好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Singer Songwriter

邦題『恋を駈ける女』…。まちがってはいないけど。 - Joni Mitchell 『Wild Things Run Fast』

folder 1982年リリース、11枚目のオリジナル・アルバム。名だたる豪華メンツを取り揃えた演奏陣、そこから生み出される作品クオリティは、安定のアベレージをクリアしている。ただ実のところ、ジャズ路線へ大きくシフト・チェンジして好評を期した『Caught and Spark』をピークとして、セールス的には下降線を描きつつあった。
 このアルバムも、鳴り物入りで創設されたゲフィン・レコードへの移籍第1弾として、またコンテンポラリー・ロック・サウンドへの路線変更というのが話題になったけど、結果はUS33位UK32位という、まぁまぁの結果。言ってしまえば、まぁそこそこ。
 ただこの人、もともと営業成績に躍起になるタイプのアーティストではないことも、ひとつの見方。いくら時流のサウンドに乗ったからといって、突然ブレイクするようなジャンルの人ではない。
 例えばVan Morrisonのように、レコード会社としての企業メセナ・文化事業としての側面を維持するため、「レコード会社の良心」「象徴的存在」的なポジションの人は、必ずいる。固定ファンはガッチリ掴んでいるので、そうそう大ハズレがないのも、彼らのようなアーティストが重宝される理由のひとつである。この辺の大御所が名を連ねていると、ラインナップにハクが付くしね。

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 で、前回のSuzanne Vegaが、プロデューサーMitchel Froomとの出会いによって音楽性が変わり、共有する時間が多くなったことから、プライベートを過ごす時間も多くなり、公私ともどもパートナーシップを結ぶに至った、と。ここまで書いた。
 ちょっと露悪的にザックリまとめちゃったけど、考えてみればコレ、一般社会でもよくある話だよな。俗っぽい話だと、要は職場恋愛みたいなもので。有能な先輩・上司に憧れて、指導を受けたり仕事帰りに飲み屋でグチったりしてるうち、なんかいつの間にかくっついちゃったりして。
 Suzanne の場合、一般社会の上司・部下という関係性ではないけど、サウンド・プロデュースの技術スキルに長けたFroomと作業しているうち/相談しているうち、何となく打ち解けあっちゃって、気が合っちゃった次第。
 全部が全部じゃないけど、多くのアーティストの場合、ヒラメキや発想力には長けているけど、商品としてまとめる力・構成する能力が欠けている人も多い。楽曲には絶対の自信があるけど、コーディネート力がおぼつかない、また駆け出しでそのノウハウが足りない者は、外部の助力が必要となる。いわゆるプロデューサー、またはエンジニアというポジション。
 「思いつく人」と「まとめる人」、本来は対等の立場でなければならないけど、普通はプロデューサーの方が作業能力に長けているので、よほどの大物じゃない限り、どうしても作業を仕切る人間の方が立場が上になってしまう。てきぱきセッティングしたり工程表を整然とまとめたり、そんな側面に、「思いつく人」は惹かれてしまう。

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 パートナーによってコンセプトが変わったという点では、JoniもSuzanneと似たようなものだけど、キャリアの長さや業界内ポジションを比べると、Joniの方が断然上であるため、単純にひと括りにはできない。Joniの場合、ミュージシャンに憧れるというよりは、むしろ憧れられる立場、同業ミュージシャンにもリスペクトされる側の人である。
 もともとフォーク/シンガー・ソングライターの枠でデビューしたJoniだけど、まずデビュー・アルバムのプロデュースが、当時フォーク界隈でブイブイ言わせてたCSN&YのDavid Crosby だった、という時点で、すでに大御所感を漂わせている。
 男女の関係になったのが、プロデュース前だったのか後だったのか、その辺は諸説あるけど、まぁ多分ラブ&ピースの時代だったから、本人たちも覚えていないのだろう。ほぼ同時進行で、同じグループのGraham Nash とも付き合っていたらしいけど、まぁその辺もラブ&ピースといったところで。

 ただ単に惚れた腫れただけなら、そこらのグルーピーと変わらないし、リスペクトされようもないけど、彼女の場合、その肉食的なセックス・アピールをも上回るほどの音楽的センス・才能も有していた。
 ポピュラーのカテゴリには収まりきれない、変幻自在のコードワークを支えるのが、誰もマネできないギターのチューニング。一般的なEADGBEという定番チューニングでプレイすることの方が稀で、ほとんどの楽曲は、自ら考案した50種類以上のチューニングでプレイするのだから、こりゃとんでもないギター・オタク。並みの才能で追いつけるものではない。
 そんなテクニカル面でのリスペクトだけじゃなく、情熱的かつオープンな恋愛体質をさらけ出すものだから、そりゃ周囲が放っておくはずがない。いわゆる「モテキ」が延々続く状態。また本人も、チヤホヤされてまんざらじゃなかったのか、その後もJames Tylorと付き合ったり、Leonard Cohen に熱を上げたりしている。
 いわゆる「恋多き女」という異名を持ちながら、そんな世俗的な評判すら吹き飛ばしてしまう完成度と求心力を持った作品を連発していたJoni 。Steven Tyler やMick Jaggerに通ずる肉食系の出で立ちは、強烈なフェロモンを放っていた。いわゆる整った美人ではないけど、異性を惹きつける匂いがあるんだな。

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 夭折の天才ベーシストJaco Pastoriusと付き合い始めてから、彼女の音楽性は変化する。今度はジャズ。一度虜になったら、のめり込んじゃう人なのだろう。
 フォーク人脈で固められていた、これまでのスタッフも総代わり、8枚目のアルバム『Hejira』では、ジャズ/フュージョン系のミュージシャンがバックを務めることになる。
 こうやって書いてると、「男の趣味でコロコロ態度を変える女」みたいだけど、これもちょっと違う。まず「アーティストであること」が大前提としてある彼女にとって、大切なのはアーティスティックな活動から生み出される作品であり、そこから派生するパフォーマンスである。湧き上がってくるインスピレーション/着想を具現化するため、その才能やビジョンに吸い寄せられてきた男たちを利用してきた、という見方が正しい。
 普通に考えて、この時点で業界内でも盤石のキャリアを築いていたJoniなので、単に惚れた男の気を引くため、大して才能のない男を無理やりキャスティングするとは思えない。音楽的才能のないジゴロや、単に口の上手い男に入れ上げることも、ちょっと考えずらい。
 そりゃラブ&ピースの時代をくぐり抜けてきた人だから、ちょっとしたつまみ食いや、ワン・ナイト・ラブ的なものもあっただろうけど、でもそれはそれ、利用価値がなければハイそれまでよ。継続的な関係になったり、私情を交えたキャスティングにはなり得ないのだ。

 別な意味で言えばJoni 、公私混同は甚だしい。ただ、それは女として、1人の芸術家としての所業である。逆に言えば、完全なビジネスライクに基づいた関係性を築くのが難しい人なのだ。
 彼女と関わるからには、深く深く、持てる力のすべてを差し出さなければ、対等に付き合えない。いや対等じゃないよな、「差し出す」っていう時点で、上下関係ついちゃってるもの。Joni自身はそこまで思ってないんだろうけど、そんな邪気のないところが、彼女の天才性を支える所以、音楽の神に選ばれる点なのだろう。
 で、Jacoの話に戻すと、まぁいろいろ原因はあるけど、ソロ活動を開始したあたりから、様子がおかしくなる。Weather Reportでの確執も相まって、アルコールやドラッグに溺れて自暴自棄な言動が目立つようになり、2人の蜜月は終わりを告げる。
 その別離は同時に、Joni のジャズ/フュージョン時代の終焉も意味していた。同じ路線で3作も続けば、大抵のことはやり切ってしまう。あとは「ジャズ」というジャンルの掘り下げであって、新たな可能性を探る作業ではない。
 良くも悪くもひと区切り、何かとそろそろ潮時だった。

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 で、その総決算的ライブ・アルバム『Shadows and Light』の後、リリースされたのが、この『Wild Things Run Fast』。ワールド・ツアー後、カリブ海でバカンス中だったJoni 、解放的な気分も手伝って、地元のディスコへ行ったところ、当時、隆盛だったSteely DanやTalking Heads、Policeのサウンドに触れて、新たな着想を得ることになる。
 恐らく、この前後でゲフィンへの移籍のオファーはあっただろうし、それなら移籍第1弾はちょっと豪華に派手めに、といった考えもあったんじゃないかと思われる。いくらヒット・チャートを狙うアーティストじゃなくても、世間のトレンドもちょっとは頭に入れて置かなければならない。どれだけ高尚な芸術品とはいえ、流通に乗せた時点で、それは商品/ポップ・ミュージックであることを意識しなければならない。

 Jacoとのパートナーシップ解消後、どのタイミングでLarry Kleinが関わってきたのかは不明だけど、彼女がコンテンポラリー・サウンド、いわゆるヒット・チャートに入る音楽と並べても遜色ないサウンドを作るにあたり、彼が重要なファクターであったことに異論はないはず。
 Jaco同様、Larry もまたベーシストであることは、単なる偶然ではない。もっぱらギターやピアノなど、メロディ楽器を操ってきたJoniにとって、骨格となるリズムを司るベースの存在は、必要不可欠なものだった。
 フォーク時代、彼女から見たポピュラー・ミュージックの主流は、単調な8ビートかディスコの4つ打ちが多かった。そんなリズム・バリエーションの狭さでは、自身の楽曲を過不足なく表現するにはキャパ不足であり、柔軟性の高いジャズへ向かったのは自然の摂理。
 それがパンク以降をを経て、お手軽なポップ・ソングだけじゃなく、様々なジャンルを取り込んだ音楽性を持つ前記のアーティストらが、ヒット・チャートを賑わすようになった。ジャズやラテン、レゲエをごく自然に吸収して、質が高く、しかもヒットまでしているのだから。
 Joniにとっても、参戦しやすい環境になった。

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 ここから始まるロック/ポップ路線はしばらく続き、例のごとく、公私にわたるパートナーシップも並行して継続することになる。
 ちなみにJoniとLarry、その年の差13歳。世代も違えばキャリアも違う、当時駆け出しセッション・プレイヤーだったLarry、そして大御所Joni。よく交際OKになったよな、どっちの立場からしても。ゲスい見方だと、若いツバメを囲い込んだとしか思えないもの。これもミューズの、また動物的フェロモンの為せる技なのか。
 別離後のLarry は、その後もJoniと友好的な関係を継続している。ていうかこの人、別れてから誰かに足を引っ張られたり、ゴシップを暴露されたりって、ないんだよな。別れ方もスマートなんだな。きっと。
 で、Larry、もともと表舞台に出しゃばる人ではなかったけど、その後も裏方として、たびたびグラミーにノミネートされるアーティストをプロデュースしていたりして、着実にキャリアを築いている。別れた後、仕事もなく落ちぶれて消息不明になっちゃったら、面目ないけど、結果的に若い才能を発掘し、独り立ちできるまで育て上げたことは、Joni の功績のひとつと言える。



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1. Chinese Café / Unchained Melody
 フュージョンほど複雑ではなく、手数も少ないけど、歌に寄り添うプレイを聴かせるVinnie Colaiutaのドラムは、AORサウンドとの相性も良い。でもこの当時のVinnie、まだFrank Zappaのバンドにいたんだよな。よくこんな人、引っ張ってこれたもんだ。Steve Lukather (g)が参加したことでポップ性が増しているけど、正直、ここでのプレイは大人しい。これまでと勝手が違うセッションだから、まだ緊張しているんだろうか。
 ちなみにどの辺が「Unchained Melody」なのか、ちょっとわからなかった。映画「ゴースト」を観てない俺に、誰かわかりやすく教えて。

2. Wild Things Run Fast
 セッションの順番はちょっと不明だけど、ここでLukatherが本気を見せる。わかりやすいディストーションは、Joniが求めていたはずであろう「いまイケてる音」の理想像。メンバーにロック野郎が1人入っただけで、サウンドがここまで違っちゃうのは、やはり彼のポテンシャルの成せる業。そして、コーディネートしたLarryの功績でもある。



3. Ladies' Man
 ここでギターがチェンジ、常連Larry Carltonが登場。リズム・セクションは変化ないけど、こういったシャッフル系のビートになると、Lukatherの大味なダイナミズムより、繊細さが求められる。慣れ親しんだジャズ・テイストの楽曲だと、Joniのヴォーカルも心なしか軽やか。ロック的なヴォーカル技術は持ってなかった人だし、その辺は無理もない。
 ちなみに目立たないけど、コーラスにLionel Richieが参加。Diana Rossとの「Endress Love」が大ヒットして、キャリア的に最ものぼり調子だった頃の彼の声を聴くことができる。多分、セールス・ポイントだったんだろうな、彼の参加って。

4. Moon at the Window
 再び、空間を感じさせるフュージョン・サウンド。こちらも常連Wayne Shorter (s.sax)が参加しており、Joniとデュエットしてるかのようなメロディアスなプレイを披露している。ただ、4分弱とコンパクトにまとめ過ぎちゃったのが、もったないところ。それとLarry、大御所に囲まれても動ぜず、手数の多いベース・プレイ。ベーシックが4ビートでスローな分だけ、若気の至りでこれくらい走っても正解。

5. Solid Love
 ギターを担当するのは、Larryと並んでその後の常連となるMike Landau。Lukather同様、Boz Scaggsのバックバンドで脚光を浴び、互いをリスペクトし合い褒め合ったり、何かと気持ち悪いギター・コンビである。同じロックにカテゴライズされる2人であり、
 正直、どちらもバカテクなのだけど、何となくJoniの中では、コンテンポラリーなAORをLandau、力強いハードネスをLukatherと使い分けているようである。その結果、「やっぱ激しいのはムリね」と悟ったのか、その後のセッションではLandauにお呼びがかかることが多くなる。


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6. Be Cool 
 再びジャズ・スタイル。この頃のShorterは、Weather Report内がゴタゴタしてて、活動にブレが生じ始めていた頃。フュージョン・ブームの低落の上、トラブルメーカーだったJacoの脱退もあったりなど、テコ入れが必要となっていた。
 Jaco繋がりで共通の話題も多かった2人、このアルバムでは「ポップじゃない」フュージョン・スタイルのプレイに徹してる。フレーズ自体はポップだけれど、Joniの歌が安易なポップに流れるのを阻む。そんな2人のせめぎ合いを前に、周囲は黙ってバッキングに徹するしかない。

7. (You're So Square) Baby I Don't Care
 彼女の長い歴史の中でも、すっごくわかりやすい8ビートのロック・チューン。若手が多いメンバーもこの曲はプレイして楽しかったんだろうな。アウトロのリズム・プレイはやたらテンション高いし。でもね、やっぱこういったロック・スタイルなら、ギターはLukatherの方が合ってたかな。音圧が違うもの。

8. You Dream Flat Tires
 ちょっとブルース・タッチのロック・ナンバー。3.ではその他コーラス扱いだったライオネル・リッチーが、ここではがっつりデュエットで熱いヴォーカルを披露。とても「Endless Love」や「Say You, Say Me」と同じ人とは思えない。元Commodoorsだし、芸の幅が広いのは、むしろ当たり前。
 こうなると、やっぱJoniのヴォーカルの色気、いわゆるスケベ心が足りないのがちょっと惜しい。もうちょっとポップ・フィールドに合わせてくれれば、「Easy Lover」クラスのヒットになったかもしれない。



9. Man to Man
 最初のストロークを聴いて、Larry Carltonが弾いてるのかと思ったら、クレジットを見るとなんとLukather。こんなしっとり落ち着いた音も弾けるんだ。まぁ彼クラスなら普通にできるか、もともとセッション・ミュージシャンだし。ただの直球ハード・ドライビングだけじゃないのだ。
 このくらいのロックとジャズの中間、程よいAOR路線はやっぱりしっくり来る。言っちゃ悪いけど、やっぱりこの辺が彼女の適性でもあるのだ。でもJames Taylor、久しぶりにコーラスで参加しているけど、ちょっと浮いている。せっかくなら、きちんとデュエットさせてあげればよかったのに。

10. Underneath the Streetlight
 サウンドはフュージョンとハード・ロックのハイブリッド、ていうかTOTO。サウンド・デザインのモチーフとして、彼らの存在が念頭にあったことは明白だけど、やっぱ合わねぇよな、シャウトするJoniって。
 リズム・アプローチも目新しいものがあるけど、人には適正というものがあって、そうなるとこの曲なんかは習作の域を出ない。まぁやってみたかったんだろうな。

11. Love
 ラストはしっとり、ここでShorterとLukatherが初顔合わせ。基本、Shorter & Joniによるジャズ的アプローチの中、テンション・コードを効果的に使ったシンプルなプレイのLukather。ジャズ・セッションによくある「せめぎ合い」ではなく、それぞれが醸し出す音によって空間を満たす、有機的なインタープレイが綺麗に幕を閉じる。






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スザンヌさんの大胆なイメチェン作 - Suzanne Vega 『99.9F』

Front 1987年の「ルカ」の大ヒットによって、Suzanne Vega が世に知られるようになったのは、「偶然」と「必然」、それらのジャストなタイミングの巡り合わせだった。
 HeartやWhitney Houston、懐かしいところではStarship など、大味なアメリカン・ロックやソフトR&Bが上位を占める中、ヒットチャートの良心とも言うべき、良質のフォーキー・ポップが一定の支持を得たというのは、エレ・ポップに食傷気味になっていた大衆のニーズから来る「必然」、それと、80年代アメリカ音楽業界内におけるメイン・カルチャーとサブ・カルチャーとの微妙なパワー・バランスから生じた「偶然」の産物である。
 時々あるんだよな、アメリカのチャートって。不特定多数をターゲットに制作された全方位型ポピュラー・ソングに対する、カウンター・カルチャーとしてのカレッジ・ラジオの存在が、バカにできない。
 大衆的なヒットとは一線を画した、ちょっと斜め上の非商業的なアーティストが多勢を占めるラインナップが、大学生を中心とした20代の音楽ファンの支持を得ていた。ただ、年を追うに連れて、R.E.M.らを筆頭とした、カレッジ・チャート出身のアーティストがビルボード・チャートの方にも進出するようになり、世代交代の後押しを進めることになる。
 第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの勢いに押されて、新陳代謝が遅れていたアメリカ勢のカンフル剤として、ニューヨークやLAだけじゃない、地方出身のインディー・アーティストが取って替わるようになったのも、これまた歴史的な「必然」。
 そこのチャートが時々、大きくバズったりして、BanglesやTimbuk 3なんかがメジャー展開するきっかけになったりして。SmithereensやSonic Youthなんかも、スタートはここからだったんだよな。

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 デビュー間もない頃のSuzanneは、老舗A&Mによる良質なディレクションによって、純然なフォークというより、薄くかぶせられたシンセとアコースティック・サウンドとの程よいミックス、フォーキー風のポップ・バラードという印象だった。フェミニズムやエロチシズムからは遠く離れた、引っ込み思案な文学少女を思わせる出で立ちは、過剰にデコレーションされた女性アーティストと比較すると、一種の清涼剤的佇まいを漂わせていた。訥々と精々しく言葉を紡ぐ、女の子とも女性、どちらとも取れる26歳の歌声は、ひっそりとした登場の仕方だった。
 チャートで多勢を占めていた、MIDIダンス・ポップとは、感触が大きく違っている。歌をメインとするため、バックのサウンドは控えめにしてある。できるだけ意味をはっきり伝えるためか、「歌う」というよりは「呟く」といった印象のヴォーカル・スタイル。声量は大きいものではないけれど、きちんと対峙して聴けば、発せられる言葉はきちんと聴き取れる。キレイな発音なので、リスニングもしやすい。逆に言えば、ついでで聴き流す音楽ではない、ということだ。聴く方にも、それなりの姿勢が必要だ。

 多くの人が、第一印象として「地味」と思ったに違いない。まぁ弾き語りスタイル自体、派手さを競うジャンルでもないし。最初こそハードルはちょっと高めだけど、聴き込んでいくと、ニューヨークを生き抜く都市生活者の孤独、その何気ない生活シーンを素直に切り取った心象風景は細やかだ。陳腐な表現だけど、ちょっと触ればたちまちヒビが入るかもしれない、そんな繊細なガラス細工のような作品は、静かに、そして聴き手の心に呼応するように、わずかに熱を帯びる。
 決して強い自己主張があるわけではない。むしろもっと引いた視点、自ら張り巡らせた薄い膜を通して、クレバーかつ慈愛に満ちたアングルによって、作品の主人公は息吹を吹き込まれる。

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 なのでSuzanne 、基本的には、拳を握りしめて声高々にメッセージを発する人ではない。社会派を気取った発言をする人でもないし、児童虐待を含めた社会問題をあからさまに批判するわけでもない。ただ、そんな現状が身近にある。それを歌にしただけのことだ。
 ルカはSuzanne の分身ではない。ルカはあくまで歌の題材、たまたま新聞かテレビで児童虐待のニュースを見て、インスピレーションを感じ取って作品に仕上げただけの話である。彼女の歌の中では、ルカはむしろ異質なテーマであり、その多くは半径5メートル以内の身近な心象風景を切り取ったものだ。
 なので、第2第3のルカを求められても困ってしまう。市場、そしてファンのニーズはルカ的なモノにあるかもしれないけど、すでに彼女の視点は別のところへ行ってしまっているのだ。
 逆に、ここまでイメージが固定されてしまったのなら、別のアプローチを試しくたくなるのも、アーティストとしての矜持である。第一、そこまで弾き語り主体にこだわってるわけじゃないし。

 そんな事情もあって、Suzanne が『99.9F』を作るにあたり、漠然と描いていたのが、従来のフォーク・ポップ路線からの脱却だった。商業政策的には、このままソフトなBilly Bragg的路線という選択もあっただろうけど、その辺はアーティストに寛容なA&M、口出しはして来ない。
 ただSuzanne、「じゃあどんな感じで?」という具体策が独りでは思いつかなかったため、各方面へデモ・テープを送りまくる。いわゆるプロデューサー・コンペである。
 ほとんどのコンポーザーは、従来路線を基軸とした、前述Billy Bragg的アプローチだったのに対し、唯一、「俺が違う路線でやってみる、ていうか歌はいいけど、これまでのサウンドはあんまり良くないし」と手を挙げたのが、当時はまだ新進気鋭だったプロデューサーMitchell Froomだった。
 俺が彼の名前を知ったのは、Elvis Costello 『King of America』でのアーシーなハモンド・プレイに耳を引かれたからだった。それからしばらくは、キーボード・プレイヤーとしての活躍が多かったFroomだけど、エンジニアTchad Blakeとチームを組んだあたりから、方向性が一変、プロデューサー/サウンド・メイカーとして、個性と記名性の強いアルバムを次々と制作するようになる。
 彼らの初期プロデュース・ワークで最も有名なのが、Los Lobosの『Colossal Head』。誰もが「ラ・バンバ」で終わった一発屋と思っていた彼らに、当時のトレンドだった音響派要素を含んだヴァーチャル・ラテン・テイスト+インダストリアル・タッチのエフェクトをデコレーションし、そのミクスチュア感覚が、レトロ・フューチャー感を演出して、まったく新たなキャリアを築き上げたのだった。
 なんかここだけ、CDショップのPOPみたいだな。

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 『Colossal Head』でドーンと名が売れるちょっと前、どんなジャンルでもインダストリアル・エフェクトを突っ込めば、全然違うサウンドにビルドアップできる、というサウンド・コンセプトだけはあったFroomの元に、Suzanneのデモが届く。
 言葉とメロディは揃っている。ヴォーカル・スタイルだって、きちんと独自のモノを持っている。あとは飾りつけだ。足すべき音と、いらない音。
 フォーク/シンガー・ソングライターのテーゼに基づいて書かれたメロディは、破綻も少なく流麗ではあるけれど、それが仇となって、時に平坦に聴き流されてしまう。調和の取れた作品はアートではあるけれど、完全ではない。アンチテーゼとしての破壊と混乱が内包されていなければならないのだ。
 静謐なメロディとヴォーカルと対比して、通底音のように鳴り響くメタル・パーカッションの破裂音と、不似合いなノイズ・エフェクト。そのアンバランスさは、初期のガラス細工のような儚さとは種類が違う。その不安定さは、秩序の破壊を孕んだ激しい熱だ。そして、その熱はSuzanneのヴォーカルをも浸食し、体温を引き上げる。

 初期3作までは、そのクレバーさゆえ、平熱より低めのテンションでいることが多かったSuzanne だったけど、ここではタイトル通り、華氏99.9度、摂氏で言うと37.8度と、軽い「微熱」状態でいることが多い。楽曲の骨格は従来と大きく変わらないので、シンプルなアレンジの楽曲では平熱で歌っている。アルバム構成として、これは正解だ。
 全部がインダストリアル・フォークだと一本調子になって、聴く方だって疲れてしまうし飽きてしまう。今みたいに、シャッフルして好きな曲だけピックアップ、っていうんだったら何でもいいけど、まだみんな、アルバムは最初から最後まで聴き通す時代の作品である。ペース配分を考慮して選曲というのは、とても重要なファクターなのだ。

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 イメージ・チェンジというのが事前にインフォメーションされていて、市場の期待値もそれなりに大きかったのだけど、セールス的には、USで辛うじてゴールド獲得、前作までと比べ、そこそこの売り上げに終わった。「ルカ」的なイメージを求めていたにわかファンを中心に、Froomが槍玉に上がったことは、まぁとばっちり。
 ただ、彼女がここで得たスキル、そして新たな方向性への道筋がついたことは、大きな収穫だった。単なるフォーキー・ポップ以外の言語を獲得したことで、その後のSuzanneの創作意欲は旺盛になってゆく。
 その後、数作に渡って2人の共同作業は続き、それに伴ってプライベートでの距離も縮まってゆく。『99.9F』リリースからちょっとして、2人は私生活上においてもパートナーとなり、1子を授かってしまう。ほんとよく聴く話だよな、プロデューサーとアーティストの色恋沙汰。今ちょうど、テレビで小室哲哉の不倫疑惑のニュースを見ていたので、特にそう思う。
 ただ、2人のパートナーシップはそんなに長くは続かず、Suzanneの音楽性の変化、アコースティック路線への回帰を機として、わずか3年で解消に至る。ゲスい見方だけど、創作スタイルの切れ目が、縁の切れ目だったのかね。



99.9 F
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1. Rock in This Pocket (Song of David) 
 いきなり銅鑼を打つようなメタル・パーカッションが響いてくるので、最初はちょっと驚きだけど、歌に入るといつものSuzanneのスタイル。ギターを中心とした構成に変化はない。トーキング・スタイル思いきや、ちゃんとサビは印象的にメロディアスになってるし。テルミンみたいなエフェクトを始めたのは、多分Froomからかな。



2. Blood Makes Noise
 ベース・ラインがめちゃカッコいいと思ったら、AttractionsのBruce Thomasだった。こういった手数が多くリード楽器みたいな音は、やっぱりCostelloと場数を踏んでただけのことはある。あの人、ギター・ソロはめったに弾かないから、Steve Nieveが手が空いてない時は、メロディ担当しなくちゃなんないし。そういえばドラムはJerry Marotta。プロデューサー人脈からいって、ワーナー時代のCostelloのラインナップだ。
 ビルボードのモダン・ロック・チャートでは、なんと1位を獲得。



3. In Liverpool
 リバプールというタイトルなので、Beatlesについて歌ってるのかと思って歌詞を見ると、どうもあんまり関係ないらしい。どっちにしろ、俺の語学力じゃ深い考察は無理だ。誰か教えて。
 ここでいったんクールダウンして、オルタナ系は引っ込めて平熱の状態。しっとり落ち着いたフォーク・バラードは心に沁みる。シングル・カットされ、UK52位。従来イメージの楽曲は、固定客の心をつかんでいると言える。

4. 99.9F°
 ここでドラム・ループが出てくる。終始クールなスタンスで、後期のEverything But the Girlを思わせるシーケンス中心のサウンドは、微熱状態をイメージさせない。それとも、相手(男)に熱を持つよう促しているのか。
 ビルボードのモダン・ロック・チャートでは13位、UKでも46位をマーク。インダストリアル・ハウスといった曲調に合わせたコンセプチュアルなPVも、ちょっと話題になった。

5. Blood Sings
 なので、サウンドの新機軸ばかりが注目されがちだけど、こういった平熱で歌われる楽曲の良さが引き立ってくることも、Froomの計算のうちだったと思われる。やや官能的と思われる歌詞に対して、シンプルなアコギの響きが、案外いいバランス。女性を出した言葉をあまり多用しなかったSuzanneにとって、これもまた新たな試み。

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6. Fat Man and Dancing Girl 
 またまたCostelloさん人脈から引っ張ってきたJerry Scheff (b)が参加。基本、シンプルなベース・ラインの人なので、シンプルなドラム・ループとの相性は良い。寓話性さえ感じさせるトピカル風な弾き語りは、初期のスタイルを彷彿とさせる。

7. (If You Were) In My Movie
 ある男を映画の登場人物に見立て、様々なストーリーの上で動かす、といった妄想的な短編小説を思わせる。言葉が主体の楽曲にこそ、こういったリズム・ボックス的にシンプルなビートの方が、変にサウンドに注目しなくてもい。肝心なのはストーリー、そしてそれを淡々と紡ぐヴォーカルの説得力なのだ。

8. As a Child
 バグパイプとループを効果的にミックス、ベースがリードするバッキングに合わせ、軽快に歌うSuzanne。グーグルの直訳しか見てないので、確かなことは言えないけど、結構皮肉めいた警鐘めいた言葉遣いが多く感じられる。こういったのも、トピカル・フォークの伝統なんだろうな。

9. Bad Wisdom
 再び平熱タイプのアコースティック・スタイル。ニューヨークの街角に立ち、バスキング・スタイルでギターをつま弾くSuzanneの凛とした姿が想像できる。かっちりした短編小説を思わせる歌詞は、母との確執を描いている。「悪知恵」なんてタイトルをつけるくらいだから、こちらも一筋縄では行かない、毒を利かせたテイストになっている。それを淡々と歌うSuzanneの潔さといったら。

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10. When Heroes Go Down
 このアルバムの中で最もロック寄り、エフェクトを利かせたギターを前面に出したナンバー。英雄の失墜を皮肉と警句を交えた軽い内容なので、2分弱とコンパクトにまとめている。

11. As Girls Go
 シーケンス再び。根っこは変わらないのだけど、やはりリズムが立つとここまで印象って違っちゃうんだな。見境なく女と付き合う男への痛烈な皮肉は、中島みゆきの世界とリンクする。なぜかここだけ参加しているRichard Thompsonが、珍しく情感こもったエモーショナルなギター・ソロをちょっとだけ披露。

12. Song of Sand
 珍しくストレートに戦争を取り上げた、彼女なりのプロテスト・ソング。弱者へのいたわりや権力への怒りをあらわにしており、どこまでも熱い。その対比として、整然とした弦楽四重奏が、その熱を鎮める。

13. Private Goes Public
 当初は日本・EU向けのボーナス・トラック扱いだったけど、今ではこれも正規曲としてクレジットされている。シンプルな弾き語りスタイルによる、2分弱の小品。多分、何かを暗示しているのだろう、抽象的な言葉の羅列は語感を優先しているように思える。






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「女」であり、「母」であるということ。 - Laura Nyro 『Mother's Spiritual』

51iRe5jF6VL 1984年リリース、前作『Nested』から6年ぶり、7枚目のオリジナル・アルバム。US最高182位という成績なので、正直、あまり知られてない作品である。彼女が精力的に活動していたのは60年代末から70年代にかけてなので、後期の作品はどうしても印象が薄い。

 以前、初期のLauraの歌が苦手だと書いた。それは今も変わらない。
 一般的にLaura Nyroといえばその初期のイメージが強く、「キリキリ張り詰めた切迫感」「むき出しの激情ソング」という枕詞で紹介されることが多い。実際、認知度が高いのも、初期の3作に集中しているし。
 対して後期の作品は、チャート・アクションが示すように印象が薄く、日本でも本国アメリカでもやんわりとスルーされている感が強い。激動の時代を駆け抜けた後のウイニングラン、いわば全力疾走でゴールした後の余韻で作られたもの、と受け止められている。磨かれる前の原石は魅力的だったのに、いざ磨いちゃうとイヤ実際うまくまとまってはいるんだけど、変に角が取れすぎちゃって新鮮さが失われたというか。

 Lauraに限った話ではなく、キャリアの長いシンガー・ソングライターの多くは、こういったジレンマを抱えている。サウンド・メイキングの多様化を「商業主義に走った」と一蹴され、ソングライティングのスキルが上がると「技巧に走った」と責められる。
 粗野でアラの目立つ初期作品より、完成度は確実に上がっているはずなのに、古くからのファンは、いつまでも全盛期と自身の青春期とをオーバーラップさせてしまう。なので、彼らは音楽的なクオリティより、初期衝動や未完成のサウンド・スタイルを好む。
 まぁ、わからなくはないけど。

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 デビューから一時休業までの彼女にとって、音楽とは人生のすべてであり、思いのたけをぶつける手段だった。ソウルやジャズ、ゴスペルをルーツとした彼女の歌は、未加工の素材が放つ儚げな美しさを醸し出していた。白人版Nina Simone とも称されるソウルフルなヴォーカルやパフォーマンスは、あのMiles Davisさえ一目置くほどだった。
 むき出しのエゴと相反する少女性。ピアノ、そして音楽そのものとガチで格闘するかの如く鬼気迫るプレイは、ライブだけでなく、残されたスタジオ音源からも露わになっている。
 この時代のLauraに音を楽しむ余裕はない。そこにあるのは、叩きつけるピアノと絞り出す肉声、音楽そのものをねじ伏せようと足掻く力技だ。
 音楽だけでなく、自らを取り巻くすべてに対して、シリアスにならざるを得ない時代だった。自分の表現を押し通すため、拳を握り奥歯を噛みしめることが、60年代を生き抜くライフスタイルだった。身を守るために尖らせたヤマアラシの棘は、聴く者の心を搔きむしり、時に容赦なく深い傷痕を残した。

 70年代に入り、潮が引くように喧騒が収まり、真空状態のような空白が訪れた。平和な時代の到来と共に、棘はその突き刺す対象を失った。握りしめた拳はぶつけるべき対象がなくなり、ただ虚を打つばかりだった。
 どこかに怒りをぶつけていないと収まらない者は、時代のステージから降りていった。怒りの対象は曖昧模糊に形を変え、巧妙に表舞台から姿を消していた。60年代の余韻は怠惰と虚無に紛れていった。
 憑き物が落ちたように、Laura もまた、握りこぶしと張り詰めていた糸を緩めた。パートナーを見つけ、そして新たな命を授かった。かつて心の寄る辺にしていた音楽に取って代わり、新しい家族が彼女にとっての生きがいとなった。
 そして彼女は一旦ステージを降り、家庭に入る道を選んだ。それに伴って、引きつっていた笑顔が少し和らいだ。子ども相手には、その方がよい。

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 ハイペースでアルバムをリリースしていた引退前と比べ、復帰後の彼女のリリース・ペースはひどく緩慢になった。
 一時、音楽業界から身を引き、客観的な視点を身につけたLaura の音楽は、明らかに変化した。素朴なピアノ弾き語りと、豊かな表現力を持つ歌声だけで成立していた初期と比べ、ジャズ・フュージョン系のミュージシャンを多く起用して、緻密なアンサンブルを構築するようになったのが後期である。ネガティヴな恋愛観を主軸としたパーソナルな世界観は一掃され、家族愛や自然への賛美など、地に足のついた一人の母親の目線は、後期に培われた。
 それは、音楽のミューズに愛されたアーティストとして、成長の証である。でも大抵、古くからのファンは劇的な変化を嫌う。いつまでも「あの頃」のLauraを求めてしまうのだ。前を向いて進むアーティストにとって、それはめんどくさい相手である。

 あまりにテンションの高いパフォーマンスゆえ自制が効かず、例えばレコーディングにおいても、テイクごとに全力を使い切ってしまう。体力的な問題もあったのか。ほぼリテイクなし・一発録音で仕上げていたのが、初期のLaura である。細かなアラやミスプレイもなんのその、整合性よりエモーショナルな部分を重視していたため、バック・トラックにまで気を配る余裕を持てなかった。
 対して熟考を重ね、レコーディングに時間をかけるようんなったのが、復帰後のlauraである。

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 取り上げるテーマが母性愛やフェミニズムに傾倒するに従い、Lauraのサウンドはバンド/アンサンブル主体に移行してゆく。感情の赴くままパッションをぶつける、ピアノをメインとしたシンプルな初期サウンド・スタイルは、コンセプトとフィットしなくなっていた。大らかな母性を含んだLaura の歌声と言葉は、フュージョン系のアーティストを多数起用して、彩りの深いソフト・サウンディングを希求した。
 これまでとは違うベクトルのメッセージを余すことなく伝えるため、サウンドには緻密さと確かな表現力が求められる。レコーディングにかける時間は膨大なものになった。
 復帰後間もなく、彼女はシングル・マザーとなり、家族と過ごす時間を何よりも優先した。並行して、表現者としての自分もいる。家族優先での活動は断続的となり、まとまった時間を取るのも困難になる。
 家族と過ごす時間を優先し、何年かに一度、まとまった時間を捻出して音楽活動を行なう女性アーティストとして、竹内まりやとダブる部分も多い。ただ、まりやは山下達郎という、公私を共にするパートナーに恵まれたおかげで、焦らずマイペースな活動ぶりである。
 離婚後のLauraもまた、プライベートにおいてはMaria Desiderioというパートナーと出会ったけれど、音楽面での固定したパートナーは、遂に持たずじまいだった。両方を満たすパートナーに出逢えなかったのか、それとも、彼女が要求するレベルに達する者がいなかったのか。
 そうなると、すべてを独りで行なわなければならない。

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 『Mother’s Spiritual』制作にあたり、一時的にパートナーシップを組んだのが、旧知の仲だったTodd Rundgrenである。関係ないけど、そういえば山下達郎に雰囲気似てるよな。
 この時期のToddは、ソロ・デビューから長らく所属していたべアズヴィルと契約解消し、少しの間、表舞台から遠ざかっていた頃である。シングル・ヒットを狙ってパワー・ポップ路線に転じていたUtopiaは、セールス不振によって活動がフェードアウト、ソロ・アーティストとしてよりプロデューサーの仕事が多くなり、何をやってもうまく行かなかった時期にあたる。
 もともと、『A Wizard, A True Star』でのブルーアイド・ソウルへの熱烈なオマージュも、「Gonna Take a Miracle」を始めとしたLauraの歌からインスパイアされたものであるし、Nazz時代にバックバンド結成を持ちかけられたりなど、まぁ狭い業界なので何かと繋がりはあったらしい。
 アーティストとしては互いにリスペクトはしているのだろうけど、何となくToddが便利屋的にこき使われてるんじゃないかと思ってしまうのは、きっと俺だけではないはず。Lauraを有能なアーティストとして見ていたのか、それとも1人の女性として見ていたのか―。
 振り回されてる感のあるToddの本心は半々だったろうけど、少なくともLaura にとって、Todd Rundgrenという男性は重要ではなかった。彼女のため、スタジオ・ワークの細々した仕事や調整を引き受けてくれる彼に、好意以上の思いを持っていたとは思えない。
 結局、Liv Tyler の時もそうだったけど、恋愛対象になるほどじゃないんだよな、この人。

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 女性シンガー・ソングライターにありがちな、「男女間の恋愛」というパーソナルな狭義に収まらず、もっと広いレベルの人間愛や家族愛、そしてオーガニックな自然への感謝が、『Mother’s Spiritual』のメインテーマである。女性運動への傾倒もあって、フェミニズムを礼賛する曲も含まれているのだけれど、これは前述のMarioとの出逢いが大きく影響している。
 『Mother’s Spiritual』は1982年からレコーディングが開始されているが、そのセッションでは納得いく仕上がりが得られず、年末に一旦録音を中断している。復帰以降のジャズ・フュージョン系サウンドは、Laura自身のシビアなプロダクションによって、当時望めるべく最高のサウンドに仕上がっていたけど、彼女のジャッジはさらにレベルが上がっていた。
 -こんなんじゃ足りない。
 頭の中で思い描くサウンドの具現化のため、Lauraは15万だか20万ドル以上をかけて、自宅スタジオを新設する。思い立ったらすぐ、インスピレーションがひらめいたらすぐにレコーディングできる環境を手に入れたことによって、彼女の創作意欲は拍車がかかることになる。
 プレイヤビリティは尊重しながら、あくまで歌をメインに聞かせるためのサウンドを追求した末、『Mother’s Spiritual』で一応の帰着点を得た。一聴する分には、単なる耳障りの良いAORだけど、聴きこんでゆくにつれ、隅々までLauraの主張と美学が濃密に刻まれているのが感じられる。


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1. To a Child
 世の中は悪意と欺瞞に満ちている。まだ知恵も経験も乏しい子供を守るために、母親は慈愛のまなざしを持って、外部から必死に守らなければならない。愛息Gilはまだ6歳。目を離せない年頃だ。自ら選択したシングル・マザーという生き方に対し、まだ気張っていた心情が窺える。
 後年、『Walk the Dog and Light the Light』にてセルフカバーしており、そこでのLauraはピアノ1本をバックに芯の強い女性として振る舞っていた。ここでの彼女はサウンドに細やかに気を配り、日々の疲れを感じさせる力ない口調である。どちらも彼女の本質だけれど、俺的にはここでの「To a Child」が好みである。



2. The Right to Vote
 初期のR&Bタッチを想起させる、軽快なカントリー・ロック。そう、サウンド自体は結構泥臭いのだけど、Lauraの声はむしろ冷静なのだ。バックトラックのドライブ感と、心ここにあらずといった感のヴォーカル&ピアノとの齟齬は、すでにサウンド的に次の方向性を模索していたことが現れている。

3. A Wilderness
 なので、変にバンド・グルーヴを強調するより、このようにヴォーカル・バックアップに徹した「ちょっと引いた」アンサンブルの方が、スタジオ・トラックとしては秀逸。ライブだと2.の方が映えるのだけれど、マザー・アース的なテーマの曲には静謐なサウンドの方が親和性が高い。この曲もそうだけど、ギターの音が太い。繊細に爪弾いているだけにもかかわらず、存在感が強い。こういった響きにも凝ったんだろうな。

4. Melody in the Sky
 ちょっとだけファンキーなギターのカッティングから始まる、セッションっぽくレコーディングされているナンバー。初期の彼女ならエゴが出過ぎていたところだけど、肩の力を抜いて軽く流す感じなので、聴く方もまったりできる。

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5. Late for Love
 サウンド的には1.のバリエーションといったアレンジ。マザーアース的なテーマでは、ヴォーカルを活かした「引いた」サウンドになるのは、次作『Walk the Dog and Light the Light』でも引き継がれる。

6. A Free Thinker
 「自由な思索家」と訳すのか、ソングライターとして表現者としての自身を相対化したファンキーなバンド・サウンド。でも最後は「地球を救えるでしょうか?」で締めちゃうんだよな。まぁそういうアルバムだから、仕方ないけど。

7. Man in the Moon
 Toddがシンセでクレジットされている。とはいってもこれまでのバンド・アンサンブルに変化はなく、彼の存在感は正直薄い。ていうか、「いたの?」といった感じ。うっすらコーラスに参加しているっぽいけど。
 考えるに、バンド・スタイルのレコーディングはToddがバンマス兼アレンジ補助といった感じの役回りだったと思われる。何かと要求の多いLauraと実働部隊であるバンドとの橋渡し役といった感じで。なので、ほぼ全編セッションにはいたのだろうけど、段取りを組み立てるのが主でミュージシャンとしては目立った演奏はしておらず、クレジットをどこかに入れとこうか、とねじ込んだのがこの曲だったわけで。

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8. Talk to a Green Tree
 ちょっと不穏さをあおるコード進行と演奏による、フェミニズム寄りのマザーアース楽曲。サウンド的には最もグルーヴ感とキレがあるのが、このトラック。人によっては説教くさい歌詞に聴こえるかもしれないけど、洗練されたブルース・ロックは捨てがたい。

9. Trees of the Ages
 再びTodd参加。コスミックなシンセの音色は、壮大な地球を憂うLauraの思想とフィットしたのだろう。彼もいくつになっても夢見がちなキャラクターだし。でも、女性という点において彼女の方が地に足がついており、そこに微妙な齟齬が生じた。繋ぎとめてくれるタイプの女性じゃないしね。

10. The Brighter Song
 曲調としては穏やかだけど、女性の権利と自然保護を高らかに訴える、結構肩に力の入った歌。そういったテーマを抜きにすると軽快なミドル・チューン。でも切り離して考えられなんだよな。

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11. Roadnotes
 ローズっぽい響きのエレピはこれまでとタッチが違うので、Laura自身の弾き語りと思われる。冒頭からいきなりジプシーなんて言葉が飛び出し、時間軸も宇宙レベル。ただ主題はパーソナルな家族との時間。壮大なテーマだな。

12. Sophia
 Doobieっぽいファンキーなオープニングが単純にカッコいい。Lauraのヴォーカルも心なしか熱がこもっている。でも、初期のような混沌はなく、きちんとコントロールされたアンサンブル。どの曲もそうだけど、3~4分程度にまとめられてるので、ダラッとした印象がないのも、このアルバムの秀逸な点。



13. Mother's Spiritual
 ラストはしっとりピアノのみのバラード。「愛と平和」をテーマにしていると抹香くさく思われがちだけど、そんな揶揄も凌駕してしまう「すっぴんの力」。「女」であり「母」であるという時点で、大抵の男はすでに「勝てない」ということを思い知らされる。

14. Refrain
  Gilの笑い声を交えた1.のループ。親バカと思われようが構わない。そういった決意を盤面に刻み、アルバムは終焉を迎える。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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