好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Pop

いまも軽く扱われている、最後のオリジナル・アルバム - Wham! 『Music from the Edge of Heaven』

folder 1986年リリース、頂点を極めたUKポップ・デュオWham! 3枚目にして最後のオリジナル・アルバム。ちなみにこのアルバム、正式なオリジナル・アルバムのはずなのに、発売されたのは日本とアメリカのみ、本国イギリスを含む他の国では、2枚組ベスト・アルバム『The Final』がリリースされていた。しかも日本では、ちょっとだけ時期をずらして『The Final』もリリースしてしまうという、まことに意味不明な営業戦略。
 解散が決まっていたこともあって、プロモーションだってもちろん本人不在、本国UKエピックも混乱した無法状態の中、チャート的にはUS10位・オリコン9位。案外そこそこの成績を残している。
 ちなみに『The Final』も、UK2位のほか、世界各国でトップ10に入る売り上げを記録している。さらに日本でも11位と、2枚組にもかかわらず『Music from the Edge of Heaven』(長ぇ)と並ぶ成績。しかもベストだというのに、ボーナスDVDを抱き合わせた25周年記念エディションまでリリースされている。
 それに引き替え『Music from the Edge of Heaven』(長ぇ)、リマスター化もずっと後回しにされ、iTunesに登録されたのも、つい去年の話。最後のオリジナル・アルバムだというのに、何だかえらくぞんざいな扱いである。

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 人気絶頂のアイドル・ユニットによる、唐突な解散宣言の影響は、応援していたファンだけでなく、元凶となったエピックにも大きく波及した。
 せっかくの稼ぎ頭がいなくなって、今年度の営業計画はどうする?ニュー・アルバムだってまだ製作中なのに、ほとんどでき上がっていないみたいだし、リリース計画はどうしよう?
 それまでの段取りやこれからの展望も全部吹っ飛んでしまい、世界中のエピック・レコード支社は、もう上へ下への大騒ぎ。対応に追われるがあまり、指示命令系統はグッチャグチャになった。
 本国UKエピックにお伺いを立てても、国際電話やテレックスだけでは意思疎通もままならず、朝令暮改がハイペースで行なわれる始末。使えねぇよな、こういう時、ホワイトカラーって。

 全8曲中、純粋なアルバム用書き下ろしは3曲のみ、残りは過去のシングルやGeorge のソロ、既発曲「Blue」のライブ・バージョンで構成されている。普通、書き下ろしオリジナルに、ライブなんて収録するか?それって要するに、ボーナス・トラックじゃん。それくらい、タマがなかったのが見え見えである。
 それならそれで、こじつけたようなオリジナルなんか作らずに、『The Final』一本に絞っちゃえばよかったのに、なんで作っちゃったのかね。まぁエピック上層部の思惑やら契約枚数やら、叩けば埃っぽいキナ臭い話があるんだろうけど。大口注文先のアメリカ・エピックが、何としてでもオリジナルを作れ、ってゴリ押ししたんじゃないか、と邪推。
 第一、『Music from the Edge of Heaven』、『The Final』とは、収録曲が相当かぶっている。どうしても「Blue」ライブ・ヴァージョンと「Wham Rap!」ニュー・ヴァージョンが聴きたいというのなら話は別だけど、そんなのは多分ごくごく少数、どうひいき目に見たって、『The Final』の方がお得感が強い。
 エピック・ジャパン的には、英米エピックのパワー・ゲームに挟まれながら、解散騒動のどさくさで手を変え品を変え、複数のアイテムをリリースしてうまく売り逃げた、という結果オーライ。コレクションはなんでもコンプを目指してしまう、日本人の特性とうまくシンクロした。

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 Wham! の解散理由というのが、「エピックの親会社であるソニーが、当時アパルトヘイトを実施していた南アフリカ共和国と貿易を続けていることへの抗議」という説。チャラいポップ・ユニットの発言っぽくないな。
 大抵、バンドの解散といえば、金や女がらみ、もしくは人間関係のゴタゴタと相場が決まっている。なので、Wham! の場合だと、フロントマンGeorge Michaelにとって、相方Andrew Ridgeleyの存在がジャマになっただけなんじゃないの?と単純に思ってしまうけど、一面的な見方だけでそうとは言い切れない。
 1980年代、サッチャー政権下のUKでは、フォークランド紛争と経済政策の失敗が引き起こした不況によって、一般大衆は常に不満は募らせていた。労働者階級出身が多いミュージシャンやアーティストらは、事あるごとに政権や王室への批判を歌い、また発言を繰り返していた。国営であるBBCがモンティ・パイソンを放映しちゃうお国柄である。息を吐くように体制批判を吐露する人種、それが伝統的な英国人である。
 なので、1986年前後の欧米ミュージック・シーンを俯瞰してみると、その公式ステートメントが単なる建前じゃないことが理解できる。

 1980年代は、ポピュラー系のアーティストが、弱者救済に積極的に介入を始めた時代である。欧米を中心としたキリスト教的倫理観のもと、無償の善意を振りかざした、様々なプロジェクトが誕生した。
 エチオピア難民の現状を嘆いたBob Geldof が言い出しっぺとなったバンド・エイドを皮切りに、アフリカ飢餓救済を目的としたUSA for Africa 、アパルトヘイト政策への反対声明としてサン・シティが立ち上がり、多くのユーザーから支持を得た。豪華アーティスト集結による、音源作成や大規模コンサートは一種のブームとなり、その後もチャリティの名のもと、様々なプロジェクトが企画されることとなる。
 「遠いアフリカやアジアの難民を嘆くのも結構だけど、自分たちの身近で苦しんでいる人たちも救おうじゃないか」と、アメリカの零細農民救済で立ち上がったファーム・エイドまで行くと、もうお題目なんて適当につけちゃって、大勢で集まって盛り上がろうぜ的なムードが漂ってくる。それも国難には変わりないけど、なんか方向性違くね?とツッコミたくなってしまう。

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 信仰の度合いの差はあれど、プロテスタントから由来する教条主義の支配下にある大英帝国民、George Michael もまた例外ではなかった。20代ですでにあり余る成功を収めてしまい、望むものは大方手に入れてしまった。となると、目指すのは形あるものではなく、名誉や虚栄心、それらの充足ということになる。
 Boomtown Rutsが失速して、開店休業状態だったBob Geldofは純粋な使命感に基づいての行動だったに違いないけど、その他の参加メンバーといえば、Paul McCartneyを始めとして、Sting、Phil Collins といった錚々たるメンツ。いずれもロック・セレブのハシリの面々である。
 80年代に入ると、それまでレコード会社の言いなりで不遇をかこっていたアーティストらの権利主張が通るようになり、著作権管理や法整備がキチンとなされるようになった。ド派手な高級車や使い放題のドラッグでごまかされていたアーティストらも、税理士の尽力によって正当な印税配分を受けられるようになり、ひとかどの財産を築けるようになった。
 生活の心配がなくなると、心に余裕もできる。周囲の恵まれない者に施しを行なうのは、欧米セレブの義務である。海外のスターが有名になると、やたら寄付やボランティアに精を出すのは、言っちゃえば税金対策の一環でもあるのだけれど、そんな宗教観が根付いているからである。

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 前時代的な人種差別がまかり通っている南アフリカ。何の罪もない弱者が不当な扱いを受け、虐げられている中、白人専用の高級デパートでは、自分たちのレコードが販売されているのだ。不当な差別に無自覚な白人たちがポップ・ミュージックを買い求め、そしてその収益を当然の営業活動の成果として、悦に入る無自覚な経営陣たち。そこから得た金は、虐げられた者たちの血と汗でまみれているかもしれないのに。
 若く清廉潔白なGeorge は、そんな理不尽な状況を打開するため、Wham! の活動終了を決意する。周囲の説得や干渉は強かったけれど、最終的には2人で出した結論だった。
 長く疲弊するツアーの影響もあって、盟友Andrew との関係は、以前ほど親密ではなくなっていた。ビジネスでの関係修復は、もう手遅れの域に達していた。
 でも。
 GeorgeにとってAndrewにとって、2人はお互い、随一無二の友だちだ。
 これ以上、関係をこじらせるわけにはいかない。
 一旦、活動休止してソロ活動するのもアリだったかもしれない。Andrew なら、きっと許してくれるだろう。
 でも。
 これ以上、無自覚な彼らを利するのは、絶対にイヤだ。

 Georgeの勇気ある決断によって、Wham! はレコード会社、そしてマスに消費されることなく、伝説となった。
 そのおかげで、刹那的な流行りものと思われていた歌たちは、いまも多くの人たちに永く愛され続けている。



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1. The Edge of Heaven
 1986年シングル・リリース、UK1位US10位を記録、解散がインフォメーションされていたこともあって、世界各国でベスト10入りを記録した。これまでのモータウン・ポップを基調としながら、ブロウしまくるサックスやハード・ドライビングなギターもフィーチャーされ、従来のお手軽ポップとは一線を画してる。Georgeのヴォーカルも甘さは少なく、ワイルドさが引き立っている。

2. Battlestations
 普通、大物ポップ・アーティストのアルバムだったら、冒頭3曲くらいはノリノリのイケイケな勢い重視のアップテンポが多いはずなのだけど、ここでは一転して地味なチューン。ほぼリズム・ボックスだけのバッキングに、エフェクトをかけてコンプしたヴォーカル。ていうかこれ、デモ・テイクじゃね?と疑ってしまうクオリティ。
 すごく深読みすると、後の「I Want Your Sex」に繋がるデジタル・ファンクへの伏線といった見方もできるけど、ちょっとファンクネスが足りない。

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3. I'm Your Man
 「Freedom」のリズム・トラックだけ抜き出して再利用したような、典型的なモータウン・ポップの80年代版。『Make it Big』期は聴いててワクワクしたものだけど、やっぱり二番煎じや三番煎じともなると、感動も薄くなる。
 多分、それは演者側にも言えることで、こんなポップ・ナンバーならいくらでもできるんだろうけど、もうこういった曲を量産できる場所に、Georgeはいなかった。次のステップはもう見えていたのだ。
 シングル・チャートでは、UKはもちろん1位、USでも3位を獲得。

4. Wham! Rap '86
 1982年のデビュー・シングルのリミックス・ヴァージョン。オリジナルに既発のリミックスが入ること自体が奇妙だし、80年代に流行した12インチ・シングル仕様のダンス・ミックスなので、冗長な部分が多い。ダンスフロアで流す分にはいいけど、リスニング的にはやっぱりオリジナルかな。どうにか尺を稼ごうとしたのがミエミエのトラック。

5. A Different Corner
 最後の世界ツアー後、ユニットとして沈黙していた頃、前触れもなく突如リリースされた、Georgeのソロ・デビュー・シングル。だからWham! 名義のアルバムなのに、なんでソロ名義の曲が入ってるの?もうわかってると思うけど、これがザッツ大人の事情。
 UK1位US7位を記録しながら、曲調はえらい地味なバラード。静かでありながら情熱的、エモーショナルなヴォーカライズはFreddie Mercury を連想させる。のちの追悼公演で話題となったパフォーマンスを予感させる名演。

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6. Blue (live in China) 
 1983年リリース、5枚目のシングル「Club Tropicana」のB面に収録されたのが初出で、アルバムでは初収録。オリジナルは半分デモ・テープみたいなテクノ・ポップで、埋め曲みたいな扱いだったけど、ここではAOR調のコンテンポラリー・ポップとして生まれ変わっている。
 当時は表現力やスキルが追いつかず、消化不良気味だったのを、女性コーラスやホーン・セクションで武装して見事なアンサンブルで組み、ライブの定番バラードとして蘇生させた、といったところ。

7. Where Did Your Heart Go? 
 ここ20年くらいでStonesのプロデューサーとして名を馳せたどころか、いつの間にかブルーノートの社長の座に収まっていたDon Wasが80年代に率いていたバンド、Was (Not Was) が1981年にリリースしたシングルのカバー。
 アレンジはオリジナルに比較的忠実だけど、ヴォーカルのポテンシャル的にGeorgeの方が圧倒的に勝っている。バラードとなると、感情移入マックスで世界観を牛耳っちゃうので、並みのシンガーでは歯も立たない。
 UK1位US10位をマークした、現役活動時最後のシングルとなるけど、日本ではその曲の良さが充分伝わらなかった。だって…、邦題「哀愁のメキシコ」だもの。サンタナじゃあるまいし、なんでこんなイロモノっぽいタイトルつけたんだか。



8. Last Christmas
 ラストは超有名曲。何の説明もいらないよな。重箱の隅もつつきようがない、ファニーでポップで完璧な歌。
 グダグダな経緯でリリースされることになった不幸なアルバムだけど、これが入ってることで、すべてのマイナス要素がチャラになってしまう。そんな名曲。
 







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ポップ馬鹿、アップル商法に手を染める。 その2 - XTC 『Apple Venus Vol. 2』

folder 前回の続き。
 2000年5月、予告通り『Apple Venus Vol. 2』、サブタイトル『Wasp Star』がリリースされる。もともと大量のデモ・テイクをレコーディングしていたAndy PartridgeとColin Molding、当初は40曲以上の候補があり、そこから厳選して半分に絞り、さらに営業サイドからの助言により、一気に2枚組で出すより、時期を置いて2枚に分けるという条件を飲んだ、という経緯がある。どうせなら、Guns N' Roses方式で2枚同時発売にしてもよかったんじゃないか、と思われるけど、その辺は意味不明。どうせマニアが買い支えるんだから、強気の姿勢でもよかったんじゃない?

 肝心のチャート・アクションはといえば、UK40位US108位と、前作とあんまり変わらない数字。世界中のコアなXTCファンが集結しているここのサイトでも、日本での売り上げは載ってなかった。さすがにVol. 1ほどの売上には届かなかったんだろうけど、一応、次回作が出せる程度には売れてたんじゃないかと思われる。
 考えてみればポニー・キャニオンって、洋楽部門ってあったっけ?代表的なアーティストと言えば中島みゆきやaiko、またはフジサンケイグループつながりの歌手が多いという印象で、海外部門に力を入れていたという印象がまったくない。
(追記:Paul Wellerも一時期ここだった。ご指摘ありがとうございます。)
 業界内ファンのディレクターあたりが、どさくさに紛れて新規で洋楽部門立ち上げたのか?大して売れてるわけじゃないけど、社内に洋楽営業のノウハウを持つ人間がいなかったため、お咎めもなく好き放題に営業展開していたのだろうか。
 謎は尽きないけど、コアなマニアにとっては周知の事実なのかな、これって。広く浅く雑食系の俺には知りえない世界。誰か知ってたら教えて。

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 グランジ系のラフなパワー・コードによるギターから始まる、ダルなムードの「Playground」からスタートする『Wasp Star』もまた、好意的に受け入れられた。ちょっとくたびれた感は否めなかったけど、バンド・シーンへの前線復帰という決意が感じられ、ラジオでもよくオンエアされていた。
 中期Beatlesと『Pet Sounds』~『Smily Smile』期のBeach Boysに強くインスパイアされたVol. 1も良かったけど、でも往年のファンが待ち望んでいたのは、Vol. 2のサウンドだった。大人になって一皮むけて、かしこまっちゃうのは仕方ないけど、過去の自分を完全否定することはできない。どんなに粗削りであろうと、それもまた自分、経験値の積み重ねの連続が人生なのだ。
 敢えて突っ込みどころを言えば、インディーゆえの低予算もあって、トラック数は少ない。ラウドなパワーポップ・サウンドという性質上、パーツはそれほど必要ではないけど、もう少しエンジニアリングに手間をかけて、ボトムとエッジを利かせれば、若手バンドにも十分対抗できたんじゃないかと思われる。ジャンルは全然違うけど、ほぼ同時期にリリースされたレッチリ『Californication』なんて、どのパートもぶっとい音像に仕上がってるし。

 露悪的な見方をすれば、キリがない。7年越しの活動再開だし、そんな細かいことは、どうだってイイじゃん。何はともあれ、XTCとして活動しているんだから、我々はそんな幸福な現状を素直に受け入れるべきだ。
 -俺たち(私たち)が思うところのXTCと現在のXTCとは、ちょっと方向性違ってるかもしれないけど、Andy もいるしColinもいる(この頃、Daveの存在は誰も気にもかけなかった)。オリメン2人そろってるんだし、これは誰が何を言おうとXTCに違いないんだっ。
 ぶっちゃけて言うと、2枚ともパンチの利かない音でまとめられていたため、どこか消化不良気味だったのは、誰もが思っていた事実である。低バジェットのプロジェクトだったため、メジャー在籍時よりサウンドが小粒になったのは致し方ないとして、彼ら特有の英国的な毒やペーソスまで小粒になってしまったのは、予想の範囲外だった。
 インタビューや発言において、過激な毒を発し続けていたAndyだけど、そのエネルギーを創作面に振り向けてもらえれば、サウンドや歌詞にも適度なスパイスが効いたはず。ご意見番として憂さを晴らしちゃったため、『Apple Venus』の楽曲は破綻も少なく、均整が取れている。大人のポップとしては、優秀な部類に入る。
 入るのだけれど、でも。
 手の込んだ精進料理もいいけど、それを求めてるわけじゃない。どちらかといえば俺たち、ケチャップとマスタードの利いたビッグマックが好きなんだ。大きな声じゃ言えないけどね。

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 「Vol. 1同様、シンプルなアレンジだからこそ、メロディの良さが引き立つ」「敢えて隙間の多いサウンドに仕上げたことによって、バンド・サウンド本来のラウド感が演出されている」。
 『Apple Venus』の肩すかし感は声密かに囁かれていたけど、表だって言うことは、何となく憚られた。業界内ファンを自称する音楽ライターたちもまた、奥歯に物が挟まったかのような論調で、一応は賛美していた。
 誰に何を強制されたわけでもない、そんな強迫観念に取り憑かれたかのように、世界中のコアなXTCファンはAndyのコメントに一喜一憂した。特に従順だったのが、ここ日本。矢継ぎ早に発信される最新情報を鵜呑みにして、次々発売される『Apple Venus』アイテムを買い支えた。
 1年後の2001年5月、大方の予想通り、『Wasp Star』のデモ・テイク集『Homegrown』がリリースされる。この頃になると、もう誰も驚かない。「あぁ、やっぱりね」といった声が大多数。
 『Vol. 1』リリース時に激増したにわかXTCファンはすでに離れ、残ったのは古くからの従順なファンだけだった。もはや「嬉しい」とか「またかよ」という問題ではない。リリースされたら、入手しなければならないのだ。「買うか買わないか」で悩むのではない。頭を痛めるのは、度重なる出費に対する言い訳、そしてお小遣いの捻出手段だ。
 意思決定の入る余地もなく、惰性と義務感に急かされた、盲目的な信者の群れ。
 XTCカルトの完成である。

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 企画盤2種を含んでいるとはいえ、2年間で4枚もアルバムをリリースしているのだから、その創作意欲だけは称賛に値するものだ。ごくミニマムではあるけれど、それ相応のニーズもあるわけだし、コアな世界の中ではwin-winの関係が成り立っている。あんまりそこには入りたくはないけど。
 そんな多忙を極めるAndy、『Apple Venus』と並行してさらに2つ、アーカイブ・プロジェクトを進行させている。
 ずっとサボっていたヴァージンとの契約消化にケリをつけるため、2002年3月、アンソロジー・ボックス・セット『Coat of Many Cupboards』がリリースされる。4枚組60曲に及ぶその内容は、41曲がデモ・テイクや未発表ライブ、入手困難なレア・テイクで構成されており、「ヴァージン時代の裏ベスト」と言っても間違いない充実さだった。XTCサイドにとって不利な契約内容だったため、印税取り分は微々たるものだったらしいけど、そこはポップ馬鹿の悲しい性、不必要に張り切り過ぎてしまう。AndyもColinも積極的にお蔵出しテイクを提供するだけであく、ありったけの写真を引っ張り出してきて、60ページに及ぶ豪華ブックレットの作成協力までしちゃう始末。ヴァージンのいいカモじゃん、それって。
 で、もうひとつがAndy単独のプロジェクト『Fuzzy Warbles』。2006年まで続く、足掛け5年の壮大なプロジェクトは、これまでブートで流出していたAndy作の未発表テイクをオフィシャルな形でまとめたもの。年に1回、2枚同時発売のペースで進行し、最終的には全8枚に及んだ。後に、それらをボックス・セットにまとめた『Fuzzy Warbles Collector's Album』がリリース、特典としてつけられたボーナス・ディスクもさらに分売する、といった商魂の逞しさ。その後も『Fuzzy Warbles』プロジェクトは忘れられた頃になると突如復活し、3枚組3セットの仕様で再販されたり、「ベストFuzzy Warblesを出す」という本人コメントがあったりで、ネタ切れの際は何かと重宝されている。
 Andyからすれば、「過去の遺産で食ってる奴なんて、俺以外にもいくらでもいるじゃないか」ってことなんだろうけど、それにしてもあんた、節操なさ過ぎ。

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 話は戻って『Apple Venus』、使えるモノは何だって無駄なく使う、アップル商法は手を変え品を変えてまだ続く。
 2002年10月、リリースされたのは、Vol. 1のインストゥルメンタル・ヴァージョン『Instruvenus』。同趣向のVol.2『Waspstrumental』も同時発売された。
 もともと彼ら、変態コード進行に基づいたメロディ・ラインと、過去のポップ・レジェンドへのオマージュと形容されるサウンド・メイキングに定評があったため、ヴォーカル抜きのトラックにニーズがあったとしてもおかしくはない。ていうか、ニーズのない所にニーズを創り出す、それこそが一流のビジネスマンだ。
 はっきり言っちゃえば、いわゆるカラオケ集であり、それこそボーナス・トラックで出す類のものだけど、それを単独販売しちゃうんだから、彼らの商魂といったらもう、それはそれは。でも、ここまで突き抜けちゃうと、逆に中途半端なファン・サービスだと納得しないんだろうな、マニア側からすれば。
 特に日本のファンには発売前から潜在的な需要があったらしく、本国イギリスでは2003年1月発売なのに、3か月も早く先行発売している。どれだけ従順なんだ日本のXTCマニア。
 ふと振り返ってみると、大滝詠一もまた、ロンバケリリース後まもなく、カラオケ集『Sing ALONG VACATION』をリリースしていた。しかもロンバケと同時発売で、第1期ナイアガラ・レーベルの6枚プラス編集盤オムニバス3枚を加えたボックス・セット『Niagara Vox』まで作ってしまうという、Andyも顔負けのラインナップ。
 そんなわけで、コレクター気質の強い日本人にとって、彼らの所業は責めるものではない。むしろ称賛されるべきものなのだ。潜在ニーズを掘り起こせば掘り起こすほど、コア・ユーザーの購買意欲はさらに高まってゆく。

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 とはいえ、さすがに一部ユーザーやメディアからの批判が高まったのか、はたまたネタ切れしちゃったのか、アップル商法は沈静化を余儀なくされる。せっかくなら大滝詠一に倣って、ストリングス・ヴァージョンでリ・レコーディングするのもアリだったんじゃなかと思われるけど、さすがにやり過ぎちゃったのかな。短いスパンで乱発し過ぎたし。
 ポニー・キャニオンとの契約も更新されず、日本では窓口がなくなってしまったXTCの活動は、この辺からフェードアウトしてゆく。当時、Andyは『Fuzzy Warbles』プロジェクトに没頭していたため、レコーディング・スケジュールは白紙となっていた。
 2005年10月、本編とデモ各2編をまとめた4枚組『Apple Box』発表。英国のみリリースのコレクターズ・アイテムであり、日本では入手困難だった。
 続く2006年12月、7インチ・アナログ・シングル13枚組の『Apple Vinyls』をもって、長きに渡ったアップル商法は終焉を迎えることになる。もちろんこれも、発売はUKのみ。コアなファンなら、個人輸入で手に入れたんだろうけど。



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1. Playground
 Marc Bolanのようなグリッターなリフからスタートする、ボトムの効いたロックンロールからスタート。テンポを落としたブギのリズムは、ラフでありながら神経質に整頓されている。間奏のアホっぽいオールディーズなコーラスには、Andyの実娘Hollyが参加している。さすがハウス・レコーディング。



2. Stupidly Happy
 Stones的にシンプルさを極めた反復リフをベースに、サウンドの主軸はとてもポップ。『English Settlement』期を彷彿させる抑えめのギターポップは、そのワイルドなリズムギターによってビターな味わいを醸し出している。コアな古参ファンにも人気の高い一曲。

3. In Another Life
 Colin作によるフォーキーなロック・チューン。Vol. 1では達観したかのようなポップ仙人ぶりを発揮していたけど、ここではもう少し生気が戻っている。まぁテンポは確かに良いけど、一般的なロック・サウンドからは程遠い仕上がり。やっぱ仙人だわ、これじゃ。

4. My Brown Guitar
 Prairie Prince (dr)によるリズム・アレンジが秀逸。今回のAndyの作風である、グッと腰を落としたダルなロックンロールととなっており、コメント通り、後期Beatlesのエッセンスが強い。ていうか、それに憧れたJeff Lynne = ELO的ロックンロールのテイストに近い。Beatlesマニアって、大体こんな風になっちゃうんだな。

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5. Boarded Up
 再びColin作。深い闇の奥から鳴り響くギターと声。英国ゴシック風味が強く打ち出され、全宝は浮いているため、ブリッジ的な小品と思えば腹も立たない。だから、アルバム・コンセプトと全然違うってば。

6. I'm the Man Who Murdered Love
 「Statue of Liberty」をヴァージン後期の環境でリメイクしたら、こんな風になっちゃいました的な、このアルバムの中でも飛び抜けて出来の良いトラック。かつての神経質に凝りに凝ったリズムから一転、シンプルでボトムがぶっとくなったため、いい感じで肩の力が抜けて大味になって聴きやすくなっている。全編、この感じでやってくれてたら、アルバムの評価も良かったはずなのに。

7. We're All Light
 ほとんど語呂合わせのような言葉の羅列の向こうに見えるのは、純粋なメロディの良さと、歌詞から希求された跳ねるリズムの洪水。そこかしこに思いつきという名のアイディアが散りばめられ、過去の延長線上にありながらも、確実にアップデートしたパワーポップ。

8. Standing in for Joe
 前2曲が珠玉の仕上がりだったため、Colin作になると途端にテンションが下がってしまう。いや悪いわけじゃないんだよ。コンセプトに合わないだけで。ていうかColin、絶対XTCを意識して作曲してないだろ、単なるソロ曲だもの、これじゃ。
 当初、楽曲選定の段階ではこれを収録する予定はなかったのだけど、レコーディングに入ってからColinが強硬に主張して、Vol. 2収録に至った、というエピソードが残っている。いるのだけれど、そこまで力説してまで入れなければならない曲かと言えば、ちょっと疑問。正直、俺的にはそんなに思い入れはない。

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9. Wounded Horse
 Stonesオマージュなサウンド・プロダクトになると、人はどうしてもラフで脱力した歌い方になってしまう。時々、Liam Gallagherみたいに聴こえてしまう瞬間が多々あるけど、まぁ気のせいか。

10. You and the Clouds Will Still be Beautiful
 変則リズムと転調の嵐が飛び交う、往年のニューウェイヴ風味満載のロック・チューン。変にメロディ・ラインに頼らず、力技でたたみかける饒舌さこそが、Andyの真骨頂であることがあらわれている。



11. Church of Women
 XTC久しぶりのレゲエ・チューン。ねじれたStonesの模倣より、実験性を優先していった方が、Andyは面白いものができる。全体的にいいんだけど、スロー・テンポの情緒的なギター・ソロだけはちょっと浮いている。もっとメチャメチャに、簡潔にまとめた方が良かったのに。

12. The Wheel and the Maypole
 ラストはファンのツボを余すところなく押しまくった傑作。初期のラジカルさと中期のサウンド・ディティールへのこだわり、後期の音圧の強さとがうまく絡み合い、XTCオリジナルの空間を形成している。饒舌に歌い飛ばすAndy、ひと手間かけた様々なエフェクト。試しに『Homegrown』収録のデモ・ヴァージョンも聴いてみたのだけど、これはこれでまた良い。やっぱり骨格がしっかりしてると、どんなアレンジでも観賞に耐えうるといった好例。






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ポップ馬鹿アンディ、アップル商法に手を染める。 その1 - XTC 『Apple Venus Vol. 1』

folder 1999年リリース、前作『Nonsuch』から7年ぶりとなった、XTC久しぶりのオリジナル・アルバム。デビューから長らく所属していたヴァージンとは袂を分かち、Andy Partridge 設立の個人レーベルAPEからのリリースということもあって、プロモーション以前にインフォメーションが行き渡らず、本国UKでは最高42位と不発に終わる。せっかく「Dear God」で獲得したカレッジ・チャート層も、ブランクが長かったせいもあって、USでも最高106位と、これまた不発。地道なドサ廻りライブは行なわず、ラジオ局でのラフなスタジオ・ライブでお茶を濁していたこともあって、欧米ではすっかり過去の人になっていた彼ら。よほどの音楽ファンじゃない限り、リリースされたことも知らなかったんじゃないかと思われる。
 そんな長い沈黙が、逆に大御所オーラとして作用したのが、ここ日本。なんと、オリコン最高14位の大ヒットを記録している。欧米の配給元がいずれもインディーだったのに対し、日本ではメジャーのポニー・キャニオンが彼らの発売権を獲得、待ちに待った再始動を盛り上げるため、各メディアを巻き込んだ一大キャンペーンが展開された。

 サブカル系中心の業界人ががっちりスクラムを組み、XTC復活プロジェクトは異様な熱気によって盛り上がりを見せていた。リリースの何ヶ月も前からAndy 自身によるコメントや曲目解説が、ファッション雑誌から情報誌までジャンルを問わず、かなりの広範囲で出稿された。
 「Apple Venusは2部作で構成される」というのも、かなり早い段階からインフォメーションされていた。ヴァージン後期に顕著となる、緻密に作り込んだシンフォニック・ポップを基調としたVol. 1、そして、デビュー当初を彷彿させる、ギター中心のハードなサウンドのVol. 2、これらを短いスパンでリリースする、と。
 もともと7年も沈黙していたのは、所属レーベル・ヴァージンとの契約がもめて拗れたことに端を発する。新譜リリースの展望も見えず、移籍もままならない飼い殺し状態が長く続いていた。
 不本意な開店休業中も、彼らは来たる新譜レコーディングに備え、地道なデモ・テープ制作作業に勤しんでいた。当時、その成果はオフィシャルな形で世に出ることはなかったけど、Andy自身から提供されて会員制ファンジンの付録として流通し、そこから派生して違法ブートレグとして流出したりしている。
 この時期の膨大な音源は、のちに一部が『Fuzzy Warble』シリーズとしてコンパイルされており、そのラインナップを見る限り、彼らの沈黙は決してネタ切れが要因ではなかったことが窺える。

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 現在のように、公式サイトやSNSでつぶやく手段もなかった時代、動向を知る/発信するためには、テレビや雑誌、ラジオなどの既存メディアに頼らなければならなかった。基本、大勢の前に出るのが苦手なAndy、ライブ活動はとっくの昔に廃業しているため、何か物申したい時は、積極的にオファーを受けた。
 考えてみれば、特別表立った活動をしているわけでもないのに、新譜プロモーション以外の依頼が来るのも変な話だけど、雑誌でちょくちょく目にする機会は多かった。沈黙することでポップ界のご意見番に収まっちゃったという、何とも芸能界チックな話。
 当然、新しいネタもないので、お題としては、ヴァージンへのヘイト発言、それと『Skylarking』セッションで勃発したTodd Rundgrenとの確執、主にこの2つが鉄板ネタ。特に後者、年を追うごとに小ネタが追加されて、今じゃ古典名人芸みたいになってるもんな。
 そんな按配が長らく続き、いい加減待ちくたびれた世界中のXTCファンのもとに、降って湧いたような活動再開の知らせが届く。もうそんなに期待していなかったはずだけど、でもやっぱり動き出すとなれば、そりゃあもう大騒ぎ。
 ファンより先に待ちくたびれちゃったDave Gregoryはバンドを去り、いつの間にか2人ユニットになっちゃってたけど、そんなのは過ぎたことだし小さいこと、とにかくXTCの新譜が出るんだから、めでたいじゃないの。

 1999年2月、待望のVol.1がリリースされた。UK以外でもそこそこ売れた『Oranges & Lemons』以降に顕著だった、音圧の強いパワー・ポップは後退し、静謐なバラード中心で構成されている。レコーディングは自宅スタジオを中心に少人数で行なわれたため、トラック数は少ない。録音トラックをすべて埋め尽くすような、カオティックで混み入ったエフェクトは一掃された。シンプルなアコースティック・セットを主軸としたアンサンブルは、風通しが良く、熟成されたメロディの綾を堪能できる作りになっている。
 レコーディングや作曲のプロセスは、リリース前からAndyの口から語られていたため、何となく予想がつく仕上がりではあった。ポップ・ソングというには躍動感に欠けていたし、ザラザラと枯れたテイストが肩すかしではあったけれど、ニュー・アイテムに飢えていたファンにとっては、「7年振り」というバイアスがかかっていたこともあって、おおむね好意的に迎えられた。ポップ界隈の大騒ぎに引き寄せられたビギナー・ファンたちもまた、「レジェンドの新譜」というバイアスのもと、「こういうものか」と自分に言い聞かせた。
 リリース前から、Vol. 1は落ち着いた作風になるというのはわかっていたので、古参ファンは早くもVol. 2に期待を寄せた。雑味を削ぎ落とした熟練の技は、コンポーザーとしての成長と受け止めよう。でもやっぱり、大部分のXTCファンは『English Settlement』以降のゴチャゴチャ詰め込んだサウンドに惹かれたのであって、そういうのも求めてしまう。職人の目で吟味されて作られた十割そばは美味いけど、時々ジャンクフードだって食べたくなる。若くて金がない頃は、それだって充分美味かったのだ。
 そんなわけで、Vol. 2への期待値は上がっていった。いったのだけど、しかし。

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 Vol. 1がリリースされて間もなく、新たなお知らせが届く。
 「Vol.1のデモ・ヴァージョンを、オリジナルの曲順通りに収録したアルバム『Homespan』! 10月発売」。
 え?ちょっと早すぎない?先にインフォメーションされたVol. 2もまだ出てないのに、もうデモ・テイク集出しちゃうの?
 ハウス・レコーディング中心だったVol. 1自体、シンプルなサウンド・プロダクトなので、凝りに凝ったヴァージン時代のアルバムと比べれば、丸ごとデモ・テイクみたいなものである。時間はたっぷりかけられたけど、自主レーベルという特性上、外部のミュージシャンを招聘する金もなければ、助言してくれるプロデューサーもいない。自宅スタジオでは機材スペックの問題もあって、そんなに凝ったサウンド処理もできないし、歴代のプロデューサーたちとはほぼ喧嘩別れだし。
 なので、シンプルを通り越して隙間の多い簡素なアレンジにならざるを得ない。せいぜい、ストリングスのダビング前と後、そのくらいしか違いがない。よほど聴き込んだマニアなら、ピッチやフレーズの細部までわかるんだろうけど、そこまでこだわるのはごくごく少数だろうし。多分、完パケとデモ、シャッフルしちゃうと、どっちがどっちだか、誰も判別できないんじゃないかと思われる。
 初回盤や日本独自仕様のボーナス・トラックで、ライブやアウトテイクを入れることは珍しくなく、ファン・サービスの一環として歓迎すべきことだけど、特典だけまとめて分売するのは、彼らくらいのものだろう。David BowieやBruce Springsteenクラスの大物が、ボックス・セットのみ収録されたトラックを後日分売するケースはあったけど、それだって大昔のアーカイブであって、半年経ってすぐ舞台裏を見せるような真似はしていない。
 とはいえ、そこは7年も耐え忍んだXTCファン。買っちゃうんだよな、これが。極端な話、パッケージに「XTC」って書いてりゃ反応しちゃうんだもの。
 日本盤では、独自規格のボーナス・ディスクが付属しており、そこにはAndy とColin Moulding による楽曲解説のオーディオ音声が収録されている。曲じゃないよ、オッさん2人のしゃべりだよ。これで金取ろうとしてるんだから、どれだけ面の皮厚いんだか。

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 で、そこから半年ほど経った2000年5月、ようやくVol. 2がリリースされる。ご大層に、『Wasp Star』なんて自虐めいたサブタイトルまで付けちゃったりして。
 従順なファンからとことん搾取しまくるアップル商法はまだ続くのだけど、ここまでで結構長くなったので、一旦ここで終わり。続きはまた次回。



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1. River of Orchids
 コンパクトなオーケストレーションをバックに、ノン・エコーで朗々と歌い上げるAndy。構成も録音も緻密に組み立てられ、プログレッシブ・ポップとしての到達点。安易なシンセやシンクラヴィアに頼らず、生音にこだわったのは正解だった。Toddなら、時間も手間もかかるストリングス・アレンジは使わず、チャチャッとシンセ手弾きで済ませちゃっただろうし。

2. I'd Like That
 2枚目のシングル・カット。UK最高121位をマーク。いいんだよ、成績なんて。どうせ大した枚数プレスされていないんだから。
 アコギのストロークを主体とした軽快なリズムは、ヴァージン後期を彷彿させ、きちんとしたプロデューサーに任せてギターポップに仕上げれば、もうちょっと注目されたかと思うのだけど、そこまで手が回らなかったんだな。案外、Andyってテクノロジー弱いみたいだし。



3. Easter Theatre
 トータル・コンセプトを代表させるため、これがリード・シングルとして切られたと思うのだけど、復活の一発目としては、ちょっと地味だよな。アルバムの中の隠れ名曲としてなら、充分「Chalkhlls ~」と比肩するポテンシャルなのだけど。
 『Sgt. Pepper’s』と『Pet Sounds』のミックスアップとしては優秀。ストリングスの使い方も堂に入ってるし。

4. Knights in Shining Karma
 『Pet Sounds』オマージュはさらに続く。メランコリックな大人の子守唄を思わせる小曲。

5. Frivolous Tonight
 『Pest Sounds』かぶれはAndyだけじゃなく、むしろColinの方が顕著だった。Paul McCartneyによるBryanWilsonリスペクト。ちょっぴりケルティック風味も添加され、英国民謡的なテイスト。

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6. Greenman
 なんか気の抜けたような、腰に力の入ってない小手先技が続くなぁ、と思っていたら、やっと真正XTCとも言えるトラックが、これ。彼らのサウンドの特徴として、凝ったリズム・アレンジが語られるけど、その要となるコーラス・ワークがうまく作用している。天空を駈け上がるようなメロディの妙と、アラビック主体のオリエンタルなリズム・エフェクト。ヴァージン時代と比べて、多くの音が入っているわけではないけど、パーツそれぞれにきちんと主張がある。ボトムさえしっかりしていれば、骨格だけでも充分説得力があるというモデル・ケース。

7. Your Dictionary
 前半はほぼAndy弾き語りで、徐々にパートが追加されてゆく、という構成。離婚経験を綴ったパーソナルな歌なので、歌詞については他人がどうこう言うものではない。
Andyはその体験を1曲に凝縮したけど、かつてMarvin Gayeはアルバム2枚組というボリュームで、妻Annaへの想いを切々と訴えかけた。そこがポテンシャルの違いかな。良いとか悪いとかじゃなく。

8. Fruit Nut
 やたら力が入ったAndyに対し、Colinが書き下ろしたのは、5.とこの曲のみ。簡素なホーム・デモっぽさは、オフィシャル・リリースを意識していないかのように、肩の力が抜けまくり。「When I’m 64」にインスパイアされてギターをいじってたら、こんなのできちゃました的なお手軽さ。最後の意味不明なエコーも、遊び心たっぷり。その辺でユニット内バランスが取れてるんだろうな。

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9. I Can't Own Her
 対してAndy、やたら気合いの入ったバラード。力むあまり、歌い出しで誰の声かわからなかった。
 後期XTCの到達点とされる「Chalkhills and Children」をゴージャスなストリングスでアップデートしたような、完成度を極めて高く設定したようなトラック。『Pet Sounds』のイディオムを完全に取り込んだかのような、XTC流シンフォニック・ポップの完成形が、ここにある。揶揄や皮肉も寄せ付けない、まさに問答無用のサウンド。

10. Harvest Festival
 9.から11.までは一大ポップ・シンフォニーとなっており、ここでも同じ世界観が流れている。一歩間違えればElton Johnになってしまいそうなロマンチシズムでありながら、演歌的様式美に陥らないのは、イージー・リスニング一辺倒ではないLondon Sessions Orchestraの助力によるもの。
 問答無用の美しく繊細なメロディ、クセはあるけど力強いパッションを放つAndyのヴォーカル。アルバム全編とは言わなくても、B面全部使って展開すればよかったのに。

11. The Last Balloon
 ラストも正攻法、力強く、それでいて優雅さを失わないポップ・シンフォニー。悲観的な終末観の中、見上げた空に遠く浮かぶ「希望」という名のバルーン。皮肉と自虐で構成された英国人といえども、たまにはポジティブになるのだ。






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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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