好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Jazz

俺がやれば、なんでもジャズ - Robert Glasper Experiment『ArtScience』

folder 先日、マイルス・デイヴィス『Amandla』のレビューを書くにあたり、その前後の流れもつかもうと、久しぶりに『Doo Bop』を聴いてみた。いわば確認作業的な聴き方だったのだけど、1回聴くとハマってしまい、2度3度リピートして聴いてしまった。いつもそうなんだよな、このアルバム。
 マイルスのアルバムの中では異質中の異質で、いわゆる名盤という扱いには程遠いのだけど、こうやって何かの折りに集中的に聴き返してしまう。案外こういう人は世に多いのか、このブログでも『Doo Bop』のレビューのアクセス数は、安定して高めである。
 トラックメイカーとしてはそんなに評判のよろしくないイージー・モ・ビーが手がけた、ジャズとヒップホップとのハイブリッド・サウンドは、ジャズ本流やラッパー系ユーザーよりはむしろ、基本ロック・ユーザーではあるけれど、雑食的に多ジャンルを好む俺のような層が最も食いついていた。そうだよロキノン信者だよ。
 わかりやすく噛み砕かれたラップ・パートやライム、スクラッチやサンプリング・ビートは、ヒップホップ・ビギナーにとっては取っつきやすいものだった。コアなヒップホップ・ユーザーからすれば、あんまり目新しさもなく、むしろダサい部類に入るらしいのだけど、素人にもわかりやすくデフォルメされたバック・トラックは、間口の広いものだった。
 ハービー・ハンコック「rockit」から数年、帝王マイルスが手を付けたことによって、やっとジャズとヒップホップとの本格的なコラボレーションが始まりそうになっていた。

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 だったのだけど、その『Doo Bop』完成前にマイルスが亡くなってしまい、わずかなリンクは途切れてしまう。結局マイルス以降、ヒップホップのエッセンスを導入しようと試みるジャズ・ミュージシャンは、なかなかあらわれなかった。
 以前レビューしたブランフォード・マルサリスのように、単発的に若手ラッパーとコラボしていたり、インディーズ・レベルで同様の試みは行なわれていたのかもしれないけど、大きく注目されたり、シーンを揺るがすほどのムーヴメントは起こらなかった。
 トライブ・コールド・クエストやジャジー・ラップなど、ヒップホップからジャズへのアプローチは、90年代に盛んに行なわれていた。US3による1993年の大ヒット「Cantaloop」は、ハービーの同名曲を大々的にフィーチャー、っていうか、ほぼそのまんまバック・トラックに流用したものだった。
 クールか、クールじゃないか。そんな価値基準で動く彼らにとって、まだ多くが手つかずで残っていたジャズのアーカイブは、宝の山だった。
 で、ジャズの方はといえば、これが90年代以降長らく、新たな動きは見られなかった。80年代初頭の新伝承派の残り香か、はたまた単なるテク自慢と最新楽器のショーケースと化したフュージョン、大まかでそんな流れだった。雰囲気BGMと割り切ったケニーGはまだ潔い方だったけど、ニューエイジ界隈に漂うスピリチュアル臭は、もはやジャズとは別モノだった。
 そんな按配だったため、90年代のジャズ・ユーザーは、停滞する現在進行形よりむしろ、過去の名盤のリイッシューやデラックス・エディション、ボックス・セットに惹かれていた。音の割れまくった未発表ライブ・テイクや、明らかに出来の悪い未発表スタジオ・テイクで水増しされ、かさばるパッケージや二度見することのないライナーノーツで飾り立てることを「付加価値」と言いくるめ、後ろ向きな熟年ジャズ・ユーザーに売りつけていた。
 また入れ物が豪華であればあるほど、ありがたがっちゃうんだよな、この頃の音楽ファンって。

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 俺個人として、90年代以降のジャズは、ほぼ聴いていないに等しい。で、2010年代に入るまでは、ほぼマイルスとコルトレーン、ハービーとビル・エヴァンスくらいしか聴いてなかった。もちろんこれだけじゃなく、単発的にいろいろ聴いてはいるのだけれど、継続的に聴くのは、ごく限られたものだった。
 それなりに目ぼしい新人なんかも出ていたかもしれないけど、所詮、内輪の盛り上がりに過ぎなかった。ジャズ・ユーザー以外の関心を引き寄せるほどのキャラクターは、網訪れないんじゃないかと思っていた矢先―。
 それが、ロバート・グラスパーとの出会いだった。
 多ジャンルのアーティストやらクリエイターやらの総力戦となった『Black Radio』は、現在進行形ジャズに関心のなかった俺でさえ、ちょっと興味が沸いた。世間的にも、やっとジャズ・サイドからヒップホップへ本格的なアプローチを行なうアーティストが現れた、ということで、救世主として持てはやされた。
 とはいえ、興味はあった俺だけど、すぐ飛びついたわけではない。ていうかグラスパー本人というより『Black Radio』、「要は有名アーティストのネーム・バリューに頼ってるだけじゃね?」という先入観が長いこと拭えなかったのだ。
 ザッと聴いてみた『Black Radio』シリーズから受ける印象は、あまり良いものではなかった。知名度が高く、キャラも強い豪華ゲスト陣の引き立て役として、雰囲気重視のフュージョン的なオケでお茶を濁している、といった具合。
 メディアがそこまで騒ぐほどの新鮮さは感じられなかった。豪華ゲストとのコラボレーションなんてのは、ハービーやエルトン・ジョンもやってたし、さして珍しいものではない。歌伴に徹してセッション感の薄いトラックは、グラスパーの必然性が感じられない。

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 マイルス音源リミックスの『Everything's Beautiful』も、エリカ・バドゥの歌とPVは良かったけど、これもほぼエリカ様がメインのトラックであって、オケ自体はオーソドックスにまとめられている。いやいいんだよ、細かな技は持ってるし、ジャンル全体、また帝王マイルスの門戸を広げたということで、、充分意義のある仕事だったことも理解できる。
 でも、やはりここにも「グラスパーじゃないと」という必然性は感じられなかった。言ってしまえば、その器用さとフットワークの軽さがゆえ、使い勝手の良い便利屋扱いされてるんじゃないかと勘ぐってしまう。
 せっかくジャズもヒップホップも等価で受け止め、どちらも無理なくプレイできる世代の代表にもかかわらず、ロートルやポップ・シンガーの箔付け程度の仕事しかやらせてもらってないんだもの。

 ただ好意的に見れば、そんなグラスパーの動向も、ある確信を持っての振る舞いだったことは察せられる。どれだけ彼が無闇に吠えたとしても、雄大なジャズの歴史の流れからすれば、ほんのさざ波程度でしかない。
 コップの中で嵐を起こしても、ちょっとやそっとでは揺るがない。メジャーのキャリアとしてはヒヨっ子に過ぎない彼が注目されるには、レイラ・ハサウェイやノラ・ジョーンズなど、外から揺らしてくれる力を利用しなければならなかったのだ。
 実績を積み上げることで信用ができ、ポジションも堅牢となる。そして、名実ともにジャズ界のオピニオン・リーダーとなった彼が満を持してリリースしたのが、この『artscience』 だった。
 やっと辿り着いたぜ。

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 ここではゲスト・ヴォーカルも外部ミュージシャンも使わず、ほぼ固定メンバー4人だけですべてのサウンドをまかなっている。ヴォーカル・パートも、ヴォコーダーを使ってグラスパー自身が担当している。そりゃうまさをどうこういうレベルではないけど、少なくとも、ハービーのヴォーカルよりはちゃんとしている。
 『Black Radio』シリーズよりもBGM感は減衰し、ほどよいジャジー感が通底音となっている。絶妙なリミックス・ワークによって、ベテランにありがちな、取ってつけたヒップホップ感とは無縁のものとして仕上げられている。クリスティーナ・アギレラのようなインパクトの強いゲストがいないため、以前のようなジャジーなR&Bは回避され、グラスパー・オリジナルのDIYジャズが展開されている。
 ドル箱となった『Black Radio』シリーズは、いわばクリエイターとしての成功に過ぎなかった。勘違いして第3・第4と続けていたら、しまいに飽きられて、そこまでのキャリアで終わっていたかもしれない。
 原点はミュージシャンであり、肩書き的にはジャズの人であるけれど、それも彼を形成する要素のひとつに過ぎない。最終的には「ロバート・グラスパー」そのものがジャンルであることを確立するのが、彼の目標だと思うのだ、外部から見れば。
 そういえば、マイルスも同じこと言ってたよな。やっぱ似た者同士か。


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1. This Is Not Fear
 50年代ハード・バップを彷彿させる、いわゆるジャズ・マナーに則ったオープニング。あまり注目されることはなかったけど、リズムにきっちり角が立っており、単なるグラスパーの一枚岩バンドではないことが証明されている。考えてみれば当たり前か。
 このまま続くかと思ってたら、来日公演にもくっついてきて、ほぼ準メンバー扱いのDJジャヒ・サンダンスが後半から参戦、きっちりNu-Jazz感を添えている。俺的には前半だけで充分なんだけど、そんな予定調和をやりたいわけじゃないんだろうな。

2. Thinkin Bout You
 エクスペリメンタルなオケをバックに歌われる、ストレートなラブ・ソング。サンダーキャットもそうだけど、こういった浮遊感を演出した新しい切り口のAORがこの時期、大量に出現していた。ジャズの人がプレイヤビリティを引っ込めて、敢えてメロディ感を追及すると、大抵こんな感じになるといった見本のようなもの。俺的には『Black Radio』シリーズよりはオケが立っているので好きだけど。

3. Day To Day
 さらに親しみやすいメロディ、そして彼らの誰もが通過してきたディスコ/ファンク風味を加えると、こんなにポップなナンバーになる。普段はサックス・プレイヤーのケーシー・ベンジャミンがヴォーカルを取っており、グラスパーはここではフェンダー・ローズをプレイ。
 あくまで歌モノなので、そこまで前面に出ているわけではないけど、フレーズの選び方にジャズの源流が見て取れる。上っ面のフュージョンだけでは決して出せない、基礎体力の高さよ。



4. No One Like You
 再びベンジャミンのナンバー。今度はもうちょっとクラブ寄り、序盤は音響感をフィーチャーしたR&Bなのだけど、間奏部は熱くブロウしまくるサックス・プレイ、続いてカクテル・ジャズ臭の強いグラスパーのピアノ・ソロ。これだけだったらユルいトラックなのだけど、マーク・コレンバーグ(ds)が放つ硬めのビートが、サウンド全体を引き締めている。

5. You And Me
 メンバー4人の共作とクレジットされている、メロウなバラード。『Black Radio』テイスト濃いナンバーなので、もっとうまいゲスト・ヴォーカルでも良かったんじゃね?という声も聞こえてきそうだけど、これを4人で創り上げたことに、大きな意味があるのだ。

6. Tell Me A Bedtime Story
 ハービー・ハンコックの1969年リリース『Fat Albert Rotunda』収録曲のカバー。お子様向けのTVアニメ番組の体で制作されたにもかかわらず、まったく子供に聴かせる気のないアプローチのオリジナルは、その後のレア・グルーヴ~クラブ・ジャズにも大きく影響を与えている。
 そんなハービーのアクが強すぎるのか、それともリスペクトが強すぎるのか、メロディをヴォーカルに置き換えただけで、基本はそんなにいじっていない。まぁいいんだけど、もうちょっと暴れてもいいんじゃないの?と余計なお世話も焼きたくなってしまう。アルバム・トータルを考えてのバランス感覚もいいんだけどね。

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7. Find You
 エレクトロ風味の強いジャズ、と言いたいところだけど、転換しまくる構成の変幻自在振りは、むしろプログレ。今のロバート・フリップが若手コンポーザーをたらしこんで別ユニットを組んだら、こんなサウンドになるんじゃないか、と一瞬思ったけど、今さらやるわけないか、あの親父。

8. In My Mind
 メンバー同士のトークから始まる、スタジオ・セッション風のNu-Jazzナンバー。多分、このレベルのプレイならいくらでもできるだろうし、充分高レベルなのだけど、アルバム通してコレだと、きっとつまらない。わざわざグラスパーがやる音楽じゃないのだ。
 なので、ブレイク後にスタートする、ループ仕様(生演奏?)の未完成テイクの方にこそ、彼らの本気度が窺える。

9. Hurry Slowly
 ビル・ウィザースっぽさを全開にした、ベンジャミン・ヴォーカルによるジャジー・バラード。日本ではあまり知られてないけど、グラスパー世代にとってビル・ウィザースというのは相当リスペクトされているらしく、調べてみるとホセ・ジェイムスという同世代シンガーによる、トリビュート・アルバムが去年、リリースされている。
 極端に甘くなく、ジャズの影響濃いコード進行が、多分にシンパシーを寄せてるんじゃないかと思われ。

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10. Written In Stone
 ポリスの「Roxane」を歌いたくなってしまう、シンプルなギター・リフ主導のナンバー。なので、このアルバムの中では異色のロック・チューン。まぁジャズもロックもヒップホップも同じ目線で聴いてきた世代なので、こういうのがあっても不思議ではない。こういったバックボーンも含めてのジャズというのが、今後のシーンの流れ。

11. Let's Fall In Love
 グラスパーのヴォコーダーを抜けば、オケは『Black Radio』風。他のメンバーと比べて自分の声に照れがあるのか、オケと比べて引っ込めたミックス具合になっている。自分の声はあくまで楽器の一部、という認識なんだろうな。正直、この中で一番うまいのはベンジャミンだし。
 エクスペリメンタルなフワッとしたサウンドは、正直俺の好みではないのだけど、「これまでとは違うジャズ」を通り越して、「これが俺のジャズ」という気概は見えてくる。

12. Human
 「俺がやれば、なんでもジャズ」という心持ちであれば、これもジャズだけど、「まさかそう来るとは」というヒューマン・リーグ1986年の大ヒット・ポップ・チューン。思えばマイルスも現役時、「Human Nature」や「Time After Time」もやってたわけだし、そのメソッドは間違ってはいないのだけど、でもそれならやっぱり四半世紀も前の曲じゃなくて、せめて21世紀に入ってからの曲でやって欲しかったな。
 もっとはっきり言っちゃえば、こういった雰囲気AORにしちゃえば誰でもこんな風にできちゃうわけで、グラスパーならではの必然性はない。彼の適性はもっとアクティブな、暴力的なカットアップやリミックスじゃないのかな、と思うのだけど。
 他のアルバムもちゃんと聴かないとな。それはまた次回。





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「次回をお楽しみに」のはずだったのに。 - Miles Davis 『Amandla』

folder 1989年リリース、帝王マイルス最後のオリジナル・アルバム。どの辺を最後とするか、人それぞれ解釈はあるだろうけど、完パケまで本人が関わったスタジオ音源という意味において、俺的にはこれが最後である。
 この後にリリースされた『Doo -Bop』は、もともと完パケ・テイクは6曲のみ、ワーナーに制作を託されたイージー・モービーが、残されたアウトテイクや断片フレーズをかき集め、ヒップホップ解釈でつなぎ合わせた、いわば編集モノ。なので、マイルスの意図がきちんと反映されていたかといえば、それもちょっと微妙。微妙だけど、結果的にはクールに仕上がってるので、俺的には結果オーライ。
 サウンド・プロデュースは、当時マイルスの右手というか、ほぼ両腕的存在と思われていたマーカス・ミラー。今回の新機軸は、ゴーゴーのリズムをフィーチャーした、とのことだけど、聴いてみれば通常営業のマイルス風ジャズ・ファンク、そこまでぶっ飛んだ仕上がりにはなってない。
 いわゆるキャリア末期とされているワーナー時代だけど、アーティスト:マイルス・デイヴィスはまだ枯れておらず、この『Amandla』もあくまで通過点だったはず。体力的な不安もあって、死期が近いことも察していただろうけど、「最高傑作は次回作だ」という名言を残しているように、いつもの現在進行形である。
 なので、いわゆるフェアウェル的な華やかさや悲壮感とは無縁、生演奏とMIDI機材との絶妙なコラボレーションが混在している。

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 デンマークでのオーケストラ・セッションで生まれた問題作『Aura』のリリースをコロンビアが拒否したことが発端となり、怒髪天マイルスは長年のパートナーシップを解消、ワーナーへ移籍する。彼クラスなら、どのレコード会社からも引く手あまただったはずだし、実際、水面下での交渉もあちこちで進めていたんじゃないかと思われるけど、なんでよりにもよってワーナーだったのか。
 ロック寄りのフュージョン/クロスオーバーのイメージが強く、80年代のワーナーはジャズ系はそんなに力を入れてなかったはず。ただ、ロック系のドル箱アーティストを多数抱えてウハウハだったワーナー、帝王を迎えるにあたり、契約金には糸目をつけなかった。マイルスもまた、当時はロック/ポップス系とのコラボを増やしてゆく動きもあったため、ブルーノートやアトランティックのようなジャズ本流レーベルとの契約は、最初から考えてなかったと思われる。
 コロンビアでは、永く帝王としてふんぞり返っていたマイルスだったけど、現役復帰以降は、その威光も薄れてゆく。もちろんジャズ・シーンをけん引してきたオピニオン・リーダーであり、功労者であることに変わりはなかったけど、時代はライト・フュージョンと新伝承派と二分化し、マイルスはそのどちらにも属さなかった。
 そのどちらも、もともとはマイルスが道筋をつけたものだったけど、80年代のジャズは彼のリードを求めていなかった。前線復帰したとはいえ、マイルスは古い水夫でしかなかった。往年のレジェンドに、誰も新機軸など求めやしない。コロンビアとしては、「So What」と「Round Midnight」の無限ループで充分だったはずなのだ。
 神々しいレジェンド枠に押し込めて、古参ジャズ・ファンから効率よく集金したいコロンビアの思惑と、進取の気性猛々しいマイルスとの食い違いは、次第に広がってゆく。『You're Under Arrest』でナレーションでゲスト参加したスティングのギャラ支払いでもめて、結局マイルスが自腹を切った、というエピソードは、関係の悪化を象徴している。

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 そんな按配で、何かと騒々しかった80年代のマイルス、日銭を得るための頻繁なライブ活動や、ロック/ポップス系アーティストとのコラボやゲスト出演に費やされたと思われがちだけど、膨大な量の未発表レコーディング素材が残されていたことが明らかになっている。近日リリースされる『Rubberband』を始めとして、ワーナー時代の未発表セッションは、きちんとした形ではまとめられていない。
 ブートで明らかになっている音源もあるにはあるけど、それほど世に出ているわけではない。ワーナー時代の再評価がまだ進んでいなかったせいもあって、今後はいろいろ発掘されるのかね。最近、急に話題になったユニバーサル・スタジオの火災でオシャカになってなければよいのだけれど。

 俺にとってのマイルスとは電化以降なので、いわゆるモダン・ジャズ時代のアルバムは、あまりちゃんと聴いたことがない。以前レビューした『Round About Midnight』は、メロウでありながらクールな佇まいが感じられて好きなのだけど、他のアルバムはあんまり身を入れて聴いていない。
 いや一応、ジャズの歴史・教養として、ひと通りの代表作は聴いてのよ。プラグド・ニッケルもマラソン・セッションも『クールの誕生』も。ジャズを聴き始めて間もない頃、右も左もわからないから、取り敢えずディスク・ガイドに載ってる歴史的名盤選んどきゃ間違いないべ、と買った『Kind of Blue』。結局2、3回聴いただけで、どっか行っちゃったし。
 俺的には、ワーナー時代のアルバムも結構好きなのだけど、コロンビアを離れてからタガがはずれ、コンテンポラリーに寄りすぎたせいもあって、世間的には評判はあまりよろしくない。最晩年というバイアスがなければ、まともに評価されることも少ない。
 ただ、90年代のレア・グルーヴ〜クラブ・ムーヴメントの盛り上がりによって、リアルタイムではあまり顧みられなかった電化時代が再評価されたように、そろそろこのワーナー時代にスポットライトが当てられるんじゃないか、と俺は勝手に思っている。コロンビア時代はもうかなり深いところまで掘り尽くされちゃったので、まともな未発表テイクが残っているのは、もうこの時代くらいしか考えられない。

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 で、『Amandla』。ここ数作、ほぼサウンド・メイキングには参加せず、マーカスが作ったカラオケにチャチャっとフレーズを吹き込んだモノが多かったのだけど、ここではライブ・バンドと行なったセッション音源がベースとなっている。ちょっとしたダビングやエフェクト処理でマーカスが手を加えている部分もあるけど、多くはライブで練り上げたアンサンブルを、スタジオでさらに磨きをかける、といったプロセスで仕上げられている。
 これまでは「またマーカスかよ」と、ちょっと辟易していたのだけど、この時期に行なわれた未発表セッションの存在を知ってしまうと、また見方が違ってくる。オフィシャル・リリースの流れだけ見れば、最晩年までマイルスとマーカスとの蜜月は続いていたと思われがちである。
 ただ丹念に歴史を辿ってゆけば、マーカスとの作業もマイルスにとってはオン・オブ・ゼムに過ぎなかったことが、明らかになっている。新たな刺激を求めて、時に自ら触媒となって、様々な異文化交流・異種格闘技が行なわれている。
 プリンスやチャカ・カーンとのセッションは有名だし、また、一度スタジオに呼ばれたけど、それっきり声がかからなかった、というミュージシャンは数知れず。最終的にマイルスが思うところのレベルに至らず、お蔵入りしてしまった音源は山ほどあるのだ。
 ただいくら没テイクとはいえ、そこはマイルス、二流のアーティストと比べれば、レベルは全然高い。彼のビジョンと違った仕上がりだったり、はたまた契約関係で表に出せなかった音源だったりの理由であって、クオリティ云々の問題ではない。
 そうなると、やっぱりユニバーサル・スタジオの火事が気になってしまう。とんでもないレベルの文化遺産逸失だぞ、あれって。

 で、当時のマイルスの思惑と一致したサウンドを作っていたのがマーカスだったのだけど、必ずしもそれに満足しているわけではなかった。なので、数々の未発表セッションや他アーティストへのゲスト参加なども、まだ見ぬネクスト・ワンを追ってのプロセスだった、と思えば納得が行く。
 復活以降のマイルスは、単独でクリエイトするのではなく、他者とのコラボレーションによる化学反応にウェイトを置いていた。自ら率先してサウンド・コーディネートするより、常に新たなアイディを得るためにアンテナを張り巡らせ、異ジャンル交流を積極的に行なっていた。
 ただそんなメソッドがすべてうまく行ったわけではない。旧知のミシェル・ルグランならともかく、多くのセッションは具体的な形に仕上げることができず、やむなくお蔵入りとなったわけで。
 そう考えれば、マイルスを納得させた上、ワーナーからの商業的見地も考慮した作品を何枚も作っているのだから、マーカスのレベルの高さ、いい意味での使い勝手の良さがダイレクトに反映されている。
 そう考えれば、テオ・マセロとのパートナーシップ解消は痛手だったよな。まぁ、お互い潮時だったんだろうけど。


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1. Catémbe
 この時期のマーカス・アレンジの典型、丁寧に構築されたシーケンス・ビートと効果的に配置されたシンセやソプラノ・サックス、その上を縦横無尽に吹きまくる御大。きちんと先読みしてシミュレートされながら、思惑とはちょっとズレたフレーズをぶち込んでくるのは、やはりスタジオ内での真剣勝負ならでは。
 とはいえ、絶対マイルスじゃないと、という必然性は感じられないサウンド・アプローチ。コンボ・スタイルのように、「打てば返ってくる」というセッションではないので、まぁ仕方ないか。

2. Cobra
 『Tutu』に続き、再度ワンショットでの登板となったジョージ・デューク:プロデュースのトラック。ケニー・ギャレット(sax)やマイケル・ランドゥ(g)が参加しているのが目を引くけど、そこまでの存在感をアピールするに至っていない。敢えて言うなら、ここでのマイルスのミュート・プレイはちょっと重厚感が増しており、ライブ感が引き出されている。やっぱ打って響かないと、底力は出ないものだな。

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3. Big Time
 ゴーゴーというにはややゆったり目だけど、マーカス尽くしだとのっぺりしたフュージョンで終わってしまうので、こういった毛色の違ったトラックがあった方が、アルバム構成的にはメリハリがつく。
 当時、やたらロック・サイドに急接近していたJean-Paul Bourelly(g)のプレイに触発されたのか、マーカスのベース・ソロもイイ感じに走ってる。まだ30前だったものね、マーカス。そりゃコンソールいじってるより楽しいわな。

4. Hannibal
 ケニー・ギャレットが吹くパートになると、途端にフュージョンになっちゃうのだけど、それ以外はマイルス渾身のプレイがあちこちに散りばめられて、聴きどころが多い。その後、ライブで定番になったくらいなので、まだ広がる可能性を秘めていたトラック。控えめながら、徐々にバンド・グルーヴの熱量を上げてゆくオマー・ハキムのドラム・プレイも必聴。

5. Jo-J
 やたらポップなアレンジで、当時は「なんか違う」感が強く、いまもそこまで思い入れの薄いトラック。「なんかこう、イケてるヤツ」って感じで御大にリクエストされてマーカスがシコシコプログラミングしてる様が目に浮かぶ。
 ただ、この後の『Doo-Bop』や未発表作『Rubberband』に象徴されるように、「いかにもジャズ/フュージョン」からの脱却を図っていたマイルスにとって、これもまたひとつの足掛かりだったのでは、と今になって思う。ここからもう少し発展してゆくはずだったんだろうな。

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6. Amandla
 タイトル・トラックは、比較的スタンダード・ジャズに近いシンプルなバラード。俺の好きな「Round Midnight」とテイストが似てるせいもあってか、聴いた回数は多い。ここではケニー・ギャレットもちゃんとジャズの顔をしている。
 ジョー・サンプル(p)が参加しているだけで、こんなにも空気感が違うものなのか。「このくらい、いつだってできるんだぜ」とダークにほくそ笑むマイルスの表情が透けて見えてくる。



7. Jill
 今まで気にしていなかったのだけど、この曲をプロデュースしたJohn Bighamって誰?と思ってググってみると、フィッシュボーンのギターの人だった。
 80年代中盤に出てきたミクスチャー・ロックの先駆けで、日本ではそこまでそこまでブレイクしなかったけど、御大はこんな新人クラスにもチェック入れてたんだな。ていうかマーカスが「こんな若手いますぜ」って口利きしたのかね。
 マーカスの場合、どうはっちゃけてもフュージョンになってしまうので、現在進行形のリズム・アプローチを取り入れるため、こうやって新世代・異ジャンルのアーティストを繰り返していたのだろう。このアルバムではこれ1曲だけだけど、まだ発表していないテイクもあるんじゃないの?

8. Mr. Pastorius
 タイトルが示す通り、1987年、不慮の死を遂げたジャコ・パストリアス(b)に捧げられた鎮魂歌。とはいえ、タイトルをつけたのはジャコに心酔していたマーカスで、デモ・テープの段階で打診したところ、マイルスはただうなずいただけだったらしい。もともとレクイエムなんてガラじゃないし、ジャコとプレイしたって聞いたことないので、ちゃんとした経緯は不明。
 それでもそれなりに才能は認めていたのか、リリシズムあふれるプレイが全篇に渡って展開されている。「ちゃんとした」ジャズをやろうと思ったのか、久しぶりにある・フォスター(d)まで駆り出されてるし。
 いややっぱり、「このくらいのことは、いつだってできる」人なのだ。
 ―でも、それだけじゃ足りなかった。そういうことだ。




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3匹目のドジョウ、もしくは3度目の正直。 - Herbie Hancock 『Perfect Machine』

folder 1984年にリリースされた『Future Shock』の功績は、既存ジャズの流れを大きく変えただけではない。それまで「知る人ぞ知る」といったヒップホップという音楽を大々的にフィーチャーしたことで、80年代黒人カルチャーの大きな飛躍に寄与した。
 ネット環境のない当時は、情報の伝播が手旗信号並みに遅かったため、日本に正確な情報が届くまでは、途方もない時間を必要とした。「デカいラジカセを担いだ屈強な黒人が、リズムに合わせて、踊り叫んでレコードをこする」。肝心の音も映像もなく、耳に入ってくるのはゲスな豆知識ばかり。これじゃ伝わらんわ。
 すでにジャズ・フュージョン界のスーパースターだったハービーが、まだニューヨークの下町のストリート・カルチャーに過ぎなかったヒップホップに、どうして目をつけたのか。まさかここまで売れちゃうとは、本人もCBSも思っていなかったはず。
 とにもかくにも、ヒップホップ・カルチャーがお茶の間レベルにまで浸透したのは、彼の功績である。

 グラミー受賞とUSプラチナ獲得の勢いを借りたハービー、早くも翌年、わかりやすいくらいの二番煎じ『Sound System』をリリースする。あまりに堂々とした二匹目のドジョウ狙いのため、したたかさを通り越して漢を感じさせる。
 曲がりなりにもメジャーのアーティストなので、「サウンド・プロダクトは同じだけど、コンセプトやアプローチは全然違うんだ」と言い張るんだろうけど、いや単なるヴァージョン・アップだし。正直、『Future Shock』とシャッフルしても、まったく違和感はない。
 それでも『Sound System』、プラチナ獲得には至らなかったけど、そこそこは売れた。さすがに『Future Shock』ほどではないけど、これまでのジャズ・フュージョンのアルバムとは、ケタ違いの売り上げだった。キャリア中、最も売れていた「Watermelon Man」でさえかすんでしまうくらい。
 ロックやポピュラーの売り上げと比べれば、ジャズの売り上げなんてたかが知れている。採算面だけで考えるのなら、ジャズなんて真っ先に切り捨てた方が効率的ではある。でも、パイは小さいけど売り上げは安定しているし、文化事業としての使命感が、単純な割り切りにストップをかける。
 極端な話、そこまで売れなくてもよい。中途半端に新譜が売れてしまうと、予測不能なバック・オーダーで在庫がかさんでしまい、事業計画にブレが生じる。それよりも、往年のジャズ名盤のリイッシュー企画の方が、売り上げ読みやすいし。

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 それまでは「ジャズ村の中でのスーパースター」だったハービーだったけど、『Future Shock』以降は、ジャズ以外のジャンルからのオファーが多くを占めるようになる。ミック・ジャガーのソロ・プロジェクトに参加したのもこの頃だ。
 とはいえ、ロック/ポップスでのセッション・ワークはあくまで余技であり、メインの仕事ではない。これで調子に乗って、ジャズから足を洗っていたら、いまのハービーはない。
 R&Bやディスコ、ファンクなど、あらゆるジャンルに手を出してはきたけど、結局のところ、ハービーが行き着くところは、原点のジャズである。ジャズ界で巧成り名を遂げた裏づけがあったからこそ、『Future Shock』はあれだけ注目されたのだ。
 CBS的には「さらにもうひと押し」との思惑で、勝手に3部作構想を練っていたのだけど、それを知ってか知らずかハービー、ここで一旦、ヒップホップ路線から撤退してしまう。次に彼が向かったのは原点回帰、本流のメインストリーム・ジャズだった。

 1986年に公開された米仏合作映画『Round Midnight』は、ジャズをテーマとした映画としては珍しく、全世界で1000万ドルという興行収入をたたき出した。ミュージシャン・シップに沿った丁寧な映像と音楽は、今もジャズ映画の金字塔として語り継がれている。
 この映画ではハービー、単なる音楽監督だけでなく、主人公デクスター・ゴードンのバンド・メンバーとして、重要な役で出演している。演技レベルはさておき、テーマの性質上、企画制作にも深く関与している。当然、片手間で行なえる仕事ではない。
 そんな状況だったため、いくら『Future Shock』続編を求められたとして、物理的にそんな時間はないし、またそういったテンションにもなれない。ヒップホップ路線の作品が片手間と決めつけるのは乱暴だけど、メインのジャズ製作と比べれば、向き合う姿勢は全然違ってくる。
 で、『Round Midnight』が一段落し、ビル・ラズウェルとのコラボが再開する。するのだけれど、彼らが手がけたのはヒップホップでもジャズでもない、言ってしまえばあさっての方向だった。
 アフリカの弦楽器コラを操るFody Musa Susoとのコラボ作『Village Life』は、静かな流行となっていたエスニック音楽とニューエイジ系とのミクスチャー、要は「ミュージック・マガジン」が絶賛しそうなサウンドだった。ディスコ期突入前のE,W & Fのインスト・ナンバーをヴァージョン・アップしたようなサウンドは、いま聴くと程よいアンビエント感が心地よいのだけど、まぁ第2・第3の「rockit」を求めていたCBSからすれば、肩透かし感もハンパない。質が高いのはわかるけど、こりゃ売れんわな。
 80年代CBSのジャズ・ラインナップは、ウィントン・マルサリスを筆頭とした若手中心の新伝承派と、復活した帝王マイルスによるエレクトロ・ジャズ=ファンク路線を両軸としていた。若手に保守的な懐古ジャズをやらせ、ロートルが革新的なボーダーレス・サウンドを新規開拓してゆくというのも変な話だけど、両極端な戦略というのは、リスクヘッジとしては悪くない。
 ハービーのポジションは当然マイルス寄りだけど、電化一辺倒だけじゃなく、並行してメインストリーム寄りのVSOPもやっていた。ひとつのジャンルで括られることを極端に嫌う人なのだ。

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 もし『Round Midnight』がなかったら、CBSの思惑に沿って、『Perfect Machine』はもっと早く製作されていたのかもしれない。「モダン・ジャズの復権」という崇高な目的の前では、目先のトップ40ヒットにもハービーの食指は動かなかった。ただどちらにせよ、ビル・ラズウェルも当時は売れっ子プロデューサーとして、ジョン・ライドンや坂本龍一、前述のミック・ジャガーに関わっていたため、スケジュール調整は相当苦労しただろうけど。
 で、ある程度まとまった時間が取れたのは、『Sound System』から4年も経ってのことだった。もうこれだけブランクが空くと、煎じるものもドジョウもいなくなってる。
 Run D.M.C.によって、より深く世間に浸透したヒップホップも、一様なオールド・スクールだけではなく、LL cool JやPublic Enemy、Beasty Boysなど、よりクセの強いパフォーマーが台頭していた。そんな秒進分歩の流れにおいて、長く前線を退いていたハービーの感性では、とても太刀打ちできなかった。
 たとえブランクが短かったとしても、粗製乱造と捉えられ、どっちにしろ市場には受け入れられなかったんじゃないか、というのが俺の私見。

 当時のCBSジャズ部門は、経営陣主導による、商業主義と芸術至上主義との振り幅が大きかったため、多くの所属アーティストが翻弄されていた。
 長くCBSの主だったマイルスも、オクラ入りしていた『Aura』のリリースを巡って、当時の副社長ジョージ・バトラーと対立する。交渉は平行線をたどり、最終的にマイルスはCBSと袂を分かち、ワーナーへ移籍する。
 ハービーもまた、そんなマイルスへの処遇を目の当たりにし、CBSに見切りをつける。次回リリースのアルバムを最後に、ジャズの名門レーベル「ヴァーブ」への移籍を決断する。
 そうと決まれば、早めに契約は満了したい。今さらCBSには恩義も義理もないハービー、早速新作に取りかかる。
 言ってしまえば契約消化のための作品なので、CBSの利になるモノは作りたくない。かといって、単純な手抜きの駄作はプライドが許さないし、ファンにも失礼だ。名を汚さない程度のクオリティは保っておきたい。
 イチから企画立ち上げは面倒だし、良い企画ならヴァーブで使いたい。どちらにせよ後ろ向きな企画なので、モチベーションも上がりようがない。
 そうなると、誰かにお膳立てしてもらうしかない。じゃあやっぱビルだよな。
 せっかく2人でやるんだったら、CBSのお望み通り、時代遅れのヒップホップでもやってみようか。どうせ売れないだろうけど、強引に「3部作完結!」とか言えるし。
 
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 始まる前までは気乗りがしなかったはずだけど、スタジオに入れば気持ちも切り替わり、いつも通りのプレイを披露している。前2作ではビル・ラズウェルのサウンド・プロダクトがかなり強かったけど、3作目ともなると自身のソロもちょっと多めになっている。
 セッションが進むにつれてミュージシャン・シップも触発されたのか、いつものフェアライトだけじゃなく、様々なヴィンテージ・エレピまであれこれ引っ張り出してきている。それに対してビル・ラズウェル、クレジットはされているけど、ほとんど何もしてねぇ。
 当時、Pファンクもラバー・バンドも自然消滅し、ビル・ラズウェル絡みの仕事が多かったブーツィー・コリンズ、協調性とは無縁の人なので、脈絡もないフレーズをブッ込んできたり、相変わらずのやりたい放題ぶりである。アンサンブル?何それ。
 そんな異物をも寛容に受け入れるハービーの懐の深さ、という見方もあるけど、いや単にどっちでもよかったんだろうな。まとめるような音楽じゃないし。
 楽面で言えば、取り立てて新機軸はないのだけど、これまで履修してきたヒップホップのエッセンスと、ジャズ以外のエッセンスも貪欲に取り込んできた末に培われたリズム・パターン、そして、スパイスのくせに粘着力の強い、ブーツィーのベタっとしたベース・ラインとがごちゃ混ぜになった怪作に仕上がっている。
 しかし、レーベルの置き土産となる、有終の美を飾るはずの作品が、これとは。マスター・テープを受け取ったCBSディレクターの微妙な表情がチラついてしまう。


Perfect Machine
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1. Perfect Machine
 テレビのドキュメンタリーやバラエティのバックで使われることが多いため、結構な確率で耳にしたことのある人が多い。ファンクというよりはテクノ・ポップ成分が強く、フュージョン寄り。なのでBGMとしての汎用性が高い。

2. Obsession
 サンプリング音源を多用したエレクトロ・ファンク。これ見よがしなスクラッチやヴォコーダーは、この時代、すでに古びた印象となっていた。もう3年早ければ、大御所のお戯れとして許されたかもしれないのに、タイミングが悪すぎた。
 ヴォーカルを取るのはオハイオ・プレイヤーズのシュガーフット。オハイオ自体がドメスティックなドロドロのファンクなので、逆にこういった無機的なサウンドとのミスマッチ感を狙ったのだろう。案外面白いんだけど。

3. Vibe Alive
 ブーツィーのリズム・アプローチが前面に出た、ボトムの効いたファンク。キャッチ―なサビは当時のソフト・ファンクにも引けを取らぬメロディとなっており、実際R&Bチャートでも25位と健闘した。ハービーの場合、こういったファンク・アプローチの場合は自身が前面に出ない方が出来がよい。



4. Beat Wise
 ビル・ラズウェル仕切りによって、ブーツィーに自由奔放にやらせたら、こんな感じになりました的なトラック。どんな状況でも対応してしまうハービーゆえ、予測不能のブーツィーのフレーズにもちゃんとカウンターを決めている。最後に、できあがったベーシック・トラックにビルがエフェクトかましたりスクラッチ入れたりすると、どうにか形になってしまう。

5. Maiden Voyage/P. Bop
 「処女航海」のリメイクというより、ヒップホップのトラック作成にサンプリング素材として使用したトラック。US3 がヒットさせた「Cantaloop Island」のように、ジャジー・ラップでのアプローチなら、もっとスマートだったのかもしれないけど、まぁビル・ラズウェルだし一筋縄ではいかない。そんなうまくまとめようだなんて、ハービーだって思っていなかっただろうし。

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6. Chemical Residue
 ラストはほぼハンコック主導、崇高ささえ漂うメロディアスなフュージョン。サンプリングも多用しているのだけど、あくまで隠し味的な使い方で、メロウさを前面に押し出したサウンド・アプローチは嫌いじゃない。でも耳障りが良すぎる分、ディスカバリーやナショナル・ジオグラフィックのBGMに収まっちゃうんだよな。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。ただでさえ時間ないのに、また新しい音楽ブログ『80年代の歌謡曲のアルバムをちゃんと聴いてみる』を始めてしまい、どうしようかと思案中。
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