#Funk

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

現時点で殿下の最終作 - Prince 『Hitnrun Phase Two』

folder 「プリンス、急逝。ペイズリーパーク スタジオの自宅で」
 プリンスが急逝した。享年57歳。

 彼の広報担当者によると、現地時間の4月21日午前、プリンス(Prince Rogers Nelson)が、ミネソタ州チャンハッセン郊外にあるペイズリーパーク スタジオの自宅で亡くなっていることを確認したという。

 また現地での報道によると、保安官事務所からの話として、同日9時半過ぎにペイズリーパーク スタジオから緊急通報を受け、エレベーターの中で意識不明の状態のプリンスを発見したという。

 プリンスはインフルエンザにかかり、4月7日の公演をキャンセル。また、4月15日にはアトランタでパフォーマンス後、プライベートジェットで移動中に体調が悪化。イリノイ州モリーンの空港に緊急着陸し、病院へ搬送されていた。
(BARKS記事より)

 俺の朝の日課のひとつが、このブログのアクセス数チェックなのだけど、いつもと変わらない午前7時、いつものペースより異常に伸びてることに驚いた。うちのような個人弱小ブログにしては、とんでもない量のPV数がカウントされている。どこかでリツイートされまくったのかなぁ、と思ってTwitterを覗いてみて、この記事がヒットしてきた。なるほど、そういうことか。
 まだ寝ぼけてたせいもあって、最初は何のことかよくわからなかった。Princeが、彼が死んだという事実が、どうにも上手く飲み込めなかった。徐々に頭が覚めてきて、「あ、Princeも死ぬんだな」という想いがあらわれた。そうだよな、彼も人間だもんな。

screen-shot-2014-10-27-at-12-01-50-pm

 俺がPrinceの存在を知ったのは、大方の日本のファン同様、『Purple Rain』からだった。最初はMichaelの対抗馬として、「やたらエロくて淫靡な香りの漂う怪しげな黒人」という印象が拭えずにいた。ファンクというにはポップだったしね。俺が彼に強く惹かれるようになったのは、むしろ次作の『Around the World in a Day』から。前作で見せたポップ・ロックの部分をほとんど捨て去って、サイケデリックな世界観とサウンド、そして強まったファンクネスは洋楽を聴きかじったばかりの田舎の高校生を夢中にさせた。
 その後の『Parade』『Sign O the Times』『Lovesexy』の一連の作品もまた、どれも違う音楽性ながらもクオリティは高かった。ヒット・チャートに一切迎合しない音楽性ながら、その完成度の高さゆえ、特別ユーザーに媚びなくとも高いセールスを維持できるそのスタンスは、80年代の音楽シーンをただ独り邁進していた、と形容しても足りないくらい。

 今年初めのDavid Bowieの訃報は声を上げて驚いてしまった俺だけど、今回は声が出なかった。驚いて声が出ない、ということがこういったことなのか、と初めて知った瞬間でもある。
 俺がBowieというアーティストを知ったのは『Let’s Dance』からなのだけど、一般的にBowieのアーティストのピークは70年代と言われている。晩年も旺盛な創作力だったらしいけど、世間に与えたインパクトという点においては、やはり『Ziggy Stardust』やベルリン3部作など、あの時代に集中している。
 当然、その時期を俺はリアルタイムで知らない。アーティストの最大のピークを後追いではなく、当時の空気感も含めて体験することは、思い入れの深さと比例する。
 なので、そういった80年代の問答無用のアーティスト・オーラを感じ取ってきた身としては、思い入れは当然深くなる。
 深い分だけ、まだ混乱している。
 多分、もう少し引きずることだろう。

image_267

 数日前に倒れてプライベート・ジェットで緊急搬送されたことは知っていた。インフルエンザと報道されたけど、そんな大ごととは思っていなかった。あぁ57歳にもなると、そろそろ体のあちこちにガタが来るんだなぁ。俺もそろそろ他人事とは言ってられないよなぁ、と思う程度に他人事だった。
 若い頃のムチャが後になって出てくるのは、誰にだって当てはまることだ。特にPrinceの場合、JBのステージングをモチーフとして完璧に構築されたソウル・ショウを世界中で行ない、アフターショウで目星をつけたグルーピーらをホテルに引っ張りこんで夜のアフター・ステージを延々と繰り返していた。それ以外の時間はほぼすべて、24時間体制でレコーディングを続けていた男だ。
 彼が長期バカンスを取ったとか、リゾート地で乱痴気騒ぎを繰り広げたとか、そういったロック・スター特有のエピソードは聞いたことがない。女とチュッパチャップス以外には目もくれぬ、激動の80年代を疾走していたのだ。昔のような無理が効かなくなるのもしょうがないことである。
 そんな風に思っていた矢先の出来事だった。

 昔から大のマスコミ嫌いだったため、インタビューに応じることは少なかったし、テレビ出演だってそんなに多くない。もともと饒舌な人柄ではない。
 どちらかと言えば引っ込み思案でシャイ、人見知りの激しい性質である。人種や身長など、あらゆるコンプレックスの裏返しとして、ただひとつ他人より秀でていた音楽へ向かわざるを得なかったのが、Prince Rogers Nelsonというひとりの男の生きざまである。
 その対極として、大手ワーナーとの契約にも臆することなく、デビュー当時から異例の自己プロデュース権を手に入れるほどの謀略家、周辺スタッフには絶対服従を誓わせる傍若無人な面もまた、彼の持つ側面のひとつである。
 どちらもほんとのPrinceだ。
 そういった二極性、陰陽を自らコントロールすることによって、Prince Rogers Nelsonという一個人が「Prince」というアーティストをプロデュースしてきた。
 ワーナーとの最初の決別まで、その絶妙なバランス・コントロールは続く。

PrinceBirmingham

 で、ワーナーと対立し、メディアと対立し、遂には自分自身とも対立して「Prince」の名前も捨ててしまった頃。自らをSlave(奴隷)と自嘲してやさぐれていた頃である。ピーク・ハイだった80年代には相手にならなかったヒップホップ・ムーヴメントが先鋭性と大衆性とを併せ持ち、さらにテクノ/ハウス・ビートの席巻によって、最先端だったPrinceに陰りが見え始めた頃である。
 独立するとかしないとか、純粋な作品クオリティとは離れたところでの話題が多かった彼だったけど、その風向きが変わったのが新しい家族の誕生。バックダンサーMayteとの結婚、そして新しい生命の誕生だった。
 ワーナーとも解放されて自由な音楽活動が可能となった。それがよほど嬉しかったのか、いきなり3枚組のオリジナル・アルバム『Emancipation』をリリースしてしまうくらいだった。ビジネスの問題もクリアになり、プライベートも充実、さて、これからという時に。
 先天性の病により、息子の命は長くもたなかった。当然、Mayteとの仲もこじれ、2000年には離婚という結末となった。その後再婚したらしいけど、やはりうまく行かなかった。
 それからはずっと独り。

 このプライベートな事情を契機として、彼の音楽の新規アップデートは歩みを止めてしまう。この後はアーカイブの焼き直し的作品や、既存サウンド・フォーマットを流用した作品が多くなる。
 これまでは、そのフォーマット自体をどんどん作り替え、「Prince」というオンリーワンの音楽ジャンルの自己増殖を行なっていたのだけど、そういった行為に関心が薄れてきている。
 音楽自体に興味がなくなったのではない。だって、それを取り上げられちゃったら、存在理由がなくなってしまうから。
 あいにく彼の才能は尽きていなかった。リリース・ペースは落ちたけど、レコーディング自体は順調に継続していた。発表する手段を講じるのに時間がかかっていたのと、昔のように夜通しスタジオにこもるような無茶を控えるようになったためだ。
 オールド・ファンなら手放しでで大喜びする、80年代的フォーマットのサウンドやワン・コード・ファンクなら、ほんと1日でアルバム1枚分作ることはできたけど、世に出すことはなかった。
 やろうと思えば、ヒット・ナンバーの量産だって可能だった。「Prince」というブランドを最大限活用して、リスペクトしてくれる若手ラッパーとコラボすれば、それは難しいことではなかった。
 でも、それをすることはなかった。もう、そういったことに関心がなかったのだろう。あとは自分の好きな音楽を、自分のペースで創ってゆくだけだった。
 無理に新しいものを追おうとはせず、ただその時その時に、自分の興味が強いモノを少しずつ。
 それがたとえベタなモノでも構いやしない。
 今やりたいことは、「これ」なのだから。


Hitnrun Phase Two
Hitnrun Phase Two
posted with amazlet at 16.04.22
Prince
Npg (2016-04-29)
売り上げランキング: 5




1. Baltimore 
 2015年に発表されたロック調ナンバー。Soundcloudを通して公開されたため、発売されたものではない。こういった自由な発表形態、インスピレーションを得てすぐに世界中に配信できるシステムの多様化は、既存メディアへの不信感の塊だったPrinceにとっては良い時代だったんじゃないかと思われる。
80年代全盛期のメロディを持ち、ポップな女性コーラス、マッタリしたリズムとギター・ソロで彩られているけど、内実は結構シリアスなプロテスト・ソング。
 銃刀法違反の疑いで拘束された黒人Freddie Gray。彼が護送車の中で過剰ともいえる尋問(暴行?)により死に至ったことによって、それまで市民の間で溜まっていた不信感と欝憤が大規模デモに発展する。
 そんな彼らの運動への支援表明として発表された経緯があるので、普通に歌っただけなら、重苦しいサウンドになってしまうはず。ただ、曲がりなりにもメジャー・アーティストのPrince、人に想いを届けるために、シリアスなメッセージをシリアスに語ってしまうと、拒絶が多いことを知っている。万人に抵抗なく真意を伝えるため、耳障りの良いポップなサウンドでコーティングしている。さすがプロの仕事だ。
 甘いチョコレートのコーティングの下は、ビターな味わい。そこが彼の狙いだ。

2. RocknRoll Love Affair 
 こちらもアルバム・リリース前、2014年に発表されたシングル。発表当時はなんか陳腐なロックだよなと思ってたけど、このアルバムの流れに入ってしまうと、それが逆に心地よくなってしまう不思議。最初からこうすりゃ良かったのに。
 囁きかけるようなヴォーカルといい、ブギ・スタイルのギター・リフといい、まんまT.Rex。このユルさは貴重だよな、今の時代には。
 ロックンロールという音楽の本質がラウドなものではなく、シンプルな8ビートであることを教えてくれる、貴重なナンバー。

0_640_480

3. 2 Y. 2 D. 
 今回のPrinceのスタイルは、ホーン・セクションの大幅な導入。16ビートもほとんどなく、レアグルーヴとも形容できる古めのサウンドに乗せて、ロック寄りのメロディ&ヴォーカルを被せている。
 なので、正直どの曲も、独特のPrince臭さが薄いのは共通している。ただ、あくまで「これまでの」Princeではないだけで、これが今のPrinceの新たな方向性と受け止めるのが正しい。まぁ新しさはないけど。
 方向性も何もないけどさ、もう。

4. Look at Me, Look at U 
 ジャズ・ファンク風味が強め、ジャジーなコード進行ながら、明らかに楽曲の進化が窺える。確かに新機軸はない。ローズ・ピアノだって使い古された音だ。ただ、その音色に相応しい楽曲は明らかに、小手先のアレンジでは崩せない可能性を秘めている。
 この快適な心地よさ、確実にPrinceは「進化」している。

5. Stare 
 こちらはアルバム・リリース前、Spotifyで先行公開されたミディアム・テンポのファンク・ナンバー。曲中で”Kiss”のギター・カッティングがサンプリングされているのが話題になった。
 基本、ワンコードなので、起伏の乏しい展開ではあるけれど、それを飽きずに聴かせてしまう力技は相変わらず。自分ではうまく吹けないため、あまりフィーチャーされて来なかったブラスを前面に出しているのは心境の変化か。

prince-live_2014

6. Xtraloveable 
 シングルとして2011年にリリースされたのが初出だけど、もともとは1982年頃のアウトテイクのリライト版。確かに『Contronersy』~『1999』期の音が聴こえる。もちろんリリースするにあたって新しい音もいろいろ被せているのだろうけど、ちょうどポップに移行しかけていた頃のギラギラ感と軽みとが同居した、親しみやすいナンバー。
 でも、これが当時未発表だったとは。Princeの才気煥発振りが窺える。

7. Groovy Potential 
 2013年リリース、当時結成された3rdEyeGirl公式サイトを通して発売された、ロック成分の強い長尺曲。ちゃんと聴いてみると、”Purple Rain”と同じ構成だった。『Sign O the Times』期のサウンドが好きな人ならはまるんじゃないかと思われる。つまり俺世代、アラフィフにはヒットするかな。
 
8. When She Comes 
 このアルバムでは唯一、ファルセットを使用したバラード・ナンバー。テンポの遅いフィリー・ソウルといった趣きのメロウなテイスト。
 こういったソウル・ナンバーになると、年期を積んできたベテランに勝てる要素はとても少ない。なので、こういったバラードを歌う際、若手は大抵打ち込みサウンドを使うことによってヴォーカルの力強さを引き立てるのだけれど、ここではPrince、正攻法で押し通している。もうあいつかどうだとか、そんなのはどうでもよくなっちゃったんだろうな、きっと。だって、歌いたいなだもん、こういうので。

Prince

9. Screwdriver 
 7.同様、こちらも公式サイトで先行発売されたナンバー。2.と同じコンセプトなのか、ロックンロール・スタイルで、しかもブギになっている。マイブームだったのかな、きっと。
 コーラスの"I'm your driver and you're my screw."をやる気なさそうに歌っているところが、一筋縄ではいかないロック・イディオムを体現している。

10. Black Muse 
 80年代のヒット・チャートを彷彿させるメロディ・ラインだけど、テンポがモッサリしているため、どこかもどかしさを感じてしまうのは俺だけじゃないはず。もう少しテンポを上げていけば、もっとポップな雰囲気になると思うのだけれど、どこか遠慮がち。ずっと7割5分程度のパワーで走り続けている印象。

11. Revelation 
 再びファルセット・バラード。ここではギターも多めに弾いてるけど、やっぱり寸止め感覚でちょっと物足りない。ラストのサビで大きなカタルシスを演出するため、大きく盛り上がるのがPrinceのバラードの特徴なのだけど、ここでは大きな起伏はなく、淡々と終わってしまう。もうちょっと捻ればドラマティックになったのに。

Prince-NPG-Palladium

12. Big City
 このアルバムの中では比較的アップ・テンポなファンク・ナンバー。複雑なリズムを使うのではなく、Tower of Towerのようにオーソドックスな集団プレイの集積によってグルーヴ感を編み出してゆく方向性で挑んでいる。
とは言ってもPrinceはソロ・アーティスト、しかも大抵の楽器は独りでこなせるマルチ・プレイヤーでもある。集団演奏によるグルーヴ感は生みだすことは困難なので、頭の中で鳴ってる音を忠実に再現するしかないのだけど、そのヴァーチャル感を違和感なく再現できるのは、やはり熟練の業に尽きる。




 何しろ今日のことなので、レーベルやエージェント側も混乱の極みの状態。今後の動向はもう少し落ち着いてからだろうけど、徐々にトリビュート盤やライブの企画も進行するんじゃないかと思われる。これはあくまで希望的観測だけど、以前から噂レベルだった『Purple Rain』のアニバーサリー企画、ワーナー時代のアーカイブのリマスター作業も、スムーズに行なわれるんじゃないかと思われる。
 管財人が誰なのか、この時点ではまだはっきりしないけど、それなりに彼の遺志を継ぐ者によって、きちんとした形での整理は行なわれるだろう。何しろうるさ型のファンが多いから。それに合わせて、膨大な未発表音源も少しずつお蔵出しされるかもしれない。それはもうちょっと先になるだろうけど。
 近年の彼は自伝の執筆に執心しており、かなり本格的に準備も整えていた、とのこと。
 何か言葉で残したいことがあったのか、それとも音楽では伝えることはもうない、と悟ったのか。
 それは誰にもわからない。



Hitnrun Phase One
Hitnrun Phase One
posted with amazlet at 16.04.22
Prince
Npg (2015-09-14)
売り上げランキング: 7
The Very Best of Prince
The Very Best of Prince
posted with amazlet at 16.04.22
Prince
Rhino / Wea (2001-07-30)
売り上げランキング: 26

邦題『暗黒への挑戦』。相変わらず大風呂敷。 - Earth, Wind & Fire 『That's The Way Of The World』

folder 1976年リリース、6枚目のオリジナル・アルバム。これまではR&Bチャートの上位常連といったポジションだったのが、このアルバムではビルボード3週連続1位を獲得、初のプラチナ・ディスクもゲットしている。
 ちなみにこのアルバム、すごく厳密に言うと純粋なオリジナルではなく、同名映画のサントラ盤といった体裁になっている。まだ映画『Taxi Driver』で注目される前のHarvey Keitelがプロデューサー役で出演、Earthも「The Group」という名称で出演し、実際の演奏や稚拙な演技を披露しているのだけど、お察しのように客入りは不振、今世紀に入るまではほぼ封印状態、カルト映画の称号を与えられていた。多分、契約の関係もあってEarthの名称が使えなかったことと、実際の演奏シーンがほんのちょっぴりというグダグダ感も影響したんじゃないかと考えられる。
 当時のEarthにそれほどのネームバリューがなかったことが不発の要因だったといわれているけど、70年代のアメリカ映画界においてはまだインディペンデント発のブラック・ムービーの勢いが残っていたはずなので、やり方次第ではCurtisの『Superfly』クラスのヒットも狙えたんじゃないかと思うのだけど。監督だって同じSig Shoreだし。
 やっぱEarthの名前使ってないのが痛いよな。もうちょっと盛り上げろよCBS。

 初期のEarthはリーダーMaurice Whiteのジャズ・コンプレックスから由来する、プログレっぽさを加味したジャズ・ファンクが主流だったのだけど、当然大衆にアピールするものではなかった。
 もともとRamsey LewisのバンドのドラマーがキャリアのスタートだったMaurice、その師匠からインスパイアされたサウンドを自己流に解釈して、自らのアフロ・アメリカンのルーツに基づくカリンバの音色を導入した。さらにバンド名からも想像つくように、スケール感の大きいコンセプトをアルバムごとに掲げ、他のソウル/ファンク・バンドとの差別化を図った。
 その辺がわかりやすいのが、『地球最後の日』、『ブラック・ロック革命』、『太陽の化身』といった大仰な邦題。当時の洋楽担当ディレクターは音楽への思い入れが強い人が多く、その強さあまりにアーティストの意図を大きく曲解してとんでもないタイトルをつけることも多々あったけど、この場合は想いと実像とがシンクロした稀有な例である。その後もタイトルだけにとどまらず、長岡秀星がビジュアル・イメージを手がけることによって、スペクタクルかつ宗教色が強くなるのだけれど、それはもう少し後の話。
 70年代に入ってからのジャズ・ファンク界はChick Corea率いるReturn to ForeverやHerbie Hancockらを始めとする、いわゆるMiles残党勢がジャズ寄りの中心として、対してGraham Central StationやTower of Powerらがソウル/ファンク寄りのサウンドで棲み分けされていたのだけど、こうして並べて見ると当時のEarthのポジションの中途半端さが見えてくる。 ジャズにしてはプレイヤビリティ的にちょっと弱いし、かと言ってソウル/ファンク目線で見れば、妙に小難しいノリのめんどくさいコンセプトが強すぎたため、どっちつかずという印象が強い。
 その初期の路線がもう少し売れていれば、今ごろジャズ色の濃いP-Funk的なサウンドになってたのかもしれないけど、あいにく大きな支持を得ることができず、レコーディング契約も切れてしまったこともあって、活動休止に追い込まれてしまう。
 
_88112976_46387ed1-3ce5-4805-9ffd-bd511b0de136

 そういった反省もあったのか、CBSとの再契約をきっかけとしてコンセプトの軌道修正、特に前作『Open Our Eyes』からMaurice自身がプロデューサーとしてレコーディングの全権を握るようになってからは、サウンドのコンテンポラリー化を積極的に推し進めるようになる。
 初期の基本リズムだった複雑なアフロ・ビートを後退させ、明快な16ビートを前面に押し出すようになったことが一番大きいのだけど、目に見えてわかりやすい変化がホーン・セクションPhoenix Hornsの導入。4人編成のゴージャスな金管サウンドによってアンサンブルに厚みが加わり、よりダンス・フロアへのアプローチが強まった。時代を経るに連れてサウンドからアフロ要素は少なくなり、そのうちカリンバの音色も減少、アフロの面影を感じるのはビジュアル面、頭髪だけになってゆく。
 そのコンテンポラリー化と並行して、世間では空前のディスコ・ブームが到来、わかりやすいキャラクター設定と明快なリズム・アンサンブルによって、彼らはチャートの常連になって行くわけだけど、そのディスコ・タッチの楽曲と並走するように、バンド・キャラクターも次第に類型化してゆく。前述したように、長岡秀星のジャケット・イラストもスケール・アップのインフレが止まらない状態、それに比例してステージ・コスチュームやセットも次第にスペイシーでファンタジックなものに変貌してゆく。
 この変遷がMauriceの思惑通りだったのか、それとも成り行きにまかせちゃった末のものなのか。たぶんどっちもだと思われるけど、追い風状態に乗ってしまうと、もはや自身の考えなど及ぶべくもない。
 で、このアルバム『That's The Way Of The World』だけど、後年になるに従い商業化の波に押されて類型的なディスコ・バンドに変容してゆく前、キャッチーでありながら骨太のソウル/ファンク・バンドの面影を色濃く残した姿が残されている。「宇宙のファンタジー」がどうも苦手という人なら、まずはこちらを、とおススメできる作品である。

720x405-GettyImages-74269926

 Earthのメジャー化に大きく貢献したとされるのが、Mauriceと並ぶもう1人のフロントマンPhilip Baileyである。
 この機会に雑誌やネットでEarthの記事をいくつか探して読んで見たのだけど、まぁ見事に正反対。有能なビジネスマン的思考でバンドを統率するMauriceに対し、どちらかといえば生粋のミュージシャン・シップ、はっきり言っちゃえばあんまり難しいこと考えてないんじゃないかと思われるPhilipとの対比が面白い。どっちもMaurice的だったらいがみ合うだろうし、両方Philip的だったらクリエィティブなバンド運営は難しい。この辺のバランスが絶妙だったことが、他の同種のソウル/ファンク・バンドより大きくブレイクできた要因だったんじゃないかと思う。
 なので、この人は純粋なシンガーであって、いわゆる管理者、リーダーシップをとるような柄ではない。徹底的な現場主義なのだ。
 後にPhil Collinsプロデュースによってソロ・シングル”Easy Lover”を大ヒットさせたけど、正直ほかのソロ・アルバム、ていうか”Easy Lover”以外の楽曲の印象は薄い。あれこそ正に「ヴォーカリストPhilip Baileyをフィーチャリングすることを想定して作られたPhil Collinsのサウンド・プロダクション」であって、その後Philip自身がセルフ・プロデュースしたアルバムは、どうにもフォーカスがボケたものが多い。素材としては極上なのだけど、彼を活かせるのは料理人次第、自己プロデュースというのがかくも難しい、という好例である。

That's_The_Way_Of_The_World_-_Earth,_Wind_&_Fire

 サウンド面・ビジネス面両方の総合プロデューサーとしてバンドを統括するMauriceと、彼によってしっかり構築されたサウンドの中を自由奔放に動き回るPhilipとの二枚看板によって、Earthは70年代ディスコ・ブームの立役者となった。ほぼすべての日本人が連想する「70年代ディスコの映像」といえば、スペイシーなコスチュームに身を包んで”Fantasy”や”Let’s Groove”をプレイする彼らの姿が思い浮かぶはず。70年代風俗が紹介される際、ほぼ必ずと言っていいくらいの高確率で使用される、あのシーンだ。いま見ればチャチイ映像効果、レーザー光線の乱舞もセットでね。
 抜けの良い男性的なアルトのMauriceと、中性的なファルセットを自在に操るPhilipとのヴォーカルの対比によって、時に類型的になりがちなディスコ・サウンドにバラエティを持たせ、泡沫ディスコ・バンドと一線を画すことができたんじゃないかと思われる。独りでやれることには限界があるのだ。
 PhilipだけじゃなくMauriceもまた、ソロで”I Need You”という必殺メロウ・チューンをヒットさせているのだけど、けっきょくソロはこのシングルを含む1枚しかリリースしていない。一発屋はちょっと言い過ぎかもしれないけど、せっかくいい感じのアダルトR&Bアルバムを作ったのだから、「もうちょっとソロ活動に力を入れても良かったんじゃないの?」と言いたくなってしまう。
 ただPhilipもMauriceも双方、やはり自分のホーム・グラウンドはEarth、Earthのメンバーによって奏でられるサウンド、そして互いのヴォーカルとの相乗効果によって、オリジナリティあふれるグルーヴ感が生まれることがわかったのだろう。
 ビギナーズラックで単発ではうまく行くけど、継続させることは難しい。これも長く内部にいるとわからないことである。そういった意味でソロ活動という名の冷却期間は正解だった。

 でも、そのMauriceももういない。
 これから先、彼らのコラボを聴くことはできない。
 近年はステージ活動から引退してもっぱらプロデュース活動のみで、ライブの場に立つことは滅多になかったけど、それでもEarthの精神的支柱としてかけがえのない存在ではあったはず。失ってから存在感の大きさを思い知らされる場合は多々あるけど、彼の場合、その場におらずとも存在感を放つことのできる、貴重なキャラクターだったのだ。
 今後のEarthはPhilip主導で活動継続してゆくものだと思われるけど、具体策はまだ出ていない。今後の動向が待たれる。


That's the Way of the World
That's the Way of the World
posted with amazlet at 16.03.15
Earth Wind & Fire
Sbme Special Mkts. (2008-02-01)
売り上げランキング: 9,481




1. Shining Star
 初の全米No.1を記録したアルバム先行シングル。力強いホーン・セクション、軽快なカッティングとオブリガード、要所を押さえたAl McKayのギター・プレイ、そしてMauriceとPhilipによる終盤のヴァース。タイトに磨き上げられたパーツのベスト・マッチングな組み合わせによって出来上がった、最高のファンクの理想形がここにある。
 敢えてこの曲の欠点を挙げるとしたら、たった3分という中にすべてが適切に収められていること。ほんとあっという間の3分間とはこのこと、なのにその濃密さといったら。
 あぁ、もっと聴いていたいのに。



2. That's The Way Of The World
 メロウでありながら心地よいリズム・セクションのグルーヴ感によって、強いファンク・スピリットを感じさせるタイトル・チューン。普通のバンドなら甘いフィリー・ソウルに流れがちなところを、タイトな響きのドラムと、メロディを奏でるが如く流麗なベース・ラインがビターなテイストを加えている。
 4枚目のシングル・カットとして、全米12位R&Bチャート5位という成績を残している。アルバムの半数をシングル・カットしているくらいだから、当時の勢いがそれほど凄かったことが窺える。



3. Happy Feelin'
 こちらもやはりリズム・セクションが大活躍のファンキー・チューン。ほとんどジャム・セッションで作ったんじゃないかと思えるくらいバンド全体のノリが良い、と思ってたら、俺の持ってるCDのボーナス・トラックにこの曲のデモ・テイクが収録されており、ベーシックはほとんど一緒だった。
 いまだアフロというコンセプトに未練があったのか、ほぼ完成形のトラックに無理やりカリンバを被せてしまうMauriceの意地が感じられる。この頃はまだチャラい路線に完全にふっ切れない部分もあったのだろう。
 こちらも2枚目のシングルとして、ディスコ・チャートで1位を獲得。ほんとダンス機能に特化したトラックだけど、ここまでシンプルな構造でありながらサウンドに脆弱さが見当たらないのは、やはりバンドの基礎体力がものを言っている。

4. All About Love
 邦題” 今こそ愛を”。Mauriceがほぼ出ずっぱりで歌い上げる珠玉のバラード。終盤のモノローグもまたムード全開。しっかし長い語りだよな、エロさがちょっと足りないけど。
 その辺をもう少し開き直っていれば、Marvin Gayeは大げさとしても、ソロとしてLuther Vandrossのポジションくらいは余裕で行けたと思うのだけど、後の方向性を考えるとそれで良かったのかも。
 アウトロのムーグの響きはジャズ・ファンクを通り越して、もはやプログレの香りさえ感じさせる。ここでまた無理やりアフロのエッセンスを注入しているのだけど、むしろ無国籍感がましてジャーマン・プログレっぽく響く。

5. Yearnin' Learnin'
 ここからレコードB面。ダンス・ビートを強調した強力なファンク・チューン。もうちょっと下世話になればParliamentっぽくなってしまうところを、Mauriceの品の良さが程よいバランスで押さえている。
 シングルにすればよかったのに、と聴くたびにいつも思ってしまう。

CaeAl9UUsAAxuVE

6. Reasons
 Philipによるスウィートなミディアム・チューン。こちらももう少しメロウに寄るとただのStylisticsになってしまうところを、重厚なバンド・サウンドによって甘みを抑えている。このギリギリの見極めが絶妙だったのがこの時期のMauriceで、プロデューサーとしてのジャッジメントは安定感バツグン。
 この後到来するディスコ・ブームの波に飲まれてしまうと途端に舵取りが甘くなってしまうのだけど、ここではまだ安心して聴ける。

7. Africano
 アフロというよりは、まんまアフリカ民謡のイントロからスタート。ただしあくまで前奏という扱いで、ちょっとしたブレイクのあと、ほとんど関連性もない感じでソリッドなインスト・ファンクが続く。やっぱMauriceだよな、こういう仕事って。
 この時期はまだディスコにどっぷり浸かってないので、こういったライブ映えするインスト・ナンバーも時々収録されている。でもEarthのクレジットでリリースするのは損だったかな。せっかくブラスが前面に出た良質のジャズ・ファンクなのに。当時ディスコ・チャート1位だったのもうなずけるクオリティ。

8. See The Light
 邦題”神よ、光を”。ラストはPhilipメインのミディアム・ナンバー。この時期はあまりフィーチャーされていないのだけど、この曲ではコーラス・ワークが絶品。天使のささやきのようなPhilipのファルセットを包み込む和声は、邦題通り神々しいムードすら感じられる。やっぱり何も考えないで、適当に名付けしてるわけじゃないんだな日本のディレクターも。
 これまであまりフィーチャーされてなかったパーカッションも、控えめながらソフト・タッチに空間を彩るように漂っている。ラストにふさわしい壮大なスケールを感じさせるジャジー・チューン。




ファンタジー~パーフェクト・ベスト
アース・ウインド&ファイアー フィリップ・ベイリー・ウィズ・フィル・コリンズ モーリス・ホワイト エモーションズ
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル (2009-02-18)
売り上げランキング: 4,114
Original Album Classics
Original Album Classics
posted with amazlet at 16.03.15
Earth Wind & Fire
Colum (2008-09-26)
売り上げランキング: 34,210

ジャイアニズム最初のつまずき - Prince 『Graffiti Bridge』

folder 1990年リリース、Princeにとっては12枚目のスタジオ・アルバム。同名タイトルの主演映画3作目のサウンドトラックとして製作されたのだけど、一応ファンの間では好意的に迎えられた前作『Under the Cherry Moon』よりも、興行的にも作品レベル的にも大きく下回った。かつての盟友The Timeの復活を祝い、Prince自身によって彼らのための映画を企画、大ヒット映画『Purple Rain』の続編というフレコミで、ファミリー総動員で挑んだのだけど、日本では公開はおろかビデオ発売さえ叶わず。
 よって、Princeの映画事業への関与はこれは最後になった。多分、よっぽど懲りたんだろうな、この後はサントラひとつ製作してないし。ていうか俺も当然見てないし。

 で、メインである音楽の方だけど、セールス的にチョイコケした『Lovesexy』→開き直りが福に転じた前作『Batman』という流れから、今度はサウンドもビジュアルも俺様プロデュースでウハウハだ!と思ってたかどうかは不明。「この音楽を理解できないのはお前らが悪い」と平然とした顔で言ってしまう人なので、US6位・UK1位は彼にとっては消化不良的な実績である。大ヒット作『Batman』を抜きにして考えればそこそこなんだろうけど、今回の『Graffiti Bridge』がUS・UK共にゴールド・ディスク止まりだったのに対し、『Lovesexy』はUKでプラチナを獲得している。好き放題マニアックに作り込んでのプラチナ・ディスク、豪華ゲストを迎え入れて販促予算もかけたのにゴールド止まり…。こう書いてしまうと随分贅沢な悩みっぽく思えてしまうけど、周辺スタッフのアワワアワワ具合が、殿下の不機嫌具合にさらに拍車をかけたんじゃないかと思われる。

 前代未聞の衝撃的なジャケットを飾った『Lovesexy』は、曲間の切れ目をなくしたアルバム全1曲という型破りな仕様によって、ライトなファン層をドン引きさせてしまった。そういった反省もあって、ワーナーの要請によるサントラ『Batman』では思いっきりわかりやすく大衆向けに舵を切り、キャッチーで明快なポップ・チューンを多めに入れることによって、Prince顕在をアピールした。この路線を続ければよかったのだ。
 それなのにどこをどう間違えてしまったのか、George Clintonなど、明らかに自分より「濃い」キャラクターのゲストを入れ過ぎてしまった。おかげでメインであるはずのPrinceの存在感が霞んでしまい、サウンド・コンセプトのフォーカスがボケてしまっている。
 本格的なCD時代に対応して、収録時間も70分弱と大幅にスケール・アップしているのだけど、同等のボリュームであるはずの『1999』や『Sign “o” the Times』と比べて冗長な感じがしてしまうのは、多分俺だけではないはず。ゲストのトラックは映画オンリーに止め、アルバムは純粋にPrinceのトラックだけでまとめてしまった方が、聴きやすくソリッドな作品に仕上がったはずなのに、映画のコンセプトとの親和性など、余計なことを考えちゃったのが、このアルバムの弱点である。

thieves

 ちなみにこのアルバムがリリースされた1990年後半のビルボード・アルバム・チャートを見てみると…、ひでぇなこれ。
 前半をMC Hammer、後半をVanilla Iceが独占している。この年はSinéad O'ConnorがPrince作”Nothing Compares 2 U”でUS1位を獲得、変態ファンクばかりフィーチャーされてきたPrinceのソング・ライティング能力に注目が集まった年でもある。そう、このくらいのことはやればできる人なのだ。Bangles “Manic Monday”だって書いてるんだし。
 その前年にはJanet Jacksonが『Rhythm Nation』で才能が開花、Jackson ファミリーの末娘というキャラクターからの脱皮を図っていた。もう少し経つと、NirvanaやPearl Jam、Nine Inch Nailsなどのオルタナ/グランジ系バンドがメジャー・デビューするようになる。いわゆるロキノン系アーティストの勢力が拡大しており、ダンス・シーンでも先鋭的なグラウンド・ビートが席巻し始めていた。
 なのに、セールス的には「こんな奴ら」にすら歯が立たなかったのだ。New Kids on the Blockやあのインチキ・ユニットMilli Vanilliがチャート・トップに立っていた時代である。このメンツだと、Phil Collinsさえひどくマジメなアーティストに見えてしまう。
 時代の徒花として刹那的な流行りモノが上位にランクインするのは、今も変わらず見られる傾向である。あるのだけれど、でもね。
 選りにも選ってMC Hammerに通算21週もトップを取らせるだなんて、なに考えてんだアメリカ人。

 よく言われていることだけど、Princeのサウンド傾向の節目と言えば、やはり『Lovesexy』以前と以後という形になる。この『Lovesexy』まではPrince無双、彼の革新的なサウンドが音楽シーン全体をリードしている空気感が確実にあった。もっと特定してしまうと『Purple Rain』から『Lovesexy』まで、ニュー・アルバムが出るたび注目が集まっていたのがこの時代である。言ってしまえば「モテキ」である。やる事なす事絶賛の嵐、すっかり舞い上がってジャイアン状態が助長されている。映画出演や製作についてはちょっとアレだったけど、当時はそんな躓きも殿下のオアソビ的扱いで、さしてシリアスな批判も湧かなかった。
 革新的なリズム・アプローチ、予測不能でありながらキッチリ計算し尽くされたステージ・パフォーマンス、滅多にインタビューを受けない事によって神秘のヴェールに包まれたプライベート。何から何まで思うがまま、リアル・ジャイアニズムが通用していたのがPrinceの80年代である。

prince_npg615x462

 あらゆる方面から天才と崇め奉られたPrinceだったけど、一から十まですべてを独力で創り上げたわけではない。良質な音楽は良質な体験のもとに育まれるものであって、Princeもまた例外ではない。
 このアルバムではPrinceのオファーによって実現したGeorge Clintonとのコラボが収録されているのだけど、「ファンクと言えばJB、JBと言えばP-Funk」といったように、大いなる過去の遺産へのリスペクトに基づいたものである。もちろんJB周辺人脈だけではなく、のちにコラボすることになるLarry GrahamやSlyなど、他のファンク・レジェンドからの影響も色濃いけど、彼の場合はそこにプラスしてSantanaやジミヘン、Joni Mitchellなどのロック/シンガー・ソングライター的要素も自身のオリジナリティにミックスしたため、他のソウル/ファンク系アーティストとの差別化を図れたんじゃないかと思う。
 彼の先鋭性が通用した80年代中盤というのは、他ジャンルとのミクスチュアが充分浸透していなかったせいもあって、ひどく目新しく映っていた。ブラック・ロックと称されたFishboneも目立った存在ではなかったし、レッチリも当時はアングラ・シーンでの活動だった。
 その風向きが変わり始めたのが80年代後半くらいから、ソウル・シーンにおいての絶対王者Princeとは別のラインで台頭し始めたのが、ヒップホップ/ラップ・ムーヴメントのメジャー展開。
 「楽器が弾けない/歌えないのなら、レコードからいいフレーズを抜き出して繋げりゃいいじゃん」というコペルニクス的転回からスタートしたヒップホップは、レコード・スクラッチや低予算ゆえのチープ機材使用など、さらなる発想の転換によって80年代に大きく飛躍していった。
 メジャーで最初に大きく売れ出したのがRun D.M.C. “Walk This Way”なのだけど、当時ロートル・バンドのレッテルを貼られていたAerosmithをフィーチャーして作られたトラックは衝撃的で、MCバトルの原型とも言えるPVもお茶の間では案外好意的に迎えられた。ただ、30年ほど経った今になって聴いてみると、Aerosmithのオリジナルが秀逸だったのであって、Run D.M.C.のライムやトラック処理などは稚拙なものである。
 彼らだけじゃなく、当時のヒップホップのアルバムと言えば、JB周辺のシングルのフレーズを無造作につなぐだけ、そのつなぎとなるライムもまだきちんと確立されておらず、クオリティとしてはお粗末な状況だった。Beastie Boysだって最初は”Smoke on the Water”のリフに合わせてウェーイ的にガナるだけだったし。
 それがうまく回り始めたのがDe La Soulが出てきた辺りなんじゃないか、というのはいまだヒップホップに興味のない俺の私見。それまではむき出しの素材を無造作にくっつけていただけだったのが、バトルと言うよりリア充の会話っぽい脱力系のライムや、Steely Danまでネタに使ってしまう卓越したセンスによって、一般のロック・リスナーの関心も惹きつけてしまったのは、彼らの功績なんじゃないかと思う。彼ら以前までは、ロックのリスナーはロックしか聴かず、その逆もまた然りだったのだけど、彼らやA Tribe Called Questの登場によってボーダーレス化が一気に進んだ。

Immagine1-11

 他ジャンル・アーティストとの交流やコラボが活性化することによって、ミクスチュア・ミュージックの裾野は大きく広がっていった。Rage Against the Machine が登場するのはもうちょっと後だけど、Public Enemyの先駆性はその下地を整えつつあった。かつてPrinceが行なったミクスチュアはエッセンス程度のささやかなものだったけど、彼らはもっと大胆に、しかも彼が切り開いてきたニュー・ファンク・スタイルを踏み台として、未開の領域を次々と邁進していった。
 かつてはPrinceも、JBの発見した未開の地を疾走する1人だった。歴史は繰り返す。

 そういった行程を辿ってきたこともあって、自分の音楽がオールド・スタイルになりつつあることは、Prince自身理解はしてたんじゃないかと思われる。いくら俺様とはいえ、世間の趨勢には勝てないのだ。ただ、理解はしているけど即納得できるかといえば、それはまた別問題。
 ワーナーとの契約上、これまでの路線から逸脱し過ぎたアルバムを作るわけにもいかない。『Black Album』は自分のジャッジで販売中止にしたけど、あの頃とは状況が違っている。今のダンス・シーンに寄り添い過ぎたアルバムを作ってもワーナーに拒否されそうだし、第一それは自分のプライドが許さない。
 といった経緯があったのかどうかは想像でしかないけど、こう考えると、のちの一連の改名騒動にも説明がつく。別人格・別プロジェクトで違う音楽をやってみたいと思うのは、真摯なアーティストの抑えきれない表現欲求の発露である。Princeのブランドを維持しながら、現代のコンテンポラリー・サウンドにおもねってゆくのは限界がある。バランス次第ではチャートに媚びたように映り、商品価値は大幅に目減りする。安易にブランドを安売りするわけにはいかないのだ。
 世界を股にかけてきたジャイアンに、迷いが見えてきた頃である。


Graffiti Bridge
Graffiti Bridge
posted with amazlet at 16.03.11

Warner Bros / Wea (1994-10-26)
売り上げランキング: 30,085





1. Can't Stop This Feeling I Got
 軽快なポップ・ロック。難しいことを考えなければ、普通にノリも良くて好きなタイプ。4分ちょっとの間にコロコロ曲調も変わり、あれこれいろいろ詰め込んでいるのに、コンパクトにわかりやすくまとめられている。Princeイコール独創性と捉えるのは短絡的。こういったのもアリ。

2. New Power Generation
 次作から使用されるバンド名義を冠したポップ調のファンク・チューン。呪術的なサビのコーラス、映画のワン・シーンから流用されたエフェクトも臨場感がある。中毒性のあるリフレイン。
 第2弾シングル・カットとして、US64位UK26位という成績。もっと上に行ってほしかったな。

3. Release It
 ここでのアーティスト・クレジットはThe Time。ま、バック・トラックはほとんどPrinceなんだけど。なぜかサックスにCandy Dulferが参加。確かにいつものホーン・セクションと比べるとファンキー成分がちょっと薄め。なんで彼女だったの?
 Morris Dayのラップのうまい下手はともかくとして、エッセンス的にラップを導入するのではなく、ここまでガッツリ取り組んだのは、多分このトラックが初。まずはMorrisで試してみたんじゃないかと思われる。

tumblr_lprmebsCpz1qfrtwfo1_500

4. The Question Of U
 『Parade』期のサウンドと直結したスロー・ナンバー。得意のSantana風ギター・ソロも健在。深いルーム・エコーを使ったハンド・クラッピングは、わかっちゃいるのにいつもドキッとさせられる。やっぱこれでいいんだよ、この人は。変にラップに色目を使うより、手癖の多いギターを弾いてる方がしっくり来る。

5. Elephants & Flowers
 象と花。歌詞を読んでないのでわからないけど、多分何かのメタファー。曲調的に1.と近いけど、コンセプト的に繋がってるのかな?
 相変わらずギター・プレイはかっこいい。そこに合わせたのか、ヴォーカルもワイルドになっている。

6. Round & Round
 若干15歳の天才ヴォーカリストTevin Campbellとのデュエット・ナンバー。ていうかここはほぼTevinが主役、Princeはコーラス程度の働きしかしていない。よっぽどTevinを売り出したかったのか、ほとんどドラム・マシーンのみのシンプルなバッキングで、彼の歌を活かした作りになっている。
 Princeのファルセット仕様人格Camille的なものを狙ったのかもしれないけど、声質的にPrinceのメロディとの親和性は薄い印象。Soul II Soul的なサウンドを志向したのかもしれないけど、合わねぇなやっぱ。

250_tevin_campbell

7. We Can Funk
 P-Funkの総帥であり、ファンクの御大George Clintonとのデュエット・ナンバー。単なるアッパー系ファンクが多かったPrinceだけど、ここでの彼は「タメ」のファンク。こういったサウンドのとっ散らかりようこそがP-Funkなのだな、というのが理解できる。当時の御大はP-Funk休止中で本調子じゃなかったのだけど、ねっとりまとわりつくオーラは健在。無言の圧力に押されたPrince、ここでは持てる手の内をすべてさらしている。

George-Clintony-at--011

8. Joy In Repetition
 メドレー形式に続くロッカバラード。”When Doves Cry”と似た曲調なので、ビギナーも馴染めるはず。いや無理かな?俺的には全然アリだけど。
 デカダン的な終盤のギター・ソロはドラマティック。相変わらずいつもの手癖なギターだけど、こういったのは定番が一番。しかしPrinceのギター・フレーズって、先読みしやすいよね。リズムは神出鬼没なのに。

9. Love Machine
 メイン・クレジットはThe Timeだけど、ほとんどのリードはElisa Fiorilloという女性シンガー。今までずっとCamillと思っていたのだけど、ほんとの女性が歌っていることに驚いてしまったという、なんとも複雑ないきさつ。
 まぁ正直取るに足らないナンバーなのだけど、多分当時のお気に入りだったのか、それともワーナーのねじ込みだったのか。

10. Tick, Tick, Bang
 『Parade』のアウトテイクのレストア版と思われる、ワンコードで押し通すシンプルなファンク・チューン。変に凝ったサウンドより、こういったごまかしの効かない構造は、古株のファンにほど人気が高い。3分間という短さに詰め込まれたファンクネスは強烈な個性の塊。

princegroot2b_600

11. Shake!
 再びThe Time。なんていうかファニーな、ポップなだけの曲。でもそれがいい。Prince本人がやっちゃうと、もっと攻撃的などファンク・ナンバーになっちゃうところを、Morrisの程よいチャラさが軽くしている。続けてファンク・ナンバーになるとクドくなってしまうのを避けたのかもしれないな。

12. Thieves In The Temple
 先行シングルとしてリリースされた、ソリッドなロック・ナンバー。US6位UK7位は順当なところ。実際、日本でもFMでかかりまくってた。この時期のPrince、セールス的にはピークを過ぎていたけど、FMリスナーや輸入盤専門店ユーザーの間ではまだ絶大な人気を誇っていた。
 最初からシングル向けとして考えていたのか、非常にコンテンポラリーな構造の曲なのだけど、いま聴くと大衆性は薄い。サビも弱いのだけど、Princeのへヴィー・リスナーからすればベタ過ぎなくて人気は高い。

13. The Latest Fashion
 PrinceプラスThe Time名義での疾走感あふれるファンク・ロック・チューン。わかりやすいリズム・アレンジがダンス・チューンとしても機能しており、ノリも良い。『Parade』『Lovesexy』のコンテンポラリー・アレンジといった感じで、この路線でアルバム1枚作ってくれれば、ダンス・シーンへのニーズも満たしてくれたんじゃないか、とは俺の勝手な希望。

14. Melody Cool
 Mavis Staplesヴォーカルによるクールなファンク・バラード。この時点ですでにレジェンド枠だったため、押しの強さは絶品。ていうか存在感がありまくりなので、Princeがすっかり霞んじゃってる。バック・トラックのギミックっぽいエフェクトも、この音圧の前ではすっかりかき消されている。
 アシッド・ジャズ的なムードが漂っているため、俺的にはベスト・トラックのひとつ。

mavis-staples-ftr-1

15. Still Would Stand All Time
 深い闇夜を想起させる静かなバラード・ナンバー。地味だけどきれいなメロディ。こういったナンバーをアルバムに必ず1曲は入れるのが、この人の特色。中盤からのゴスペル・コーラスが神々しさを添えている。

16. Graffiti Bridge
 そのゴスペルに呼応されたように、ドラマティックに盛り上がりを見せるテーマ曲。Mavis、Tevinもコーラスに参加。大団円といった雰囲気は決して嫌いじゃない。全然Princeっぽくないといった意見もあるけど、こういった面もあるということは認めてあげてもいいと思う。ゴスペル・マナーに則った曲である反面、サイド・ヴォーカル2人の力量に頼りすぎる気もするけど。

17. New Power Generation (Pt II)
 2.のバック・トラックを流用したリミックス的エピローグ。ここでの主役はラッパーT.C. Ellis。まぁこんなもんじゃね?的なプレイ。正直ラップは俺、優劣はわからない。トラックの力が強すぎる気がして存在感が薄いような気もするのだけど、これはPrinceのアルバムなので、それで良いのかもしれない。




プリンス/グラフィティ・ブリッジ 特別版 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2008-07-09)
売り上げランキング: 330,803
The Very Best of Prince
The Very Best of Prince
posted with amazlet at 16.03.11
Prince
Rhino / Wea (2001-07-30)
売り上げランキング: 21,562
カテゴリー
月別アーカイブ
記事検索
Twitter
北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
最新コメント

音楽 ブログランキングへ


にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村

アクセス
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計: