったイメージで売り出せば、もうちょっと売れたのかもしれないけど、やっぱマイアミ系で売り出したのがいけなかったのかな。当時のBettyとは、まったく相反する音楽性だもの。

6. My Ol’Lady
 とはいえ、まったくソウル・エッセンスがないわけではない。比較的オーソドックスな構造を持つ親しみやすいメロディ、キャッチーなコール&レスポンス。ちょっと斜に構え気味だったMiltonのヴォーカルも、ここでは少し熱が入っている。わかりやすいアップテンポのニュー・ソウルは、もうちょっと多くの人に聴いてほしい。

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7. Black Man
 高らかに歌い上げるAORソウル・チューン。やっぱBill Withers路線が良かったんだろうな。Milton的にはどう思ってたのかは知らないけど、既存のカテゴリに無理やりはめ込まない、多様な音楽性が当時のニーズとは合わなかったのが惜しいところ。いっそ匿名で出しちゃった方が良かったのかもね。

8. The Silence That You Keep
 80年代の山下達郎と似たテイストを感じる「閉じたソウル」。リズム・ギターのカッティングなんて『For You』時代を彷彿とさせる。
 そうか、だから俺のツボにはまってるのか。今ごろ気がついた。





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「心の愛」だけじゃないんだよ - Stevie Wonder 『Woman in Red』

folder 1984年リリース、Stevieにとって5年振り、『The Secret Life of Plants』に続く、2枚目のサウンドトラック。前作が学術的ドキュメンタリーという特殊性から、一般公開されなかったため、市場としても微妙な反応だったことから、本格的なサウンドトラックとしては、こっちの方が馴染みやすいと思われる。2枚組だった前作と比べて、こちらはシングル・アルバムですっきりしてるし。
 もっと言っちゃえば、80年代Stevieの新たなスタンダードとなった「心の愛」が入ってるアルバムである。一番のウリがそれ。ていうかこれくらいしか話題がない。そんななので、リアルタイムで聴いていたはずの俺でさえ、このアルバムはスルーしていた。当時のStevieは、この曲のおかげで「愛と平和の人」というイメージが定着しており、ロキノン信者だった俺にとって、最も遠い存在だった。いま思えば、とんでもない誤解だったけど。バカバカ十代の俺のバカッ。

 というわけで、まともに見たこともなければ、内容すら興味のなかった映画である。正直、今だって積極的に観ようと思わないし。
 あまりに知らなさ過ぎで書き進めるのもアレなので、一応、wikiで調べてみると、

 『ウーマン・イン・レッド』(原題:The Woman in Red)は、 1984年制作のアメリカ合衆国の ロマンティック・コメディ映画。ジーン・ワイルダー監督・主演。

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 「80年代のロマンティック・コメディ」という時点で、もう見る気は失せる。しかも監督が、名前だけは聞いたことがあるジーン・ワイルダー。代表作は知らない。メル・ブルックスとタッグ組んでたんだな。それなら一回くらい見てるかもしれない。『俺たちに明日はない』に出てたんだな。へぇ、知らなかった。-その程度の印象である。
 さらに内容を調べてみると、

 -サンフランシスコ市の職員で超真面目なテディはある朝、出勤途中に見かけた赤いドレスの美女に心を奪われてしまう。テディはその美女シャーロットに近づくべく、あの手この手でアプローチを試みるが、思わぬアクシデントでことごとく失敗に終わる。それでも、親友バディの協力で何とかシャーロットへのアプローチに成功し、天にも昇る気持ちのテディであったが…。

 きっちりした映画文法で書かれた往年のドタバタコメディ。多分、プロットもしっかりしてて評論家筋には絶賛されるんだろうけど、一般ウケはしそうにないことが伝わってくる。多分、レビュー書いた人も思い入れ薄いんだろうな。少なくとも、この映画の熱烈なファンってあんまりいなさそうだし。

 さらに言えばこのアルバム、ジャケットにデカデカとStevie プロデュースと謳われているけど、メインで歌ってるのは半分だけ、もう半分は友人Dionne Warwickがヴォーカルを取っている。まぁ全曲彼の作詞作曲なので、看板に偽りはないのだけれど、やっぱり何かダマされた気がしても不思議ではない。「心の愛」でファンになったビギナーの「これじゃない」感が沸き起こること必至である。
 Dionneで俺が連想するのが、Burt Bacharach作による「I Say a Little Prayer」を歌った人、またWhitney Houstonの従姉妹(叔母という説もアリ)。それくらいである。とは言っても俺、「小さな願い」はAretha Franklinヴァージョンの方が好きなんだけど。まぁそれは別件。

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 もともと映画の主題歌を制作するにあたり、ジーン・ワイルダーは旧知の中であったDionneをシンガーとして指名、快諾したDionneは、知名度もあって何かと頼みやすいStevieに制作を依頼する。考えてみれば、視機能にハンデのある彼に映像作品がらみのオファーをするのも変な話だけど、まぁ大御所Dionneの頼みだからと快く引き受ける。ちょうど入手したばかりのシンクラヴィアの慣らし運転的に、何曲かチャチャッと作って送ってみたところ、これが制作サイドにも好評、なし崩しに「どうせなら全部使っちゃってもいい?」という流れになってしまった、という次第。すっげぇアバウトだけど、だいたいこんな感じになる。
 いわば成り行きでできあがっちゃったアルバムだし、映画もそこまでヒットしなかったので、ディスコグラフィ的にも微妙なポジションになっているけれど、当時の最先端機材だったシンクラヴィアのスペックモニターとして、結構変な音を使った実験的な要素も含まれているし、こちらも当時の主流だった打ち込みブラコン・サウンドのフォーマットを結構なぞっているため、時に強すぎてしまうキャラクターのアクも抑えられている。
 ちょっと閉じたサウンドに傾いてしまった『Secret Life』の反省を踏まえてなのか、アーティスト・エゴを前面に出さず、オーソドックスな80年代サウンドの意匠に染めたことが、アルバム・セールスの成功の要因となった。当時は『Top Gun』や『Footloose』を始め、ポップ・ナンバーを散りばめたオムニバス形式のサントラ盤がバカ売れしていた時代である。まぁたまたまだったんだろうけど。

 80年代に入った時点で、すでにレジェンド枠に入っていたStevieなので、その交友範囲は音楽関係だけに収まるものではない。世界中のエンタメ業界全般に、誰かしら友人知人はいるだろうし、また直接は知らなくても、緩やかなつながりはそこら中にある。ちょうどこの辺から国連関係のオファーも受けるようになっているので、下手な一国の首脳よりも知名度は高い。すでに我々の及びもつかない、隠然たる力だってもっているかもしれない。なんか陰謀論みたいになってきたな。
 そんなポジションだからして、常に世界中からオファーが絶えることがない。Stevieに届く前に却下されているプロジェクトも数知れずなんだろうけど、そんなフィルターをかいくぐって手元にきた案件だって、全部が全部、引き受けられるわけではない。
 一般的なStevieのイメージ、よく使われる宣材写真がちょうどこの時期、「心の愛」のジャケットのショットである。今に続く「愛と平和の人」という形容はここから始まったのだけど、実際のStevieはもっと狡猾でロジカルな人間である。じゃないと、音楽出版社から弁護士から会計士から個人事務所やらを水面下でキッチリ揃え、二十歳になったと同時にモータウンからの独立と未払い印税の請求、リリース契約の優位な改定を突きつける芸当はできないわけだし。SMAP独立組よりずっと先に、そんなことをやっていたわけで。
 そんなシニカルな部分も併せ持ったStevieなので、ちょっとやそっとの付き合いやしがらみで彼を動かすことは不可能である。でも日本の缶コーヒーのCMに書き下ろし楽曲で出演しちゃったりなど、その基準は不明である。

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 ただこの時期は、『Hotter Than July』リリース後、オリジナルのアルバム制作からちょっと距離を置いていた頃である。ベストアルバム『Musiquarium』向けに4曲書き下ろした程度で、あとはもっぱら課外活動、他アーティストの客演や楽曲提供に勤しんでいる。なので、自身のリリースはなくても、この時期の話題には事欠かない。
 有名どころで言えばPaul McCartneyやChaka Khan、Manhattan Transferなど、ジャンルも多岐に渡る。モータウン25周年セレモニーなど華やかな表舞台もあれば、晩年のDizzy Gillespieでひっそりハーモニカを吹いていたり、よくわからない基準である。興味とタイミングがうまくかみ合えば、何かと引き受けていたのだろう。スタジオワークばっかりじゃ、さすがに煮詰まっちゃうしね。

 ちょうどこの時期、長らく経営不振が囁かれていたモータウンが、シャレにならないレベルで企業価値を下落させていた。モータウン25周年セレモニーは大盛況だったけど、そこに出演したMarvin GayeもDiana RossもMichael Jacksonも、すでにモータウンを去っており、前を向いて支えてゆく立場ではなかった。過去の財産を食い潰すことでしか延命できなかったモータウンは弱体化していった。DeBargeやLionel Richieらが懸命に再興に奮起していたけど、過去の放漫経営による負の遺産を清算するまでには至らなかった。
 そんな中、全盛時を知るアーティストとして唯一、モータウンを去らずに留まっていたStevieだったけれど、まぁ何かと思うところもあったんじゃないかと思われる。「心の愛」の大ヒットはモータウンにとっても刺激になったのだろうけど、それでもStevieはアルバム制作にはなかなか着手しなかった。
 1988年、どうにか持ちこたえていたモータウンも、結局は大手MCAに売却される形になるのだけど、創業者社長Berry Gordyが売却条件のひとつに掲げていたのが、「Stevieの同意を得ること」。Gordyにとって、そしてStevieにとってもモータウンという場所が特別のものだったことを象徴するエピソードである。

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 それとは別に音楽的な話。Malcolm Cecil & Robert Margouleffと組んだ3部作をスタートとして、シンセ/デジタル機材の進化と連動するように、Stevieのサウンド・デザインも変化してゆく。当初は打ち込みトラックをベースとした生演奏(バンドor自演)をミックスする手法だったのが、フェアライト/シンクラヴィアの登場によってほぼ独りでの作業が可能となり、次第に打ち込み率が増えてゆく。
 シンセの登場以前から、もともとマルチ・プレイヤーだったStevie、マルチトラック・レコーディングによってほぼ独りで演奏したインスト作『Alfie』をリリースしているくらいである。ファンク・ブラザーズを始めとしたバンド・セッションによるレコーディングは楽しいだろうけど、自分のビジョンを十全に理解してプレイしてもらうには、どうしても限界がある。ただでさえ突拍子もないコード進行も多いし、一般的な楽理からははずれているので、どれだけ優秀なミュージシャンでも難易度は高いのだ。なので、独りで操作できるインターフェイスは、Stevieにとっては願ったりだった
 楽器メーカーもまた、Stevie Wonderというアーティストによるモニター使用は、絶好のサンプルだった。多様かつ高度な音楽性・高音質の追求だけではなく、Stevieが使いやすいインターフェイスを追求することは、それ即ち一般向けグローバル・デザインの構築でもあった。当初はタンス状の発信機的な役割でしかなかったシーケンサーが、鍵盤をつけリボン・コントローラーをくっつけサンプラーを足すことによって、Stevieライクなデザインへ進化していった。弱電の知識がないと扱いづらかったデジタル機材は、そんな使い勝手の改善によって、ビギナーにとっても敷居が低くなった。もしStevieがいなかったら、今ほど普及してなかったかもしれないし、サウンドだってここまで進歩していなかったかもしれない。
 独りの天才が、その後のサウンドの歴史を変えた、といったら大げさかもしれないけど、いや大げさじゃないな。

 あまりにも大衆的に広がり過ぎた「心の愛」のインパクトが強いのと、しかもB級映画のサントラ、本人は半分しか歌っていないため、地味な扱いの作品ではあるけれど、逆にそんなポジションだから、オリジナル・アルバムほど気合いの入っていない請け負い仕事だからこそ、Stevie本来の実験性が反映された作品だよな、と思ったのが、つい最近。ちゃんと聴いてみないと、わからないことはいっぱいある。
 DX7やジュピター8の可能性を限界まで引き出したデジタル・ファンクは、その後の80年代ダンス・カルチャーの礎となる会心の出来になっている。Dionneのヴォーカルを引き立たせる、ブラコン的な甘めの楽曲もあるけど、これもStevie特有の変幻自在なコード・ワークによって、引っかかりの残る仕上がりになっている。映像とのマッチングも考慮したのか、ストーリー進行やセリフをジャマしないMIDI機材の響きは、コメディ映画というシチュエーションにも違和感なく溶け込んでいる。てか見てないけど、多分そう。
 逆に言っちゃえば、その音の軽さに物足りなさを感じてしまうのも事実。70年代のアナログシンセと比べて、サウンドのバリエーションは飛躍的に増えたけど、使用電力の違いから生じる音の太さ、アナログ特有のボトムの強さはカットされてしまっている。その辺が、80年代のStevieが軽んじられている一因でもある。
 ただ、ここでの機材の使い倒し、マシン・スペックの実験を繰り返したことによって、アナログでは出せないデジタルの質感、そこら辺をうまく表現した『In Square Circle』『Characters』という全盛期を迎えることになるのだけど、その伏線として考えれば、このアルバムもはずすことはできない。



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1. The Woman in Red
 軽いシンセ・パッドとシンクラヴィア・メインのオール打ち込みで構成された、案外アクの強いデジタル・ファンク。限定された条件でマシンのスペックを最大限に引き出し、無機的に感じさせないところは、さすが昔からのシンセ・マスターとしての見せどころ。転調しまくるサビがメロディにメリハリをつけていることも、平板に見せないテクニックのひとつ。まぁやってることは昔から変わんないんだけどね。なので、変に肉感的なコーラスだけ妙に浮いており、そこだけダサい。

2. It's You
 サントラという名目なので、こういったベタなバラードも時に必要になる。まぁ印象としては、まんま「Endless Love」。まぁデュエットなので、ここはDionneの引き立て役といったところ。間奏のハープがStevieっぽいけど、まぁちょっとだけ。飛びぬけた仕上がりではないけれど、「Endless Love」的なムードを求めるのなら、普通に良曲。

3. It's More Than You
 同じくハープをフィーチャーしたインスト。サウンドトラックだもん、こういったのも必要。作曲はBen Bridgesという人で、これ以外、特に作品を残しているわけではなさそう。プレイしているのはStevieなので、グロッケンのメロディなんかで存在感を現わしている。かわいそうだよな、Ben。

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4. I Just Called to Say I Love You
 各国のシングル・チャート1位を総なめにした、Stevieだけじゃなく、80年代ロック/ポップスを代表するモンスター・ソング。すごく知られている曲なので、大して言うことはないけど、ブレッド&バターがカバーしてたよな、と思い出したので調べてみると、実は逆だった。
 以前から親交があったらしく、久々に活動再開する彼らを祝して楽曲提供したのが、この曲だった。ユーミン作詞・細野さんアレンジで完パケしたのだけど、発売寸前のところで思わぬ事態が起こる。「映画のサントラに収録したいので、発売はキャンセルしてほしい」と、Stevie側から申し出が入る。それがこの『Woman in Red』だった。思わぬ大ヒットによって権利関係がややこしくなり、Stevie提供曲じゃなくてStevieオリジナルのカバーという体裁なら発売してもいいよ、という許諾が下りたことで発売にこぎつけたのが、「特別な気持ちで」。当時は中学生だったから知らなかったけど、こんな内情だったとは。

5. Love Light in Flight
 4.のインパクトの強さですっかり目立たないけど、この曲もシングルカットされていた。US最高17位まで上がっているので、売れなかったわけではない。打ち込み主体のスロウ・ファンクはあか抜けた仕上がりで、1.でダサダサだったコーラスも厚みがあり、うまくサウンドに馴染んでいる。サビだっていつものStevie節だし。当時は陰にかくれちゃってたけど、その後のサウンド・メイキングの伏線としては秀逸の仕上がり。いま聴いてもカッコいいもの。



6. Moments Aren't Moments
 Dionneによるソロ。同じ路線ならDiana Rossの方がもうちょっと色気がある。まぁ世代的にあんまりピンと来ないのかな。ソウルというよりポピュラー・シンガーという印象の方が、俺的には強いし。

7. Weakness
 「Endless Love」的なバラード・デュエット再び。時代的に男女デュエットといえば、こういったソフト・タッチのブラコン・バラードが定番だった時代の話である。アーバン・ミュージックとして需要高かったんだよ、こういうのが。
 時代が変わって「ダサい」とう烙印を押されて、さらに時計がひと回りしてAORが再評価される無限ループ。骨格はしっかりしてるから、また何十年か後にはピックアップされたりして。

8. Don't Drive Drunk
 ラストはちょっと軽めのポップ・ソウル。『Hotter Than July』のアウトテイクっぽい仕上がり。リズムだけで作られたような楽曲で、Stevie特有のフックのメロディが薄い。まるで「リズム・マシーンを流しっぱなしにして適当に歌ってみました」的な。Stevieほどのアーティストなので、この程度の曲ならいくらでも作れるだろうし、まぁアウトテイクの中でもマシな方なんだろうけど、でもオフィシャルで発表するほどのレベルじゃない。これなら「心の愛」の方がよほどしっかり練り上げられている。






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長い青春期の終わり - 『Roberta Flack Featuring Donny Hathaway』

Folder 1980年リリース、旧友Donny Hathaway との2枚目、前回より7年ぶりのデュエット・アルバム。前年のDonnyの急逝を受けた追悼盤として、ビルボード総合で最高25位、ゴールド・ディスクを獲得している。
 Roberta といえば、なんと言っても1973〜74年にリリースされた大ヒット・シングル「Killing Me Softly」「Feel Like Making Love」が広く知られており、他の曲はあまり知られていない。ていうか俺もそんなに知らない。もともとDonnyつながりで入手したアルバムだし。
 その時期をピークとして、チャート的には緩やかに下降線をたどり、70年代末になると、アルバム・トップ40も危ういポジションにまで落ち込んでいる。とはいえ、もともと人目を派手に惹くルックスや作風ではないことから、「落ち目になった」というよりむしろ、「然るべき場所に収まった」という印象の方が強い。
 ソウルのディーヴァといえば、関西のおばちゃんみたいに「どやさどやさ」と前に出て行きたがる印象が強いけど、彼女の場合、そこまでエゴをむき出しにした印象はない。あまり黒さを前面に出さず、白人ポピュラー層へのウケの良さなど、表層的な部分だけ見ると、Diana Rossとの共通点が多い。あの人はもっと野心家だけどね。
 表立った活動からはしばらく身を引いていたけど、70年代初頭のニュー・ソウル・ムーヴメントにおいて、大きな役割を担ったDonnyの死によって、Robertaはどこにもぶつけようのない怒りと悲しみ、そして無常観に苛まれた。再び立ち上がるには、相応の期間を要した。

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 以前、Leroy Hutsonのレビューで、大学の同窓としてDonnyとRobertaがおり、メジャー・デビュー以前はキャンバスで共作したり、日毎セッションを行なっていた、と書いた。
 3人に共通しているのは、いわゆる労働者階級からの叩き上げではなく、大学というアカデミックな教育機関で音楽理論を学んでいること、泥くささの拭えなかった既存のソウル・ミュージックとは別のベクトルの、都会風にソフィスティケイトされた音楽性にある。いくら才能ある若者たちとはいえ、人種差別や公民権問題で騒がしかった60年代末のアメリカにおいて、彼らの肩身が狭かったことは、想像に難くない。どうしたって少数派なため、一緒にいることが多くなる。

 DonnyとLeroy は共に1945年生まれ、同じ年にハワード大学に入っている。一時はシェアハウスしていたくらい親密な仲であり、その時期に共作もよく行なっていた。そのうちのひとつが名曲「The Ghetto」だったというのは、ファンの間ではよく知られた話。
 当然、Robertaも同年代くらいかと思いきや、wikiを見ると1939年生まれ、なんと6歳差である。学生と社会人が友達付き合いするようなもので、世代間の開きはわりと大きい。音楽という共通項がなかったら、話題にも事欠くくらいである。
 結構な年齢まで大学に居残っていたくらいだから、よほどの苦学生か、それとも院でモラトリアム期間を満喫しているだけかと思ってたら…。
 いやいや、全然思い違いでした。

 幼少期からクラシック英才教育を受け、当時の黒人層としてはかなり恵まれた環境で育ったRoberta 、なんと15歳でスカラシップを獲得、大幅な飛び級でハワード大学に入学している。スタートから並みの才能ではなかったということだ。もちろん、「努力し続ける才能」というのも併せて。
 もともとピアノ専攻で入学したRoberta、その後も貪欲な向学心と好奇心が後押しして、声楽も本格的にマスター、後のポピュラー・シンガーとしての基盤がここで培われた。卒業後は黒人女性としては初めて、白人主体の学校で教鞭を取り、後進への指導もしっかr行なっている。

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 メロウな作風とは対照的に、音楽に関しては貪欲で唯我独尊なRobertaの周りには、才能あるニュー・ソウル世代のアーティストが集まっていた。彼らよりひと世代上に属する彼女は、そんな中では面倒見の良い姉御肌的存在だった。Roberta からすれば、Donny もLeroy も小生意気な弟程度にしか見えなかったのだろう。
 同世代アーティストの中では芸歴も長く、自主レーベル・カートムを設立するなど、親分風をブイブイ吹かせていたCurtis Mayfieldでさえ、彼女より2歳年下だったため、逆らえるはずもなかった。デビューして間もなく、野郎3人をスタジオに呼びつけてレコーディングを手伝わせるくらいだから、彼女の手綱さばき具合が窺える。
 ま、何にせよ、女が強い方が集団はうまく回るもので。

 そんなRobertaを中心としたコミュニティの中で、最も彼女と親交が深く、寵愛を受けたのがDonny だった。男女の関係があったかどうかは不明だけど、純粋に音楽性がフィットしていたのだろう。
 1973年、彼女はDonny と組んで、珠玉のバラードを揃えたアルバムを作った。当時の彼らの作風である、Carole King的にシンプルかつシュアなバッキング、あまり黒さを感じさせないシンガー・ソングライター的サウンドは、後のR&Bのルーツとなった。それぞれ単体でも素晴らしい楽曲を創り上げてはいたけど、2人揃ってピアノの前に座り、いくつかコードを押さえるだけで、独特のマジックが生まれた。
 そのマジックの結晶として、もっとも純度の高い「You've Got a Friend」は、永遠のスタンダードになった。

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 その後間もなくして、Hathawayは体調を崩し、表舞台から身を引くことになる。彼が抱く心の闇は想像以上に深く重く、強い自己嫌悪と厭世観とが歩みを妨げた。光の見えぬ深淵を克服するには、とてつもなく長い時間と周囲の手厚いケアを必要とした。
 家族以外では、公私ともに彼の支えとなったのが、Robertaだった。シングル「The Closer I Get to You」のパートナーとして、RobertaはDonnyの声を欲した。しばらく人前に出なくなってから久しく、腰を上げるまでには躊躇したけれど、彼女の細やかな気遣いやパワーに触発され、どうにか力を振り絞って相手を務めた。
 ビルボード総合2位という好成績をマークできたのは、それだけ彼の復活を待ち望むファンが多かったこと、皆が彼の声を欲していたということだ。
 そして、その成功を誰よりも喜んでいたのがRoberta だった、ということも併せて。

 エキシビジョン的な復活ではあったけれど、取り敢えず健在ぶりはアピールしたDonny、これを機に本格的な復活を果たすはずだった。何よりも、彼自身がそう思っていたはずだから。
 全盛期のテンションはまだ完全に取り戻せていないけど、ゆっくりと慎重に、徐々にギアを上げて、再度ファンの前に姿を現わすはずだった。幸い、Roberta がまた一緒にアルバムを作ろう、と呼びかけてくれていた。
 急ぐことはない。ゆっくりと、慎重に。

 前回のアルバムは、荘厳なムードの漂うバラード中心の選曲だったが、この2枚目は比較的アップテンポ、前向きな未来を予想させる同時代的なアレンジが多い。シリアスなニュー・ソウル真っ只中で製作された72年とは時代が変わり、もっとライトな感触のアーバン・ソウル風の楽曲が多くなった。70年代は終わろうとしていたのだ。
 70年代末のアップテンポなソウルといえば、大抵は下世話なファンクかディスコのどちらかだけど、そこは才女であるRoberta、安易なシーケンスは用いずバカテク・プレイヤーをズラリと並べ、生音主体のサウンド・デザインで統一している。
 強靭なメロディがビートを支配し、伸びの良いヴォーカルを前面に出したミックスも、アナログ・レコーディングの最終進化形の特徴である。リズムを抑えることによって、凡庸なダンス・チューンとして消費されてしまうのを回避したのだろう。

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 社会批判や内的自己の深化を主題としたニュー・ソウルは、一時の刹那的なムーヴメントで終わったが、既存ソウルに捉われぬ音楽性の間口の広さは、ジャズ〜フュージョンの要素も貪欲に取り込み、その後の80年代R&Bの礎となった。
 安定したサウンドとメソッドを創り上げたことによって、Robertaの音楽性もまた安定期に入る。根幹のメロディや言葉こそ大きく変わらないけど、時代のトレンドに応じてアップデートしてきたアレンジは、成長することをやめて、普遍的なものに変化していった。

 じゃあ、Donny はどこへ行こうとしていたのか?
 その中間報告となったのが、ここに収録されている2曲であり、それはRobertaにとってもひとつのマイルストーンになるはずだった。
 でも、その先が示されることはなく、Donnyの死によって中途半端な形で終わってしまった。まるで自ら成長するのを放棄したかのように。
 2人のハーモニー、2人の成長はこれが最期となった。

Roberta Flack Featuring Donny Hathaway
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1. Only Heaven Can Wait (For Love) 
 今日共作者としてクレジットされているEric Mercuryとのデュエットというかたちになっているけど、ほぼRobertaの独壇場。このアルバムでほぼ出ずっぱりで女性コーラスを担当しているのがGwen Guthrieだけど、Roberta以外にもAretha FranklinやMadonnaまで、あらゆるヴォーカリストから絶大な信頼を得ている、いわば「プロのバック・コーラス」。Ericの出番は後半になってからほんの少しだけである。
 一聴する限りでは、オーソドックスなバラードなのだけど、やたらリズム・セクションの音が深い。特にベース。「え、ここで?」といった場面でスラップを入れてきたりで、メリハリのあるサウンドを演出している。

2. God Don't Like Ugly
 Gwen作によるボトムの効いたディスコ・チューン。後に本人によってセルフ・カバーされている。もともとアップテンポ・ナンバーではいまいち印象の薄いRobertaなので、ここでは比較的無難に歌いこなしている。ちょっと洗練され過ぎてアクが少ないのも、彼女の場合は欠点でもあるけれど、大きな利点でもある。
 対してGwenヴァージョンも聴いてみたけど、こちらはテンポを落としたバラード調のアレンジ。俺個人としては、Gwenヴァージョンの方が、ベタな感情移入が強くて好み。このわかりやすいセンチさが好きなのだけど、でもこれってライト・ユーザーにはアクが強いんだろうな。
 多少、薄めた方が万人受けするという好例。

3. You Are My Heaven
 やっとここでDonny登場。そして、なんとStevie Wonder作曲。この時期のStevieは『Songs in the Key of Life』リリース後の虚脱感によって、いわば自作の方向性ン迷っていた時期。デビューから付き合いの深かったMinnie Ripertonにも手を貸したりしている。
 実際に彼が演奏しているわけではないのだけど、イントロから歌い出しから、まんまStevieの色が濃く出ている。ただ彼の曲って、メロディがポピュラーのセオリーから大きく外れて歌いこなすのが難しいはずなのだけど、そこは2人とも音楽理論がしっかりしているだけあって、きちんと世間に流通するポップスとして消化している。
 ビルボード最高47位まで上昇。



4. Disguises
 60年代のソフト・ロック・グループSpanky And Our Gangのプロデュースを手掛けたギタリスト、Stuart Scharf唯一のアルバムの収録曲。まんまDiana Rossなんだよな、俺からすれば。もしかして向こうが真似たのかもしれないけど。流麗ではあるけれど、俺的にはただそれだけ。ムーディだけど引っかかりがない。ライト・ユーザー向けだな。

5. Don't Make Me Wait Too Long
 なので、作曲だけにとどまらず、演奏にも全面的に参加しているStevie作のこの曲が、ひどく良く聴こえてしまう。80年代のバラード時代を予感させる、通り過ぎてしまいそうなメロディ・ラインは、それでも十分4.の凡庸さを凌駕している。ドラムも叩いているだけあって、リズム・パターンはすでに『In Square Circle』の音になっている。
 実は7分超という長尺で、中盤はRobertaによるラップ(ていうかモノローグ)が延々と展開されている。普通ならダレてしまうところを、構成がしっかりしているおかげで飽きさせない展開となっているのは、やはりStevieだからこそ。どうせなら、シャッフルしてこれをトップに持ってゆくのも、ひとつの聴き方である。

6. Back Together Again
 再度、Donny登場。これまでにないファンキーなエフェクトとシーケンスによる、地味なサウンドが多い2人にとっては、これまであまり縁のなかったサウンドである。楽曲製作チームのReggie Lucas & James Mtumeに乗せられたんだろうけど、Robertaは器用な人なので、それなりにアップテンポにも対応できるスキルはある。Donnyもどうにかゴージャス・サウンドに着いてきてはいるけれど、これが生前最後の録音だった、という事実を耳にしてしまうと、何だか複雑である。
 ちなみに、俺がこのアルバムに引き込まれたのはこの曲がきっかけだけど、聴いたのは彼らのヴァージョンではない。何年か前、Soundcloudを使ってレアグルーヴ系のDJミックスを漁ることに夢中になった。その中のラヴァーズ・ロック・ミックスの中に、この曲のレゲエ・ヴァージョンが収録されていた。若い女性ヴォーカリストが歌うこの曲に取りつかれ、オリジナルを探し求めたところ、ここにぶち当たった次第。答えは案外、近いところにあったのだ。



7. Stay with Me
 なんと作詞がGerry Goffin書き下ろし。この時代でもまだ現役でやってたんだ、と思ってから、そういえばCarole Kingは現役バリバリだったんだよな、と思い直した。作曲はDiana Ross 「Touch Me in the Morning」Whitney Houston「Saving All My Love for You」を手掛けたMichael Masserと来てる。プロのソングライターが気合を入れて書いているだけあって、詞曲・アレンジ・ヴォーカルとも完璧な仕上がり。無難なバラードでは収まらないスケール感を思わせるのは、やはりDonnyへのはなむけのためだったのか。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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