好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Rock

シャレオツ感? そんなの関係ねぇっ - Style Council 『Home & Abroad』

folder 1986年リリース、活動中にリリースされた唯一のライブ・アルバム。実質的な活動期間は5年程度だったので、ライブ盤1枚は妥当なところ。敢えて言えば、複数のライブ音源からイイトコ取りでの構成のため、いわゆるダイジェスト版な点だけが、ちょっと惜しい。
 基本、ハイレベルの演奏テクニックやインプロビゼーションを売りにしたユニットではないので、昔から彼らのフルセット音源は少ない。今の時代、ちょっと手間をかければ、ネットのあちこちに音源は転がっているのだけど、その多くはテレビ出演やラジオ番組のエアチェック音源が主体であり、質の良い無修正オーディエンス音源というのは、大して多くない。
 レコーディング/ライブ両面で脂の乗っていた、『Our Favorite Shop』リリース後のライブを中心にまとめたものなので、シングル・ヒットした曲が多く、ある種ベスト・アルバム的な機能も有している。なので、ちょっと極論だけど、これさえ聴いておけば、彼らのおおよその代表曲を押さえることができる。そのくせ「Long Hot Summer」が入ってないのはちょっとどうなのよ、と突っ込みたくはなるけど、まぁそこは置いといて。
 録音なのかスタジオ処理のせいなのか、歓声が不自然に後付けっぽく聴こえるのと、ホール中心のライブの割りには響きが薄く、なんだか擬似ライブっぽい音質なのがちょっと残念。でも、全盛期の記録として、その希少性はいまも変わらない。

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 80年代初頭のネオアコ・ムーヴメントに片足を、そしてもう一方をポスト・パンクに突っ込んでいた彼ら、当時親交のあったEverything But the Girl と近い方向性で、ジャジーだボサノバだソウルだファンクだ、ロック以外のエッセンスを貪欲に取り込んだサウンドを展開していた。
 そもそもポール・ウェラーにとって、「ロックからの逸脱」というテーマは、ジャム後期から地続きのものだった。「既存ロックの価値観打破」がテーマだったパンクも、時代を追うにつれ自家中毒を起こし、紋切り型の似たようなサウンドに収束しつつあった。拳を振りかざす先がみんな同じなんて、そんなのパンクじゃない。
 みんなと同じ、「荒削りな楽曲と拙い演奏」といったステレオタイプのフォーマットは、音楽的な成長著しいミュージシャンにとっては、足かせでしかなかった。常に前しか見ない当時のウェラーからすれば、いつの間に商業パンクの筆頭となり、フォーマット外のアプローチを歓迎されないジャムの看板は、もはや必要ないものだった。
 類型的なロックのスタイルを捨てるため、人気絶頂のジャムを解散したウェラー、その後は180度違ったアプローチで音楽と向き合うことになる。

 ジャムとは対照的なソフト・サウンドとシンクロするように、ウェラーのファッションも大きく変化する。ひとつの不変的なスタイルとして確立したモッズ・スーツを脱ぎ、スタイリストの巧みなコーディネートによって、当時の最先端だったDCブランドに身を包むようになった。ひと昔前の石田純一のようにカーディガンを肩に羽織ったり、カジュアルなサマー・セーターを着るようになったのも、この頃だ。
 ジャム時代の全否定にも映る、そんなウェラーの極端なシフト・チェンジは、古株ファンにはことごとく不評だった。パンクに必須だった疾走感や気迫などが強力脱臭されたデビュー・アルバムは、とても同じ人物の作品とはとても思えなかった。
 でもライブになると血が騒ぐのか、序盤こそ、歯の浮いたソフトなヴォーカルを披露するウェラー、興が乗るにつれ、パフォーマンスは次第に荒くなってゆく。汗が吹き出し、ステージ衣装も乱れてゆく。アクションも大仰になってステージを縦横無尽に歩き回り、シャウトと唾がステージ上に飛び交う。
 なんだ、これまでのジャムと変わんねぇじゃん。ギターを持ってるか持ってないかだけ、いつものハイパー有酸素運動。どう繕ったって、熱くたぎるパンクの血は隠せない。

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 行き詰まりとなった英国政治や社会問題をテーマに掲げ、大衆向けのポップ・サウンドでコーティングして、メッセージを広く流布させるのが、スタカンの基本コンセプトだった。直訳「スタイル評議会」の名のもと、表面的なサウンドにポリシーを持たせることを敢えて捨て、トレンドやテーマによって意匠を変える行為は、膠着状態だったニュー・ウェイブ以降のロックに対するアンチテーゼでもあった。
 『Home & Abroad』に収録されている楽曲の多くは、構造不況に対して何ら効果的な改革を示せないサッチャー政権への憤りから生まれたものである。トップ40チャートでWham!やDuran Duranらポップ・ソング勢と肩を並べながら、歌ってる内容はとことん左寄りか鬱々とした内省吐露といった具合。英国人らしい自虐と鬱憤をストレートに描いた楽曲が、次々とチャート上位にランクインしていた。
 日本だったら、速攻放送禁止か発禁になってしまう内容でも、普通に売れてしまうのが、当時の英国事情を反映している。とはいえ、当時に限ったことじゃなく、英国は政治・社会批判には比較的寛容なお国柄である。平気で王室批判やゴシップが報道されること多々あるし。

 ただ、外部への怒りを発露とした表現にも、限界はある。政治社会への批判を声高に続け、同調者が増える。そして、オピニオン・リーダーは次第に「権威」となってゆく。「力を持つ」ということは、「社会的弱者ではなくなる」ということと同義なのだ。
 労働者救済のため、レッド・ウェッジの立ち上げに尽力したウェラーだったけど、この時すでにヒット・チャートの常連だった彼は、「そちら側」の立場ではなかった。成功者となっていた彼がどれだけ保守政権の打倒を訴えたとしても、明日のパンとスープ代すら捻出できずにいる社会的弱者にとっては、絵空事でしかなかった。
 一貫して政治色の薄いエルヴィス・コステロは、発足時から彼らの活動には批判的だった。すでにロック・セレブとして、多くの社会事業に首を突っ込んでいたスティングでさえも、その左寄りのスタンスゆえ、批判こそしなかったけど、明確に距離を置いていた。
 共産主義色が強すぎたことによって、幅広い支持を得られなかったレッド・ウェッジは、次第に活動も収束化し、内輪もめの末、フェードアウトしてゆくことになる。こういうのって、大抵派閥が分裂して内部崩壊しちゃうよな。それはどこの国も似たようなもので。

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 1987年の英国総選挙は、保守党の勝利で終わる。労働党の健闘も虚しく、サッチャーは引き続き3期目の政権を率いることとなった。
 「歌は世につれるが、世は歌につれない」と、かつて山下達郎は言った。政権批判や労働者救済を訴え続けたとしても、そう簡単に世の中が変わるわけではない。打てば響くのはごく一部であり、広く伝えるには、もっと強い求心力・カリスマ性が必要なのだ。
 そんな徒労感も手伝ってか、この時期からスタカンの活動も活発ではなくなり、セールスも同様に下降線をたどってゆくことになる。
 スタカンのもうひとつの軸である、「多様なジャンルを取り込んだ、変幻自在のサウンドアプローチ」も、次第に「スタカン・サウンド」的なものが固まり、マンネリ化に陥っていた。自家中毒をこじらせていたロックと違うものを指向しながら、キャリアを重ねるにつれ、いつの間にか自分たちがフォーマットをなぞるようになっていた。そんなジレンマが、さらにウェラーを追い込んでいった。
 「これまでと違うものを」といったコンセプトを掲げて、『Pet Sounds』まがいの連作組曲や、不似合いなピアノ・コンチェルトを収録した『Confesstions of A Pop Group』は、セールス的に大コケした。さらに負けじと、時流を先取りして果敢にハウス・サウンドに挑んだ『Modernism: A New Decade』ときたら、レコード会社に発売拒否される始末。
 もはや、スタカンというユニットでできる音楽的挑戦は残されていなかった。どれだけ多ジャンルのエッセンスを取り込んで行ったとしても、演ずる人間は同じなので、限界はある。同じ名義で続けられるのは、せいぜいアルバム1、2枚程度まで、コンセプトの性質上、長く続けられるものではない。

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 いっそボノのように開き直って、「ロックご意見番」的な立場で時事問題をボヤき続けてたら、スタカンの寿命はもう少し長かったんじゃないか、とふと思う。ポップ・スターと頑固親父の2枚看板で、コンスタントにシングル・ヒットを出しながら、インタビューでは毒を吐きまくったりして。ニュー・ウェイブ以降の重鎮として鎮座しながら、若手のリスペクトを受け、新曲と織り交ぜて昔の曲をサービスでやったり。
 ここまで書いて、「アレ、結局いまそんな感じになってるじゃないの」と思い直す。長らく過去曲を封印してきたウェラーだったけど、21世紀に入ってからは、ジャムもスタカンもソロも同列に扱い、ライブでプレイしている。
 前ばかり見てるのではなく、振り返る余裕もできた、ということなのだろう。人はそれを「成長と呼ぶ。
 発表年代を問わずランダムに並べられた近年のセットリストの中で、スタカンの曲もまた違和感なく溶け込んでいる。時事性が強い言葉に秘められた毒は、風化と同時に他曲と融和されている。あの時の刺激は、あの日あの場所じゃないとリアリティがないのだ。


Home & Abroad
Home & Abroad
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Style Council
Polygram Int'l (1998-10-13)
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1. The Big Boss Groove
 シングル「You're the Best Thing」のB面としてリリースされ、アルバムには未収録。瞬発力の良さからオープニングに起用されることが多かったため、ファンには広く知られている楽曲。ウェラーの一枚岩ユニットではないことを強調するように、スタジオ・ヴァージョンではDee C. Lee とJayne Williamsonとでヴォーカル・パートを分け合っている。ライブではLeeとのデュエット。
 力を合わせて政権打倒をアジるウェラーのヴォーカルも最初からフル・スロットル、バンドも気合が入っている。

2. My Ever Changing Moods
 6枚目のシングルとしてUK5位、彼ら初期の代表作であり、ウェラーの全キャリア通しても、キャッチ―なメロディ・ラインが突出している。アルバム・ヴァージョンは流麗なピアノ・バラード、シングルでは小気味よいソフト・ファンクと、アレンジによって様々な表情があるけど、骨格がしっかりしているだけあって、どれもカッコ良く仕上がっている。
 ここではホーン・セクションを前面に出し、テンポもちょっと速めに設定され、ライブのグルーヴ感を損なわないアレンジ。俺的に一番馴染みの深いアレンジでもある。
 モヤモヤした鬱屈感でウダウダしてるけど、どうにか立ち直んなくちゃな、でも…、といった若者特有の足踏み感を活写した歌詞は、ヴァージョンによってその表情がまるで違う。この歌詞でバラードだったら引きこもりそうだけど、『Home & Abroad』ヴァージョンだったら外に出たくなる。そう、行動するにはまず外に出なくちゃダメなのだ。

3. The Lodgers
 13枚目のシングル・カットでUK最高13位。俺の中では、スタカン楽曲の中ではトップ3に入る名曲。かしこまってまとまった印象のスタジオ・ヴァージョンとは対照的に、ここではウェラーも含め演奏陣のアドリブも多く、中盤にかけてはジャム・セッション的な様相も呈している。ダンス・チューンとしても秀逸なため、起爆剤的な役割も果たすキラー・チューン。



4. Headstart for Happiness
 シングル「Money-Go-Round」B面ヴァージョンでは簡素なデモ・テイクみたいな音だったけど、『Cafe Bleu』収録時には能天気なミュージカル調デュエットにブラッシュ・アップされた。で、ここではそのアルバム・ヴァージョンに準じたホーン中心のアレンジ。ロックっぽさも薄ければファンクの匂いもない、ある意味、スタカン・オリジナルとでも言うべき楽曲。やっぱりLeeのヴォーカルが入るとポップ感が増す。

5. (When You) Call Me
 シングル「Boy Who Cried Wolf」のB面としてリリース。シングル・ヴァージョンはシンセ・ベースやドラム・マシンを多数駆使した、時代性を感じさせるエレポップとして、独特のキッチュ感があった。ライブでは逆にそのいかがわしさが薄れて普通のミディアム・バラードになっちゃってるのが、ちょっと惜しい。メロディ・ラインはウェラーにしてはクセも少なくスタンダードの香りすら漂っている。

6. The Whole Point of No Return
 スタカンの場合、アルバムとシングルでヴァージョン違いが多く、しかもライブでも全然違う場合がある。この曲も、ライブ用にアレンジされているパターン。基本はシンプルなボサノヴァ・タッチのギター弾き語りで、ラウンジ臭が強い。
 ライブの構成上、ブレイクとして息抜きの曲は必要だろうけど、この時期の彼らの曲は、そんな小休止曲のオンパレード。ウェラーが口角泡を飛ばしていても、簡素なアレンジでは時に空回りしてる場面もある。さすがにこの曲調では、彼もおとなしい。

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7. Our Favourite Shop
 もう一人のメンバーMick Talbotが主役となるインスト・ナンバー。ラテン・ベースのリズムを中軸に、ジャム・セッション風の演奏が展開されている。もともとライブ感のある演奏なので、スタジオ音源とさして違いはない。ないのだけれど、あまりに原曲に忠実過ぎる展開もどうなのか、と。他のライブだったら、もっとアドリブが長かったりLeeのヴォーカルを入れたり、遊ぶ要素はあったのかな。

8. With Everything to Lose
 アンチ・ロックとして結成されたスタカン・サウンドのひとつの到達点。ボサノヴァ・タッチなのに、既存のロック・ユーザーさえ納得させてしまうグルーヴ感を創り出せたのは、才気バリバリだったウェラーでこそ成しえた力ワザ。
 リズム・アレンジ・メロディともほぼ完成の域に達しているため、ライブ/スタジオ・ヴァージョンとも、大きな変化はない。しかしフルートをリードに使うバンドがここまで支持されるとは。ジェスロ・タルが同じくフルート使ってるらしいけど、ゴメン聴いたことないや。

9. Homebreakers
 先の見えない労働者階級の悲惨な現状をリアリティ・タッチで描写したナンバー。重く陰鬱なファンクには、Talbotの声が合っている。『Our Favorite Shop』のオープニングとして知られている曲だけで、考えてみればこんな重々しい曲を初っ端に据えて、よく日本でも売れたものだよな、と今にして思う。

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10. Shout to the Top!
 説明の必要もないくらい、多分日本では最も有名なスタカン・ナンバー。以前のレビューでも書いてるけど、佐野元春への影響はもちろんのこと、あの小柳ルミ子までカバーしていることで一部では有名。
 スタジオ・ヴァージョンはさんざん聴きあきているので、テンポを落としてボトムの効いたライブ・ヴァージョンはなかなか新鮮。

11. Walls Come Tumbling Down!
 UK最高6位をマーク、俺の中のスタカン・ランキングでは常にトップ3に入る大名曲。スタジオ・ヴァージョンもテンション上がりまくりのウェラーだけど、ここではさらにアドレナリン全開、ファンク風味を添加したソリッドなロック・チューンとなっている。
 壁を崩せ!というシンプルなメッセージは、多くの若者に勇気を与え、そしてポピュラリティさえも獲得した恒例。こんな曲がもう2、3あったら、レッド・ウェッジも生き永らえていたのかもしれない。いやないか、あぁいうとこの執行部って、手柄の横取りで内部分裂するのがオチだから。



12. Internationalists
 ラストは『Our Favourite Shop』収録曲、で、このアルバムのもとになったツアーのタイトル・チューンでもある。バラードや緩やかなリズムのヒット曲が多いため、「静」のイメージで捉えられることが多いスタカンだけど、ライブでのグルーヴ・マスターとしてのTalbotの存在を忘れてはならない。
 ウェラーの性急なカッティングと、繊細かつ大胆なSteve Whiteのドラミング、そしてステージ上の空気を一変させるフレーズをバンバン放り込むTalbotのオルガン・プレイ。あまり語られることはないけど、ライブ・バンドとしてのスタカンを最も象徴した楽曲。



Greatest Hits
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The Complete Adventures Of The Style Council
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コステロさん、ビートルズっぽくやってみる。 - Elvis Costello 『Imperial Bedroom』

 というわけではないけど、もう一回ちゃんと聴いてみようと思い立ち、実際聴いてみた。当初は最新作『Look Now』との関連性がどうした、とか半分アラ探し・ネタ探し的な向き合い方だったのだけど、しばらくぶりに聴いてみたら「アラ案外いいじゃないの」と見方がコロッと変わってしまった。コステロに限らず、しばらく振りに昔のアルバムを引っ張り出して聴いてみると、たまにこんなことがある。
 前回もチラッと触れたけど、コステロ7枚目のオリジナル・アルバム『Imperial Bedroom』、UK6位US30位を記録している。必要以上に地味で、必要以上に老成したカントリーのカバー・アルバム『Almost Blue』さえ、UKゴールドを獲得しているにもかかわらず、それすら届かなかったアルバムである。
 実際、聴いてみると中期ビートルズからインスパイアされたと思われるサウンドは、丁寧で手が込んでおり、気合いの入りようが伺える。ただリリース当時は、コステロのコア・ユーザーに、そんな混み入ったスタジオ・ワークの意図が伝わらず、何となくスルーしてしまった感が強い。

 あくまでザックリした分類だけど、ファンの中では、デビューからこのアルバムまでが、初期コステロとして位置づけられている。『Punch the Clock』以降からワーナー移籍までが第2期、でワーナー時代が第3期というカテゴライズになっている。その後、ユニバーサル移籍から現在に至るまでが、何となく第4期といった感じ。
 で、その第1期をさらに要約してみると、『Armed Forces』までが、初期衝動に突き動かされたパワーポップ・テイストのパブ・ロック、続く『Get Happy』では、モータウンからビートルズから、過去に影響を受けたR&Bへのリスペクトをあらわにし、『Trust』でニューウェイブ色を一掃して中堅アーティストの仲間入り、その後は直球ストレートのコンテンポラリー路線を目指すのかと思ったら、何をとち狂ったか単身アメリカへ乗り込んで、問題作『Almost Blue』でのカントリー回帰、そして吹っ切れた末の『Imperial Bedroom』、といった流れになる。
 こうして書いてみると支離滅裂だけど、コステロ自身の中では、多分筋は通ってるんだろうな。
 いや、ないか。

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 なにゆえ今さらここに来て、40年近く前のアルバムをフィーチャーしたツアーを行なったのか。Bruce SpringsteenもStevie WonderもSteely Danも井上陽水も、過去の名作の再現ライブを行なっているけど、選ばれているのはいずれも好セールスを記録したアルバムばかりである。
 正直、『Imperial Bedroom』は彼の代表作ではない。セールス基準で行けば、選ばれるのは『Spike』あたりだろうし。
 会心の出来とは言いがたいけど、でも大コケしたほどの失敗作でもない。一般的に名作の基準となっている、ローリング・ストーン誌の「500 Greatest Albums of All Time」では166位にランクインしており、評論家筋からの再評価はされているのだけど、でもファンの間では何となくスルーされがちである。
 当時はあまり高い評価は得られなかったけど、年月を経てクオリティの高さが再評価されたということなのだろう。考えてみれば、彼の数あるディスコグラフィーの中では、最もライブ感の薄いアルバムである。
 なので、返して言えば、ライブ向けにアレンジするには、最もやり甲斐があるのも、このアルバムである。他のアルバムで再現ライブをやろうとしても、通常営業のセットになってしまうため、あまり面白くない。
 いっそ極端に、オーケストラを率いてシンフォニー・アレンジにしちゃうの手だけれど、まぁしないわな。「Watching the Detectives」のストリングス・ヴァージョンなんて、どこからも需要なさそうだし。

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 とはいえ、デビューからずっとアトラクションズと一蓮托生でやってきたのだから、たまには凝ったアレンジを試したくなったり、ストリングスやホーン、女性コーラスを入れたゴージャスなサウンドに憧れたりするのは、それはそれで自然の流れである。日々書き溜めてきた作品の中には、4ピースのバンド・サウンドにはそぐわないものも、どうしたって出てくる。
 楽曲にフィットしたサウンドを得るため、後のポップ・スター路線やクラシックへの接近、ヒップホップの大胆な導入も、そういう考えで言えば、筋が通っている。すべては楽曲ありきなのだ。
 アトラクションズとのプレイを前提としたサウンド・メイキングに行き詰まりを感じたコステロ、ここでは中期ビートルズのスタジオ・ワークを司ったジェフ・エメリックにプロデュースを委ねている。ここまでのキャリアからすれば、突然変異的なキャスティングだけど、こういった試みは何もコステロに限ったことではない。
 同じくニューウェイブで括られていたPoliceは『Ghost in the Machine』で大々的にシンセを導入し、Joe Jacksonはジャズやラテンなど、違うジャンルの音楽性に活路を求め、『Night & Day』でひとつの到達点を迎えた。パンク第一世代のClashやJamも、直情的なロックンロールには収まりきれない雑多な音楽性を志向していた。
 ほぼ同時多発的に、真摯にクリエイティブな音を志向するアーティストにとって、「ロックはダセェ」という価値観が芽生えていたのだ。

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 せっかくなので、『Imperial Bedroom』を主軸に置いた、去年のツアー音源を入手して聴いてみた。一部はYouTube にも映像がアップされているけど、スマホでの撮影がほとんどのため、遠いアングルなのは仕方ないにしても、大抵音も割れててあまり良くない。しかも1曲単位の細切れ動画しかないので、全貌が掴みづらい。
 なので、どうしてもフルセットの音源が聴きたかったため、大声では言いづらいルートから入手した。あんまり推奨はできないけど、ブート関連で検索すれば、簡単に見つけることはできる。興味がある方はご勝手に。
 再現ツアーと銘打ってはいても、1曲目から通しで演奏するのではなく、ランダムに組み合わせて時々代表曲を挟む、といった構成になっている。基本、ライブではあまり演奏されて来なかった楽曲が多いので、コアなファンからすれば、レア曲揃いでウケがいいんだろうけど、ビギナーにはちょっと着いて行きづらい流れかな。なので「Accident Will Happen」など、知名度の高い曲も時々織り交ぜている。
 もともと『Imperial Bedroom』、ライブでの再現を前提としないサウンド・メイキングだったため、盛り上がる要素の多い初期楽曲と比べると、キャッチーなメロディやフックはちょっと弱い。そんなハンデを背負いながらも、ライブ向けにバランスの良い構成にすることによって、きちんとエンタテインメントとして成立させている。この辺は、コステロを始め、メンバーらの成長に依る部分も多いのだろう。

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 このアルバムを製作するにあたり、コステロはこれまでのギターによる作曲から、初めてピアノにコンバートしている。そのせいもあって、これまでの8ビート主体のロックとは趣きが違っている。
 これまでとは違うメソッドの使用によって、つい出てしまいがちなギターの手癖が抑えられ、これまでとは違うコード進行や展開が可能になった。スタジオ・ワークを重視したレコーディング作業は、これまでのラフなヘッド・アレンジから一歩進んで、より緻密なサウンド・メイキングが可能になった。
 エメリックとのコラボで培った、ギター・ポップにこだわらないサウンド・メイキングは、後の『Spike』や『All This Useless Beauty』でも活かされることになる。逆に言えば、ここで得たスキルは、すぐ成果には繋がらなかった。当時のコステロやアトラクションズらでは、このサウンドに応じた表現力・演奏スキルが至らなかったせいもあるだろうし。
 じゃあ、コレをもっとわかりやすく、キャッチーな方向性でやってみたら、どうなるだろうか?トップ40ナンバーと並べても遜色ない、売れ線のサウンドにしてみたら。
 そんな感じで色気が出てしまったのが、その後のポップ・スター時代ということになる。本人的には気合いを入れてやったはずだし、俺世代としては、むしろこっちの方が好みだったんだけど。


Imperial Bedroom
Imperial Bedroom
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Elvis Costello
Rhino / Wea (2002-11-19)
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1. Beyond Belief
 てっきりシングルかと思ってたのは勘違い。生まれて初めて買ったコステロのベストに収録されていたので、俺の中では知名度の高い曲である。ストレートなロックンロールかバラードの二択だったサウンド傾向に当てはまらない、なんとも不思議な味わい。スパイ映画のサントラみたいなイントロのベースが印象的。
 終始クレバーに徹するヴォーカルと演奏、だけど後半に差し掛かった頃、Steve Nieveのオルガンが炸裂するのを皮切りにカオスさが増してゆく。考えてみりゃ、シングル向きじゃないよな、これ。なんでベストに入ってたんだろうか。



2. Tears Before Bedtime
 レゲエ・ビートを使った軽めのポップ・チューン。英国人がレゲエを扱うと、大抵重たくなる傾向があるのだけど、ちょっとソウル風味のコーラスも入った肩の力の抜けよう。初期ヴァージョンはもっと店舗を落としたカントリー・ロック風でまとめており、こっちはこれでイイ感じ。で、去年のライブはもっとスローになって、ゴスペル・タッチのドラマティックなバラードに変貌している。

3. Shabby Doll
 『White Album』期のJohn Lennonがマジメにレコーディングしたら、こんな感じに仕上げただろうロッカバラード。コステロが絶賛したように、ここでのBruce Thomasのベース・プレイ、ブレイクを効果的に使って緊張感をうまく演出している。
 
4. The Long Honeymoon
 ランバダを思わせるアコーディオン・ソロから始まるポップ・バラード。キーとテンポを下げると『Spike』に入れても違和感がなさそう。すでにこの時代から、ロック以外の可能性を模索していたのかしら。

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5. Man Out of Time
 Dylanっぽい歌い方でスタートする、コステロ史上最も凝りに凝ったサウンド。自分なりの解釈による「俺的A Day in the Life」なのだろうけど、UK最高58位とあまり受け入れられなかったことは、コステロの野心を挫いたことだろう。ラウドなロック・サウンドを冒頭とエンディングに使い、大半を中期ビートルズ的ソフト・サウンドという展開は、当時としては冒険だったのだろう。
 初期ヴァージョンはそのラウド・サウンドで全篇通しており、これはこれで荒ぶる感じがバンド・イメージを象徴しているのだけれど、まぁアルバム・コンセプトにはちょっと当てはまらない。むしろシングルのみの別ヴァージョンでリリースしていれば、世間の反応もちょっと違ってたかも。



6. Almost Blue
 なんでこの曲がこのアルバムに入ってるのか、いまだによくわからん。そう思ってるのは、俺だけじゃないはず。前のアルバムのタイトル・チューンが収録されている。ここまではギリギリわかる。でも、本来ならメインとなるべき「Imperial Bedroom」という曲があるにもかかわらず、こちらはアルバム未収録となっている。どうなってんだこりゃ、と思って「Imperial Bedroom」を聴いてみたら、なんか腑抜けしたワルツでピント来ない曲だった。これじゃ「Almost Blue」の方が出来はいいよな。でもなんでこの曲が…(以下無限ループ)。

7. ...And in Every Home
 エメリックのプロデュース・ワークが強く反映された、コステロ版「Magical Mystery Tour」。先に書いた「Imperial Bedroom」をボトムアップして本気で取り組んだら、こんな感じに仕上がる。そう考えると、「Imperial Bedroom」が叩き台となった、と考えればよいのかな。

8. The Loved Ones
 エメリックとコステロとのバランスが最も良いバランスで形になったのが、このパワー・ポップ・チューン。「Help!」期ビートルズのビート・バンド的エッセンスのコステロと、ほど良いデコレーション・スキルを持つエメリックとの嗜好がうまくシンクロしている。
 昨年のツアーでもオープニングで演奏されており、ノリの良さとオーディエンスのつかみはOK的な楽曲。

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9. Human Hands
 ヴォーカルのキーが高いので、初期コステロ色が強い。歌心のあるBruceのベース・ラインは聴き入ってしまう。性格には難があって袂を分かつことになった彼だけど、考えてみればアトラクションズはみんな英国人、みんなひと癖ふた癖あるに決まってる。

10. Kid About It
 明らかにこれまでとは文脈も作風も違う、メロディ・ライクなナンバー。こういう曲まで無理やりアトラクションズ単体でやるには、そろそろ限界だったんだろうな、作家性としては。リヴァーブ多めのサビ部分なんかは、すっかりAORシンガー。別名義でシングル切ってもよかったんじゃないか、と思うのは今さらヤボだね。
 デモ・ヴァージョンは、シンプルなバンド・アンサンブルはまぁいいとして、コステロのヴォーカルが探り探りといった印象。ちゃんとプロデュースされたサウンドでこそ活きる曲なのだ。その後は、こういった性質の楽曲が増えてゆく。

11. Little Savage
 軽めのR&Bタッチなので、むしろ『Get Happy』の方がうまくハマっている。なんで入れちゃったんだろうね?昨年のツアーまで、ライブではほとんど演奏されていないし、しかもやったりやらなかったりで、扱いにくい曲なのかもしれない。
 デモ・ヴァージョンは、やたらオルタナ的なラフなセッション風。うまくまとめづらかったのかね。

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12. Boy with a Problem
 10.同様、バンド・サウンドでは表現しづらい楽曲。実際、この曲も去年まではほとんどライブでは披露されていない。年月を経て、ワーナー時代ならもっとうまく広げられたんじゃないかと思われるけど、当時はコステロもNieveも若すぎた。

13. Pidgin English
 2タイプの曲を強引につなげた「Man Out of Time」と比べて、素直にコステロとエメリックとの意図が合致したのが、これ。ポップ性と疾走感とが同居して相乗効果を生み出している。間奏のアコギ・ソロが何気にいい味出している。
 去年のライブ・ヴァージョンはImpostersよりのアレンジになっているので、これは逆にスタジオ・ヴァージョンの方が的を射ている印象。

14. You Little Fool
 昔だったら勢い一発で片づけていたのを、きちんと段取り付けたプロダクションで組み立てると、こんな感じのヒット性を併せ持ったパワー・ポップに仕上がるといった典型。でもシングルはUK最高52位。時代的にはちょっと早すぎた。
 デモは簡素なアレンジで、初期ビートルズっぽい。このままバンド単体でレコーディングしたら、いつものコステロで終わっちゃったんだろうな。

15. Town Cryer
 ラストでこんないい曲を持ってくるとは。ベタなストリングスも気にならない楽曲の腰の強さ。オーケストレーションがかなり強く入っているけど、コステロのヴォーカルの見事さが、イージー・リスニングに陥らずに食い止めている。Paul McCartneyならもっとロマンティックになりがちなところを、オンリー・ワンのコステロ・サウンドとして構築している。
 ここで方向性をつかんだはずだったのに、当時のマーケットの反応は薄かった。ポップなセンチメンタリズムを獲得したコステロはその後、マスに寄り添ったアーティスト戦略を図ることになる。



ルック・ナウ
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エルヴィス・コステロ ザ・インポスターズ
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The Best Of The First 10 Years
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大人になった(風を装う)コステロ - Elvis Costello 『Look Now』

folder 何かと物議を醸したヒップホップ・ユニットRoots とのコラボ・アルバム『Wise Up Ghost』 以来、5年振りのオリジナル・アルバムとなる。さらに遡ってImposters名義だと、『Momofuku』以来10年振り。さらにさらに、その10年の間にリリースされた『Secret, Profane & Sugarcane』と『National Ransom』はソロ名義、しかも思いっきりレイドバックした、マジのカントリー・アルバムだった。どちらも通好みの趣味性が強いアルバムなので、きちんと商業性を意識したアルバムというのは、ずいぶん久し振りということになる。
 特にこの5年、まとまった新作はなかったのだけど、だからといって隠遁していたわけではない。オフィシャル・サイトより詳しくマニアックな、唯一無二のニュース・ソースであるwikiを見ると、ソロやバンド名義を使い分けて、年間100本近くのライブを世界中で行なっている。ここ最近、コステロ名義のアルバム・リリースは、ベストやライブ・アーカイブばかりだったけど、単発的にあちこちのプロジェクトに顔を出し、音源提供したりしている。まぁこういうのは昔からだけど。
 とっくに還暦を迎えているはずなのに、活動ペースは何ら昔と変わってない。むしろ音楽以外の活動、トーク・ショーのホストや自伝執筆など、若い頃より行動範囲は確実に広がっている。
 なので、あまりブランクが空くこともなく、案外話題が提供されていたので、まぁ元気でやってるんだな、と思ってはいたのだけど、そんな矢先、今年の夏アナウンスされたのが、悪性腫瘍の手術というニュースだった。俺を含め、世界中のコステロ・ファンは居ても立っても居られなかっただろうけど、幸い回復も早く、みんなホッとした。俺もホッとした。
 そんな不穏なニュースからさほど間を空けず、『Look Now』のリリース・インフォメーションが届いた。世界中の音楽ファンが喜び、そして俺も喜んだ。

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 デビューしてからずっと創作ペースが落ちることがなかったコステロ。リリース契約の関係でブランクが空くことは何度かあったけど、5年も空いたのは多分初めてなんじゃないかと思われる。前述したように、ライブ・パフォーマーとしてはずっと第一線で活動していたため、現場感覚が失われたわけではない。
 21世紀に入ってからの音楽業界の主流が、音源リリースからライブ活動にシフトしてしばらく経つけど、もともとデビューから一貫して、ライブ活動に主軸を置いてきた人なので、活動ペースにあまり変化はない。ただ21世紀に入ってからは、アルバム・プロモーションのためのツアーは少なくなる。
 以前、巨大ルーレットを回して針の止まった曲をプレイする「Spinning Wheel Tour」がちょっとだけ話題になったけど、あの時もニュー・アルバムがあったわけではない。コステロだけではなく、アルバム宣伝のためのライブ自体が少なくなっているのが、今のご時世なのだ。
 それが顕著になったのが、2010年代に入ってから。コステロもまた、新曲リリースの機会が格段に少なくなる。

 オフィシャルでリリースされた楽曲が少ないとはいえ、単純に「創作ペースが落ちた」「才能が枯渇した」というのは早計である。ここまでのキャリアを振り返ってみると、そんな短絡的な理由じゃないのは、ファンなら誰でも知ってるはず。
 今はもう廃盤だけど、かつてライコからリリースされていた、『My Aim is True』から『All This Useless Beauty』までの2枚組デラックス・エディションを持っているファンも多いと思う。持ってない人もいるかもしれないけど、たぶん「多い」という前提で進める。
 リイッシュー・レーベルとして評価が高かったライコの丁寧な編纂によって、1枚目がオリジナル・テイク、2枚目には各曲のデモ・テイクとアルバム未収録曲が詰め込まれていた。『Get Happy』なんて50曲入りだもの、そりゃファンならみんな買うでしょ。
 ユニバーサル移籍後も、アルバムごとに結構な量のボーナス・トラックを収録したりして、ソングライティングへの意欲は失われていない。近年はあまり流出しなくなったけど、ブートレグ・サイトを覗いてみると、スタジオ・アウトテイクもあちこちで見つけることができる。興味があったら探してみな、大声でお勧めはできないけど。

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 さすがにペースは落ちているだろうけど、息を吐くように作曲する人なので、今さら特別な行為じゃないんだろうけど、ベテランゆえの問題も出てくる。歳を経るにつれ、レベルの水準は上がってゆく。以前なら充分アベレージ越えだったとしても、今の基準で測ると「発表できるレベルに達してない」と、ボツにしちゃう曲も多いんじゃないかと思われる。
 それとやっぱり、環境の劇的な変化。ストリーミング・サービスの普及に伴うCDメディアのマーケット縮小によって、欧米ではとっくの昔に、音楽出版は旨味がないビジネスになってしまっている。
 労力に見合うリターンが、以前より比べものにならないくらい少なくなっちゃったので、いくら曲を書いても報われない。そりゃ新曲書くより、ライブで定番曲歌う方に向かうわな。モチベーションだって違ってくるし。

 で、『Look Now』。
 通常、コンボ・スタイルでのレコーディングだったらある程度の期間、スタジオにこもって一気呵成に作り上げるのが一般的だけど、今回はバラバラの時期に行なわれた、いくつかのセッションを組み合わせたスタイルになっている。20年振りの競演となったバート・バカラックとの作品は、ここでは2曲のみだけど、これまでも断続的にセッションを繰り返していた事実が明らかになっている。まだ25曲ほどストックがあるらしいのだけど、それらは後日小出しにされるのか、それとも充分なレベルに達していなかったのかさて。
 今回のアルバムのテーマは、そのバカラックとのアルバム『Painted from Memory』、そして82年リリースの『Imperial Bedroom』との融合だ、とコステロはコメントしている。実際に聴いてみると、あまりロックっぽさを感じないサウンドで統一されているため、前者は雰囲気的にわかるけど、後者については、なんかピンと来ない。

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 これまでコステロのアルバム・レビューをさんざん書いてきた俺だけど、『Imperial Bedroom』にはまだ手をつけていない。要するに、「俺の好きなアルバムたち」とはちょっと違う、俺にとってあんまり思い入れの少ないアルバムでもある。
 ニューウェイブの流れを汲んでデビューしたコステロ、基本、ライブ映えする楽曲を中心にレパートリーを増やしていた。それはそれで好評だったけど、でもキャリアを重ねるにつれ、ロックだけでは表現しきれないテーマも出てくる。いつまでもシンプルなパワー・ポップだけでは、せっかくのSteve Nieveも宝の持ち腐れだったし。
 もっとワールドワイドな市場に色目を使おうとしたのか、ここではライブ仕様、4ピースで再現しやすいアレンジやアンサンブルを一旦チャラにして、スタジオ・テクニックを駆使したサウンドに挑戦している。主にソングライティングにはギターを使用していたコステロ、ここではそれをピアノに変えたことによって、今までと違うコード進行を多用している。スタジオさえ1つの楽器として捉えるGeoff Emericのプロデュースによって、後期ビートルズを彷彿させる、ライブ・パフォーマンスを前提としないサウンドに仕上がっている。
 コステロの中に眠っていたビートルズDNAを全面開放した自信作だったはずなのだけど、マーケットの反応は芳しいとは言えなかった。あれだけ地味だった前作『Almost Blue』さえUKでゴールド獲得しているのに、『Imperial Bedroom』はゴールドに届かなかった。マジか?俺もいま知ったわ。
 そんな結果を踏まえてコステロ、サウンドにこだわるんだったら、もっとキャッチーに、もっと徹底的にやらなくちゃダメだ、と思い直したのか、当時の売れっ子Clive Langer & Alan Winstanleyにプロデュースを依頼、トップ40ソングとも引けを取らない、ポップ・スター路線を志向することになる。
 まぁこれも、結局頓挫するんだけどね。

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 いわゆるMOR、コンテンポラリー色の強いアレンジから強いパッションは感じられない。だからと言って、リラックスできる癒しのサウンドでもないんだよな。言っちゃえば、「イイ感じでうまく枯れたよなぁ」といった印象。
 とはいえコステロ、昔からサウンドの振り幅が激しい人として知られている。地味なサウンドの後はラウドなサウンドに回帰する、そんなのを幾度も繰り返している。『King of America』の後の『Blood & Chocolate』 、『Juliet Letters』の後の『Brutal Youth』、前述した『Painted from Memory』の後の『When I Was Cruel』といった具合で、ひとつの音楽性にとどまらないのが、彼の魅力でもあるのだ。
 なので、本当のコステロ・ファンは、むしろこの後に淡い期待を抱いている。近いうちにラウドなロック・アルバムに回帰するんじゃないか、と。
 すでにそれを期待しながら、今日も俺はコステロを聴く。


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1. Under Lime
 イントロはCCRっぽいフォーク・ロック調だけど、次第にコーラスやホーンが入ってきて、ビートルズのオマージュ的なアレンジ。その辺がちょっぴり『Imperial Bedroom」っぽい。昔だったらシングル候補だったんだろうけど、もうそんなの興味ないんだろうな。リリースしたって、大して意味ないだろうし。
 ベーシックな部分はImpostersの演奏だけど、中盤の能天気なコーラス・ワークなど、いろいろ遊びも交じっててやりたい放題。誰が仕切ってんだと思ってプロデューサーを調べてみたら、Sebastian Krysという、もともとラテン畑の人。グロリア・エステファンやシャキーラを手掛けてた人らしい。まったく畑違いじゃん。

2. Don't Look Now
 バート・バカラックとの共作となった大人のアーバンなバラード。彼とのコンビでは、どうやっても名曲になっちゃうのは保証付き。時にイージー・リスニングになりがちなメロディを、コステロのアクがいい感じで作用してキリッと締めている。
 ヴォーカル・スタイルは思いっきりベッタベタなんだけど、やっぱキャラクターが強い分、ロック・ユーザーの耳にも違和感ない仕上がりになっている。3分弱でコンパクトにまとめてるのが、大人の粋を感じさせる。

3. Burnt Sugar Is So Bitter
 こちらもリリース前からインフォメーションされていた、Carole Kingとの共作。もともと1999年頃からステージではプレイされていた古い曲で、ここにきて正規レコーディングとなった。
 ここではちょっぴりKing色が強いメロディとなっているのだけど、それをうまく自分のフィールドに取り入れながら、Kingのエッセンスもしっかり残す、バランスのとれたコラボレーションになっている。何気にPete Thomasの後半ドラム・プレイが圧巻。



4. Stripping Paper
 並行して『Painted From Memory』も聴いていたのだけど、大きく変わったのがコステロのヴォーカル力の向上だった。いやうまくなってるわ、この人。以前だったらこのサウンド、このメロディだったらアーバンなAORに流されちゃってたところを、きちんとコステロ独自の色に染めてしまっている。
 このトラックではバカラックは絡んでおらず、一聴するとコラボ曲なのかな?と勘違いしてしまったけど、すっかり自分の中に取り込んでしまっている。

5. Unwanted Number
 ソリッドなロッカバラード。ここではコステロ自身もミニ・ムーグをプレイしており、このアルバムの中ではライブ映えしそうな楽曲。でもね、敢えて言うとコーラスはちょっと余計。Imposters単独で聴きたかったな。



6. I Let the Sun Go Down
 中期ビートルズというより、以前コラボしたポール・マッカートニー色の強いポップ・バラード。甘く凝ったメロディ、そこにストリングスとコーラスが絡む。『Imperial Bedroom』のビジョンが強く反映されている。
 以前はスキルやアイディアが至らず志半ばだったけど、ようやくここで形にできた。雑多な音を詰め込むでのはなく、然るべき音を、適切かつ最小限に配置することによって、アレンジの輪郭がはっきりした。

7. Mr. and Mrs. Hush
 ダークに堕ちたビートルズのような、ちょっとソウル風味も入ったロック・ナンバー。こういったソリッドな楽曲はお家芸のようなもので、安心して聴ける。気の抜けたフレンチ・ホルンがちょっと余計だけど、お遊び的なものと思えば気にならない。昔からのコステロ・ファンには、最もウケはよいと思われる。

8. Photographs Can Lie
 再びバカラック共作ナンバー。多分、2人でピアノやギターを介しながら、このレベルの楽曲はいくらでも書いてるんだろうけど、発表するかしないかの基準はどこにあるのだろうか。ハイレベル過ぎて、もはや常人には感知しえない世界。
 プレイヤーとしてのバカラックのピアノは、伴奏に徹して抑制が効いている。ドヤ顔でしゃしゃり出ないところが、重鎮としてのこだわりか。

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9. Dishonor the Stars
 やっとここにきて、Imposters単独のトラック。コステロ自身の多重コーラスがダビングされているけど、ほぼ100%通常営業のスタイル。バカラック・スタイルをバンドでやってみた体のアレンジ・メロディになっている。でもwikiを見てみると、現時点でこの曲、最新ツアーでも披露されていない。ライブ映えしそうなのにね。

10. Suspect My Tears
 Elton Johnあたりが歌うと、もっとウェットになっちゃうところを、独特のアクの強さで甘いアレンジにビターな風味を加えている。「Man Out of the Time」をヴァージョン・アップさせると、こんな感じになる。かつてはとっ散らかったサウンドでしか表現できなかったけど、ここに来てやっとビジョンが具現化できた。

11. Why Won't Heaven Help Me?
 この流れにきて、フェンダー・ローズから始まるイントロで不意を突かれた。カクテル・ラウンジっぽいムードのサウンドをベースに、Impostersが徐々に絡んでくる。ある意味、このサウンドって新境地だよな。なんとなくディナー・ショーっぽいけど。

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12. He's Given Me Things
 ディナー・ショー風味をさらに強めるかのように、ラストは3たびバカラック。ヴォーカルもここに来て、かなりドラマティックかつ直情的。レコーディング・アーティストとしてのコステロの方向性は、今のところはこういったコンテンポラリー系なのだろう。
 このサウンドではもうやり切ってしまった感が強い。なので、次回作だな。
 弾けたコステロが聴きたくなってきた。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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