好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Rock

モリとマー。 - The Smiths 『Meat is Murder』

folder 1985年リリース、 2枚目のオリジナルアルバム。初のUK1位獲得とともに、EU各国でも新進気鋭のバンドとして頭角を現したけど、アメリカでは最高110位といまひとつ。 Paul Weller同様、英国を中心としたドメスティックなスタンスはその後も変わらず、解散するまで頑としてジョンブルな姿勢を崩さなかった。
 でもMorrissey、ソロになってからはアメリカでバカ売れするんだよな。やっと時代が彼に追いついたというところか。

 とはいえイギリスとアメリカ、単純な人口比で言えば4~ 5倍の差があるため、売り上げ枚数だけ見れば、アメリカの方が倍以上も上回っている。大味なアメリカン・ロックやヘビメタに馴染めない、引っ込み思案な大学生がカレッジ・チャートに流れ込み、R.E.M. やReplacementsの延長線上でUK インディーズを求めた層が、それだけいたということである。構成比としてはごくわずかだけど、裾野が広い分だけ、本国の売り上げを軽く凌駕している。
 当時の日本でだって、セールス自体は決して大きいものではなかったけれど、ロキノン界隈に収束された熱気は、局地的な盛り上がりを見せていた。なので、今でも80年代 UKロックを語る際、避けては通れないアーティストのひとつとなっている。

 このバンドにおけるMorrissey(ていうかスペルがややこしいので、これ以降は「モリ」)、の立ち位置は、これまでさんざん語られているので置いといて、取り上げたいのはもう 1人のフロントマンJohnny Marr、略して「マー」
 バンドのポリシーやアルバム・コンセプトはモリの独壇場だけど、実務面での作業はほぼこの人が担っていたと言っていい。特に末期なんかは、サウンド・プロデュースだけじゃなく、マネジメント業務も並行して行なっており、そんな雑務を押し付けられることに嫌気が指したことも、解散の要因として囁かれているくらい。
 普通、彼らクラスのバンドだったら、バンド運営の付帯作業を自分らで行なうことなど、そうはないはず。ライブ後のCD手売りレベルのバンドならともかく、12インチ・シングルまでマメに日本発売しているバンドだ。普通ならやってられんわ。
 とはいえ、何しろ相手がモリである。何かと手間ヒマかけて拵えた段取りを、冷笑と嘲笑を交えてちゃぶ台返ししちゃう人だ。英国人以上に英国的、性格の悪さがMAX全開だった当時、誰もなり手がいなかったのだろう。そうなると、割を食っちゃう人が必ずいるわけで。

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 ド派手なギター・ソロやビッグマウスな発言とは無縁のマーは、基本、裏方気質の人である。自分がフロントに立つことにはあんまり興味がなく、モリという強烈なキャラクターを引き立てることに快感を覚える、縁の下の力持ち的存在である。ほぼ外部ミュージシャンを起用せず、あんな緻密なバンド・アンサンブルを独りで作っちゃうのも、偏執狂とも称されるサウンド職人ならではの偉業である。
 それでいて、ひけらかすこともない。こう書いちゃうと、まるで聖人だよな。あ、でもモリの隣りにいたから、そう見えるだけかも。とにかく、有象無象のエゴが渦巻く音楽業界において、長く活動し続けられているのが不思議なくらい、自己顕示欲の薄い人ではある。
 1985年のUK音楽シーンは、Tears for Fearsや Depeche Modeらがアメリカ市場をブイブイ言わせていたように、シンセを主体としたシーケンス・サウンドが、トレンドの主流だった。その対極として、いわゆるゴシック/オルタナ系、Jesus and Mary Chain やSisters of Mercyら、陰鬱とした風貌とディストーションとが、インディ・チャートを席巻していた。
 大ざっぱに分けるとこんな感じだけど、Smithsの場合、当時のメジャー/インディーどちらの潮流にも属しない。過剰にマスに寄り添ったエンタメ路線でもなければ、セオリー無視の破綻したアバンギャルドでもない。むしろ、ベースのサウンドはオーソドックスなギター・ロックである。
 良識派の神経を逆なでする言動やメッセージを発信する、モリ独自の世界観ゆえ、いまだSmithsといえば「オルタナ」のイメージが強いけど、決して内輪のマニアの間でだけ流通していたわけではない。シングル・チャートでは無敵の強さを誇った彼ら、セールス的には十分メジャーと肩を並べていた。
 多くのインディー・バンドがシングル2、3枚程度で息切れして解散してしまう中、コンスタントにヒット・シングルを量産していたSmiths。コンセプトの揺るがなさと、引き出しの多いサウンドは、同年代アーティストの群を抜いていた。

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 そんなブランド・イメージの主軸となっているのが、モリの強烈なパーソナリティなのだけど、彼の放つ毒は、一般大衆にはちょっと刺激が強すぎる。毒を希釈するわけではないけど、もう少し拒否反応を和らげるため、そこでマーが必要になってくる。
 英国ポスト・パンク以後のアーティストは大ざっぱに、「現状に対する不満」「自分は他人と違う(誰も理解してくれない)」に分類される。John Lyndon だって Mark E. Smithだって、音楽を通してそれを始終訴えてきた。でも2人とも、Smithsほどポピュラリティを得られていないのは、そのメッセージをスムーズに伝達するためのサウンド・プロダクションの弱さ、これに尽きる。PILだって、結局のところは息切れしちゃったし。
 ゲートエコーやらシンクラヴィアやらシモンズやらが幅を利かせていた80年代ポピュラー・シーンにおいて、マーはテクノロジー機材をほぼ使わず、むしろ時代と逆行して、ロックの原点であるギター・オリエンテッドのバンド・アンサンブルを構築した。決して卓越したヴォーカリストではないモリをフロントとしながら、歌詞の世界観を巧みに表現した、焦燥感あふれるギター・ロックは、初期衝動の具現化とも言える。
 「ギター・ロックの理想形」とも称される、緻密に構築されたサウンドは、バンドを組む友達もいない孤独な若者だけじゃなく、最初の一歩を踏み出すことのできない10代 20代にも広くアピールした。

 で、そんなマーの尽力によって、Smithsはその短命さも手伝って伝説として昇華した。モリとマーそれぞれ、その後のキャリアを築くにあたって、確実な踏み台となったわけだけど、今のところ、その着地点はまるで違っている。
 過剰なエゴイズムの権化として、モリはその後、着実にソロ・キャリアを積み上げていった。どのムーヴメントともシンクロしない、強烈な「俺」路線は、世界中に多くの信奉者を産み出し、Smiths時代以上の成功を収めた。アメリカでライブ動員上位に入ったり、南米でも根強い人気を保っていることは、日本ではあまり伝えられていないけど、その唯我独尊傍若無人ぶりは、確実にニーズを捉えているわけで。もう何が何だか。
 対するマーだけど、今も地道な活動を続けてはいるけれど、なんだか消化不良気味、どうもイマイチ盛り上がらない。なぜなのか。

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 音楽は好きで、バンドも好きだ。ギターを弾くのは、もっと好き。
 だからといって、超絶ギター・ソロでアッと言わせたいわけではない。あくまで自分はバンドの一部サウンドの一部、モリが歌いやすくて、彼の世界観を余すところなく表現できていればそれでOK、と思う男である。
 だけどしかし。
 モリ向けに作ることはできるけど、果たして自分を中心に置いたとしたら。
 オファー通りのモノは作れる。商品として芸術作品として、きちんとまとまっている。でも、何かモワッとしている。引っかかりがない。右から左へ聴きながしてしまいそうなサウンドになってしまう。
 そりゃそうだよな、これまでコンセプトはモリが全部考えてくれてたから。
 で、いざ独りで作るとなると、つかみどころがない仕上がりになってしまう。
 言いたいことや訴えたいこと、メッセージなんて別にないんだもの。込み上げてくるもの・誰かに伝えたくてたまらない衝動というのが、まるでないのだ。
 なので、マーは思う。
 -強烈な磁場を持つ、エゴの塊が欲しい。

 音楽でメシを食っていく、と決めて、その初っぱなからモリという怪物に出逢ってしまったのは、彼にとって幸か不幸、どっちだったのか。ゲームのスタートからラスボス登場というイベントにぶち当たってしまったため、その後に出逢うパートナーに対し、どれも物足りなさを感じてしまうのは、当たり前である。
 そんな中、TheTheのMatt Johnsonはモリに匹敵する、なかなかの強者だった。だったのだけれど、モリの怒りの対象が女王や食肉主義者、ディスコDJなど具体的だったのに対し、Mattの世界憎悪はちょっと観念的すぎる部分が拭えなかった。あんまり熟考しないマーにとって、それは容易に理解できる代物ではなかった。多分、Matt以外はあんまり理解してなかったんだろうな。
 沈思黙考すると長くなってしまうMattゆえ、TheTheの活動は断続的だった。ヒマを持て余したマーはその後、ギターを抱いた渡り鳥的に、様々なバンドやユニットを転々とすることになる。
 Bernard Sumnerと組んだエレクトロポップ・ユニットElectronicは、これまで歩んできたキャリアから一転してアッパーなダンス・サウンドを指向、セールス的にも大きな成功を収めた。ただ、これもNew Orderの合い間に手掛けた泡沫的なユニットであって、永続的なものではなかった。
 その後はさらに迷走、若手バンドModest Mouseに無理やり加入したりもしたけど、世代が違うせいもあって、こちらもごく短期で脱退してしまう。そりゃそうだよな、変に気も使うし扱いづらそうだし。

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 まぁ何やかや、それなりに苦労もしてきて、50歳になってやっとアイデンティティが確立されたのか、自分名義のソロ作を出したのが、つい最近のこと。ずっと前向きにひた走ってきて、立ち止まって振り返る余裕、何かしら痕跡を残しておきたい、と感じたのだろう。いずれにせよ、自分の言葉で語ろうと思い始めたのだから、これはこれでひとつの成長である。
 デビュー作とはいえ、すでに芸歴30年のベテランだけあって、きちんとした大人のロックになっている。
 でも、なんか足りない。ロックっぽさはあるけど、ロックと呼ぶにはアクが足りない。
 まぁ、やっと自分の言葉を見つけたんだ。これまで30年待ったんだから、もうちょっとは長い目で見てあげたい。

 そんなマーのサウンド・メイキングが初めて成果を結んだのが、お待たせしました『Meat is Murder』。トータル・コンセプトも曖昧な、ほんとむき出しの初期衝動を吐き出しただけのデビュー・アルバムに対し、ここではスタジオ・レコーディングのメソッドにも慣れたマーの実験性や工夫が発揮されている。
 今だと直截的すぎて前面に出しにくい、「食肉は殺人だ」というタイトル・ナンバーを主軸として、ギター・ポップだけに収まらない多彩なサウンドを展開している。つかみはOK的に過激なインパクトでありながら、それをハードコア・タッチに仕上げるのではなく、ちゃんと真っ当なギター・ポップに仕上げることに成功している。一歩間違えれば、くどくてめんどくさいモリの主張を、コンテンポラリーなスタイルに加工して、広く世に知らしめたのは、マーの功績が大きい。この辺は、もっと評価されてもいいはずなんだけど。



Meat Is Murder
Meat Is Murder
posted with amazlet at 18.01.10
Smiths
Warner Bros UK (1993-11-10)
売り上げランキング: 77,750





1. The Headmaster Ritual
 アコギをアクセント効果に使った、ネオアコ寄りのギターだけど、リズムが走り気味なので、そこがうまく疾走感を演出している。相変わらず朗々と歌い継ぐモリ。
 我が物顔でのさばるスクール・カーストのトップ連中と規律規律とうるさい教師らに抑圧されて、毎日学校へ行くのが憂鬱だったモリの原体験が綴られている。こんなネガティヴなテーマをトップに持ってきちゃうところに、Smithsの特異性があらわれている。
 Radioheadによるカバーが、ファン心理まる出しの完コピで微笑ましい。こっちもなかなか。



2. Rusholme Ruffians
 ちょっとカントリーっぽさを交えた、古き良きロカビリーの香りを彷彿とさせるナンバー。直情的なロック/パンクに収まらない、多彩なバリエーションのサウンドは、他のバンドとは群を抜いていた。

3. I Want the One I Can't Have
 ザックリ言っちゃえば「ないものねだり」。散文的ではあるけれど、ピカレスク・ロマンの香りが漂う寓話的な歌詞は、モリの真骨頂。アッパーミドルへの痛烈な怒りと並行して、ディケンズなど前世紀の小説をこよなく愛する男の独白を、軽やかなリズムでコーティングしている。

4. What She Said
 ロック・バンドとしてのSmithsの側面がうまく表現されたナンバー。ヨーデルとも演歌とも取れるモリの独唱と、やたらテンションの高いリズム・セクションとのコントラスト。この熱気が後日、『Queen is Dead』の一連のアップテンポ・ナンバーへと結実する。

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5. That Joke Isn't Funny Anymore
 だいぶ遅くになってからシングル・カットされたため、UK最高49位、彼らのシングルの中では最も低い実績となった。ドラムに深いエフェクトが入れられ、高いキーのアコギなど、Smithsのルーティンからはちょっとはずれた実験的なサウンドになっている。LPの最後を締めるにはいいんだろうけど、シングルって感じじゃないよな。

6. How Soon Is Now? 
 『Meat is Murder』リリース寸前にシングルとして世に出たのに、当初、アルバムには収録されなかった、初期Smithsの代名詞的ナンバー。その後、再発・リマスターを経ていつの間にか組み込まれるようになった、という経緯がある。
 フィードバックを効果的に使うのは、この時代のインディー・バンドの「あるある」だけど、他のバンドが「空虚であること」「無為であること」ばかりを語るだけだったのに対し、モリは精神的弱者のトラウマや社会不適合性から誘発される心理爆発を言葉の礫にすることによって、第一線に躍り出た。



7. Nowhere Fast
 「そしてベッドに横たわり、ぼくは生について考える。ぼくは死について考える。どちらも、特におもしろくない」。
 これに尽きる。「女王に尻を向けたい」など、直接的な行動を思いあぐねるうちは、まだい。ベッドから出られず、何も考えられなくなってしまった瞬間、人は生きる意欲を失ってしまう。それをロックの歌詞として、サウンドに乗せてしまったのが、モリの大きな功績である。

8. Well I Wonder
 シングル・カットされるわけでもなく、曲順としても地味な位置にありながら、隠れ名曲として評価の高いバラード・チューン。シンプルなバンド・セット、弱々しいモリのヴォーカル、そして雨音と12弦ギターで切なさを表現するマーのサウンド・プロダクション。

 「思うんだけどさ
 ぼくの声は聴こえているのかな きみの眠りのなか
 しわがれた声で、ぼくは泣いている
 思うんだけどさ
 きみにはぼくが視えるのかな ぼくらともに逝くときに
 ぼくの半分は死にかけているけど」。

9. Barbarism Begins at Home
 「野蛮さは家庭から始まる」。タイトル・トラックと韻を踏むような、これまた扇動的な主張である。いわゆる幼児虐待を嘆く曲なのだけど、俺的にはこの曲、モリは添え物、主役はむしろ、終始縁の下的存在のリズム・セクション、Andy Rourke (b)とMike Joyce (D)の2人。この曲は7分にも及ぶ長尺なのだけど、モリの出番は前半4分弱くらいまで、その後は延々とインスト・トラックが続く。方々で絶賛されているけど、特にAndyのファンキー・ベースはかなり高レベル。この時代の若手バンドで、しかもギター・ポップ/ネオアコ界隈でここまで弾ける者はいなかった。この路線をもっとクローズアップさせていれば、バンドの方向性ももうちょっと変わっていたかもしれない。
 でも、それじゃSmithsじゃなくなっちゃうか。やっぱり主役はモリ、時々マーなのだ。



10. Meat Is Murder
 ラストはちょっと気合い入れ過ぎたのか、仰々しいオープニング。Led Zeppelinが80年代まで生き抜いていたら、多分こんな感じになったんじゃないか、と思うのは俺だけかな。
 「これといった理由もなしに,命を奪われるとしたら,それって虐殺だろ?」
 まぁ、確かにその通り。だからといってモリ、特別動物愛護がどうした、とか言ってるわけではない。彼が憎むのは、美味そうに七面鳥や仔牛を食べる者たち、パーティや会合で寄り集まって、楽しく舌鼓を打つ連中のことだ。
 そんな内輪に決して呼ばれることのない、若き日のモリ。
 彼は憎む。食肉主義者を、パリピな生活を享受するカースト上位者を、そしてうなだれたままベッドから出ようとしない、過去の自分を。






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ワーナーミュージック・ジャパン (2017-10-25)
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Rhino/Warner Bros. (2010-08-04)
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下々の連中にもわかりやすいポップ・ソング - Joe Jackson 『Laughter & Lust』

folder 1982年にリリースされた『Night and Day』は、Joe Jackson にとって代表作であり、セールス的にも最も成功したアルバムである。既存のロックにとって、必須であるはずのギターを使わず、ジャズやラテンなど、非ロック的な手法を駆使することによって、オンリーワンの「Joe Jackson’s Music」を確立した。ストレートなロックンロールからジャイブ・ミュージックまで、ありとあらゆるジャンルを縦横無尽、アルバムごとに実験を繰り返していたJoeにとって、その後のキャリアを決定づけるマイルストーンとなったのが、このアルバムである。

 あまりブランクを置かずにリリースされた『Body & Soul』も、同様のアプローチで制作されており、これまた渋すぎる内容であったにもかかわらず、マーケットでは好意的に受け入れられた。
 主にビジュアル先行型のニューロマ系アーティストが幅を利かせていた第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンの最中において、どうひいき目に見ても見劣りするJoeが売れた背景には、もちろん本人の才覚も大きいけど、所属レコード会社A&Mの存在が無視できない。
 時代に寄り添いすぎて、アッという間に消費し尽くされてしまう流行歌ではなく、末永く鑑賞に耐えうるロング・テール型のアーティストを多く擁していたのが、A&Mの特色である。Carpenters のような鉄板スタンダードから、Tubesに代表される変態ニューウェイヴまで、ポップ/ロック以外では、Ornette Colemanを筆頭としたフリー・ジャズからMilton Nascimentoまで、節操なく幅広いジャンルを網羅しているのも、独立系レーベルの強みである。

 もともと創業者のHerb Alpert自身が、現役ミュージシャンだったこともあって、アーティストの自主性を重んじ、過度な干渉を行なったりしないのが、A&Mの企業風土だった。これも非メジャー・独立系の強みで、株主がほぼ身内で固められている小規模企業のため、収益性より芸術性を重んじることが、潔しとされていた。
 ただ、企業が継続するためには営利を追求していかなくちゃならないから、きれい事ばっか言ってるわけにはいかない。自転車操業的な局面も何度かあっただろうけど、その度にCarpentersやPeter Frampton、Policeなんかがうまくヒットしてくれて、屋台骨を支えてくれたのだった。
 普通のレコード会社だと、大ヒットが続いたら二番煎じ・三番煎じを重ねて要求するものだけど、そういった営業的な都合を無理に押しつけず、アーティストの表現の自由を優先していたことが、A&M流マネジメントだった。
 彼らの個性に変に干渉せず、有能なプロデューサーが的確な方向へ導いてゆく。結果、それが互いにwin-winな関係になるのだから、良好なパートナーシップの理想形である。
 なので、JoeにとってのA&M時代は、クリエィティヴ面において、理想的な環境だったと言える。他のメジャーだったら、いつまで経ってもポスト・パンク〜ロックンロールの路線を強いられていただろうし。

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 そんなレーベルだからして、大して制約もなかったはずである。何しろ、絶対売れそうにない『Will Power』や『Jumpin’ Jive』をリリースさせてくれる会社だもの。いくらアーティストに甘いからって、懐が深すぎる。
 そこまで庇護してくれていたにもかかわらず、Joeは集大成的なライブ・アルバムをリリース後、A&Mとは円満な形で契約満了、当時イケイケ状態だったヴァージンに移籍してしまう。
 もともとイギリスの中古レコード通販からスタートしたヴァージンは、マイナーなプログレや、アバンギャルドなジャズ・ロックを小ロットでリリースする、創業者Richard Bransonの趣味性が強いレコード会社だった。最初にヒットしたのが、映画「エクソシスト」で採用されて一気にブレイクした、Mike Oldfieldの『Tubular Bells』だもの。たまたまタイミングよくフィーチャーされたことで注目を浴びるようになったけど、もしこれがなかったら、早晩資金繰りが行き詰って短命に終わったものと思われる。
 Sex Pistolsがヒットした70年代後半くらいから、ヴァージンの良心的なアーティスト・ラインナップに変化が生じ始める。80年代の第2次ブリティシュ・インベイジョンの追い風によって、Culture Clubが大ヒットする頃には、初期とはまったく別の会社に変容していた。採算度外視のニッチなレコードを売り続けていたBransonも、ビジネス規模の拡大に伴ってヤマッ気が出てきて、アメリカや日本に進出、世界的な規模で事業所やレコード・ショップをオープンしていた。
 Rolling Stones の獲得をピークとして、その後、音楽産業としてのヴァージンは、緩やかな下降線を描くことになる。Branson の事業欲は次第に広範化、航空事業に進出した頃には、もう何が本業なのかわからない状態になっていた。もう、音楽なんてどうでもよくなってたんだろうな。

 Joeが移籍した1991年は、Stonesもまだ移籍していなかった頃、ヴァージンは音楽業界でのシェア拡大を純粋に目指している状況だった。当時、世界中に散らばったヴァージン社員は、ヒット実績のあるアーティストに片っぱしからオファーをかけていた。すでに欧米では、そこそこのポジションにいたJoeに声がかかるのは、いわば必然だった。
 Joe自身、ここらが勝負時だと感じたのだろう。A&Mとヴァージン、同じ非メジャーで比べたら、そりゃ勢いのある方へなびくのは、人間、当たり前の話。
 加えてA&M、ちょうどその80年代後半くらいから、これまでの勢いにブレーキがかかり始める。LAメタルやヒップホップ/ラップの台頭によって、得意分野であったメロディアスなAORやコンテンポラリー・ロックが押し出され、ヒットチャートでのシェアが目減りしつつあった。辛うじてJanet Jacksonが、同時代性をリードするサウンドを堅持していたけど、レーベル全体に波及するほどの影響力ではなかった。次第にA&Mのブランド力も落ちて離脱するアーティストも増え、Joeもまたその中に含まれていた。
 世界進出を視野に入れたヴァージンは、自前の新人だけじゃなく、あり余る資金を投入して、他レーベルの中堅アーティストをヘッドハンティングしまくっていた。頭数と前年対比をクリアするため、即戦力となる中途入社を、ヴァージンは諸手を挙げて歓迎した。
 勢いのある企業は、手段を選ばない。

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 そんなグローバル企業から何を求められているか。キャリア的に中堅だったJoeもその辺は察しており、これまで以上にヒット性を意識した『Blaze of Glory』 をリリースした。
 自身の半生をフィクション的に解釈し、コンパクトでありながらもトータルでの組曲形式で描写した移籍第1作は、おおむね好意的な評価を得た。幾分肩に力が入りすぎているきらいはあったけれど、インテリ御用達の洗練されたポップ・ソングは、高い完成度を維持していた。いたのだけれど。
 以前のレビューでも書いたけど、ちょっと頭でっかちなコンセプトにとらわれ過ぎて、トータルとしては良いのだけれど、個々の楽曲のインパクトが弱く、それがパンチの弱い作品になってしまったことは否定できない。いわゆる『Abbey road』のB面現象である。
 ここで変にマーケットに色目を使わず、StingやElvis Costello、Peter Gabrelのように、都会のホワイト・カラーをターゲットにした「大人のロック路線」へシフトしていれば良かったものを、それをどう勘違いしちゃったのか、「ナウいヤング層」にターゲットを合わせ、過剰なポップ路線にしちゃったのが、この『Laughter & Lust』である。
 -ほんとは、こんなガキ向けの音楽なんてやりたくないんだけど、お前らの望むモノ作ってやったぜ。コレが欲しかったんだろ?
 囚人服に足枷、その鎖の先のデカい重りを抱えて苦笑いする、アルバム・ジャケットJoe。「ポップの奴隷」に成り下がっちゃったぜ、的な自虐の笑み。

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 「下々の連中にもわかりやすいポップ・ソング」というのがJoeのコンセプトだったのだろうけど、そんな「上から目線」的な態度が露骨に出てしまったのだろう。大衆はそこまでバカじゃないことを、Joeはわかっていなかった。結果、『Laughter & Lust』は前作を下回るセールスで終わってしまう。
 クオリティは問題ない。そりゃベテランの仕事だから、体裁はきっちり整っている。でも、ほのかに漂ってくるブルジョア臭・中途半端なインテリ姿勢を、多数を大衆が占めるマーケットが歓迎するはずがなかった。
 ここには、「どんな手段を使ってでも売れるんだ」、「とにかく聴いてもらおう」とする意欲、言っちゃえば、ヒット・ソング特有の下世話さがどこにもない。売れ線を狙うことが卑賤な行為であるかのように、変に斜め上からスカした感じが、なんか腹立ってしょうがない。上品さを捨てきれなかったことで、アクも少ない無難なポップに仕上がり、結果、個性も薄~くなってしまった。
 サウンドはちゃんとしている。でも、面白くない。ワクワクもしない。

 「ここまで歩み寄ったんだから」と、多分ヒットを確信していたのだろうけど、あまりの反応の薄さ、セールス不振によって、Joeは深く深く落ち込んでしまう。ヴァージンからも契約を切られ、踏んだり蹴ったりである。
 この後しばらく、Joeは長い長い混迷期に入ることになる。



Laughter & Lust
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Joe Jackson
Virgin Records Us (1992-06-29)
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1. Obvious Song
 ロックセレブへの痛烈な皮肉やベルリンの壁崩壊など、珍しく時事的なテーマを多く取り上げた、Joe 流のトピカル・ソング。浮世離れしたアーティストではなく、きちんと現実にもコミットしていることを、冒頭でアピールしている。サウンド自体も後期A&Mのアップグレード版となっており、冒頭のつかみはOK。



2. Goin' Downtown
 出だしのシンセ・ブラスの安っぽさが興醒め。音が多すぎなんだよな。いつもの盟友Graham Maby (b)もいるので、リズム自体は問題ないのだけど、変にマーケット意識し過ぎちゃって、シンセ周りのエフェクトがウザい。もっとシンプルな編成で聴いてみたい。

3. Stranger than Fiction
 とはいえ、楽曲そのものの力が強ければ、多少のアレンジの可否はどうでもよくなってしまう。今も時々ライブで取り上げることもある、ヴァージンのニーズとJoeのポップ職人性とがうまくシンクロしたナンバー。



4. Oh Well
 イントロでいつもDeep Purple 「Highway Star」を連想してしまう、ギター・フレーズがちょっぴり印象的なナンバー。自虐を超えて卑屈さが露わな歌詞は、この後の沈滞期の兆候がうかがえる。

5. Jamie G. 
 なので、ここで一転、躁的なラテン・ナンバーが続いたとしても、どこかやけっぱち感が漂ってしまう。これまで何度もフィーチャーしてきたから、充分手慣れているはずなのに、リズムに乗り切れていない。かつてはどんなビートもねじ伏せていたはずなのに、ここでは持ち前のクリエイティヴィティが作用せず、振り回されてしまっている。
 もっと、うまくできるはずなのに。

6. Hit Single
 タイトル通り、まぁ当然Joeだからヒット・シングルを皮肉った内容のポップ・ソング。ヴォーカルのキーも通常より少し高め、過剰にポップに寄せている。
 ヒット・ソングをみんな聴きたがり、じゃあアレもコレも、とやり出すと、「おいおい」とストップさせられる。「ヒット曲だけを聴きたいんだ、アルバムの曲はいいよ、みんなそんなヒマじゃないし」。
 Joeのようなアーティストに、ヴァージンがそこまで露骨に言ったとは思えないけど、ヒット・シングルを出さねば、というプレッシャーがあったのは確か。やっぱキャラに合わないことをやろうとすると、無理がたたってくる。

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7. It's All Too Much
 楽曲の構造としては、従来のJoeクオリティなのだけど、ライブ映えを意識したアレンジがやっぱり受け付けない。シンセを入れると途端に安っぽくなっちゃうのは、やっぱ相性なのか。

8. When You're Not Around
 なので、7.同様、ライブ映えを意識した大味なアレンジが面白くない。ていうかJoe、キー高すぎだって。

9. The Other Me
 この時期のバラードとしては特に秀逸、際立ったメロディ・ラインを持ったトラック。もったいぶったストリングス(もちろんシンセ…)がジャマだけど、それに負けないパワーを秘めている。ちょっと大袈裟なアレンジだけど、このアルバムのクライマックスとして、使命はきちんと果たしている。



10. Trying to Cry
 箸休め的な、浮遊感漂うアンビエントなバラード。ブリッジとしてコンパクトな小品としてならアリだけど、6分超もあるんだな、これ。後年のミュージカル調コラボで頻出してくるパターンだけど、ヒット・アルバムを狙うには、ちょっと尺が長すぎ。

11. My House
 『Beat Crazy』のアウトテイクっぽいナンバー。あの辺の楽曲をアップグレードしたような。10.同様、その後のコンセプチュアルな作風の予行演習的な構造。やっぱライブ映え意識してるよな、この時期って。彼ほどのポテンシャルなら、3、4ピースで充分オーケストラに匹敵するサウンドを創り出せるというのに、この時はまだそれに気づいていない。

12. The Old Songs
 ここまで聴いていると、やっぱ楽曲の出来にムラが多いこと、またヒット優先のバンド・アンサンブル先行型の楽曲がアベレージ越えしていないことが如実にはっきりする。この楽曲だって、ちょっとやそっとのアレンジで損なわれるパワーじゃないもの。
 歌詞の内容的には、「古い歌」を捨てて新たな路線を歩もうよ、という前向きなものだけど、こういった旧タイプの楽曲の方が、彼のパーソナリティがうまく表れているというのも、ちょっとした皮肉。やっぱポップ路線、やりたくなかったんだな。

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13. Drowning
 ラストは過剰にドラマティックなバラードで締めくくるのは、昔からのこの人のパターン。最後は直球勝負、主にピアノによる弾き語り。
 Joeの場合、これだけ名曲があるにもかかわらず、カバーされることは未だ持って少ない。あまりにアーティスト・エゴが強すぎるため、誰が歌っても世界観を再現できない、または新たな切り口が見いだせない、というのも要因である。
 Joe Jacksonの歌は、Joe Jackson しか歌えない。
 ほんとはそれだけやってればよかったのに、違う自分もあるんじゃないか、と光の射す方へ寄り道してしまった。
 その後、方向修正するまでには、何年もかかることになる。






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「あれだ、その、なんかイケてるヤツ」。 - Mick Jagger 『She’s the Boss』

mick_jagger-just_another_night_s EMI最後のオリジナル・アルバムとなった『Undercover』をリリース後、Stonesの面々はツアーに出る案に首を縦に振らず、そのまま長期間の休養に入る。CBSへ移籍するための調整期間として、あまり表立った活動ができなかった、というのが表立った理由になっているけど、当時から囁かれていたMickとKeithとの不仲がピークに達していたため、とても顔を合わせられる状態じゃなかった、というのが真相である。
 シールを剥がしたらナニが見えるという、「週刊現代」の袋とじを思わせるエロいジャケットや、MTVでの放送禁止狙いで制作された、無闇に過激で扇動的なPVなど、何かと前評判の高かった『Undercover』だったけれど、セールス的にはイマイチだった。マスコミ向けの話題には事欠かなかったけれど、肝心の中身が竜頭蛇尾、予告編だけでお腹いっぱいになってしまう代物だった。
 大方Mick主導で組み立てられたコンセプトによって、同時代性を意識した最先端サウンドで埋め尽くされていた。ラップやヒップホップの薄~い上澄みのエッセンスや、腰の弱い軽い響きのエレドラなど、これまでのStonesサウンドとは別の要素が多く注入されていた。
 流行に目鼻の効くMickならではのプロデューシングが反映された快作と言いたいところだけど、正直、誰もStonesにそんな路線は求めていないのだった。しかもMick、80年代に入ってからは、その嗅覚もワンテンポ以上ズレてるし。

 セールスが伸びないのを、レコード会社のサポートやプロモーション体制が悪いから、とアーティストがなじるのはよくある話だけど、EMIからすれば、この場合はちょっと違うんじゃね?と言いたかったはずである。
 条件が折り合わなかったから契約延長に至らなかったわけで、そんな冷めた関係性のアーティストを、わざわざ経費をかけてプッシュするはずがない。どうせいなくなっちゃう連中に金を使うんだったら、まだ伸びしろのあるDuran Duranや、安定したドル箱のQueenに投資した方が、まだ前向きである。ビジネス的には、それが当たり前の話だ。
 一応、かつては多大な収益をもたらした功労者であるからして、それ相応のプロモーション体制は取るけど、まぁ正直、売れたらラッキーかな?程度の心持ちだったんじゃないかと思われる。下手な新機軸のオリジナルより、ヒット曲満載で確実な売上を見込めるベスト・アルバム『Rewind』に力を入れる方が、よっぽど効率も良い。

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 EMIからCBSの移籍交渉において、Stonesサイドで主導権を握っていたのはMickである。近年、長らく財務面を請け負っていたマネージャー、Rupert Loewensteinの回想録が出版されたけど、そういった有能なブレーンを身内に引き寄せ、株式会社Rolling Stones を世界有数の企業に育て上げたのは、ビジネスマンMickの慧眼によるところが大きい。
 対照的に、音楽面においてはしつこいくらい口うるさいけれど、ビジネス面ともなると丸っきし人まかせにしてしまうのが、Keith Richardsという漢である。Keith同様、 Charlie Wattsもビジネス面には疎い人だし、Ron Woodは当時まだ準メンバー扱い、発言権などもちろんない。あっても口出さないか、この人だったら。そしてBill Wyman。この頃はすでに脱退を視野に入れていたため、どうでもよくなっていたはず。どっちにしろ、蚊帳の外かこの人も。
 なので、Mick以外のメンバーはほぼ丸投げ、最後に契約書にサインするだけの存在である。彼ら的には、「そういった面倒ごとはぜーんぶMickがやってくれてるんだし、俺たち別に口出すことなんてなくね?」といった具合。

 この時、CBSとの契約において、Mick はStonesだけじゃなく、自身のソロ契約も併せて交渉を進めていた。メンバーにさえ知られぬよう、事は慎重に水面下で進められた。
 マスコミもそうだけど、知られて最も面倒な存在なのがKeithである。今はそれほどこだわりは薄くなったけど、バンド愛が強かった当時の彼にとって、Stones 以外の活動とは、それすなわち「悪」なのだ。
 純粋にバンド活動に専念していれば、よそで活動しようだなんて、思うはずがない。そう断言してしまうのが、Keithという漢である。
 バンド愛という情熱においては、MickもまたKeithに劣らないはずだけど、想いだけじゃバンド運営は続けられない。長らく同じメンツで活動していると、次第に飽きもくる。マンネリ打破のため、ちょっと違ったアングルでやってみたいな、と思ったって不思議ではない。

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 Keithが主導するレコーディング・スタイルは、昔からあんまり変化がない。
 まずは長期間、録音スタジオをブッキングして、「ベーシック録り」と称したジャム・セッションからスタートする。たまに友人知人のミュージシャンがゲストに入ったりするけど、基本はCharlieやRonnyを中心にこじんまりと、オーソドックスな3コード・プレイである。
 ただ、これが長い。ひたすら長い。
 純粋な楽器プレイだけじゃなく、曲間でミーティングを行なったり昔話に花を咲かせたり、または小休止がてら、各自ドラッグを補給したりなど、中断も多い。その間もテープは回しっぱなしなので、膨大な素材の山ができあがる。ブートとして流出するのは大抵この段階のトラックが多く、まぁどれを聴いても漫然とした演奏が続く。そこから素材として使えそうなトラックを選び出して、やっと本番。これが毎回、アルバム制作ごとに繰り返されるのだ。
 経営者であるMickからすれば、それら一連の作業はとても非効率で、看過できるものではない。なので、セッションごとに自分なりの新機軸や改革案を提示してきた。
 -いつまでもブルース・コードばっかってのも何だから、たまにディスコやレゲエのリズムでやってみよう。これがヒップホップのリズムだよ、ちょっとやってみて。生ドラムもいいけど、いま流行ってるのはシモンズやエレドラだよCharlie、ちょっと叩いてみてくんない?

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 そんな涙ぐましい努力にもかかわらず、結局できあがってくるのは、いつものStones 印サウンド。どれだけ最新のトレンドを吹き込んでみても、あのメンツでは、何をやってもいつもの泥臭いブルースになってしまう。
 ブルース・マンの真似ごとから始めたバンドだったはずなのに、いつに間にか真似ごとが熟練の域に達し、何をやってもStonesサウンドになってしまう。バンドのアイデンティティが盤石になったがゆえ、小回りが利かなくなってしまったことは、バンドにとって幸か不幸、どっちなのか。

 -じゃあStones はもう動かしようがないから、もっとナウい連中とやってみたら、俺が思うようなサウンド、できるんじゃね?
 そんなシンプルな動機で作られたのが、この初ソロ・アルバム『She’s the Boss』である。コンセプトはシンプルに、
 「あれだ、その、なんかイケてるヤツ」。
 実際、Mickがそんな風に言ったかどうかは不明だけど、いい意味での曖昧さが全編に漂っている。具体的なサウンドのビジョンなんて、もはやそんな些事にこだわるMick Jaggerではない。
 とにかく・新しければ・それでいいのだ。
 そんなフワッとしたコンセプトでオファーされたのがNike Rogers であり、Bill Laswell だった、という次第。イケてるサウンドをイチから作るより、その大元をヘッドハンティングした方が、話は早い。何しろ金ならあるのだ。
 とはいえ、単なる流行りモノだけで固めてしまったら、「10代20代のリスナーに迎合した」と思われがち、「ジジィ無理すんな」と罵倒されるのがオチである。ある程度のセールスを確保するため、シニア・ミドル層からの信用失墜は回避しなければならない。
 最大購買層であるStonesコア・ユーザー向けの対策としてMick、ここで大物豪華ゲストを投入している。Keithに匹敵するクラスのギタリストとして選ばれたのが、Jeff Beckだった。もともとMick Taylor の後釜として、Stonesに加入していたかもしれない人なので、これで話題性ゲット。音楽性の合う・合わないは、この際どうでもいい。
 同じ理由でBill人脈から引っ張ってきたのが、Herbie Hancock。正直、目立ったプレイは見られない。いいんだよ、そんなの。「Rockit」で売れたんだから、これも話題性は充分。

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 とは言えフタを開けてみると、UK6位US13位という、なんとも微妙なチャート・アクションで終わってしまった『She’s the Boss』。考えてみれば、大物バンドのヴォーカリストのソロ・アルバムって、あんまり売れた試しがない。多分、河村隆一くらいじゃない?バカ売れしたのって。
 ここでMickがやりたかったのは、とにかく「Stones じゃできないサウンド」、ていうかできるだけStonesから遠く離れた「あれだ、その、なんかイケてるヤツ」だった。KeithやRonnyじゃ追いつかぬバカテク・ミュージシャンをふんだんに使い、Duran Duran やFrankie goes to Hollywood らと並べても引けを取らない、「ナウいヤング」をターゲットにしたサウンドとしてまとめ上げた。
 ただ、有能な人材と潤沢な予算があるからといって、必ずしも傑作が生まれるわけではない。『She’s the Boss』がまさしくそれで、Stonesの名作アルバムなんかと比べちゃうと、正直インパクトは弱い。1985年という時代にフィットしたモダン・サウンドゆえ、後年になって再評価される類のサウンドではない。むしろ、多くの80年代アルバム同様、シンセまわりのエフェクトなんて恥ずかしいレベルだし。

 金と手間のかかったサウンドであることは明白だけど、時代の風化に耐えるモノではないことも、また事実。ただひとつ、まったく風化していないのが、Mickのヴォーカル。そのアクの強さだけは、時代を超越する唯一のサウンドである。
 結局のところ、どんなサウンドでも,Mick が歌うとぜーんぶStones になってしまう。そんな逆説的証明となったのが、この『She’s the Boss』だった、というオチ。
 ただ、この時点でのMickは、そんな呪縛に気づいていない。
 Keith主導で製作された『Dirty Work』を横目に鼻で笑いながら、再びヒットチャート狙いで制作されたセカンド・アルバム『Primitive Cool』は、前作のセールスを大きく下回ってしまう。
 誰も「ポップ・スター」Mick Jagger なんて求めていなかった、というマーケットの意思表示である。



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1. Lonely at the Top
 初ソロ・アルバムのトップを飾るのが、Stonesのアウトテイクのリメイク。何だそれ。ブートでも有名な音源だったらしく、ちょうどYouTubeにあったので聴いてみたところ、ボトムの効いた早めの8ビートのロックンロール。これはこれで好きだけど、まぁ確かに完成前だな、全体的に。
 無愛想なオリジナルをソフィスティケイトさせるために招聘したのが、Jeff Beck。間奏の変態ソロは絶品。当時はもうピックを使ってなかったはずだけど、それでこんな音出せるんだから、さすがギター馬鹿一代。対して同時参加しているPete Townshend。まぁ比べちゃ可哀想だよな。どちらかといえばコンポーザー・タイプの人だし。



2. 1/2 a Loaf
 挨拶代わりのトップ・チューンが派手なのはまぁいいとして、コンサバティヴなバンド・アンサンブルでまとまっているのが、この曲。ドラムがSteve Ferroneっていうのが良かったんだろうな。Jeff同様、変態性の高いギターを弾くEddie Martinezのプレイも、ここでは小気味いいスパイスとして機能している。

3. Running Out of Luck
 逆回転っぽく変調したプロローグから始まる、ソリッドなロック・チューン。Stonesではありそうでなかったタイプの楽曲に仕上がっているのは、リズムがSly & Robbieだから。まるで打ち込みかと思ってしまうジャストなリズムは、深く重く、そしてなぜかヒンヤリと冷たい感触が残る。熱くなり過ぎず走らないビートは、Mickの放つ熱と絶妙なコントラストを描く。

4. Turn the Girl Loose
 当時流行っていたパワー・ステーション・サウンドを移植したのは、Nile Rogers。インパクトの強いリズム・アレンジは時代を感じさせる。ブルースをベースとしたハード・ブギは、彼の真骨頂。Stonesでは得られなかったメリハリのあるソリッドなサウンドは、ヴォーカルの猥雑さを引き立たせている。

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5. Hard Woman
 まぁアルバムだから、こういったバラードも構成上、必要にはなる。まるでChicagoかSteve Perryのようなドラマティックなオケをバックに、臆面もなく切々と歌い上げるMick。ロマンチストなんだろうね、案外。でも、シングルにすることはなかったんじゃないかと思う。

6. Just Another Night
 Mickのソロと聞いて、真っ先にコレを連想する人は多い。リード・シングルとしてリリースされ、US12位の大ヒット。コレが売れたから、アルバムも売れると踏んだんだろうなきっと。
 名ギタリストJeff Beckの多彩なプレイが光るトラックなのだけど、リズムやエフェクトがうるせぇ。ヒップホップのリズムとマリアッチのギター・プレイとのハイブリットはBill Laswellならではのアプローチだけど、やっぱシモンズはねぇわ。軽いもん。



7. Lucky in Love
 Carlos Alomarとの共作にもかかわらず、パーソネルにはクレジットされていない不思議。こちらもSly &Robbieによる盤石なリズムをベースに、Jeffがブルース・プレイを披露しているのだけど、シンセがやっぱり賞味期限切れ。他のパートががんばってる分だけ、目立つよな。まぁこれも味か。

8. Secrets
 演奏的には同じアプローチだけど、こっちはモダン・ブルースをベースにしたソリッドなロックに仕上げており、疾走感がカッコいい。これは全然、今でも通用するよな。そう思ってクレジットを見ると、サウンド・プロデュースはNile Rogers。ダンサブルなリズム・アレンジは職人芸。

9. She's the Boss
 フェミニズムの視点に立ったMick Jaggerとして、リリース当時はセンセーショナルな話題となったタイトル・トラック。なので、楽曲単体での評価がまともにされておらず、そこがちょっと可哀想なトラックである。Stonesでは成しえない、アクセントの効いたファンク・テイストの16ビートは、カチッとまとまったダンス仕様にビルドアップされている。






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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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