好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Rock

アーサー・ケストラーなんて怖くない- Police『Ghost in the Machine』

folder 1981年リリース、前作『Zenyatta Mondatta』 からきっちり1年のブランクで制作された、4枚目のオリジナル・アルバム。この時期になると、世界的にもパンク~ニューウェイヴバンドのオピニオン・リーダーとしてのポジションが確立されており、UK1位US2位は指定席みたいなものだけど、日本ではオリコン最高29位と。
 これだけ見ると、洋楽アーティストとしてはまぁ健闘したかな?といった感じだけど、前作が16位、これの次の『Synchronicity』が17位となっているため、このアルバムで失速してしまった感が強い。なので、日本ではちょっと影の薄く、習作的扱いとなっている論調が強い。「『Synchronicity』において完成されたPoliceサウンド」に至るまでの過渡期の作品、てな感じで。

 世界中で売れに売れた『Zenyatta Mondatta』を引っ提げて行なわれた世界ツアーは、1年強で全86回ものショウに及んでおり、その間に『Ghost in the Machine』制作に向けてのプリプロや曲作りも行なっているのだから、彼らが質量ともにハンパないレベルのハードワークをこなしていたか。それにつけ加えて、各メディアからの取材やらTV・ラジオ出演やらも行なっているので、とにかく休まるヒマがなかったはずである。彼らだけに限らず、この時代のアーティストらのワーカホリックぶりが窺える。

thepolice

 今ではアーティスト・サイド主導による余裕を持った活動ペースが主流となっているけれど、90年代くらいまではレコード会社コーディネートによる「アルバム・リリース → プロモーション・ツアー → アルバム・リリース」という無限ループが当然とされていたため、楽曲制作に多くの時間をかけられないケースが多々あった。ツアーの合間を見ながらレコーディングしたり、またはレコーディング最中に楽曲制作に追われたりなど、クオリティの追求とは相反する状態こそが、むしろ通常でさえあった。当然、ライブ会場とツアー先のホテルとの往復ばかりの毎日では、アーティストとしての耐用年数は加速度的に減じてゆく。作品の出来はムラが多く、同じ曲ばかりリクエストされるライブでは、心身ともに消耗が激しくなる。
 何やかやのストレスの捌け口、爆発手前のガス抜きとして、大抵のアーティストなら一度は過剰な酒やセックスに走ったりする。もともと清廉潔白な者の方が少ない業界なので、多少のおいたは致し方ないところ。ある程度遊び慣れてる者ならそれで済んじゃうんだろうけど、変に真面目というか依怙地な人だったら、その辺の切り替えがうまくできなくて、終いには怪しげな宗教やドラッグに走っちゃったり、あげくの果てには自ら死を選択したり。何ごとも根を詰めすぎるのは良くないよね。
 Policeの場合だと、そこそこ分別はあった人たちっぽいので、大きくハメを外したエピソードは聞かない。まぁ世界各国を回ってるうち、ちょっと過剰サービスの接待や乱痴気騒ぎはあったんじゃないかと思われる。そういった情報統制やメンバーのメンタル面のケアなど、世界的にメジャーなアーティストになると、きちんとした管理が重要となる。その辺はStewart Copeland の実兄Milesのマネジメント力によるものが大きい。

64636_1206839739483_full

 新人パンク・バンドとしてデビューしたPoliceだけど、新人というわりには3人ともとうが立っており、素人に毛が生えた程度の他のバンドとは明らかに毛色が違っていた。パブ・ロック上がりのようにパンク以前からの下積みが長かったわけではない。別のジャンルで相応のキャリアを積んでいた熟練プレイヤー達が、パンク・ムーヴメントの追い風に乗って戦略的に結成されたバンドである。「売れる」ことが大前提にあったため、そもそもの成り立ちが違っていたのだ。
 プログレやジャズ、60年代ロックをバックボーンに持つ卓越したプレイヤー達が、敢えてそのテクニックを封印し、単調な8ビートとルート音のベース、シンプルな3コードでデビューしたのも、戦略のうちだった。変拍子や速弾きプレイが前時代的なものとして受け入れられなくなった70年代中葉、注目を集めるためには熟練の職人技はむしろジャマでしかなかった。
 後方伸身宙返りもマスターした優秀な体操選手が、近所の体操教室のレベルに合わせてでんぐり返しばっかりやっていると、フラストレーションは溜まるし技術レベルも低下する。朱に交れば何とやらで、自らミッションを課しないと思考レベルまで周囲に引き寄せられてしまうのだ。そんな事態を憂慮したのか、他のチンピラバンドとの差別化としてレゲエを取り入れたり、暗喩や隠喩を絡めた歌詞世界など、自分たちで飽きが来ないように手を尽くしていたわけで。

6201761189_929432a1b9_b

 今でこそ、wikiやらファン・サイトやらで、彼らの詳細なバイオも簡単に調べることができるけど、活動当時は前述のバックボーンや音楽性のルーツなど、よほどのマニアでもない限り、広く知られていなかった。Curved Airや後期Animalsのファンと、パンク〜ニューウェイヴのファン層とがほぼ被らなかったおかげもあって、彼らの前歴がばれることもなかった。その辺はマネジメントの方も、巧妙に隠していたわけで。
 なので、前歴を知っていたPoliceファンというのはほぼいなかったため、3ピース・パンク色が払底された『Ghost in the Machine』の登場は、青天の霹靂だった。これまではあくまでパンク~ロックンロールの文脈で組み立てられていたサウンドが、80年代を代表するプロデューサーHugh Padghamの手によってコンテンポラリー色が一気に増した。前作とは大きく色合いを変えたサウンドは、ほんの少しだけ物議を醸した。
 シンプルな3ピース・パンクこそ至上のサウンドである、とするPolice原理主義者らはその路線変更を良しとしなかったけれど、そこまでガチガチだったのはごく少数で、彼らの声は論議にもならずフェードアウトした。

 破壊と創造の連鎖だった70年代が終わり、虚無と享楽の80年代が始まっていた。「何でもアリ」のニューウェイヴ・ムーブメントの最中に提示された「プロフェッショナルにカスタマイズ」されたサウンドは、新たなファン層の拡大に貢献した。
 シンプルなサウンドも3枚続けば、さすがに新味も薄くなってしまう。わずか3つの楽器だけでは、バリエーションといったって限界がある。あとは自己の無限コピーか拡大再生産、または思いっきりアバンギャルドに向かうしかなくなってしまう。「売れる」ことは一先ず達成したけど、「売れ続ける」には臨機応変な判断が必要となる。3ピースで構成されるサウンドの臨界点が『Zenyatta Mondatta』だとすれば、次回作は新たな切り口が必要となる。
 路線の軌道修正には、ちょうどいい頃合いだった。周囲に右ならえのでんぐり返しから、いきなり2回転半宙ひねりを繰り出した瞬間である。
 彼らが本気で世界レベルでのスターダムに向けて動き始めた。

photo_ghost_tour_640

 デビューからの3作がプラモデルでいう、色もデカールもつけていない素組みだったとすれば、その後の2作はカラーリングや陰影をつけた立体感のある完成品である。ただ、半ば活動休止を前提として制作された『Synchronicity』を総決算として捉えるとすれば、この『Ghost in the Machine』こそがPoliceサウンドの完成形ということになる。今後の3人それぞれの方向性を示唆する作品の集合体『Synchronicity』以前、ソングライターStingの覚醒を素材として、他2人が対等の立場で料理していった結果が、『Ghost in the Machine』という近未来テイストの濃い作品として結実している。
 彼らの演奏スキルを持ってすれば、そのStingの成長より以前、もっと早い段階から完成形のビジョンは見えていたはずである。ここまで哲学的にならなくとも、楽曲テーマの深化、またサウンドのゴージャス感アップは可能だったんじゃないかと思われる。
 ただ、彼らはここに至るまではそこに手をつけなかった。
 「機が熟すのを待っていた」という見方もあるけど、彼らのアイディアの具現化に、レコーディング技術やマシン・スペックがやっと追いついた、というのが真相に近いだろう。これがもう1、2年早かったら、リズムにメリハリの効いたプログレ程度で終わってたんじゃないかと予想される。

 デビュー当時からほぼエンドレスで続けてきた、足かけ3年に及ぶ世界ツアーを終え、彼らはカリブ海に浮かぶ孤島モンセラートへ向かう。そこにはGeorge Martin所有のエアー・スタジオがあり、当時は数々の著名アーティストらがレコーディングで訪れていた。人里離れたリゾート地も兼ねていたため、まぁ長期休暇には格好の立地だったとも言える。実際、どのアーティストもレコーディングよりビーチでくつろぐ時間の方が多かったらしいし。
 Policeの場合も例外ではなく、バカンスを兼ねてだったけれど、そこは前述のCopeland兄の仕切りによってレコーディングの方に比重が置かれていた。バカンスのくせに作業工程表はタイトに組まれており、しかも凝り性ばかりの3人がゆえ、結局はスタジオ内にいることが多かったというのは何とも皮肉。
 デビュー当時から、3人顔を突き合わせると殴り合いのケンカになるのは日常茶飯事で、この時も何かあるたびに衝突が絶えなかったらしいけど、Hugh Padghamの采配によって、どうにかレコーディングは工程通り進められた。バンドとして一丸となってサウンド・メイキングに注力した最後の作品が、この『Ghost in the Machine』である。個の集合体としての結果報告が『Synchronicity』なら、バンド総体の相乗効果の最終形は『Ghost in the Machine』ということになる。
 マルチ・レコーディングの功罪として、メンバー個別でブースに入ることが多くなるのが、この時期からである。この後は、バンド・サウンドとしてのPoliceを第一として考えていたCopelandから、バンドの主軸がSting に移り、ソングライター視点でのパーソナルな色彩の楽曲が多くなってゆく。次第にバンドとしての存在意義が薄くなってゆくのだ。


Ghost in the Machine (Dig)
Ghost in the Machine (Dig)
posted with amazlet at 17.05.11
Police
Interscope Records (2003-03-04)
売り上げランキング: 73,249



1. Spirits in the Material World
 コード弾きシンセのリズムはレゲエというより、もはや優美なワルツの如く。のっけから「僕たちは物質文明社会の魂なんだ」という、ポップ・ミュージックの語彙にはないサビを無機的にリピートするSting。ゴシック・ロック調のミニマル・フレーズは淡々と、それでいて既存のPoliceのイメージを次第に浸食してゆく。明らかに手触りが違っている。よく初っ端からこんな重い曲持ってきたよな。

2. Every Little Thing She Does Is Magic
 入口をダークなテイストで彩ることによって「これまでと違う」感を演出したのだけど、営業政策的なのか打って変わってポップなロック・チューン。彼らにしては歌詞もお手軽なラブ・ストーリー仕立てとなっており、シングルとして選出されたのも頷ける。シングルでUK1位US3位は、彼らの歴史の中でも大きく売れた部類に入る。



3. Invisible Sun
 『Ghost in the Machine』が彼らの作品の中でもダークな部類に入ることはファンなら周知の事実であり、大抵の楽曲なら好意的に受け取るものだけど、しかしこの曲をリード・シングルとしたことに違和感を覚えたユーザーは多かったんじゃないかと思われる。あまりに違うもの、以前とまったく別のバンドだし。
 当時、社会問題として英国では深刻化していた北アイルランド紛争をテーマとした楽曲は、必然的に陰鬱なテイストで彩られることになった。そういったメッセージ性・告発を行なうことはアーティストとしての義務である、と目覚めたのがStingだけど、他2名はあまり気乗りしなかったことは、後のインタビューでも明らかになっている。そういった視点を持つことが後のロック・セレブ化に繋がるわけだけど、いまにして思えば胡散臭さの方を強く感じてしまう。

4. Hungry for You 
 なので、極端にメッセージ性を露出させていない、旧来Policeサウンドに最も近いこの曲は、重苦しいムード漂う中においてはひと休みできるポイントであり、ごく普通に楽しめる。そうだよな、初めてこのアルバム聴いた時、何回か聴いただけで投げ出しちゃったけど、この曲だけはよくリピートして聴いてたもんな。



5. Demolition Man
 後にSylvester Stallone主演の同名映画に発展した、ソリッドなロック・ナンバー。ここではAndy Summersが大きくフィーチャーされて、印象的なリフとオブリガードを数多く披露している。ちょっと不協和音気味のホーンもアンバランスな状況を示唆しており、ダークではあるけれど当時から好んで聴いていたナンバー。もともとはGrace Jonesのために書かれた曲らしいけど、そっちはまだ未聴。ちなみにこの曲、彼らの中では6分と、最も長尺の曲。内容的にはプログレ的なテイストであるので、そういったテーマをたった6分で収めてしまうところに、彼らの気前の良さと構成力の妙が発揮されている。

6139

6. Too Much Information
 ここからアルバムではB面。ちょっと軽快なホーンとフリーキーなAndyのギター・ソロ、威勢のいいStingの掛け声。何となくこの辺にリゾートっぽさを感じてしまうけれど、リズムの重さはダークな世界観を支配する。たった3分にまとめられた勢い一発のナンバー。

7. Rehumanize Yourself
 B面曲のくせにやたらとポップで性急なスカ・ビートが印象的なナンバー。以前だったらこういった曲を軸にアルバムが制作されていたのだけれど、この配置だとまるでオマケの曲、アウトテイクから引っ張り出してきたかのような場違い感を醸し出している。いや俺はこういったPoliceが好きなんだけど。間奏の消防車のサイレンのようなホーンは特に印象的。

8. One World (Not Three)
 前曲に続き、リゾートっぽさが出たポップ・レゲエ。リズムの組み立ては完全にダブで、ほぼワン・コードでサビのフレーズのみで構成されている。灼熱の太陽の下、ジンライムでも飲みながら延々と聴き続けていたい曲である。

9. Ωmegaman
 多分、2枚目か3枚目に収録されていれば、アルバムの核として人気を博したナンバーになったのだろうけど、ここではいまいち場違い。程よいロック・テイストとちょっぴりの狂気。シンプルな8ビートは疾走感に支配され、リズム・アレンジも絶品。だからこそ惜しいのだ、こんな扱いで。

the-police-every-little-thing-she-does-is-magic-am-5

10. Secret Journey
 アメリカでなぜかシングル・カットされ、46位にチャートインしたロック・ナンバー。ちょっと骨太なニューウェイヴ・バンドのシングルB面的な扱いの曲で、構造的にはシンプルでありながらエフェクトなんかで遊んでる感じ。曲はいいと思う。想うのだけれど。要するに、俺はこの曲、それほど興味がないのだ。


11. Darkness
 ここまでいわゆる「ロック」の文脈で構成されてきたこのアルバムだけど、Stewart作のこの曲だけ、ちょっとテイストが違っている。落ち着いたテイストでありながら、地を這うように鳴り響いているのは複雑に細かく刻まれたリズムの洪水。Andyも滅多に使うことのない逆回転ギターで存在感をアピールしている、。よく聴くとかなりアバンギャルドな実験が飛び交う曲でもある。
 そんな中でただ一人、朗々とペースを崩さず歌い、リズム・キープに徹したベースを奏でるSting。みんながみんな、あっちこっちへ行ってしまっては収拾がつかなくなる。それぞれのポジションを窺いながら振る舞うことが、バンド維持の秘訣でもある。



GREATEST HITS 1978-83
GREATEST HITS 1978-83
posted with amazlet at 17.05.11
POLICE
POLYS (2000-09-04)
売り上げランキング: 3,955
ポリス/サヴァイヴィング・ザ・ポリス [Blu-ray]
キングレコード (2016-11-09)
売り上げランキング: 116,629

すごいぜ!カマキリ号 - Donald Fagen 『Kamakiriad』

folder -このアルバムは、ナレーターがハイテク自動車「カマキリ号」に乗って旅をする、というテーマの近未来的な連作歌曲である。タイトルの『カマキリアド』とは、日本語の「カマキリ」と、ギリシャ古典文学『イリアス』の英語表記である「イリアッド」を合わせたものである。

 厨二病を拗らせた漫画青年が、少年雑誌に持ち込んでボツになった作品のようなコンセプトで作られた、Donald Fagen 2枚目のソロ・アルバム。久しぶりの表舞台にもかかわらず、何でこんな捻くれた設定を思いついたんだろうか。いや、長いブランクが逆に仇となったんだろうな。目玉集団のResidentsが喜んで取り上げそうなテーマだもんな。
 現実寄りのレトロ・フューチャーを狙ったと思われるSFっぽいインパネのイラスト・ジャケットは、正直、センスの良さは感じられない。ていうか『Aja』から『Nightfly』に至る洗練されたジャケット・デザインが特別であって、Dan関係のジャケットはほぼすべてが悪趣味の塊である。「遅れてきたサイケデリック」満載のデビュー・アルバムといい、正面切ったカマキリのズーム・ショットの『Katy Lied』といい、どの辺にアピールしたいのか、さっぱり見当がつかない。
 こういった底の浅い思わせぶりもまた、Danの魅力のひとつである、と言いたいところだけど、真剣に受け取ってはいけない。多分、彼らにとってはすべてがジョークの範中なのだから。

 まだビルボード・チャートがラップやグランジに支配されていなかった1993年、世間的には大ヒット映画『Bodyguard』相乗効果によるWhitney Houston 「I Will Always Love You」が首位を独走していた頃、『Kamakiriad』はリリースされた。ジャケットといいコンセプトといい、普通に考えれば一般ウケしそうにない作品であるにもかかわらず、『Nightfly』以来10年ぶりのソロ・アルバムということで、リリース前からマスコミ、メディアは盛り上がりを見せていた。正直、日本での知名度は高い方ではなく、その『Nightfly』のジャケットは見たことはあって、多分、ラジオや有線で耳にしたこともあるだろうけど、そもそもDonald Fagenって誰?という程度の扱いだった。ただ、当時の洋楽配給においてほぼ独り勝ち状態だったワーナーの販促キャンぺーンはかなりの力の入りようで、ロキノンを始めとする雑誌媒体への出稿やFMでのパワー・プレイ、タワレコでのレコメンド展開など、出せる手はとにかく尽くしていた。
 その甲斐もあって、US10位UK3位、日本でもオリコン最高7位にチャートインしている。CDセールスにおいてミリオンが連発、輸入盤販売もピークの時期だったため、もしかするとSteely Dan関連では日本で最も売れたアルバムかもしれない。

tumblr_inline_nkfvbmI9HW1sbrjwg

 その反面、初動はめちゃめちゃ良かったけど、売り上げ・評価も含めてその後の落ち込みようはハンパなく、リリースされて間もなくして途端に話題にのぼらなくなり、中古CD市場には大量の『Kamakiriad』があふれ、ほぼ新譜にもかかわらず値崩れを起こした。
 それまでの熱烈な『Aja』『Gaucho』原理主義的コア・ユーザーにとっては淡泊すぎ、キャンペーンに乗せられて雰囲気で購入してしまったライト・ユーザーにとって、曖昧でわかりづらい彼のサウンドはヘビロテする類のものではなかった。
 一聴するとシャレオツで機能性抜群のサウンドと受け取られる後期Danを好む層は、どの時代にも一定数存在していたため、『Aja』~『Nightfly』の作品群は、恐ろしく長いロングテール型の販売曲線を描いていた。決して大きくバズッたりはしないけど、その軌跡は今も連綿と続いている。
 で、その連鎖をぶった切ってしまったのが、この『Kamakiriad』と言われている。

 要はユーザーが要求する『Aja』~『Nightfly』のクオリティに達していなかった、ということではある。ただ、構想も含めて10年かけて熟成された作品なので、完成度が低いわけではない。テンション・コードを多用した揺らぐメロディと形而上学的な主題は相変わらずだし、いくらでも深読み可能な言葉もそこかしこに散りばめられている。
 Steely Danの音楽を形容する際、「謎解きのような音楽」と称されることがあるけれど、ただそれなら『Kamarikiad』も同様である。変ちくりんなコンセプト・設定が象徴するように、思わせぶりな態度は相変わらず、以前にも増してその狡猾さは磨きがかかっている。
 なのに、これまでと扱われ方が違うのはなぜなのか。

4-11

 末期Steely Danで顕著となるのが、今も語り継がれるアナログ・レコーディング技術の総決算、限りなくマニアックでありながら、あらゆるシーンにおいて汎用性を持つ、アーバンでメロウなAOR的世界観である。ミュージシャン・クレジットにこだわる音楽通を唸らせるだけでなく、シャレオツな空間でも何ら違和感なく、環境音楽と同じ機能性を有しながら、どこか不穏な後味を残せるのが、彼らの優位性だった。消費型のBGMとして聴き流すこともできると同時に、不特定多数のごく一部の琴線に、わずかな揺らぎを与えることができたのは、彼らくらいである。
 プラチナ獲得アルバムを連発しながら、そのあまりに選民性に満ちたサウンド世界は、レコーディング時間の増大と比例して袋小路にはまってゆく。完璧さを追求するがゆえ、その空間は息が詰まるようになる。すでにDan末期、マン・パワー頼りのアンサンブル構築は時代遅れになりつつあり、もっと効率的なMIDI同期機材の進歩が取って変わりつつあった。彼らが追い求める「完璧なサウンド」は、その強い断定性がゆえ、帰着点を失ってしまっていた。

 ある意味、Dan時代の余力で制作された初ソロ『Nightfly』以降、Fagenの足取りはパッタリ途絶えてしまう。
 とっくの昔にライブ活動からは引退していたので、当然のようにツアーは行なわれず、いくつかのインタビューに応えた以外は、ほぼ表舞台にも出なかった。最小限のプロモーション活動を行なった後は雲隠れしたかのように、忽然と姿を消してしまう。
 『Kamakiriad』リリースの少し前、ほぼ仲間内で行なわれた『The New York Rock and Roll Revue』に参加するまでのほぼ10年、彼は音楽シーンからきれいに痕跡を消し、沈黙を貫いた。
 その10年間、プライベートでの良からぬ噂も囁かれているけれど、イマイチ真偽がはっきりしないので、憶測で書くことはやめておく。ただ、創作上のスランプについてはホントっぽいので、そこの部分に絞って憶測で書いてみる。

140706-00

 70年代に主に活動していたにもかかわらず、Danが他の同時代アーティストと違っていたのが、「アルバム・コンセプトの曖昧さ」である。
 一部の難解さを装ったプログレやファンタジー性の強いシンフォニック・ロックに代表されるように、特異な大風呂敷が許されていた70年代において、一曲入魂の小品集スタイルを貫いた彼らのスタンスは、小細工を弄じることのない潔さがあった。彼らの多くが、文学的かつ哲学的なお題目を掲げながら、その割にはえせメランコリックなオーバーチュアや底の浅い紋切り型のメッセージで尺を稼いでいたのに対し、ほんの僅かなワンフレーズにも大量のリテイクやミックスを重ね、膨大なマテリアルを推敲し削ぎまくった末に、これ以上足しも引きもできない純度の作品を、Danは作っていた。二流のアーティストがアルバム1枚に注ぎ込むエネルギーを、わずか一曲に落とし込んでゆくことこそ、彼らの制作ポリシーであったと言える。
 それが80年代になると、前述したようにテクノロジーの進化が従来のレコーディング・プロセスを浸食し、職人技を存分に発揮したサウンド・デザインは次第に減ってゆく。普及化に伴うデジタル機材の廉価傾向と反比例するように、スタジオ使用料の高騰は作業時間の圧縮を余儀なくされ、Danの特性である長期間のスタジオ占有と有名ミュージシャンの起用は難しくなりつつあった。輝かしい実績を持つ彼らでさえそうなのだから、他の二流ミュージシャンなどは推して知るべし。

 そんな事情もあって、Fagen並びにプロデューサーWalter Beckerらが新機軸としえ設定したのが、冒頭の「カマキリ型オートモービルが云々」といった70年代的コンセプト。個々のミュージシャンの力量に頼ったバンド・アンサンブルではなく、アルバム全体としてのトータル・コンセプトを揃えることで各曲の相乗効果を得る、という方向性を見出した。
 ご存じのように、彼ら2人揃ったということは、実質的にDanのアルバムであるわけだし、だからといって従来のやり方は予算的に厳しいわけだから同じことはできないし、どこかで新たな視点を設けることが必要だったのだろう。とは言っても彼ら自体はそれほど引き出しが多い方ではないし、思いつくことといえば旧知の手法のアレンジでしかないわけだし。
 とはいってもネガティヴな側面ばかりだけではなく、『The New York Rock and Roll Revue』というリハビリ的なワン・クッションを置いたおかげでライブでの偶然性に目覚めたDonald、プリプロには相応の時間をかけたけれど、以前のようにニュアンスにこだわったリテイクの連続はなくなった。それよりライブ感覚を重視し、これまで無縁だったバンド・グルーヴを前面に出すように努めた。

787369c4a82f1d94bec40ab97602f3f9

 カマキリ型の乗り物が結局何なのかは、正直どうでも良い。ていうか、ヘヴィー/ライト・ユーザー双方、興味を持った者の方が少ない。サウンド自体にコンセプトが如実に反映されているのかといえば、そうでもない。特別、近未来的な設定やSFチックなテイストも窺えない。先入観があってもなくても、実際に聴いてみると、普通に完成度の高い「いつもの」Steely Danである。まぁライブ感覚を強調しているのか、これまでのジャズ/フュージョン寄りではなく、も少しR&B色が濃いかな、というのが特徴と言えば特徴。

Kamakiriad
Kamakiriad
posted with amazlet at 17.05.06
Donald Fagen
Reprise / Wea (1993-05-21)
売り上げランキング: 43,835



1. Trans-Island Skyway
 「移動し続ける物語」のオープニングとして、軽快なファンク・チューン。バッキングはほぼリズム・キープに徹しており、どのパートも特別にフィーチャーされることはない。これはこのアルバム、そしてこれ以降のDan 関連の作品に共通している。キラ星を集めたスーパー・チームではなく、地道ながら確実なテクニックを有した個人の集合体が、これまでに見られなかったライブ感を演出している。

2. Countermoon
 タイトルはFagenの造語らしく、Google様に頼った訳詞で判断するに「月の逆光」じゃないかと思われる。英語はネイティヴではないので、間違ってたら素直に訂正する。
 ホーンと女性コーラスが大きく前に出ており、ソウル色が強い。曲調はジャズ・タッチそのものだけど、バンド・アレンジはかなり泥臭い。

3. Springtime
 リズムが『Aja』期に大きくかぶっているけど、仕上がりが全然違っているのはリズムのハネ方が全然違っている。こうして比較してみると、Chuck Rainey というプレイヤーは後期Danにおいてのキモだったのだな、と納得してしまう。ただ、Fagenの構想としては当時をそのまんまなぞりたかったわけではなかったはずだし、この若返りメンツの中では浮いてしまうだろう。
 適材適所というのはそういうことである。

Donald Fagen - Kamakiriad (back)

4. Snowbound
 リリース当時、Beckerとの共作クレジットということで話題となった、Danも含めたディスコグラフィ中、ポップな風合いのナンバー。Fagen自身も珍しく歌い上げるようなヴォーカルを披露しているし、案外楽しいレコーディングだったんじゃないかと思われる。「楽しい」「Danのレコーディング」、並べてみると反語表現だよな、これって。
 Larry Carlton (g)のプレイをなぞったようなBeckerのギター・プレイはご愛嬌。ただひとつ難点を挙げればこの曲、7分という微妙な長尺サイズ。ギター・ソロを削って5分程度にまとめていれば、ソリッドに収まったと思われるのだけど。まぁ久しぶりの共同作業で張り切っちゃったんだろうな。

5. Tomorrow's Girls
 またまたデジャ・ヴュ的な、シンプルな8ビートながらジャジー感たっぷりな新生Dan的なナンバー。古くからの顧客にとっても明快なサウンドのため、このアルバムの中では唯一のシングル・カット。一見さんではなく、昔からDanに慣れ親しんでいるユーザーには最もウケは良いはず。事実、俺もこの曲は好きだから。何ていうか安心できる。
 そんな中、目立つのはBeckerの追体験的オブリガードを含めたギター・プレイ。かつてのCarlton や Lee Ritenour (g) へリスペクトするような、ていうかまんまコピーのフレーズから聴こえるのは、40過ぎてライブのカタルシスに覚醒してしまった中年2人のはっちゃけ振り。まぁこれまで苦行のような作業ばっかりだったしな。



6. Florida Room
 共作クレジットされているLibby Titusは、当時のFagen夫人。まさか20年後、DV容疑でFagen逮捕 → 離婚の危機(離婚したのかな?)に陥るとは、想ってもみなかったはず。もともとそれほどアクティブなキャラではなかった人だけど、やはりプライベートだと何かと溜まっていたものがあったのかな。何しろあんなストレスの溜まるバンドをずっとやっていたくらいだし。
 そんなムードは露ともみせず、女性コーラスとホーンを前面にフィーチャーしたラテン・テイストの楽曲は、享楽さを通り越して脳天気ささえ漂わせている。

7. On the Dunes
 このアルバムでは唯一ストレートなバラード。ここにきてBeckerの指示なのかFagenによる楽曲が希求したのか、バンド・アンサンブルがタイトに引き締まった印象。音数は決して多くない。楽曲も従来Danのセオリーに沿っている。セオリー通りだからこそ、変に崩すことのできない完璧に閉じた空間がここでは展開されている。全編この調子だったら息が詰まるけど、どこか曖昧さの漂うコンセプトに支配されたアルバムの中、こういった曲が一曲くらいあった方がピリッと締まる。

MI0003441633

8. Teahouse on the Tracks
 エピローグにピッタリな、1.の続編的ドライビング・チューン。旅ももうすぐ終わり。大団円的な拍手や歓声なんて、これまでのDanにはあり得なかったラスト。リズムはあくまで軽いけど、最後は重くならない方が良い。正直、最初と最後以外はコンセプトと何の関連性もなさそうだけど、まぁ細かいことはいいじゃない。
 変にシリアスになり過ぎない分、彼のソロの中ではすごく聴きやすい。
 前評判に捉われず、一回聴いてみな。


Nightfly Trilogy: Nightfly / Kamakiriad / Morph Cat
Donald Fagen
Warner Bros / Wea (2007-12-11)
売り上げランキング: 331,847
Very Best of Steely Dan
Very Best of Steely Dan
posted with amazlet at 17.05.06
STEELY DAN
HT (2009-07-21)
売り上げランキング: 44,109


愛があれば年の差なんて - Waterboys 『The Best of The Waterboys 81–90』

0b3ca82f5dbe44abc4df6c9d51173421 -2014年7月12日、自身の女性器を3Dプリンタ用データにし、2013年10月以降、活動資金を寄付した男性らにデータ送付の形でダウンロードさせたとして、警視庁はわいせつ物頒布等の罪等の疑いで、アーティストろくでなし子を逮捕。
 「警察がわいせつ物と認めたことに納得がいかない。私にとっては手足と一緒」と容疑を否認。この事件は世界中に反響を巻き起こし、イギリスのロック・アーティストMike Scottはいち早く彼女の指示を表明、オリジナルソング「ROK ROK ROKUDENASHIKO」を制作発表、ネット上に拡散させて、法治国家であるはずの日本の理不尽な対応を批判した。これをきっかけとして両者は交流を深め、2016年4月婚約を発表、上記にまつわる裁判は継続中ながらも今年1月に出産、控訴審では生後間もない我が子を抱きながら、傍聴席に座るMikeの姿があったという。

 ほんの数年前まで、「Waterboys」で検索しても、例の男子シンクロ映画が上位に来て、バンドの方は何ページも追わないと公式サイトさえ出てこない状況が長らく続いていた。それが今では時代が変わり、まぁ男子シンクロwikiにはかなわないけど、3番目には公式サイトがヒットするようになってきている。画像検索を見てみると、逆に男子シンクロの方はほんのちょっぴりで、今ではMikeのフォトショットの方が多い状態である。
 試しに検索ワードを「マイクスコット」に変えてみると…、もう出るわ出るわろくでなし子との2ショット。ていうか主役はほとんどろくでなし子で、マイクの方は添え物的扱いとなっている。この画像を検索したほとんどの人は、ほぼ「ろくでなし子」か「ろくでなし子 結婚」などのワードを使っており、正体不明の謎のオッサンのことなど眼中になかったはずである。「ていうか、この外人さんは誰?何やってる人なの?」という間奏の方が多いはずである。普通の人生を歩んでて、「マイクスコット」という名前にかかわり合う機会なんて、まずないもの。

mig

 80年代UKを通過していない人ならあまり知られてないように、Mike Scott = Waterboys自体、ロック史においては微妙な立場である。
 U2と同じくらい、キャリアは長い。UKやEU諸国を中心に定期的にツアーを行なっているくらいだから、少数ではあるけれど熱心な固定ファンが世界中に散らばっている。セールス的にはU2の足元にも及ばない。客観的なチャート分析では、シングル「The Whole of the Moon」UK3位のみの一発屋である。無頼漢漂う風貌はワイルドネスというより無骨すぎて地味に映る。
 インタビューなんかではもともと饒舌ではあったけれど、音楽への真摯な向き合い方がステレオタイプすぎて、正直読んでてもあまり面白くない。変に清廉潔白な態度は、80年代当時のUKロック・シーンでもちょっと浮いていた。カッコよく言えば孤高の存在だけど、むせ返るほどのエモーションは冷笑的なニヒリズムがトレンドとされていた当時では、明らかに異端すぎる。
 まぁ近年の饒舌さはベクトルが全然違ってるけどね。彼女によって趣味嗜好が変わるタイプなのかな。

 Bob DylanやBruce Springsteenらを範とした、メッセージ性が強くエモーショナルな骨太ロックを主軸としたデビュー当時のWaterboysは、時に過剰なドラマティックさが前時代的に捉えられ、80年代UKニューウェイヴにおいては異端の存在だった。ペシミズムやデカダンが共通言語となっていたポスト・パンク時代において、泥臭さの拭えない彼らの感性は、やたら享楽的だった他のアーティストとの差別化は容易だった。普通に歌っても過剰な激情が露わになってしまうMikeのヴォーカルは、すでに時代遅れのものだった。
 ほぼ同世代で、同じくやたらと暑苦しく、時に過剰に濃密な主張を織り交ぜた音楽を志向していたのがU2。プロデューサーSteve Lillywhiteのおかげでもう少しニューウェイヴ寄りのサウンドは、Waterboysより一歩先に大衆の支持を得ていた。
 最も政情的に不安定だった80年代のアイルランドで青春時代を過ごしていたこともあって、「Sunday Bloody Sunday」 や「New Year’s Day」などに代表される、政治的メッセージ色の強い楽曲は物議を巻き起こしたけど、それでも彼らの言葉が経験・環境に裏付けされたリアリティを含んでいることは否定できなかった。
 また、デビュー間もなくからオリジナリティ溢れるアイディアを作品につぎ込んでいたEdgeの進化は目覚ましく、今ではスタンダードとなった、カッティングやアルペジオ、ハーモニクスを多用したギター・サウンドにディレイを効果的に織り交ぜた音響空間は、後に多くのエピゴーネンを生み出した。そのディレイ空間は、プロデューサーBryan Enoによってさらに磨きをかけられ、アメリカ南部の泥臭さをヨーロッパ的な荘厳たる感性によって演出した『The Joshua Tree』として結実、これで彼らのスタンスは世界的なものになった。

11237_full

 イギリスというのはイングランドの一枚岩国家ではなく、4つの独立地方共同体による連立国家であることはあまり知られていない。日本のような中央集権型ではなく、アメリカのように各地方が独立国家的体裁を取った「共同体」というのが正確である。
 その4つのうち、スコットランドとアイルランドとは友好国的な関係であるらしい。いわゆる宗主国的立場にあるイングランドへの敵対心という点で共通しており、政治的・文化的にも友好関係にある。ちなみにアイルランドとイングランドとは古くから険悪で、それが一連のテロ騒動に繋がってくるのだけれど、それはまた別の話。
 今も活動を共にするバイオリン奏者Steve Wickhamの参加が契機となり、バンド・メンバー総出でアイルランドへ移住、ニューウェイヴ以降のポップな音楽性と、アイリッシュ・フォークの土着性をミックスした『Fisherman’s Blues』を生み出すことになる。
 朴訥な不器用さが災いして、U2と違って大きくブレイクし切れなかった彼らだったけれど、このアルバムのヒットがターニング・ポイントとなって、巷のUKインディー・バンドとは一歩抜きん出たポジションに立つことになる。言ってしまえばイギリスの民謡をロック風にアレンジした音楽のため、海外でのセールスは大きいものではなかったけれど、概ね評論家筋のウケは良く、一目置かれる存在になった。
 80年代末に興った日本のバンド・ブームにおいて、単なるホコテン出身のバンドだったブームが、琉球民謡をベースとした「島唄」のヒットを契機として、ラテンやアフロなど欧米以外の音楽を貪欲に吸収していったプロセスと比較すると、ちょっとわかりやすいと思う。若い人にはわかんないか。

 その後、MikeはWaterboysを解散、アイリッシュ・フォークのイメージが強くなり過ぎたことに危惧を覚えたのか、ソロになってからは程よいAOR的なロック志向のアルバムをリリースする。当時の彼にとって、アイリッシュという要素は数多くある音楽ジャンルのひとつに過ぎず、逆にブレイクのきっかけとなった地点からさらに一歩進んだ音楽に手を広げてみたい、という野心があったのだろう。セールス的には盛り上がらなかったけどね。
 そんなセールス不振を受けて、苦渋の決断ではあったけれど再びWaterboys名義を復活させ、その後はコンスタントなライブを軸とした活動が続く。俺個人としては、ちょうどこの時期、ライブのトレントサイトから未発表ライブをダウンロードすることにハマっていた。WaterboysやMike名義のファイルは結構転がっており、片っぱしからダウンロードしていた。今のようにハードディスクの容量も多くはなかったため、落とすたびにCD-Rに焼いていたのは良い思い出。
 でも、CDに焼いちゃったらそれで満足してしまい、結局それほど聴かなかったよな。

The-Waterboys

 トレントファイルを漁ることに飽きると、彼らへの関心もだいぶ薄れていった。新しいアルバムが出たと聞いても、さして食指も動かず、「ふ~ん、そ」てな感じだった。そんなわけで、もう何年もMikeの音はまともに聴いていなかった。
 なので、去年のちょうど今ごろ、全世界のWaterboysファンだけでなく、多くの80年代洋楽好きを驚愕させたろくでなし子との婚約にまつわるニュースは、ビックリというよりは不意を突かれた印象だった。「そう来たか」というファースト・インプレッションは、思わずスマホ画面を二度見してしまったほど。しかも、Twitterで滅多につぶやくことのない俺が、勢いで「マジで?」とつぶやいちゃったくらいである。そのくらい、彼女との婚約は驚きだった。

 アーティストとしての活動より、芸術か否かの論争にまつわる訴訟沙汰によって、彼女の動向は何となく耳に入っていた。男の本能として、取り敢えず一回は興味本位でブログを覘いてみたりしたけど、まぁ彼女の主張に熱烈な賛意を抱くほどではなかった。ただ、興味本位のその先、ステレオタイプな猥褻さ・隠微さを押し通すためにシリアスになるのではなく、目くじらを立てて無用な茶々を入れてくる自称「良識派」をおちょくる姿勢はずっと気になっていた。世間に理解されづらいポリシーを貫くためには、鉄壁の意思と莫大なパワーを必要とする。周りから見ると「くっだらねぇ」のかもしれないけど、本人からすれば大真面目なのだ。
 最初は純粋な支援活動だった。極東の女性アーティストが表現の自由を奪われ、刑事告発までされている。そんな不当な扱いが許されるのか-。純粋な義憤に駆られていち早く支援を表明し、そして純粋な衝動によって頻繁に来日して親交を深めたが末、いつの間にかプライベートでも行動を共にすることになる。互いの純粋さが導きあった結果と見てよい。
 ろくでなし子の立場からすれば、60近くの「自称」ミュージシャンに純粋に迫られ、支援者という立場を超えた一男性として意識できたかと言えば、多分できなかったんじゃないかと思われる。お金を出してくれて歌も作ってくれて、世界中の支援の輪を広げるのに手を貸してはくれたけど、ところでこのオッサン誰?てな感じだったと思われる。どこかしらかで素性を知ったとして、微妙な賞罰経歴のミュージシャンだったしね。
 まぁそれでも「芸術性」という共通項によって親交を深め、まぁ子供もできちゃったことだし、今後の彼の活動ぶりが期待される。しばらくは一家でダブリン住まいみたいだけど。


Best of
Best of
posted with amazlet at 17.05.02
Waterboys
EMI Europe Generic (2005-10-11)
売り上げランキング: 104,511



1. A Girl Called Johnny
 1983年リリース、UK80位にチャートインしたデビュー・シングル。80年代初期ということもあって、ドラムがスカスカなことを除けば充分完成された楽曲。ピアノとサックスの音色、微妙に濡れた肌合いのMikeのヴォーカルとがブレンドして、メロウなアメリカン・ロックといった風情。でもアメリカじゃ出せないだろうな、こういったサウンドは。ドライな空気を演じようとしながら、スコットランドの潮風は冷たく濡れそぼっている。この曲が収録されたデビュー・アルバム『Waterboys』はチャートインせず。



2. The Big Music
 3枚目のシングルであり、セカンド・アルバム『A Pagan Place』に収録。ちなみにどちらもチャートインせず。1.よりさらにサウンドはドラマティックに、女性コーラス隊も入れてゴージャスに展開している。スケール感が求められる楽曲とMikeのキャラクターには、このような壮大さがフィットしている。でもね、いいんだけどさ、サックスが前に出過ぎ。アウトロのドラムソロは聴きごたえあり。

3. All The Things She Gave Me
 5枚目のシングルも、同じく『A Pagan Place』から。当然、チャートインせず。ここでアメリカン・ロックへのリスペクトをちょっぴり薄めたのか、UKバンドっぽくサスティンを利かせたギターを投入。サックスは相変わらずブロウしまくっているけど、少し後ろに引っ込んでいる。ある意味、バランスが取れた構成だけど、やはりアウトロに入ってからは出しゃばりまくり。これがMikeの意向だったのかはわかりかねるけど、ちょっとクドいくらい。久しぶりに聴いてみると、改めてクドい。

4. The Whole of the Moon
 2作目でも思うような結果が出なかったことに危機感を覚えたのか、ここで思いっきり方向転換、頑なに拒んでいたシンセも導入、泥臭いサックスに取って代わってフリューゲル・ホーンによって軽快さを前面に出してくる。3枚目のアルバム『This is the Sea』 の先行シングルとして、UK最高26位をマークした。Mikeのポップ・センスはもちろんだけど、ここに来て才能が開花したKarl Wallinger (key)によるBeatlesオマージュなアレンジとがシンクロしたことが、成功の要因である。
 ちなみにこの曲、このベスト・アルバムがリリースされた際にもシングルカットされており、何と自己最高のUK3位、アイルランド・チャートにおいても2位をマークしている。



5. Spirit
 『This is the Sea』収録、Mike自身によるコード弾きピアノの小品。約2分弱の楽曲をわざわざベストに選曲しているくらいだから、多分に思い入れも強いのだろうけど。ちなみにオリジナル・アルバムではこのベスト同様、4.と続いており、エピローグ的な意味合いもあるんじゃないかと思われる。

6. Don't Bang the Drum
 『This is the Sea』からのシングルカットで、当時はチャートインしなかったけれど、いまもライブではほぼ欠かさず演奏されており、人気の高い曲のひとつ。ここまで聴いてきて、やっとWaterboysというロックバンドのサウンドが固まった印象。Mikeの一枚岩的な印象が強いバンドだけど、ロック・サウンドとしての要となるのがKarlだったことが証明されている。

7. Fisherman's Blues
 せっかく前作でロックバンドとしてのスタンスを獲得したというのに、どこか物足りなかったのだろう。どこの時点でKarlが脱退してしまったのかは不明だけど、Steve Wickham という頼もしい相棒を得てからのMikeの決断は早く、もう一人のオリジナル・メンバーAnthony Thistlethwaite (サックスの人)を引き連れてダブリンへ移住、現在の活動にも繋がる『Fisherman’s Blues』を制作する。UK32位にチャートイン、ここですっかり「アイリッシュの人」というイメージが定着する。
 ここでのMikeのテンションは凄まじく、膨大なレコーディング素材を残しており、その制作過程もなかなか興味深いのだけど、それを書くのは次の機会だな。盛りだくさんすぎるんだもの。

8. Killing My Heart
 当時は未発表につき、ボーナス・トラック扱いだった『Fisherman’s Blues』のアウトテイク。アイリッシュ以前と以後のサウンドがうまくミックスされて、Dylan & The Bandが10年経ってアップグレードしたらこんな風になったのかなぁと夢想してしまう、ロック・テイストを添加したグル―ヴィー・チューン。こんな曲をアルバムに入れなかったくらいだから、このクラスの未発表テイクってっぱいあるんだろうなあ、と漠然と思っていた当時。20数年経ってから、その膨大なアウトテイクの山にビックリしちゃうことになるのだけれど。

The-Waterboys-010

9. Strange Boat
 シンプルなバンド・セットによる穏やかなフォーク・ロック。特段アイリッシュ・テイストは感じさせないけど、やはりSteveのフィドルが強烈な個性を放っている。壮大なアイルランドの自然を想起させる音色は、ほっと一息つかせてくれる。

10. And a Bang on the Ear
 なので、田園風景を思わせる和やかなナンバーは、ロックというジャンルの懐の深ささえ感じてしまう。UKは時々、トレンドの音の飽和状態に呼応するかのように、トラディショナルっぽい楽曲が突然チャートインしたりする。「Come On Eileen」や「Perfect」など、英国人は無性に泥臭いフィドルを求めてしまう時期があるのだ。

11. Old England
 『This is the Sea』収録、ここでは89年グラスゴーでのライブ音源を使用している。

20170413-OHT1I50107-T

12. A Man Is in Love
 『Room to Roam』収録。このアルバムを最後にMikeはWaterboysを一旦解散、その流れでこのベストがリリースされたという経緯なのだけど、さらにアイリッシュ色が強くなり、楽曲自体もソロ的な色彩が濃くなってきているので、バンドを維持する必然性が見えなくなってきたのだろう。もっと違う音楽もやってみたかったんだろうし。


モダン・ブルース
モダン・ブルース
posted with amazlet at 17.05.02
ウォーターボーイズ
ホステス (2015-01-14)
売り上げランキング: 93,469
ワイセツって何ですか? (「自称芸術家」と呼ばれた私)
ろくでなし子
金曜日
売り上げランキング: 132,534

カテゴリ
北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
QRコード
QRコード
最新コメント

音楽 ブログランキングへ


にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村




アクセス
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: