#Pop

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

英国ムード歌謡の完成型 - Bryan Ferry 『Boys and Girls』

folder 1985年リリース、Roxy Music 解散後初、ソロとしては6枚目のアルバム。ていうかバンドでデビューして10年ちょっとなのに、並行して6枚も出してたのかよっ、というのが俺的印象。ZappaやPrince並みに多作だったんだな、とちょっとビックリ。
 UKでは当然のようにチャート1位、USでは63位が最高だったけど、それまでのソロがどれもビルボード・トップ100圏外で玉砕していたのに対し、今回はゴールドまで獲得している。多分、粗野でアバウトなヤンキーの感性では、彼のように耽美なメロウAORを受け入れる土壌ができていなかったのだろう。彼らの理解を得るためには、ヨーロッパ的な曖昧さを排除して、Phil Collinsくらいまでベタなエンタメに徹しなければならないのだ。まぁメガ・ヒットを想定した音作りではないのだけれど。

 US・UKともバカ売れしただけじゃなく、ロック・バンドの最終作としては珍しく、高い完成度と極上のクオリティによって、80年代を通しての名盤として語り継がれる『Avalon』 にて有終の美を飾ったRoxy Music。ロックの円熟期と称される70年代を疾走したZEPやWhoが、なんとも微妙なスワン・ソングで終焉を迎えたのに対し、変態グラム・バンドとしてスタートした彼らが「More Than This」と言い切っちゃう作品を残すまでに至ったのは、音楽のミューズの気まぐれだったのか。

 その変態グラム・バンド期のRoxyは、Ferry を始めとするメンバーのソロ活動が多くなったことによって、5枚目のアルバム『Siren』を最後に一度解散している。で、そこから2年弱のブランクを経て再結成、『manifesto』~『Avalon』に至るまで行動を共にすることになる。
 今どきのアーティストの活動ペースで考えれば、2年程度のブランクなんて特に長いものではないし、わざわざ解散表明しなくても普通にバカンス中って言っとけばよかったんじゃね?と思ってしまうけど、そこは怒涛の70年代、どの大御所バンドも年1のリリース・ペースを守っていた時期である。しかもレコーディングと同時進行の世界ツアーも添えて。なので、この時期の1年はざっと5倍単位で換算すると辻褄が合うことが多い。
 彼らに限らず、延々続くツアーとレコーディングのループは、心身ともに消耗が激しく、当然人間関係にも大きな影響を及ぼす。いくら苦楽を共にした仲間とはいえ、始終顔を突き合わせていれば、次第に同じ空気を吸うことさえ耐え難いものになってしまう。一旦、キレのいいところでリセットしたくなってしまうのは、仕方のないことではある。

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 で、一旦リセットしてからの再開に至った後期Roxy だけど、バンド名は同じだけど、正直まったく別のバンドである。
 西欧民族のフィルターを通してキッチュに歪められたロックンロールに、変な音担当であるBryan Enoのエキセントリックさを付加して、オーソドックスなバンド・アンサンブルで支える、というのが初期Roxyの大まかなコンセプトだった。メイン・ヴォーカルであり、ほとんどの曲を書くFerry がフロントマンではあったけれど、バンド・マジックとEnoの茶々によって、彼が書くアシッド・フォーク的な原曲は解体され、グラマラスなサウンドにデコレーションされた。
 再結成後のRoxyは、Ferryがイニシアチブを取ることが増え、ワンマンバンド的な色彩が濃くなった。ヨーロッパ的なデカダン性を緻密なものにするため、粗野なロック的要素は一掃され、リズム&ブルースやソウルのエッセンスを取り入れたソフト・サウンドが主流になった。
 その後のRoxyの歩みは『Avalon』で完成に至るまでの成長過程と捉えてもよい。じっくり時間をかけてFerryはサウンドの完成度を高め、結果的に高級なAORとして機能するサウンドのクオリティを磨いていった。多少のアドバイスや演奏での貢献はあったけれど、他メンバーであるAndy McKay とPhil Manzaneraの出番は少なく、ほぼセッション・ミュージシャンと同列扱いである。

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 サウンドの純度が上がるにつれ、バンドという枠組みにこだわらず、外部ミュージシャンの積極的な登用に至るプロセスは、同時代のSteely Danのキャリアとシンクロしている。Donald FagenとWalter Beckerが理想のサウンドの具現化のため、Gary Katzという制作ブレーンとの二人三脚で作業を進めていたことと同様、Ferryもまた、プロデューサーのRhett DavisとエンジニアのBob Clearmountainに絶大な信頼を置いていた。双方ともノン・ミュージシャンでありながら、Ferryの希求するコンセプトの最大の理解者だった。エンジニアというポジションに留まらず、自らも進んでアイディアを提供したりなど、相互に影響し合いながら理想のサウンドを形成していった。

 完璧で隙のないサウンドとは対極的に、Ferryのヴォーカルはお世辞にも上手いとは言えない。テクニカルとも言えないし。よく言えば「崩して歌ってる」という見方もできるけど、悪く言えば調子はずれでピッチはズレズレ、リズム感も良い方ではない。腹に力の入ってないヘロヘロなしわがれ声も、美声とは言えず万人ウケするものではない。
 80年代に流行した緩やかなシルエットのソフトスーツに身を包み、アダルトな佇まいでダンス・ビートに身を任せる様は、ちょうど同時代にブレイクしたRobert Palmer との共通点も多く見られるけど、PVなどで比較すると、その違いは歴然としている。
 終始クールで優雅なステージングを披露するPalmerに対し、リズムに合わせようとするけれどどこか不器用で、とてもダンサブルとは言い難いFerry。スーツはヨレヨレ、シャツの袖はデロンとはみ出てシワシワ、息も切れ切れ汗まみれになりながら、「Love is the Drug」と語りかけるFerry。
 その姿は滑稽さを通り越して、もはや伝統芸能の域である。

 で、『Boys and Girls』。クオリティ/セールスとも高い水準を記録した『Avalon』によって、Ferryのアーティスト・ポジションは大きくランクアップした。その恩恵として、レコーディングにかけられる時間や予算も並行してグレードアップ、細かな予算の切り詰めなどを気にすることもなく、純粋に制作に没頭できるお膳立てが整った。
 Roxyの解散ツアーと並行して準備を進め、足掛け3年に及ぶ長期間のレコーディングは、当時隆盛を極めていたニューヨークのパワー・ステーションやバハマのコンパス・ポイントなど、世界有数のスタジオ7ヶ所を使用、スケジュールの合間を縫って断続的に行なわれた。『Avalon』より引き続き参加のDavisやClearmountainを始めとして、これまた当時一流どころのレコーディング・エンジニアの起用は総勢18名に及んでいる。さらに加えて、こちらも有名/無名含めて参加したミュージシャンとなると、そりゃもう羅列するのもめんどくさくなってしまうほど、錚々たるメンツで占められている。
 結果的に、恐ろしくレベルの高い人海戦術となったのは結果オーライってことで。

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 「112回もミックスダウンを行なった」と語り継がれる「Slave to Love」に象徴されるように、ドラムの音ひとつエコーの響きひとつにまでこだわり抜いたサウンドは、細部まで精巧に組み立てられている。まだシーケンス・サウンドがメインではなかった時代の人力プレイが最上の音で録音され、Clearmountainと肩を並べる技量を誇っていたパワー・ステーションのハウス・エンジニアNeil Dorfsmanによって、薄いヴェールを纏うようなディレイで全体が埋め尽くされている。各プレイヤーの見せ所もしっかり押さえられ、パワー・ステーション特有のメリハリのあるサウンドは、カラオケだけでも充分成立してしまうんじゃないかと思ってしまうほど完成度が高い。
 ただ、完璧すぎる音の功罪なのか、整然とまとまって破綻が少ないということは、逆に言えば引っかかりがなく、良質のBGMとして、右から左へ聴き流されてしまうことも多い。工業製品と違って、しっかりしたプランニングとバジェットが揃えば、必ず良いものができるわけではないのだ。
 そこにヘロヘロなFerryのヴォーカルを載せるとあら不思議、よくできた二流のフュージョンが、英国ムード歌謡とも形容される、アーバンでトレンディな空間に様変わりしてしまう。
 精巧に作られたプラモデルの仕上げに汚しを入れると、単調だった質感がリアルに映えるように、彼のヴォーカルを活かすためには、ここまで作り込まれたゴージャスなサウンドが必要だったのだ。逆にサウンドが貧相だと、英国ムード歌謡の「英国」が取れてしまい、単なる自己満カラオケ親父に成り下がってしまうことを、Ferryをはじめ主要ブレーンは察知していたのだろう。

 Roxy名義で制作した「Avalon」はバンド形態ゆえのしがらみとして、必然性のないパートでMacKay やManzanera をフィーチャーしなければならない局面もあり、サウンドの完成度の詰めが甘くなっている部分が少なからずあった。このソロ第一弾ではその反省を踏まえたのか、Ferryのコンセプト・意向が思う存分反映されている。
 サウンド・コンセプト的にはRoxy時代の延長線上ではあるけれど、明らかに違っているのはリズム面でのアプローチ。一歩間違えれば高級AORというメロウ路線だった「Avalon」に対し、ここでは世界有数のリズム・セクションを贅沢に配してダンス・ビートの強化を図り、スノッブさを排除している。ちょっと下世話ではあるけれど、英国ムード歌謡路線の完成だ。ただあくまでUK/EU仕様のサウンドなので、Phil Collinsよりは上品だけどね。
 グラム期を並走し、互いに変容を繰り返してきたDavid Bowieもまた、タイトルそのまんま「Let’s Dance」でリズム・パートへのこだわりを表明していた。パワー・ステーション製のサウンドが世界中の音楽トレンドを牽引していた時代の幸福な産物である。


Boys & Girls
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1. Sensation
 すでにトップ・プロデューサーの地位を確立していたNile Rogersのギター・カッティングから始まるファンク・チューン。当時の大物アーティストのアルバムには大抵この人が一枚噛んでおり、ていうか彼のオファーを取れなかったアーティストは二流と見なされた。ボトムの太い音を中心に配置した構成力だけじゃなく、サウンドを引き締めるようなプレイまで見せちゃうのだから、誰も文句が言えない。
 歌詞自体は未練がましいジゴロの嘆きを綴ったものであり、そんな後ろ向きなテーマとは裏腹に強靭なインタープレイとのコントラストが絶妙。俺的には結構好きなトラックなのだけど、シングル・カットされなかったことが不満といえば不満。

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2. Slave to Love
 前述したように112回もミックスを繰り返したことばかりが喧伝されるけど、実際の音はそんな試行錯誤の痕跡は窺えず、むしろすっきりシンプルな仕上がり。最終的に積み重ねたモノをばっさり切り捨ててしまうところが、一流のアーティスト/エンジニアの証ともいえる一曲。録ったもの全部入れてちゃだめだよね、やっぱり。
 先行シングルとしてリリースされ、UK10位を筆頭としてEU諸国でもチャートインしている。当時のニューヨーク・セッションでは引っ張りだこだったOmar Hakim (dr)と、King Crimsonが何度目かの解散をして多分ヒマだったTony Levin (b)がリズム・セクションを担当、元RoxyのツテなのかNeil Hubbard(g)が参加。



3. Don't Stop the Dance
 最近もCMで使われていた、多分日本で最も知られていると思われる彼の代表曲。「Avalon」でも「Tokyo Joe」でもない、やはりこれなのだ。
 全編ほぼ出ずっぱりで参加しているDavid Gilmour (g)による、程よいブルース・タッチのソロが絶妙。そうなんだよ、もともと彼の本質は小難しいプログレなんかじゃなく、ウェットでムーディーなポップ歌謡でこそ、その真価を発揮するのだ。同時期のPaul McCartney 「No More Lonely Nights」でも情緒あふれるエモーショナルなプレイを披露していたし。
 2枚目のシングル・カットとしてリリースされ、UK21位。このような記録より、特に日本の45歳以上の洋楽少年少女に強く記憶に刻まれたのは、やはりリアルタイムでのフジカセットCMだろう。



4. A Waste Land
 いわゆるインターミッション。雰囲気一発の小品だけれど、細かく聴いていると当時のレコーディング技術が結集されている。

5. Windswept
 で、4.をプロローグとした3枚目のシングル・カット。モヤッとした雰囲気ディレイが通底音として流れ、時々思い出したようにFerryのヴォーカル、そしてまた寄り添うようなGilmourのソロ。曲調に合わせ、スパニッシュ風の小技まで披露している。Pink Floydではまず見せない一面だよな。
 どこまでも曖昧なムード歌謡は捉えどころがなく、UK最高46位はよく売れた方だと思う。よく切ったよな、こんな地味な曲。

6. The Chosen One
 アナログではB面トップを飾るミドル・ファンク。Ferryのヴォーカルだけ抜き出せば単なるムード歌謡だけど、まったり感を引き締めるようなMarcus Miller (b)のスラップが程よいエッセンスとして作用している。誰がプレイしてるのかは不明だけど、間奏でのアコギのストロークとのコラボレーションが、俺的にはすごいと思う。普通ならこんな組み合わせしないもの。

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7. Valentine
 ほぼGilmourのソロとオブリガードが主役となっている、Ferryはおまけ的なロック・チューン。もともと浪花節的な感性を持つGilmourだからして、Ferryのようなヘタウマ的ウェットなヴォーカル・スタイルとは相性が良い。同じヘタウマだけど、Roger Watersはイデオロギーが先だって「聴かせる」風ではないのだ。

8. Stone Woman
 3.をテンポアップしたような、リズム・セクションを強調したミックスが施されたアーバン・ファンク。ここまでいわゆる捨て曲なし。好みは人それぞれだけど、どれも気を抜いた曲がない。ヘロヘロでありながら、その辺はしっかりディレクションしているんだな。メロディのフックがちょっと弱いのでシングル候補からは外れたのだろうけど、いやいや充分聴けるっしょ。

9. Boys and Girls
 ラストを飾るのは長いイントロに続く、陰鬱としたモノローグ調バラード。Doorsっぽく感じるのは誰もが思うところ。俺も最初、Doorsのカバーかと思ったもの。もともとカバー好きな人だしね。
 普段ならもっとライトタッチなプレイのDavid Sanborn (sax)も、曲のムードに触発されたのか、攻撃的なプレイを見せる。Gilmourのプレイも情緒てんこ盛り、ブルージーな音色を奏でている。



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実験を繰り返した末の自然体な小品集 - Eurythmics 『Peace』

folder 80年代中盤に「Sweet Dreams」で注目されたEurythmics は、当時隆盛を極めていた男女シンセポップ・デュオの流れで登場したものの、他のどのグループより異彩を放っていた。大抵のシンセポップのバックトラックが、ヤマハDX7やシンクラヴィアなどの最新機材を使い倒し、時に息づまるほど隙間のないサウンドで埋め尽くされていたのに対し、プログレ的素養もある彼らのサウンド・デザインは、アコースティック楽器と同列の配置を施すことによって、ちょっと独自のスタンスを築いていた。
 特に「Sweet Dreams」は、不穏さを煽る無機的かつシンプルなブロックコードを効果的にあしらい、初期の彼らが活動拠点としていたドイツ的なバロックのテイストも醸し出していた。他の有象無象が奏でる安易でキャッチーなサビ中心で構成された楽曲よりも、一聴して素っ気ないメロディでありながら、きちんと対峙して聴くと、プロによって十分練られた重層的なサウンドがマニアからライトユーザーにまで、幅広く支持された。

 イギリス出身だったのにもかかわらず、前進バンドTouristsが主にドイツで活動していたこともあって、当初からグローバル展開に積極的だった彼らのサウンドは、当時のヒットチャートのラインナップにおいて、ここでもまた異様さに満ちている。
 テクノポップというにはあまりにオルタネイティヴな質感が強い彼らのサウンドは、正直売れ線だとかキャッチーだとかいうものではない。ないのだけれど、それでも彼らの80年代のほとんどは、ヒットチャートの常連というポジションを堅持していた。特にアメリカではディスコ・チャートでかなり健闘したので、プログレ的なコンセプトを抜きにして、単純に踊りやすい音楽として受け止められている。
 アメリカというのはマーケットが大きいせいもあって、どうしても最大公約数的にアッパー系の音楽ばかりが注目されがちなのだけど、Pink Floydの『狂気』が長いことチャートインしていたように、ネガティヴでダークサイドな部分も多い音楽にも一定数の需要がある。Eurythmicsの後にもCureやMorrisseyがアリーナ・クラスの会場をソールドアウトしていたように、厨二病的アーティストに心酔し自己投影してしまう層がどの時代にも存在する。
 Marilyn Mansonが売れちゃう国だもの。そう思えば不思議でもなんでもないか。

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 この時点でのEurythmics人気は、あざといほど中性的でエキセントリックな女性ヴォーカルAnnie Lennoxのキャラクターに負うところが多かった。
 時代的にMTV全盛ということもあって、ビジュアル的にインパクトの強い彼女のキャラクターは、純粋な音楽以外にも、ファッション風俗的な側面においてもある種のパイオニア的存在として、人々に強く印象付けた。返して言えば、それはまたトリックスター的な騒がれ方、キワモノ的な一面でもあるのだけれど。ユニセックスな風貌は時に暴力的でシステマティックを強調しており、サイボーグに擬した無表情には愛想のかけらもなかった。
 ダンサブルに特化したデジタル・ビートをベースとしたバックトラックは、下積みの長かったDave Stewartによって計算高く作り込まれていた。大抵のテクノポップのサウンドメイカーらは、日進月歩で更新されてゆく機材のスペックのスピードに追い付けず、代わり映えしないプリセットでお茶を濁すばかりだった。逆にスタジオワークが大好きなシンセマニアがコツコツ組み立てたサウンドは、オタク知識をフル活用してスペックを最大限活用し、他アーティストとの差別化を明確にした音作りを行なっていたのだけど、肝心のメロディがダメダメだったりヴォーカル・ミックスが二の次にされていたりなど、珍奇な音の響きばかりが取り沙汰されて、ポピュラリティの獲得にまでは至らなかった。
 優秀なオペレーターはマシン操作に長けてはいるけれど、それはソングライティング能力とはまったく別の問題である。オペレーターはあくまで机上のシミュレートに基づくプログラミングまでが職務であって、クリエイティヴな作業を行なうには別のスキルが必要となるのだ。
 自らもプレイヤーであり、ソングライターでもあったDaveがEurythmicsを商業的成功に導けたのは、先天的なのかそれとも後天的なのか、そういった能力にも長けていたことが、時代のあだ花として埋もれずに済んだ要因である。

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 デビューしてからしばらくは、サウンド担当であるDaveがバンド運営の主導権を握っている。前進バンドTouristsもDaveが多くの楽曲を制作しており、根っこの部分はEurythmicsと変わらないのだけど、ヒットしたのはBay City Rollersのカバー「I Only Want to Be with You」がUK4位US83位という、何とも微妙なスマッシュ・ヒット程度の一発屋で終わってしまう。時流に合わせたニューウェイヴ風味のポップ・ロック的アレンジは、正直Annieのキャラクターとはマッチしていない。PVを見ると、半ばヤケクソ気味なハイテンションだし。
 稀代のヴォーカリストAnnie Lennoxを引き立たせるためには、もっとダークでゴスで救いのないシンセ・ベース主体のミニマル・ビート、性別不詳のビジュアル・イメージこそが必要だったのだ。ユニセックスという概念がまだ一般的でなかった80年代、「男装の麗人」と言えば宝塚くらいしか連想できない日本人にも、彼女のキャラクター・デザインは大きなインパクトを与えた。

 US・UKにとどまらず、ワールドワイドな成功を収めた彼らだったけど、キャリアを重ねるに連れ、次第にAnnieのパワー・バランスが強くなってゆく。
 テクノ的ロジックで考えると、メインであるはずのAnnieもまた構成楽器の一部に過ぎず、サウンド全体のバランスを考えると感情を抑えたヴォーカライズで処理されるのだけど、状況は刻一刻と変わってくる。ビッグセールスに伴う世界ツアーを重ねることによって、アリーナ・クラスの会場に見合ったロック的イディオムをAnnieが欲し、Daveもまたライブ映えするような楽曲を制作するようになる。

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 ロジックよりもフィジカル。ライブでの起爆剤的なアッパー系の楽曲が多くなる中、次第にシステマティックだったユニットにもライブ・メンバーが増え、バンド的なグルーヴを見せるようにもなる。ノンセックスのアンドロイド的なアーティスト・イメージを固持していたAnnieも、時々普通の人間としての喜怒哀楽を見せるようになる。
 そんな彼女の一面、慈愛にあふれた笑顔を見せて話題になったのが、彼らのもうひとつの代表曲である「There Must be an Angel」。当時、すでに「愛と平和の人」としてキャラクターが定着していたStevie Wonder がハーモニカで参加、彼らの代名詞でもあったシンセ・ベースもここではほとんど響かず、代わりに神々しくゴスペルへと昇華するコーラスが彩りを添えている。80年代特有のエコーの深いドラムもここでは控えめで、すべてはAnnieという存在をドレスアップするかのように、緻密に注意深く配置されている。
 テクノポップというカテゴリーを超えた、80年代のスタンダード・ナンバーができあがった瞬間だった。能面のように冷徹な表情を崩さなかったAnnieの笑顔によって、Eurythmicsというブランド・イメージは表現の幅を広げていった。

 普通なら、この路線でしばらく畳み掛けて、AOR的な展開に行くはずなのだけど、何を思ったのか、ここで再び彼らは覚醒する。
 80年代的「自立した女」としての理想形を確立したAnnieは、円熟の路線を拒否、邪悪で陰険、「天使」とは両極端のデーモニッシュなキャラクターを自らに憑依させる。普段は午後のティータイムを楽しむ貞淑な人妻だが、一旦豹変すると糖質っぽさ全開、淫らで妖艶なディーヴァが脳内で生み出した憎悪と狂気の産物-、それが『Savage』である。
 暴力的な歌詞と被害妄想的な密室サウンド、憎悪と狂気を露わにしたコンセプトは、これまでのポップ路線と完全に逆行した、破壊と混沌の象徴だった。このコンセプトに基づいて全曲MVが製作されたのだけど、まぁ通して見ると疲れること。圧倒的なオーディオ/ビジュアルのクオリティは有無を言わせぬ仕上がりだけど、とにかく息詰まり感がハンパない。
 そこに救いはなく、あらゆるものが投げ出されたまま、放置されている。

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 ここで一旦、Eurythmicsは終幕となる。ゼロからMAXまで、メーターはすでに振り切れてしまったのだ。『Savage』で臨界を突破してしまったからには、もう新たに手を付ける余地は残されていなかった。
 勢いの余力で制作した『We too are One』はきっちり作り込まれていたけど、どこか「お仕事感」的な残務処理、坂道の惰性運転的な佳作として受け入れられた。ここで最後にClashのようにとんでもない駄作でも作ってしまえば、もしかして後世の評価も違ってたのかもしれないけど、やはり彼らは音楽に対してとても真摯な態度で向き合っていたのだ。
 リリース後、彼らは別々の道を歩むことになる。2人でやり切れることはやり尽くしてしまい、残された新境地はそれぞれ独りで叶えるべきものだった。
 過去の再生産を嫌い、2人はまったく別々の道を歩んだ。「独自の音楽性の追求」という共通項を残して。

 そんな彼らが10年ぶりに再結成してリリースしたのが、この『Peace』。
 よくある再結成話にあるように、食い詰めたメンバーが過去の栄光にすがって、という流れではない。Annieはソロ・アーティストとして国民的シンガーの位置にいたし、Daveも自分メインの活動は地味だったけど、裏方として、またStonesが休養中でヒマなMick Jaggerとつるんで何かしら活動していた。それぞれが10年の節目を経て、必要性を感じて2人で曲を作り、そしてアルバムをリリースした。
 そのアルバムを携えて、彼らは大々的な世界ツアーを行なったが、それはそこまでの関係に終わった。当然のように、彼らはそれぞれの道に戻り、新たなソロキャリアを築くことになった。
 恒久的なプロジェクトではなく、アニバーサリーとして、ハッピー・エンドを彼らは選んだ。
 2人で音を出すのは楽しい。でも、いま求めているのはそれだけじゃないのだ。

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 実は俺、再結成してライブを行なっていたところまでは知ってたけど、フル・アルバムまで作っていたのを、ほんとつい最近まで知らなかった。なので、この『Peace』を聴いたのもつい最近。
 大抵の再結成バンドがニュー・アルバムを出すとボロクソに罵倒される流れから、21世紀に入ってからはライブ・パフォーマンスのみ、またはせいぜいシングル程度、フル・アルバムまでは制作されない傾向にある。再結成Policeだって結局、ニューアイテムはなかったしね。
 そういった流れから、まさかアルバムを作ってるだなんて思ってもみなかったのだ。再結成ツアーでは日本に来なかったせいもあるのか、リリース・プロモーションも地味だったらしいし。でもEU諸国ではゴールドやプラチナムも獲得しているくらい需要があったので、多分俺が知らなかっただけか。

 オリジナル・メンバーであるDave StewartもAnnie Lennoxも揃っているけど、ここで鳴っている音はかつてのEutythmicsとは趣きが違っている。以前2人でやり尽くした実験は、大きな成果を得た。でも、また実験を繰り返すということは、純粋な意味での「実験」ではなくなってしまう。それはただの「屈折」だ。
 それぞれ2人とも、Eurythmicsというベースを基に、ソロで10年、違うベクトルでキャリアを築いてきた。じゃあ今度は、実験ではなく、ただ単に2人そろってあまり考えず、まず音を出してみよう。それが最後の「実験」だ。
 ノスタルジーでもなければ、時代におもねるわけでもない。ここで鳴っているのは、2人のソロ・アーティストが「せーの」で出した音だ。最初のセッションではお互い探り探りな面もあっただろうけど、長い年月を共に過ごした2人だと、10年というブランクは大した問題ではない。結局できあがったのは、あぁやっぱりEurythmicsだね、という音だった。
 奇をてらった問題作でもなければ、ロートルバンドが惰性で鳴らす音でもない。ただただシンプルに、きちんと音楽に向き合ってきた者のみに出せる音が、このアルバムには詰まっている。


Peace
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1. 17 Again
 Daveのアコギから始まるオープニング。弦をこする音がアンプラグドっぽさを演出しているけど、Annieのヴォーカルが入るといつも通りのゴージャスなEurythmics。ドラムの音もオーソドックスで、これ見よがしなシークエンスも使ってない、堂々としたスケール感あふれるバラード。
 これまでのキャリアを振り返るナンバーをトップに入れてしまう辺り、バンドという存在に対して第三者的に向き合える余裕が窺える。



2. I Saved the World Today
 Annieのソロ傾向が強く出ている、メロディアスなバラード。もともと神経質的な傾向のある人なので、こういったニュアンスを重視した楽曲を歌い上げるのは、Annieの特性に合っている。中盤のホーンとストリングスの絡みがBurt Bacharachっぽく聴こえてしまうのは、その辺を狙っているのか。『Be Yourself Tonight』以降の方向性を思わせる。



3. Power to the Meek
 「デジタル機材をうまく盛り込んだStones」的なサウンドは、こちらはやはりDave的なもの。決して美声とは言い難いAnnieのヴォーカルが、ここではいい感じにダルでマッチしている。時にガナリ声でコール&レスポンスを繰り返す彼女もまた、構成の要素のひとつである。

4. Beautiful Child
 Daveのプロデュースの卓越した面のひとつに、アナログ・シンセの使い方が挙げられる。旋律のエッセンスとしてストリングスを効果的に使う人は多いけど、リズミカルに使える人はあまり多くない。ここでもメインはアコギのアルペジオで、あえて人工的な響きを対比させることによって、絶妙のコントラストを演出している。

5. Anything but Strong
 こういった「技巧的なヴォーカル」と「プリセットよりちょっとだけいじりました」的なDTMとのミクスチャー・サウンドを聴いていると、『We too are One』以降の彼らの方向性が見えてくる。あくまで「もしかして」の仮定の話だけど、この路線の深化と円熟というベクトルならば、ユニットとしての寿命はもう少し長かったのだろうか。
 まぁ難しいか。ツアーさえなければ行けたんだろうけど。

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6. Peace Is Just a Word
 で、このようなAOR的路線のレコーディング・ユニットとしての存続もアリだったと思うのだけど。こちらはDaveとAnnieとのバランスがうまく拮抗したパワー系バラードなのだけど、難しかったんだろうな。当時はアルバム・リリース=長期ツアーだったし。

7. I've Tried Everything
 初期のテクノポップ的なシークエンスをベースとしながら、やはりメインとなるのはAnnieのヴォーカルとDaveのギター。もともと正面切ってギター・ソロを延々弾きまくるというタイプの人ではなく、バッキングに徹して時々印象的なオブリガードを効かせる、というのがスタイル。そこら辺がやはり、テクノ的イディオムの人なんだろうな。

8. I Want It All
 アルバム構成的にちょっとダレてくる頃なので、ここでロック色の強いアッパー・チューン。ていうかガレージ・ロック。ミックスが絶妙なので、ガレージ独特のチープ感はまるでない。巧妙にシミュレートされたデモテープといった塩梅。彼らに貧乏臭さは似合わない。

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9. My True Love
 とにかくギターを弾きまくるDave。やっぱりうれしかったんだろうな、2人でやるのが。バラードでもなんでも、とにかくアルペジオでぶっこんで痕跡を残している。ていうか、ギターで参加でもしない限り、実質Annieのソロになっちゃうしね。

10. Forever
 そういえばピアノが出てなかったな、ここまで。俺的には最もお気に入りのスロー・チューン。ソロ初期のPaul McCartney的なバックトラックに対し、Annieはかなり熱のこもったヴォーカルを見せる。ベテランのポップ・ユニットの「あるある」として、彼らもまた後期Beatlesの路線を踏襲している。

11. Lifted
 ここまで比較的アダルト・コンテンポラリーなタッチのサウンドでまとめられていたこの『Peace』、今さら小手先の冒険・実験作に手を出す気もないのだろうけど、ラストはゴスペルの西欧圏的解釈とも取れるバラード。変に余韻を残すこともなく、過剰にドラマティックでもない、現役感を十分に残して終幕。




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相反する2つの意味を持つアルバム - Prefab Sprout 『Protest Songs』

folder -プロテスト・ソング(Protest Song)とは、政治的抗議のメッセージを含む歌の総称である。
 政治的な主張やスタンスからは最も遠く、むしろ抽象的な言い回しや婉曲的な表現の多いPaddy McAloonが、なんでこんなアルバム・タイトルをつけたのか。
 同名タイトル曲が入っているわけではないし、基本、日々の感情の機微やうつろい、物憂げなラブソングを歌ってる人なので、もともと過激なテーマを取り上げる人ではない。日本で言えば来生たかおや稲垣純一など、ニューミュージック寄りのポジションのアーティストであり、営業戦略的にはあまりふさわしいタイトルではない。エピックもよく、こんなミスマッチなタイトルでゴーサインを出したものだ、と思ってしまう。

 マニアックなコード進行を使ったメロディに、曖昧で意味深げなボキャブラリーを乗せたデビュー作『Swoon』でニューウェイヴ以降のネオアコ・ムーヴメントの筆頭格としてシーンに躍り出たPrefab、UK最高22位というチャート・アクションは新人としてはなかなかの実績だったけど、あくまで国内のみで知られる存在に過ぎなかった。当時はAztec CameraやOrange Juice、Housemartinsの方が人気があったのだ。
 明快なメロディを口ずさみながらアコギをメインとした演奏を繰り広げるバンドが多かったネオアコ勢の中、変に意味ありげで抽象的な言葉を無愛想なサウンドで無造作に投げ出す彼らのサウンドは、明らかに異質だった。配給元ののレーベルKitchenware自体がクセのあるアーティストを多く抱えていたこともあって、バンドの自主性を重んじることは良かれと思うけど、積極的に売り込むノウハウには欠けていたせいもある。

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 そんな彼らが一躍スターダムへと駆け上がるきっかけとなったのが、2枚目のアルバム『Steve McQueen』。ロング・セールスを記録し、USでも最高180位と下位ながら、唯一ビルボードでチャートインした、彼らの代表作である。以前のレビューでも書いたけど、ここからポップ・プロジェクトPrefab Sproutの本当の意味でのスタートとなる。
 タイトルからわかるように、アメリカでのリリースの際、遺族からクレームがつき、『Two Wheels Good』という、何とも中途半端なタイトルに変更させられた、という経緯がある。何かしら横やりが入るのもわかりそうなものなのに、アーティスト側はともかくとして、当時のエピックの担当者は何を考えていたのか。多分、たいして考えてなかったんだろうな。いきなり大ヒットするような類のジャンルじゃないし。

 世界的に見ても名盤扱いされているこのアルバム、当時「彼女はサイエンス」などの世界的ヒットで若手クリエイターとして注目されていたミュージシャン兼プロデューサーのThomas Dolbyとがっぷり四つに組んで作り込まれたポップの芸術品である。この時のレコーディング体験によってPaddyのポップ・センスが開眼、以後、長きに渡るタッグを組むことになるのだけど、それはまた別の話。

 で、ほぼDolbyとPaddyとの濃密な2人作業で練り込まれ組み上げられた『Steve McQueen』のレコーディングが終了、ミックスも何もかも終わって2週間後、ほぼ休む間もなく開始されたのが、この『Protest Songs』のレコーディング。普通ならフル・アルバム分のストックなんてなさそうだけど、もともと『Steve McQueen』用に用意された曲が相当数あり、クオリティの問題でボツになった以外にも、コンセプトが合わずに収録されなかった曲も多かったため、その辺は無問題だった。

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 目新しいエフェクトやMIDI機材に囲まれた中、主にスタジオ・ブースでシミュレートしながら創り上げてゆくサウンドは、もともとバンド・マジック的な連帯感とは無縁で、むしろソングライター的な気質を持つPaddyにとって、その孤独な作業は苦ではなかった。
 彼にとって音楽=作曲という作業は、勢い余った初期衝動の産物ではなく、むしろ精密に組み立てられた工芸品的なニュアンスの方が強い。ハプニングや偶然性をコンセプトとした現代美術ではなく、長い年月をかけて培われた技術によって生み出された職人の作品こそが、Paddyの志向するところなのだ。
 青年期の一時的な衝動を経て、華麗な円熟期へのベクトルが示されたのがこの時期だったと言える。

 ただ、人間はそうすぐには変われない。
 きらびやかな密室ポップへの方向性を見出したPaddy McAloonではあるけれど、ヒリヒリ叩きつけるような冬のつむじ風の如く、円熟を拒む規格外のサウンドを創り出すPaddyも、そこには同時に存在する。何しろ、この時のPrefabには彼以外、3人のメンバーがいたのだ。
 実弟Martin McAloon (b)、Neil Conti (dr)、そして紅一点、恋仲でありながら、ついにPaddyと結ばれることのなかったWendy Smith (key)。実質的にプロのミュージシャンと言えるのはNeilくらいであったため、当初からPaddyのワンマン・バンドとしての認識が強かったけど、それでも当時のPaddyはバンドという組織への理想像、運命共同体としてのあり方など持っていた。少なくともこの時期は。

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 精緻に作り込まれたサウンドの対極、または同列として、シンプルなバンド・サウンドへの憧憬というものも残っていたPaddyがここにいる。
 ギターの音色ひとつ、またはドラムのリバーヴ加減ひとつにもいちいちこだわり、あれこれ違うエフェクトを試しながら理想の音を探る、という作業も、それはそれでひとつのやり方である。だけど、そんなモダンなやり方、機材のセッティングに何時間もかけるようなやり方じゃなく、もっと段取りを端折ったっていいんじゃね?的な。メンバー全員でスタジオに入り、アンプの電源を入れたら軽いサウンド・チェックと雑なコード進行の打ち合わせ、それだけ決めてあとは「せーの」で音を出す。間違ったっていい。まずは探り探り完奏してみよう。終わったら一度テープ・チェック。あそこをこうやって俺はここで入るからお前はあのパートをこんな感じで云々。雑談交じりの打ち合わせは休憩時間の方が長い。でも、そんな無駄な時間も含めてのバンド・レコーディングなのだ。タバコの切れのいいところでリテイク。さっきの修正点も含め別なアプローチも交えつつ、もう一度演奏してみる。さっきよりまとまりは良い。でも、ファースト・テイクほどの緊張感や勢いはちょっと薄くなる。結局、全員一致で最初のテイクが採用となる。まぁこんなもんだよね。
 -そんな風にPaddyが思ったのかどうかは不明だけど、まだ辛うじてバンドとしての形が保たれていた、そんな危うげな状態だったPrefabの瞬間をパッケージングしたのがこのアルバムである。

 で、「プロテスト・ソングス」。「プロテスト」単体の語義はそもそも「反抗」という意味合いだけど、Prefabファンなら知ってのとおり、このアルバムに限らずどの時期においても、強い負の感情を表すサウンドは存在しない。一体、何に対してアンチを表明しているのか。
 『Steve McQueen』完パケ後、ほぼ時を置かずしてレコーディングは再開された。間口の広い「陽」に対し「陰」を司る象徴として、『Protest Songs』は制作された。そして陰陽のコントラストをより鮮明に印象付けるため、あまりブランクを置かずリリースすることが、バンドとしての意向だった。
 だがしかし。シングル「When Loves Break Down」が思いのほか売れてしまったため、状況は一変する。この勢いに乗せて収録アルバムをプッシュしてゆきたいエピックの思惑の方が重視され、リリースは一旦ペンディング、近い将来に改めて仕切り直し、という事態となった。
 そうなると面白くないのがバンド側である。当初から間髪置かず、連続リリースすることに意味があったのに、ブランクを置くことは意味合いがまったく違ってくる。あれだけ入れ込んで創り上げたにもかかわらず、Paddyは一気に興味を失ってしまう。もうどうだっていいや。
 で、実際にリリースされたのはその4年後。さらにレコーディング・テクニックにこだわりまくったおかげでスケジュールが押しまくった『Jordan the Comeback』リリース遅延のつなぎとして、このアルバムはようやくリリースされた。

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 そんな曰くや逸話の多い『Protest Songs』。「付帯情報ばかりが多いわりには地味なアルバム」と思われがちだけど、先入観を一旦取り払って聴いてみると、また違った側面が見えてくる。
 特に具象化がちょっとだけ進んだ歌詞。基本は、あまり救いのないラブ・ソングが中心なのだけど、主人公であるPaddyの視点の先、または背後のバックボーンに存在しているのは、絶対的な神の視点である。「教会」や「祈り」など、80年代のチャラいほとんどのポップソングと比べると、明らかに異色である。冷笑に満ちた皮肉な英国人にとって、宗教を中心とした世界観は至って普通のことであり、日々の生活に根差したものである。いくら性格が悪い英国人と言ったって、ほとんどは素朴で敬虔な一般人である。ただちょっと他人の不幸に目ざといだけであって。

 俺の家系は代々無宗教なので、その辺は詳しくわからないのだけど、ローマ=バチカンを主軸としたカトリック正教に対し、ヘンリー8世の独断によって誕生したのが、英国国教会を中心としたプロテスタントである。門外漢から見れば、どっちも同じキリスト教なんじゃね?と思ってしまうけど、彼らの中では新・旧ときっぱり別れている。同じ神を奉りながら、その姿勢はまったく別物なのだ。
 レーベルに対する反逆精神と対を成す、個人的な恋愛観の隙間から見え隠れする宗教観。
 これらのダブル・ミーニングを交えたタイトル=コンセプトを持つのが『Protest Songs』だとしたら、納得が行く。彼の中ではどちらも等価なのだ。


Protest Songs
Protest Songs
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1. The World Awake
 低音でつぶやくような「Oh, Yeah」というコーラスが耳に残る、気だるい世界の目覚めを象徴するナンバー。ベーシック・トラックもシンセのエフェクトも、あまり練られた感じではないけど、バンド・グルーヴが心地よいので最後まで飽きずに聴くことができる。
 アウトロ近くのフィル・インなど、Neilの技が光っている。やっぱ生粋のミュージシャンだな、この人は。

2. Life of Surprises
 後にリリースされたベスト・アルバムのタイトルにもなった、地味だ地味だと言われている『Protest Songs』の中では1.と並んでキャッチーなアップテンポ・ナンバー。ファンの間でも昔から人気が高い。そのベストに合わせてシングル・カットされ、UK24位という、彼らの歴史の中でも比較的高いセールスを記録した。
 ほぼ音色をいじっていないシンセのリフが気持ちいい。1.同様、ポップ・バンドにしてはグルーヴ感が強く出ている。ほんと、この路線もあったんじゃね?と改めて思ってしまう。

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3. Horse Chimes
 アップテンポがつづいたので、ここでペースダウン。軽やかで洒脱なアコースティック・チューン。あまり加工されていないPaddyのヴォーカルが瑞々しい。これ以降はもっとエコーも深めでフェイザーをかけ過ぎて、時に過剰になってしまう場合もあるのだけれど、ここでは曲調とマッチしたラフな仕上がりが良い方向に出ている。
 不思議なコード進行のため、Paddy以外が歌ったら支離滅裂になってしまいそうだけど、危うさを見せながらもきちんとまとまった小品に仕上げている。

4. Wicked Things
 リズム・セクションが思いのほか健闘ぶりを発揮している、ややホワイト・ソウルっぽさも感じさせるナンバー。Paddyにしては珍しく、ダルなロックンロールっぽいギター・プレイ。曲調としてはシンプルなので、逆にバンドの一体感がクローズアップされている。

5. Dublin
 A面ラストはさらにシンプルに、Paddyのアコギ弾き語りバラード。朗々と紡がれるダブリンの寓話は古色蒼然としており、80年代ポップへの反旗とも取れる。そう、チャラさばかりが強調されるネオアコ勢も、元をたどればみなパンクを通過しているのだ。

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6. Tiffanys
 チャールストンっぽく古き良きアメリカを軽やかに歌い上げる、いつもの人名シリーズ。ロカビリーを連想させるギター・プレイは、Paddy自身が楽しんでいる姿が想像できる。
 そう言えば大滝詠一も晩年はプレスリーのカバーやってたよな。洋の東西問わず、突き抜けたポップ馬鹿の背骨には、シンプルなロックンロールが宿っている。

7. Diana
 シングル「When Love Breaks Down」のB面としてリリースされたのが初出で、ここで再レコーディング。シングル・ヴァージョンが『Swoon』の面影を残したアップテンポだったのに対し、ここでは『Steve McQueen』を通過した後のアダルトなポップ・チューンに仕上がっている。
 オリジナルのギクシャクした変調ポップはニューウェイヴっぽさが強く出ていて、若気の至りとして聴くにはいいのだろうけど、やはりストレートなポップに仕上げた子のヴァージョンの方が俺的には好み。

8. Talkin' Scarlet
 当時、ネオアコ界でのヒロインの座を独占していたWendyのヴォーカルがフィーチャーされた、ジャジーな雰囲気のアコースティック・チューン。取り立てて起伏もなく淡々とした曲だけど、しみじみした味わいはファンの間でも人気が高い。ここでのPaddyのヴォーカルも、青臭い童貞が初彼女の前ではっちゃけてる感じでテンションが高い。そういった時期もあったのだな。

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9. Till the Cows Come Home
 産業革命時代の工場地帯を思わせるSEの後、もはやプレ『Jordan the Comeback』とも形容できる作り込まれたサウンド。すでに骨格は完成されている。
 あと必要だったのは、全体を包括するコンセプト、そしてPaddyの心の中にのみ存在する、「あるはずもない良き時代のアメリカ」という世界観。

10. Pearly Gates
 ラストは天国の門をテーマとした、荘厳とした正統バラード。メロディもコード的にもほとんど小細工もなく、ただただ神への無垢な信仰。あまりに無防備なヴォーカルは癒しとか安らぎをも通り越して、単にPaddy自身の祈りとして昇華する。もはや誰が聴いていようが、大きな問題ではないのだ。それはPaddy自身のための旋律である。
 目立たず寄り添うようにハーモニーを重ねるWendyと共に、このアルバムはきれいに完結する。
 その円環構造に出口はない。いつまでも愚直に、ただ延々と回り続ける。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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