好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Jazz

「俺の欲しい音わかるよな?」と脅して作らせた音楽 - Miles Davis 『Tutu』

_SX355_ Milesが辿ってきた音楽的変遷というのは、要は「どれだけジャズというジャンルから逃がれられるか」の軌跡である。既存の枠にカテゴライズされることを忌み嫌い、「俺自身がジャンルだ」と気を吐くのは昔からのことで。やっぱJBとかぶるよな、こういうとこって。
 とはいえ、本人がどう思おうが、Milesはどこまでもジャズの人である。ビバップ以降のジャズの可能性を広げたのは、どうしたってこの人だし。

 30年もの間、所属していたコロンビアは基本、彼をジャズのカテゴリで売り出し続け、5年のブランクを置いての復帰後も、これまで通り、快く迎え入れた。何の問題もない。彼はすでに生きる伝説だった。
 80年代のコロンビア・ジャズは、20代の若手主導による新伝承派と、70年代残党によるフュージョン/クロスオーバーとが主力で、それらのオピニオン・リーダーとなっていたのがWynton Marsalis とHerbie Hancock だった。
 ポピュラー界全体でも、まだ一般的ではなかったスクラッチと無限変速のダンス・ビートによって、大きなインパクトを与えた「Rockit」の成功は、商業的にも大きな成功をもたらした。その基本は、70年代からのジャズ・ファンク〜R&B路線をアップデートさせたものだが、市場のニーズと彼の嗜好とがうまくシンクロした結果である。
 Herbieの優れた点は、そういった大衆路線と並行して、VSOPでスタンダード路線もしっかり押さえていたところ。『Future Shock』だけなら単なるご乱心だけど、「伝統的な4ビートだって忘れてないんだぜ」的な二面性を保つことによって、保守派ジャズ・ファンからも一目置かれるポジションをキープしていた。
 対して、先祖返りのモード・ジャズの再発掘とされる新伝承派もまた、保守派ジャズ・ファンの間では安定した人気を誇っていた。Wyntonに並ぶスター・プレイヤーの不在によって、フュージョン一派ほどポピュラーな存在ではなかったけど、成長株として評価はされていたし、特に日本での人気は高かった。

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 で、そんな状況下でMilesに求められていたこと。コロンビアとしては、どっしり構えたレジェンドとして、悠然たるモード・ジャズをやってもらいたかった、というのが正直なところ。若手の総元締めとして、新伝承派のルーツを演じてもらいたかったのだ。
 完全にドラッグから足を洗ったわけではなく、体だってボロボロだったから、今さら新しい音楽なんてできるわけないし。言ってしまえば、金のために復帰したんだし、それならそれで、過去の遺産でお茶を濁したって、誰も責めやしない。それだけのことをやってきた人だし、二流のミュージシャンの新作よりは、ずっと出来だっていいはず。
 でも、そうじゃなかった。
 帝王は常に「その次」を見続けていた。

 モード・ジャズもフュージョンも、すべてはMilesが最初に始めたものであり、主義として過去を振り返らない彼が、今さら手をつけるものではなかった。帝王にとって最高傑作とは、常に次回作だ。
 -なんで俺が、二番煎じの片棒担がなきゃなんねぇんだ?
 きっとそう思っていたことだろう。
 混沌を未整理の状態で表現した最高峰が『アガ・パン』だとして、果たしてそれが多くの聴き手に理解できたかといえば、正直難しいところ。『On the Corner』は好きな俺も、『アガ・パン』は最後まで通して聴けたことがない。
 その混沌としたジャズ・ファンクの素材を整理・加工し、コンテンポラリーな商品としてマーケットに流通させることが、80年代Milesのコンセプトだったと言える。

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 セッション中、テープを回しっぱなしにして、不協和音スレスレのハーモニーや変速リズムが録音された素材を編集、どうにか商品の形にまとめていたのが、プロデューサーTeo Maceroだった。特に電化以降のMilesがコンスタントにアルバムをリリースできたのは、彼の巧みなテープ編集技に依るものが大きい。
 ただ復帰後のMilesは、よりコンテンポラリーな方向性を求め、職人肌のTeoとは次第に距離を置くようになる。自らの仕切りによる漫然としたセッションに見切りをつけ、バックトラックの外注化を推し進めたのが80年代である。70年代のジャズ・ファンク路線を踏襲しながら、まとめきれなくなった音の洪水を整理し純化する作業を、まだ20代のMarcus Millerに委ねることとなる。

 もともとフュージョンのGRPを入り口としてこの世界に入ったMarcus が、すでに過去の偉人扱いだったMilesのバック・カタログをどれだけ聴き込んでいたかは疑問だけど、MIDI機材を駆使したアップ・トゥ・デイトなサウンドを具現化できる彼のスキルは、得がたいものだった。
 Miles思うところのモダンなサウンドを作らせ、最後に朗々としたミュート・ソロを入れたらできあがり。『Star People』も『You're Under Arrest』も『Decoy』も、Miles自身はサウンド・メイキングに何ら関与していない。多少は口出ししたかもしれないけど、ほぼ「Marcus 思うところのMiles的サウンド」で構成されている。「Time After Time」も「Human Nature」も「Perfect Way」も、Milesが「これやりてぇ」とつぶやいたら、「かしこまりっ」てな具合で、きっちりパッケージングしてくれる。
 何かと使い勝手の良い男である。

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 でもしかし。
 Milesのそんな先進性は、コロンビア的には歓迎すべきものではなかった。
 何も新しいものなんか期待していない。ただ普通に、「Round About Midnight」や「Birth of Cool」だけやってもらえれば、営業戦略的にはよかったのだ。
 伝統芸能としての古典ジャズがあり、その頂点に位置するMiles。大御所たるもの、安易に目先の流行に惑わされものではない。静かなる水面のごとく、数年に一度、悠然かつ堂々とした正攻法の4ビートを奏でてくれればよい。営業サイドも、内心そう思っていたはずで。
 なのに、何だあの野郎、毎年毎年アルバム作りやがって、そんなんじゃレア感出ないじゃないの。時代に合わせたサウンドなんて、もっと若手に任せときゃいいものを、帝王がそんなチャラい音楽やってどうすんの?
 コロンビアとしては、そこまでフットワークの軽い活動は望んでなかったはずだ。だって、バック・カタログのリイッシューやボックス・セットで十分ペイできるんだし。

 当時のMilesへのインタビューを読めばわかるけど、ベルリン・フィルとの共演企画に始まる、とにかく権威づけして神棚に祀っておきたいコロンビアの思惑が、帝王との方向性のズレを示唆している。
 復帰以降では、最も突出してプログレッシブな内容の『Aura』のリリースに難色を示したコロンビアに憤慨したMilesは、ワーナーに移籍してMiles的オリジナルの探求、そして存命中には叶わなかったポップ・スターとしてのポジションを追い求めることになる。
 コロンビアの立場に立って考えると、まぁ別に気張らなくたって安定したセールスは見込めるんだし、何もそんなシャカリキにならなくてもいいんじゃね?と思っていても不思議はない。時々アニバーサリー的な作品を出して、あとはベストかアーカイブで凌いでくれた方が、レコーディング経費もかからないわけだし。
 なまじ覚醒しちゃったベテランの手綱を操るのは、容易ではない。ジャズから離れようとしながら、同時にジャズ界のイノベーターでもあろうとするMilesの、そこがめんどくさいところで。

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 で、再度Marcus を呼びつけて、「俺の言ってることわかるよな?」的に恫喝、バックトラックを全部丸投げして一気に作らせたのが、この『Tutu』。方法論としては、『Star People』 以降と大きな変化はない。
 コンセプトメイカーとしてのMilesの感性は、時代の変遷で風化するものではないけど、サウンドメイカーとして見るのなら、ちょっと評価は違ってくる。その辺はやっぱ年の功もあって、時代に即したサウンドを単独で作るには、ちょっとムリがある。
 Cyndi LauperやScritti Polittiなど、ポピュラー・ヒットへの着眼点は眼を見張るものがあるけど、それに比したサウンドを作るとなると、話はまた別になる。だからこそ、Marcus のような存在が必要なわけで。
 ソロイストとしてのスキルを極めるより、集団演奏によるトータル・サウンドの空間演出に力を注いできたのが、コロンビア以降のMilesである。スペシャリストによるアンサンブルも、フェアライトで緻密に組み立てられたシンセ・サウンドも、要はMilesのミュートを引き立たせるための大掛かりな演出なのだ。
 最後の一筆を入れるがごとく、完成されたバックトラックの隙間を縫うように、ペットの音色を吹き込むMiles。トラックの隙間を埋めるのは、単なるペットの音色ではなく、長い余白と余韻の如く、サウンドを切り取るブレスだ。
 綿密に構築された喧騒の中、そっと射し込まれる沈黙。
 行間に「意味」を吹き込むMiles的ジャズ・ファンクの最終形である。


Tutu
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1. Tutu
 まさかジャズの、しかもMilesのアルバムでオーケストラ・ヒットを聴くとは思いもしなかった。でもそこ以外はスロウな大人のジャジーなファンク。

2. Tomaas
 この曲のみ、MilesとMarcusの共作名義となっているけど、本当の主役はOmar Hakim。世代が近いだけあって、Marcusとのコンビネーションも絶妙。どちらも複雑かつバラバラなリズム・アレンジなのに、さらにその上を行ってMilesが俺様状態で引っ掻き回すものだから、結局のところはうまく着地点を見つけているという、何とも変な曲。

3. Portia
 ちょっぴり切なく感傷的な音色を奏でるMilesだけど、やたらリズムのエッジが立っているため、メロウさはあまり感じられない。逆か、ほとんどリズムだけのサウンドにMilesが泣きのフレーズをぶち込んでいるのか。ドラム・マシンの音がデモ段階っぽく粗めに聴こえるけど、その辺はミスマッチ感を誘っているのか。

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4. Splatch
 ややコミカルさもある、打倒Harbie的、リズムライクなファンク・チューン。3.同様、いま聴くとドラムの音がショボいのだけど、変則リズムを際立たせるには、音色は逆にシンプルな方がいいのだろうな、と今になって思う。

5. Backyard Ritual
 この曲のみ、George Dukeのプロダクションによるもの。かなりジャズ臭さが抜けて、フュージョン寄りのバックトラックは、Milesの今後の方向性を示唆することになる。もちろん、正面切ってのフュージョンじゃないけどね。ここでの聴きどころはGeorgeではなく、Marcusのバス・クラリネット。軽いリズム・アレンジの中で地表スレスレを這うかのように重い響きは、わかっていてもちょっとドキッとする。

6. Perfect Way 
 流行りモノの中でもちょっとはマシだと思ってフィーチャーしたのかと思ってたら、なんとこの後、彼らのアルバムにゲスト参加するくらいだから、よほどGreenのプロダクションが気に入っていたのだろう。一応、何年かに一度の再評価はあるけれど、寡作ゆえ80年代と共にフェードアウトしていったScritti Polittiを、色眼鏡抜きで相応の評価をしていたのは、音楽「だけ」を視るMlesらしいエピソードではある。しかし、これをレパートリーに入れちゃうんだから、新しモノ好きでもあったんだろうな。



7. Don't Lose Your Mind
 シモンズの高速フィル・インを交えた、レゲエをベースとしたナンバー。この曲など特にそうだけど、Marcusのサウンド・メイキングの秀逸な点は緩急のつけ方。御大がソロを入れそうな「音の隙間」をきちんと作っている。スッと滑り込ませるようにフィーチャーされるMilesのソロ。でも、それも計算のうちなのだ。

8. Full Nelson
 アパルトヘイトへの批判を訴えたプロジェクト「Sun City」への参加を経て、インスパイアを受けたNelson Mandelaをテーマとしたナンバー。オープニングはギター・カッティングをメインとしたどファンクで、当時、レコーディング参加が噂されていたPrinceからのインスパイアも感じられる。12インチ・シングルとしてリリースされているくらいなので、ごく一部ではダンス・チューンとしての需要もあったと思われる。
 Milesとしては、ダンス・フロアでのリスニング・スタイルを求めていたんだろうな。





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電気を使って何が悪い? - Miles Davis『Miles in the Sky』

folder 前回取り上げたGainsbourgが、「晩年のレコーディングはほぼ若手に投げっぱなしだった」と書いたけど、ジャズの場合はそれどころじゃないくらい、もっとアバウトだった。簡単なコード進行とアドリブの順番、テーマのフレーズを決めてチョコッと音合わせすると、もうとっとと本番である。何テイクか録ってしまえばハイ終了、その場でギャラを受け取って解散である。
 場合によっては、レギュラー・バンドに匿名のゲストが参加する場合がある。お呼ばれしたはいいけど、契約の関係で大っぴらに名前が出せず、適当なニックネームにしたりなんかして。実質、リーダーシップを奮ったレコーディングにもかかわらず、これまた契約のしがらみでメイン・クレジットにすると何かと面倒なため、苦肉の策で他メンバー名義のリーダー・アルバムとしてリリースしたりなんかして。そんな経緯を経て世に出してみたところ、思いのほか好評だった挙句、遂には稀代の名盤として後世に伝わってしまったのが『Somethin' Else』。

 60年代半ばくらいまでのジャズ/ポピュラーのレコーディングといえば、大部分が一発録り、個別パートごとのレコーディングは技術的に難しかった。ほんの少しのミス・トーン/ミス・タッチですべてがオジャン、最初からやり直しになってしまうため、現場の緊張感はハンパないものだった。
 今のように安易にリテイクできる環境ではなかったため、当時のミュージシャンは「失敗しない」高い演奏レベルが求められた。当然、そんな迫真のプレイを記録するエンジニアも、下手こいたら袋叩きに合っても文句が言えず、自然と技術スキルが向上していった。マイクの立て方や位置、針飛び寸前まで上げるピーク・レベルの調整具合など、ちょっとした加減ひとつで仕上がりが変わってしまうため、こちらもシビアにならざるを得なかった。
 60年代後半から、マルチ・トラックによるレコーディングが大きな革命をもたらし、パートごとのリテイクやダビング、ベスト・テイクの切り貼りといった新技術が出てくるようになる。楽器や機材の進歩によって、ミュージシャンの表現力の幅も広がってゆくのと同様、エンジニア側も録音機材の技術革新によって、単なるオペレーターにとどまらず、アーティスティックな視点によるレコーディングを志すようになる。

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 作詞作曲を行なうコンポーザーがイニシアチブを執るロックやポップスと違って、ジャズの場合、プレイヤーが楽曲の出来を大きく左右する。楽譜で細かく指定された他のポピュラー音楽と比べて、アドリブやインタープレイなどの不確定要素がかなりの割合を占めているため、テイクごとに演奏内容が全然違ってしまう場合も多々ある。ただ違っているだけではなく、没テイクと判断されたモノでさえ、のちに発掘されて名プレイ扱いされてしまうケースが多いのも、ジャズというジャンル固有の特徴である。
 そんな未使用テイクの需要が多いのもジャズ・ファンの大きな特徴で、やたら詳細な演奏データや未発表テイクの発掘リリースなど、何かとマニアックに掘り下げるユーザーが多い。John ColtraneやCharlie Parker なんて、未だにオフィシャルでもブートでも新音源が発掘されているし。
 マニア以外からすれば、ほとんど見分けもつかないフレーズの違いを「歴史的大発見」と称して悦に入るなど、ちょっと着いていけない感覚はカルト宗教的でさえある。
 書いてて気づいたけど、これって近年の鉄道マニアとロジックが似ているのかな。

 で、同じく発掘音源やブートのリリースが未だ尽きないのがMiles。キャリアの長さも手伝って、彼もまた大量のテープ素材を残している。前述2名の音源が、主にライブやメディア出演をソースとしているのに対し、マルチ・レコーディング時代にも精力的に活動していたMilesの場合、未発表スタジオ・セッションの音源も多数残されている。
 どうせ編集で何とかなるんだから、とにかくテープを回して片っ端から録音し、後はプロデューサーTheo Macero に丸投げ、というパターンがめちゃめちゃ多い。逆に言えば彼の場合、頭からケツまで通して演奏された楽曲が、そのまま商品化されることは極めて少ない。エフェクトやらカットアップやら、何かしらスタジオ・ブースでの加工が施されているのが、60年代以降のMiles Musicの特徴である。

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 ただこういった特徴も、「Miles Davis」という多面体を構成するひとつの側面に過ぎない。違う見地で言えば、レコードに記録されたテイクとはあくまでかりそめのものであり、いわば発展途上における中間報告に過ぎない。商品化テイクをベースにライブを重ねることによって完成に近づいてゆく、というのもまた、Milesに限らずジャズという音楽の真理のひとつ。
 ライブにおける偶然性やハプニングが、ジャズの先鋭性を後押ししていたことは歴史が証明しているけど、50年代ハード・バップによって一応のフォーマットが完成してからは、そのラジカリズムに翳りが生じ始める。
 安定した4ビートと順次持ち回りのアドリブ・プレイは、次第にステレオタイプとしてルーティン化してゆく。何となく先読みできる展開を内包した様式美は、マス・イメージとしてのジャズを伝えるには有効ではあったけれど、未知なる刺激を求めるすれっからしのユーザーにとっては、満足できるものではなかった。目ざとくヒップな若者がロックへ流れてしまうのは、自然の摂理である。

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 そんな自家中毒にはまり込んだジャズに見切りをつけ、「俺は次に行っちまうぞ」と言い放ったのが、この『Miles in the Sky』。特に声高く宣言したわけじゃないけど、旧態依然としたジャズにしがみついているプレイヤーやファンを置き去りにした、ターニング・ポイントとなった作品である。
 モードやシーツ・オブ・サウンド以降、方向性で足踏みしていたモダン・ジャズ、60年代に入ってからは、ロックやポップスにポピュラー・ミュージックの王座を追われて久しかった。黒人音楽というカテゴリーに限定しても、モータウンに代表されるライトなポップ・ソウル、クリエイティヴ面においてもJBやSlyらによるファンク勢への対抗策を打ち出せずにいた。
 それでも、クリエイティビティに前向きな若手アーティストによる、ソウル・ジャズやフリー・ジャズなどの新たな潮流が芽生えてもいたのだけど、その流れは極めて限定的なものだった。その嵐の勢いは、「ジャズ」というちっぽけな器の中で収まってしまうものでしかなかった。シーン全体を巻き込む、大きな流れには育たなかった。
 そんな小手先の変化がまた、Milesの不遜さに拍車をかけた。申し訳程度にソウルのリズムを取り入れたって急ごしらえでは底が浅く、いかにも借り物的なまがい物感が拭えなかった。
 過去のジャズを壊すプレイ?とっくの昔にくたびれたジャンルを壊すって、一体どうやって?ちょっと押せば崩れ落ちるようなものだよ、ちっとも前向きじゃないじゃん。
 もっと強力に、シーン全体を揺らがすほどのインパクトがないとダメなんだって。

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 60年代Milesサウンドのパーマネント・メンバーだったのが、Wayne Shorter (ts) 、Herbie Hancock (p) 、Ron Carter (b) 、Tonny Williams (d) らによる、通称「黄金のクインテット」。当時はほとんど無名だった彼らが中心となって、ていうか帝王のスパルタ・トレーニングについて来れた、選ばれし精鋭である。
 当初は従来のモダン・ジャズの枠内で、アンサンブルの完成度を高めていったMilesバンド。時代を経るにつれて、前述のポピュラー・ミュージック環境の変化に刺激され、遂にはアコースティックからエレクトリック楽器へのコンバートを指向するようになる。まメンバーは全員いい顔をしなかったため、最終的にはMilesの力技が勝つのだけれど。
 ただ最初からMiles自身、エレクトリック化への移行に関して明確なビジョンがあったわけではない。変化は段階を経て緩やかに、そして機を見て唐突に実行された。
 「電気を使って何が悪い?俺が演奏すりゃ、ぜんぶMiles Musicだ」。

 電化Miles第一のピークとされている『Bitches Brew』において使用機材のコンバートが完了し、それ以降のサウンドは、リズムの解体とスピリチュアリズムとが同時進行していくことになる。最終到達点である『アガ=パン』においては、不可知論が支配するカオスな状況が自己崩壊を引き起こすのだけど、それに比べてここでのプレイは、「楽器変えてみました」程度の素朴な実験にとどまっている。
 アコースティックに片足を突っ込んだまま、試行錯誤の跡が克明に記録されているのでまだ帝王としてのスタンスを確立していなかったMilesの葛藤が窺える。まぁ本人に聴いても、悩んでるだなんて、絶対口にしないだろうけどさ。
 「俺の最高傑作?それは次回作さ」。
 この言葉に込められているように、完成された作品なんて、ひとつもない。
 彼にとって、過去のアルバムはすべて、そんな過渡期の記録である。

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1. Stuff
 ほんの少しのフィル・イン以外は踏み外すこともない、単調な8ビートを刻むTony。ただ当然だけど、これまでより手数が多くなった分、曲全体のスピード感は旧来ジャズにはなかったもの。6分近くなってから繰り出されるMilesのソロは、ジャズ・マナーに沿った力強いブロウ。Ronのベースは…、アップライトから持ち替えて間もない分、まだ慣れてないんだろうな。音も小さいし、あまり目立ってない。
 力強いMilesのプレイは時空を超えてエモーショナルなプレイ。これ以降はここまでオーソドックスな力強さは見せなくなってしまう。続くWayneのソロは一聴するとColtraneの影響下から抜け出てなさそうだけど、後半に行くにつれてリズムが変調、そこにうまく合わせるテクニックの妙が楽しめる。
 Herbieのソロは正直面白くないのだけど、サイドに回ってる時のアクセント・フレーズにスケール感の大きさがにじみ出ている。やっぱりジャズだけに収まる人じゃないんだよな。
 エレクトリックといってもまだ手探りの状態だったため、従来ジャズと比べてそこまでの差別化ができているとは言い難い。後半のTonyのハイハット・プレイなんて、電化とはまったく関係ないし。むしろ、その後のリズム解体に向けてのプロローグとして受け止めた方がわかりやすい。



2. Paraphernalia
 『Miles in the Sky』のレコーディングは、主に1968年5月15~17日に行なわれたセッションを素材としているのだけれど、この曲のみ同年1月の録音となっている。
 OKテイクではGeorge Benson (g)が参加しているのだけれど、ほんとはJoe Beckを起用したかったらしい。実際、スタジオにも姿を見せたとか見せなかったとか、証言はいろいろあるけれど、なぜかしらこの時はBensonをフィーチャーしたかった理由でもあったのか。
 作曲したのがWayneのため、必然的に彼のパートが多い。俺的にはソロイストとしてのWayneはあまりピンと来ないので、引き付けられるのはどうしても他のプレイヤーになってしまう。とは言ってもBensonの影が薄すぎて、正直存在意義がちょっとわかりかねる。特別大きくフィーチャーされてるわけでもなし、目立ったフレーズを弾いてるわけでもない。一体、彼に何を求めていたのか、それともこういった起用法が意図だったのか。
 どちらにせよこれ以降、彼はMilesセッションにはお呼びがかからなかったのだから、深入りする前じゃなくて良かったと思われる。

3. Black Comedy
 なので、変に新機軸を求めるのではなく、従来のフィールドできっちりまとめたこの曲を聴いてしまうと、なんか安心してしまう。1.と違って決して進歩的ではないけれど、4ビート・ジャズの規定フォーマットの中で存分に発揮されるクリエイティヴィティは、安定したクオリティである。
 ここまで探り探りなフレージングだったWayneも、生き生きとしたプレイを見せている。不慣れなエレピからアコースティックにチェンジしたHerbieも、オーソドックスにピアノの限界を引き出すようなプレイを見せている。
 実験的な試みを敢行する反面、従来ジャズの深化という点において、つい熱くなってしまう佳曲。

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4. Country Son
 デキシー・ジャズみたいな音色はトランペットではなく、コルネットによるもの。激しい4ビート~静寂なワルツ~ロッケンな8ビートとリズムが目ぐるましく変化する、ある意味Tonyが主導権を握ったナンバー。
 こういった曲を聴いてると、やはりジャズとはリズムがすべてを支配するのだな、と改めて思い知らされる。どれだけ流麗かつキャッチーなフレーズをつま弾こうとも、繊細かつ大胆なハイハット・ワーク、強烈なバスドラの響きの前では無力だ。自在のリズム感覚を操るTonyが、長らくMilesの参謀として鎮座していたのも頷ける。
 ここではまだ手探りではあったけれど、自身の音楽を先に進めるためには、未知のリズム・パターンが必要であることを、本能的に見抜いていたのだろう。


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二番煎じと片づけるには、もったいない。 - Herbie Hancock 『Sound System』

folder 前回のMilesに続き、1980年代前半のジャズ・シーンについて。大きな流れとしては、70年代フュージョンの流れを汲んだ、いわゆるコンテンポラリー・ジャズ。もう一つは温故知新的な新伝承派を中心としたアコースティック回帰の流れ。他にも傍流は数々あるけれど、すごくザックリ分類すると「電化と非電化」。乱暴だよな、自分で言っといて。
 で、当時のHerbieが何をしていたのかというと、電化といえば電化だけれど、ジャズのメインストリームから大きく外れた『Future Shock』バブルを謳歌していた。以前のレビューでも紹介した、「お茶の間ヒップホップ」の先駆けとして、ジャズの人脈、しがらみとはまったく関係のないところに軸足を置いていた。

 30年前の北海道の中途半端な田舎の中学生にとって、ラジオでもほぼかかることのない「ヒップホップ」という音楽は、未知なる存在だった。実際の音楽よりむしろ、テレビの海外ニュースからのピックアップ、時事風俗的なカルチャー面の情報の方が先立っていた。
 ニューヨークから発生した黒人カルチャーとして、「複数のターンテーブルを使って、レコードの音をつなげたり直接擦ったりしているらしい」「デカいラジカセを肩に抱えてアディダスのジャージで踊ったりしてるらしい」「メロディはほとんどなく、語りや叫びなど、歌とはいえない」など、興味本位の情報ばかり発信されていたけど、肝心の音はほとんど紹介されなかった。実際の「音」よりも「行為」「ファッション」の方ばかりが喧伝されたため、日本のヒップホップ・カルチャーは諸外国に比べて大きく遅れを取ることになる。

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 現代と違って、外国人と触れ合う機会がほとんどなかった30年前の日本において、ガタイが良く強面の黒人たちが、語気を荒げて早口の英語でシャウトする音楽を受け入れる土壌は、まだ整っていなかった。オールドスクール期のヒップホップは、まだニューヨークのストリート・カルチャーの域を出ておらず、ブレイクダンスに端を発する目新しモノ好きが飛びつくことはあったけれど、マスへ広く波及するほどのまとまった力はなかった。ムーヴメントとして結集するほど横のつながりも少ない、ニッチなジャンルだったのだ。

 で、そんな中。保守的なジャズ界の中での革新派、すでに70年代後期からファンク~ディスコ~R&B寄りの作品を続けてリリースしていたHerbieが、そのヒップホップを大々的に導入したアルバムを制作したことで、一気にお茶の間レベルにまで浸透することになる。ネームバリュー的に、彼クラスの大御所が取り上げることによって、レコード会社・メディア、特にMTVも大々的にピックアップするようになる。
 これが普通の大御所だったら、「ご乱心」だの「若手に媚びた、すり寄った」だの、ボロクソにこき下ろされるのだろうけど、多くのファンは彼の新展開を歓迎した。まぁ保守的なジャズ村界隈では、多少そういった意見もあったようだけど、それまでの彼の足跡をたどっていくと、「まぁHerbieならそれもアリか」と納得してしまう。そういった大御所なのだ、Herbieとは。

 もともとこの人、音楽フォーマットとしてのジャズへの執着は相当薄い。いや違うな、既成スタイルとしてのジャズに固執していない、というべきか。あらゆる他ジャンルの音楽を貪欲に取り込んで、ジャズの可能性を広げてゆくことに生きがいを感じている人である。キャリアのスタートこそDonald Byrdの後押しによるブルーノート本流を歩んでいたけど、Milesスクールに加入したあたりから他ジャンルとのハイブリットを志向するようになる。ていうか、通常のハード・バップ・スタイルだけじゃ帝王が満足しないんだもの。必死になるわな、そりゃ。
 で、ファンクのエッセンスを導入、ほぼファンクだらけの『Head Hunters』を経てディスコへ走り、メインストリーム・ジャズでは目立った実績のないQuincy Jonesに敵意を剥き出しにしたようなR&Bアルバムを制作したり。前回レビューした『Lite Me Up』なんて、ほぼQuincyのプロダクションそのまんまだしね。

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 ただMilesと彼との大きな違いは、どの活動時期においてもファンク一色/ジャズ一色じゃなく、必ずサブ/メインのファクターを用意していること。ヘッドハンターズ期にも必ずアコースティック・セットはプレイしていたし、ディスコ~R&B期にも並行してV.S.O.P.の活動も行なっていた。ジャズとしての軸足は確保した上で、他ジャンルへ首を突っ込むのが、彼の行動指針である。その辺は師匠Milesの70年代ジャズ・ファンク期を傍目で見ての反面教師なのか、それとも単なる営業政策上のことなのか。多分、どっちもだろうな。

 「既成のジャズに捉われたくない」「ジャズをぶち壊す」と称し、他ジャンルの要素を取り入れるアーティストは、何もHerbieに限った話ではない。またジャズだけのものでもない。どの時代・どのジャンルにおいても、既存フォーマットの中だけでは十分な表現ができず、多方面からのリズム/コンセプトを借用して咀嚼するアーティストは多い。
 とはいえ、あらゆる試行錯誤を経て仕上げてはみたものの、「今までより変わったコード進行かな?」、または「リズムがボサノヴァっぽいね~」など、ちょっとわかりづらいマイナーチェンジ程度で「新境地」と謳ってしまうアーティストの多いこと。演じる人間は変わらないのだから、もっと根本的なところ、スタッフを総取っかえしてしまう、または自らが身ひとつで別の環境へ飛び込むくらいの覚悟が必要なのだ。

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 なので、『Light Me Up』においてQuincyの作曲ブレーンだったRod Tempertonを抱き込んで、ほぼそのまんまのアルバムを作ってしまったのは、ジャズのコンテンポラリー化としては正しい。そのジャンルを極めるには、旬のスペシャリストと仕事をするのが手っ取り早いのだ。まぁあまりにもQuincyのコンセプトにクリソツなのは、それってちょっとどうなのよ、と思ってしまうけど。
 この一連のヒップホップ3部作でがっちりタッグを組んでいるのが、ニューヨークのアングラ・ライブ・シーンにおいて、ミクスチャー・バンドのハシリであるMaterialを率いてきたBill Laswell。今も相変わらず世界中のオルタナ・シーンで名前を聞くことが多く、それでいながらMilesやSantanaなどのアーカイヴ・リミックスを手掛けたりなど、何かと幅広い活動を続けている人である。
 彼にとってもこのHerbieとのコラボが出世作となっており、キャリア的にもメジャーへの分岐点となった作品となっている。何かと多才な人なので、多分Herbieと組まなくてもそのうちメジャーには出てきていただろうけど、ここまでオーバーグラウンドな展開ではなかったはず。例えればJohn Zorn的なポジションで終わってたんじゃないかと思われる。

 Milesとの相違点として挙げられるのが、カリスマ性の有無。まったくエゴがないわけじゃないけど、Milesほどの「俺が俺が」感がこの人からはあまり感じられない。いや、イイ意味でだよ。
 アドリブやインプロのフレーズにしろ、Herbieならではの展開や節回しはあるし、記名性も強いのだけれど、自分がフロントで出張るようなゴリ押し感は少ない。アンサンブルやサウンド・コンセプトを重視するする人であって、クオリティの追及のためには、一歩も二歩も身を引いてしまう。V.S.O.P.プロジェクトを聴けばわかるように、白熱のソロ・プレイやインプロビゼーションなどはお手の物だけど、それを全編に渡って演ることには、あまり興味がない。その辺はMilesと似てるよな。
 セッションにおいて、絶対君主的な立場で現場を仕切っていた復活前のMilesに対し、Herbieの場合、下手するとサウンド・メイキングはほぼ丸投げにしちゃってる作品も多い。前述のR&B期も、ただキーボードを弾いてるだけのトラックもあり、誰のアルバムだかわからないモノもあるし。あ、それってQuincy的なメソッドなのか。

Herbie_Hancock-Sound_System_(1999)-Trasera

 わかりやすいほど、もう開き直ったんじゃないかと思ってしまうくらい、堂々とした二番煎じのアルバムである。そりゃ前作と参加メンバーはほぼ一緒、ヒップホップ・ベースのジャズ・ファンクという路線もまったく同じ。なので、『Future Shock 2』、またはアウトテイク集と位置付けても違和感はない。3枚目?さすがに出がらしだよね、あそこまで行っちゃ。
 チャート・アクション的には、前回のビルボード43位からちょっと落ちて71位、プラチナ獲得まで行ったセールスも、今回は無冠となっている。そうは言っても彼にとって2作目のグラミー受賞作となっており、なぜか日本では、前作と変わらずオリコン最高51位をキープしている。まぁ、『Future Shock』の勢いで売れてしまった、という面はあるのだけど。
 あまりにあからさまな2匹目のドジョウなので、正直、不当と言っていいくらい影が薄い。薄いので存在すら忘れられており、今をもって真っ当な評価を受けられずにいる、そんな可哀そうなアルバムである。
 2作目のプレッシャーよりはむしろ、ヒットによる恩恵の方が多いアルバムである。レコーディングにかけられる予算も増え、タイトなスケジュールではあったけど、Laswellのスタジオ・ワークは丁寧に作り込まれている。バンド自体もコミュニケーションが取れてきて、アフリカン・リズムのアプローチなど、楽曲的には前作より面白くなっている。時代を感じさせるオーケストラ・ヒットやスクラッチなどで見えなくなりがちだけど、根幹の楽曲レベルは、前作よりこなれてきている。

 Milesを創造者=イノベーターとするのなら、Herbieの場合、時代のトレンドをいち早く取り込んで紹介するキュレーター的なスタンスと捉えればスッキリする。もし『Future Shock』がBill Laswell/Material名義でリリースされたとしても、一部の先進的な音楽メディアはフィーチャーするだろうけど、所詮は時代のあだ花として、NYアンダーグラウンドの時代風俗のワンシーンとして消費され、ここまでの盛り上がりは見せなかっただろう。
 敢えて自分のミュージシャン・エゴを抑え、ジャズ・レジェンドとしてのネームバリューを最大限に活用したこと、それによってヒップホップ・カルチャーを広く知らしめた功績は、もっと評価されてもいい。
 若手の才能にうまく乗っかった、という見方もできなくはないけど、それも大ヒットしたゆえの功罪であって、Herbie本人も正直ここまで売れるとは思ってなかっただろうし。
 特にこの『Sound System』、せっかくの二番煎じなのに、ジャケットもキモかったしね。


Sound System
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1. Hardrock
 シンセのフレーズはまんま「Rockit」。アウトテイクというか別ヴァージョンと思えば、まぁ納得。これだけ短いスパンで自己模倣したというよりは、別ミックスと捉えた方がスッキリする。その「Rockit」よりはビートが強く効いており、タイトル通りギターのディストーションも深い。なので、Herbieの存在感は薄い。エレドラが前面に出たミックスは、Herbieをダシに使ったLaswellの好き放題からくるものか。妙にジャストなリズムのスクラッチは、いま聴くと逆に違和感が強い。きっちりジャストなリズムっていうのもね。



2. Metal Beat
 ほぼリズムで構成されている、インダストリアル・サウンドが中心のナンバー。なので前半、Herbieの存在感はほんと薄い。カリンバっぽい響きのアフリカン楽器的な音色のDX7を奏でるところで、やっと「あぁいたんだね」と気づかされる。

3. Karabali
  続いてこちらもアフロ・ビートとコーラスを前面に押し出した、当時のLaswellの趣味全開のスロー・ファンク。この時期にしては珍しくメインストリーム的なスタイルでHerbieがプレイしている。そこにアフロ・テイストとWayne Shorterのソプラノ・サックスがミスマッチながら絶妙なコントラストを醸し出している。こういった発想、ジャズ内部からは出てこないものね。やっぱりリズムが立ってるからこそ、ベテラン2名のメロディが引き立っている。
 言っちゃ悪いけど、このアルバムに入ってるのが惜しいくらい、特にShorterにとってのベスト・プレイのひとつに入るくらいの出来ばえ。



4. Junku
 1984年開催ロサンゼルス・オリンピックの公式アルバムにも収録された、ヒップホップ色を薄めたライトなファンク・チューン。当時のヒップホップはアングラ・シーンの色が強かったため、このくらい希釈しないと受け入れられなかったのだ。まぁわかりやすい万人向けの「Rockit」といったところ。アコギの音を模したようなシンセ・ベースが爽やかさを演出しているのだろうけど、作り物を無理やりナチュラルに見せようとしてるのが、逆に気持ち悪い。後半の取ってつけたようなスクラッチも微妙。

5. People are Changing
 1973年リリース、ビルボードR&B最高23位まで上昇した、Timmy Thomasのカバー。ここでメイン・ヴォーカルを取るのは、前作「Future Shock」ではバッキング扱いだったBernard Fowler。一般的なロック好きにとっては、Bill Wyman脱退後のStonesのベーシストといった方がわかりやすい。もともとはヴォーカルがメインだったのだ。
 曲調としては、ファンクというよりはAOR的なロック寄り。楽曲自体の良さもあるけれど、アングラ・シーンでの活動が多かったLaswellも、こういったオーセンティックなサウンドも操れることが証明された1曲でもある。こういった積み重ねが後のMick Jaggerらとの仕事に結びつくことになる。

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6. Sound System
 ラストはタイトル・ナンバー、こちらもバックトラックはほぼ「Rockit」、シーケンス・ビートをベースとして、エフェクト的に薄くかぶさるシンセ、時々アクセント的にデカく響くオーケストラ・ヒットとの波状攻撃は、聴いてて疲れるよな。これでも当時は目新しさの方が先立っており、各界に衝撃を与えたのだ。
 注目すべきは3分半以降、当時、ジャズ本流からは逸脱してジャンルレスな活動をしていた近藤等則がトランペット・ソロを取っている。70年代Miles的にワウワウで変調された音色と痙攣するようなフレーズは、機械的なビートにも充分渡り合っている。ここでデジタル・ビートに飲み込まれないためには、Miles的なメソッドが必要だったのだろうし、また、そのデジタルを凌駕できるトランぺッターは、当時は近藤しかいなかった。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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