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#Funk : Japan

ねぇ、ぼくのホントの気持ちだけど…、君とイチャイチャしたいだけなんだっ - 岡村靖幸『禁じられた生きがい』

folder 日本の90年代ベスト・アルバム・ランキング的企画では、必ずと言っていいほどランク・インする傑作『家庭教師』をリリースした後の岡村ちゃんだけど、その後の産みの苦しみから伴う創作上のスランプは、およそ5年の長きに渡っている。
 ほんとはもっと早くできるはずだった―。誰もが、そして岡村ちゃん自身も思っていたことだろう。
 
 渡辺美里のブレーン的立場という、裏方からスタートした岡村ちゃんのキャリアは、その後徐々に実績を重ね、満を持したあたりでソロ・デビューに至る。最初は80年代ソニー的サウンドのフォーマットに則った音作り、それから試行錯誤の末、Princeをお手本とした密室ファンク・サウンドと、松田聖子を代表とする歌謡曲的ペンタトニック多用のコード・メロディの融合の末、オンリー・ワンの純国産ポップ・ファンク・サウンドを創り出した。

 理想とする音を具現化するため、思いつく妥協は徹底的に排除、録音されるすべての音に「岡村靖幸」という痕跡を残したいがため、ほとんどすべての楽器を自分で演奏するようになった。いま聴くと、テクニック的には稚拙な面も窺えるけど、岡村ちゃんが全身全霊を込めて鳴らす音は、スタジオ・ミュージシャンが出す無難で流麗な音とは明らかに違っている。
 レコーディングにまつわるほぼすべての作業に岡村ちゃんは積極的に介入し、純度100%に近い濃厚エキスの塊のようなサウンドは、ファンに対しても常に挑戦的で、ある種踏み絵的な覚悟を強いる。単にBGMとして聴き流すことも可能だったけど、少しでも興味を抱く者なら、強引に岡村ちゃんワールドに引き込まれてしまう。ほぼ混じりけのない、岡村ちゃん成分100%の濃厚なフォン・ド・ヴォ―は、猛烈にクセになって狂信者になる者と、Princeのエピゴーネンとして拒絶反応を起こす者に二極化した。
 
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 先行シングルになるはずだった”ターザンボーイ”は、基本『家庭教師』で培ったサウンドをほぼ踏襲している。多分この時点では、『家庭教師』の続編的なサウンド・コンセプトを掲げて進行していたんじゃないかと思われる。音に迷いがなく、自信に満ちあふれたヴォーカルが、それを表している。
 しかし…、肝心のアルバムの完成は難航した。
 先行シングル→アルバム・リリース→全国ツアー、というのが当初の流れだったと思われるので、アルバムが完成する前提でツアー予定・テーマは組んでしまっており、そうそうスタジオに籠っているわけにもいかない。
 岡村ちゃん的にも、そしてニュー・アルバム待ち望んでいたファン的にも、非常に中途半端な気持ちの中、ツアーはそこそこの好評を得て終わる。
 
 この当時の岡村ちゃんのインタビューを読んでみると、「歌詞が書けない」ことをについての発言が多い。多分岡村ちゃんのことだから、サウンドやメロディに関しては、もちろんスランプもあるだろうけど、それほど大きな挫折はなかったはずだ。実際この5年の間にも、他アーティストからの作曲依頼もちょくちょく受けており、セールス結果の良し悪しはあれど、きちんと個々のキャラクターに合わせたサウンド・歌詞をコーディネートしている。対象が第三者なら、客観的な視点で創ることは容易なのだろう。
 ただ、自分の事となると話は違ってくる。これまでのファンは、当然100%岡村靖幸の濃縮エキスを待ち望んでいるだろうし、岡村ちゃん自身だって、妥協した物は出したくないはずだ。
 当然、自分自身の中のハードルは上がっている。特に歌詞、「ベイベェ、僕の気持ちをわかってほしいんだ」的な内容はどうなんだろう?もっとストレートでむき出しの言葉を、もっと詰め込んでみたいけど、それじゃもう曲の形を成さない、じゃあ、もっとリアルな言葉とは?
 
 その後、喉の不調や対人関係のトラブル、他にも多分プライベート的な問題もあったらしく、数回の発売延期を経て、どうにかリリースにこぎ着けたのが1995年。先行シングルであったはずの”パラシュート・ガール“からは、もう4年の歳月が流れていた。
 で、オリコン最高8位という、非常に微妙なセールスで終わっている。この頃のヒット曲と言えば、ドリカムやミスチル、そしてユーミンもまだミリオン・ヒットを飛ばしていた頃。ビーイング・グループの勢いが一段落し、小室サウンドの台頭が始まった頃でもある。そんな時期に、これほど一個人のキャラクターが強すぎるサウンドが一般的に浸透するはずがなかった。

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 クオリティ的には自信があったはず。ただ、大傑作『家庭教師』の後ということで、かなり割を食っている、ちょっとかわいそうな立ち位置のアルバムである。
  ただ、リリースから20年近く経って、時代背景を抜きにして聴いてみると、『家庭教師』のハイパー進化形、岡村ちゃんエキスがさらに濃縮されたアルバムだということがわかる。これはがもっとコンテンポラリーなスタイルにプロデュースされていたのなら…、というのは今さらだけれど、まぁどっちにしろライト・ユーザーにまで浸透するサウンドではない。ただファンとしてこのアルバムは、岡村ちゃんを理解するためには避けては通れないものなのだ。
 もしかすると、岡村ちゃん的には黒歴史的なアルバムなのかもしれないけど、このムッとしたイカ臭さの詰まった(褒め言葉)サウンドは、俺的には昔の彼女の写った写真を見ているかのような、こそば痒くて懐かしくって、でもそんなに引きずりたくないような、でも忘れることはできないアルバムである。


禁じられた生きがい
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1. あばれ太鼓
 岡村ちゃん初のインスト作品。純粋なインストゥルメンタル作品というよりは、歌入れしていないバック・トラックっぽい仕上がりになっている。サウンドも作り込んでタイトルも決定して、仮ヴォーカルまで入れたはいいけど、どうにも納得行く歌詞が書けず、最終的にこんな感じで仕上がっちゃった、という感じ。
 岡村ちゃんくらいのキャリアなら、この程度の曲ならいくらでも作れるはず。鼻歌でアコギをかき鳴らしていれば、すぐ二、三曲はできあがっちゃうんだろうけど、やはり問題は歌詞。5年振り、満を持して放つ復活アルバムの一発目にこれを入れるとは、さすが岡村ちゃん、常人とは感覚が違うのがわかる。
 
2. 青年14歳
 アルバムの中でも最も人気の高い曲。『家庭教師』サウンドの進化形と考えてもいいくらい、それだけオリジナリティに満ち溢れている。スイング・ジャズのエッセンスと密室ファンクとのハイブリットに、支離滅裂な歌詞を暑苦しくシャウトする岡村ちゃん。そう、歌詞の意味なんて細かいところにこだわらず、あらゆるものを突き抜けた極北の彼方でダンスしまくる岡村ちゃんが、そこにはいる。
 
”野蛮でノーバンで 冗談で暮れる 青年14歳“
 
 韻を踏む以外は何にも考えてなさそうなフレーズだけど、いやいや、イカ臭い14歳を通過した男なら、何となく共感できると思う。

 

3. クロロフィル・ラブ
 『Lovesexy』期のPrinceのサウンドを想起させる、濃厚ファンク。Princeの場合、Sly Stoneに倣って、音を「抜く」作業によってリズムの真空を創り出す手法だったけど、岡村ちゃんの場合は様々なエフェクト音を足して足して足してなので、とっ散らかった印象が強い。バック・トラックとしてはすごく好きなのだけど、歌詞があまりに散文的でまとまりがないため、アルバムの中では印象が薄い。
 
4. ターザン ボーイ
 オリジナルのシングル・リリースは1991年なので、3.よりもう少し聴きやすく開かれた楽曲。歌詞自体も「もてたくてもてたくって」というイカ臭さを前面に押し出しており、歌詞の変遷としてはやはり『家庭教師』の延長線上だけど、「君のために ライオンと戦える男でいたい」というメッセージは、すべての男にとって切実なものでなければならない。
 
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5. 妻になってよ
 比較的早い段階で仕上がっていた曲で、1992年の段階でシングル・カットの予定もあったそうだけど、まぁしなくて正解だったと思う。
 しっとり落ち着いたサウンドに激情ヴォーカルが絡む、”イケナイコトカイ”タイプのバラードだけど、多分女性関係で悶々としていた思われる、当時の岡村ちゃんの切実な思いが伝わってくる。ただ、世間一般が岡村ちゃんに求めているのは、残念ながらこういった感じじゃない。シングル・リリースするにはパーソナルな部分が濃すぎるのだ。
 その辺を、岡村ちゃんも周辺スタッフも、わかっていたんじゃないかと思う。
 
6. パラシュート★ガール
 5.の後にレコーディングされた曲。『家庭教師』フォーマットの曲どれにも言えることだが、どれも2.の革新性の前では霞んで見えてしまう。
 こちらもシングル・リリース当時は岡村ちゃんのポップ・ファンク新曲として認識されていたのだけど、アルバムに収録されて横並びになると、シングルとして既発表曲と新曲との差が大きく感じられる。制作時期の違いによって統一感が失われている、というのがこのアルバムについてよく指摘されていることである。ただ、それを抜きにして単体で評価すると、やはり優良な岡村ちゃんフォーマットのちょいエロ・ポップである。はすっぱな女を演じるCHARAもいい味出している。
 
 

7. どぉしたらいいんだろう
 過去作“どぉなっちゃってんだよ”で、世間にロックに女の子にメディアに対して、不満をぶつけまくった岡村ちゃん、その瞳には迷いはなく、「俺に着いてこいよ!!」的なアプローチで歌い叫び腰を振った。
 しかし、ここでの岡村ちゃんは、また思い悩み苦しむのだ、前作で自信を持って克服した課題に。
 サウンド的にはニュー・タイプとなっており、こちらはほんとカッコイイ。ただ、その思い悩むのが鬱々となるわけでなく、「どぉしたらいいんだろう」という歌声は軽やかで、しかも巻き舌だ。
 ちなみにアウトロがちょっと前作”(E)na”へのオマージュ。
 
8. Peach X’mas
 NHKのクリスマス・スペシャル番組用に制作された曲。アルバムと同時発売された、本当の意味での先行シングルである。
 ゴージャスでドラマティックなサウンドに、エモーショナルなヴォーカルが絡む、これぞ岡村ちゃん!!とでも言うべきベスト・トラック。せっかくのクリスマス・イヴに何の予定もない、全国の童貞どもに勇気を与える岡村ちゃんのメッセージが熱い。
 
「教えてあげるんだ お前のPower お前の実力を
本気出せば こんなもんだぜ どーだまいったか Girl」
 
 かつてこれほど、こじれた男たちに勇気を与えてくれる曲があっただろうか?

 

9. チャーム ポイント
 8.が「本家」なら、こちらは「元祖」の先行シングル。曲調としては『家庭教師』フォーマットだけど、サウンドは完全にニュー・タイプとなっており、うまい感じで新旧が融合している。歌詞も硬軟取り混ぜた時事問題に触れており、その辺が”どぉなっちゃってんだよ”とのリンクが感じられる。やはり「好きなんだぜベイベェ」だけじゃ、そんなにバリエーションは望めない。
 5年間岡村ちゃんがスランプに陥っていた原因は、すべてここに現われている。現実と妄想とをミックスした歌詞へリアルを求めるがあまり、サウンドの先鋭化との乖離が大きくなる。そのジレンマに苦しむことによって、音楽からの逃避が結局、あの不幸な事件の連鎖へと繋がり、つい近年までその状態は続いていた。
 
「毛だってもっと隠せよ」
「しょっぱくピリ辛 泣かす旅に出るよ」

 
 大して意味もないのだけど、岡村ちゃん渾身のサウンドに乗せて歌われると、これらのフレーズが言霊となって大きく意味を成す。




 つい先日のスマスマ出演により、全国の岡村ちゃんファンが再び盛り上がっている。長らく関心が薄れていた昔のファンたちにも、一気に認知度が高まった。
 嵐の番組じゃなくって、SMAPだから岡村ちゃんを盛り立ててくれた、という声も聞く。確かに嵐だったらコラボしても面白くないだろうし、トークでもあまりいじってもらえず、中途半端に終わったことだろう。
 シングルもリリースされたし、そろそろフル・アルバムの準備もしてるんじゃないかと思われるけど、またプレッシャーがかかると独りで何かとこじらせてしまうので、信頼できる若手のブレーンとまったり進行でやってほしい。
 いつまでも待ってるよ、岡村ちゃん。



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モテたくてモテたくって…、イヤつまりその、君のコト好きなんだ - 岡村靖幸『家庭教師』

kateikyoshi  1990年発売、岡村ちゃんにとっては、4枚目のオリジナル・アルバム。オリコン・アルバム・チャート最高7位…、って、えっ、こんなにチャート低かったのっ?、ていうのが正直なところ。
 1990年といえば、空前絶後のバンド・ブームもちょっと落ち着いてきて、ユーミン、サザンなど、ベテラン・ミュージシャンらが息を吹き返し、ビッグ・セールスを叩きだしていた頃である。TVドラマやCMの主題歌が幅を利かせ、アニメ『シティー・ハンター』以外、強力なタイアップのなかった岡村ちゃんにとっては、分が悪かった時代でもある。
 というわけで、シングルはまぁ仕方ないとしても、アルバムはもう少しチャート的に健闘していると思っていた。

 もう少し詳しく調べてみると、発売月が11月、各レコード会社は年末商戦に差し掛かる頃である。よほどの知名度がない限り、それほど話題性のない、ましてや若手アーティストを、力を入れてプロモーションするはずもない。強力なヒット・シングルが入ってるわけでもなく、ましてや夜ヒットやMステに出たわけでもないので、宣伝する方もセールス・ポイントが定まらなかったのだろう。

 当時の所属レコード会社であるソニーは、岡村ちゃんに限らず、そういったクセのあるアーティストを多数抱えていた。従来なら、そういった彼らを世に広く知らしめるためには、地道なラジオ局廻りか音楽雑誌媒体しかなかったのだけど、手軽にPV製作ができるようになってからは、映像によるプロモーション展開が可能になった。ただ、日本ではまだスペースシャワーもなかった頃、なのでソニー、自社制作によるPV紹介番組『ez』を深夜帯にオンエアしていた。ゴールデン・タイムではお呼びのかかりづらいソニー系アーティストは、ここを踏み台にして知名度を上げてゆくのが定石だった。岡村ちゃんもデビューしてからしばらくは、そのローテーションの中に組み込まれていた。"だいすき"や"Peach Time"なんて、ここで何度か見たかわからないくらいである。
 よって、当時岡村ちゃんの姿を拝めるメディアは限られており、昼間やゴールデン・タイムに動く姿を見ることは、ほんと稀だった。

no title

 最初に岡村ちゃんの名前を知ったのは、アーティストとしてではなく、渡辺美里のアルバムで作曲家デビューしてのこと。シングルにもなった"Long Night"、今もライブでは重要曲である"Lovin’ You"など、気になった曲のクレジットを見てみると、すべて岡村ちゃん作曲のナンバーだった。
 当時TMネットワークがボチボチ知られつつあった小室哲哉も、主要ブレーンとして深く関わっていたけど、俺としては、まだデビューもしていない、無名の岡村ちゃんの楽曲の方に強く惹かれていた。

 その後、『シティー・ハンター』のエンディングでちょっと名が売れたりもしたけど、これについてはTMの"Get Wild"の方が圧倒的にネーム・バリューが強く、そして後世に伝えられる名曲となった。

 俺が再び興味を抱いたのはもう少し後、セルフ・タイトル『靖幸』、ベスト『早熟』とが続けざまにリリースされた頃だ。"聖書"、"だいすき"と、今でもファンの間では人気の高いキラー・チューンがシングルでも発売され、一般層にも少し知名度が上がってきた頃である。
 この辺で、確か主演映画も撮っていたはず。大してヒットはしなかったけど、「ちょっと変態チックな歌を歌う、ダンスの上手いPrinceフォロワーがいるらしい」という風評は広まった。形はどうあれ、岡村ちゃんのパフォーマンスは人々の記憶に残り、ある者は拒絶反応を示し、そしてある者は熱狂的に虜になった。

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 そして、この『家庭教師』である。
 "どぉなっちゃってんだよ"がリード・シングルとして先行発売され、ラジオで一発目に聴いたとき、マジで衝撃が走ったのを覚えている。車のCMソングにもなった"だいすき"からほんの2年弱、それが"どぉなっちゃってんだよ"になってしまったのである。
 この人はこれからどこへ行こうとしているんだろう、と思いつつ、日本ではまだ馴染みの薄かったファンク・ミュージックを自分流に消化して、「スター」岡村ちゃんへと昇華してゆく様は、20歳前後の男にとっては、暑苦しくってもどかしくってイカ臭くってちょっと女々しい、リアルなメッセージだった。


家庭教師
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1. どぉなっちゃってんだよ
 初っぱなを飾る、これ以上はないというくらい、理想的なオープニング。岡村ちゃんの場合、セルフ・レコーディングが基本であり、ほぼすべての楽器を自分で演奏しているのだけど、どれもプロ顔負けの音を出している。いやもちろん、いわゆるハイ・テクニックなプレイではない。技術的にはアレなのだけど、スタジオ・ミュージシャンがお仕事でやってるような、無表情な音ではない。聴けば一発で、岡村ちゃんだとわかる、非常に記名性の高いサウンドなのだ。特にギター、アコギのカッティング・センスはスゴイ。

「俺なんかもっと頑張ればキット 女なんかジャンジャンモテまくり」

 とにかく、この詞のインパクトが強い。これだけむき出しの欲望を、エロく切実に、しかもポップに表現するアーティストなんて、これ以前も以降もいなかった。エロとポップの微妙なバランスがピタリとかみ合った瞬間、それが『家庭教師』というアルバムの形で残された。
 こうやって詞だけ抜き出して書いてみると、何だかとても間が抜けているのだけど、これが岡村ちゃんのヴォーカルで歌われると、切実な思いが胸に刺さる。
 『モテキ』の挿入歌として、または桜塚やっくんのカバーによって、発表当時よりはも少し知られている曲。



2. カルアミルク
 岡村ちゃんのバラードの中では3本の指に入る名曲。どのカラオケにも必ず入ってるし、岡村ちゃんビギナーにもとっつきやすく、しかも長年のファンの間でも人気のある、幸せな楽曲。
 「ファミコン」「ディスコ」「レンタルのビデオ」「六本木」など、1980年代後半の若者風俗がリアルに窺える、しかしそれでも古く聴こえない、不思議な曲。



3. (E)na
 モロPrince『Parade』『Lovesexy』期のサウンド引用によって作られた曲。イヤ、オマージュ、リスペクトというべきか。
 過去・現在を通して、Princeサウンドのフォロワーは、古今東西数多く出現しているのだけど、この頃の岡村ちゃんはサウンドだけでなく、存在意義・概念までをも体得し、しかもほんの一瞬ではあったけど、オリジナルを凌駕するまでに至った、数少ない一人だったと思う。
 岡村ちゃんのPVの中では、最も好きな曲。やはりPrinceを強く意識したダンスがタップリ見られる。



4. 家庭教師
 全編岡村ちゃん自身によるアコギの弾き語りによる、めっちゃファンキーなナンバー。タイトル・ナンバーながら、アルバムの中では異色の出来という、何だかよくわからない曲なのだけど、岡村ちゃんの暗黒面を露わにした曲と言えばいいのか。
 後半の長い長いモノローグ、感情をむき出しにしたギター・ソロなど、Prince"Crystal Ball"の世界に近いものがある。

5. あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう
 アコギのストロークによるオープニングが、とても気持ちいい。いつもよりレベルの大きい、ノン・エコーのヴォーカル、人工的な少年少女合唱団(風)のコーラスなど、結構遊びの多い曲。展開もめぐるましく、珍しくエフェクターを利かせたギター・ソロ、中盤にマーチング・バンドが入り、またアウトロが妙に長く、ファンクというよりはむしろ、プログレ的展開さえ窺える。
 アルバム・リリース直前に先行発売された当時、ライト・ユーザー対象のメディアでは、タイトルの長さばかりがよく取沙汰されていたけど、もう少しシリアスなメディア(といってもロキノン周辺くらいしかチェックしていなかったが)では、手放しで称賛し、色めき立っていたのを覚えている。それまではむしろ、暑苦しくってもどかしくってイカ臭くってちょっと女々しい、リアルなメッセージの歌詞ばかりが注目されていたのだけど、このアルバム・リリースの前後辺りから、その作り込まれた密室ファンク・サウンドにも注目が集まった。
 やはり『モテキ』で再び注目を浴びた。



6. 祈りの季節
 なんか古臭いサウンドだな、とずっと思ってて、改めて聴き直してみたら、ドラムのエコーがちょっと違和感があった。間奏のMilesっぽいトランペット・ソロはカッコイイと思うのだけど、そこがちょっと惜しい。
 日本の少子高齢化社会を先取りした歌詞はメッセージ性が強いと思われがちだけど、要するにヤリたいだけである。目的を成就するためには、それなりの設定、舞台装置が必要なのだ。

7. ビスケット Love
 再びPrinceテイスト、スカスカなビートボックスから始まるスロウ・ファンク。日本ではまだ一般的でなかった、テンポのゆったりしたネチッこいファンク・サウンドに、これまたネチっこく絡みつくヴォーカルで、ダブル・ミーニング入れまくりの歌詞が乗る。
 イチャイチャするのが好きなんだ好きなのはSEXだけじゃないんだけど君のことがとっても大事でもちろん体だけじゃないんだけどでも…、
でもやっぱり君とSEXがしたいんだ!
 っていうことをエロく、けれど真剣に歌い上げる岡村ちゃん。まさしく岡村ちゃんワールドである。
 実は、この曲の最大の聴きどころは歌が終わってから、終盤アウトロでネチネチと続く、先輩の彼女へのピロー・トーク(?)である。

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8. ステップUP↑
 今度は同じファンクでも正統派、JB風ブラス・バンド入りファンク。「倫社と現国学びたい」というサビがクセになる。さすがに管楽器は岡村ちゃんの手に負えるるものではなく、外部ミュージシャンの起用によって、スタジオ・セッション風の音作りになっているけど、前曲の密室感から一転、開放感に溢れている。

9. ペンション
 ベッタベタなピアノ・バラード。でも日本人でこういったメロディが嫌いな人は、よほどの偏屈者か才能に妬む同業者のどっちかしかいないはず。

 「あだ名から 「さん」づけ呼びへの 距離を測れないだなんて
  ちょっぴり僕より 大人だね ねぇリボン」


 プライドの高い童貞っぽさがプンプン臭う歌詞を書く岡村ちゃんは、とても清々しいのだけど、この曲、その岡村ちゃんエキスがかなり濃く、静かなバラードなのに、最後のアドリブでは絶叫にも近いフェイクを入れている。
 女性シンガーが歌ったら、曲自体の良さはもっと引き立つはず。



 このアルバム・リリース後、それまでの蓄積を出しきったのか、岡村ちゃんはスランプに陥り、次のアルバム『禁じられた生きがい』リリースまで、なんと5年を要することになる。さらにこの後は、アレがこうしてあぁしてと開店休業状態、ここ数年でようやく復活の目途がついた感じとなっている。

 もちろん、現在の岡村ちゃんには、当時ほどキレッキレのイメージはない。才能と人格と感性とを削るような、あの切羽詰まった感覚は、もともと長く持つ類のテンションではないのだ。

 Princeと松田聖子をリスペクトし続けて、ここまでやって来た岡村ちゃん自身にも数多くのフォロワーが生まれ、彼らに助けられたりしながら、少しずつではあるが創作活動を再開している。

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 近作"愛はおしゃれじゃない"のように、積極的に若手フォロワーとコラボしていった方が、良い物を作れると思う。
 いくら気持ちの若い岡村ちゃんでも、もうアラフィフである。普通の50代前後のアーティストなら、自分のスタイルを頑固に貫き通すがあまりファンにソッポを向かれるか、若者に迎合しようとして媚びて取り入ったはいいものの、逆に「ウザい親父」認定されてしまって自爆してしまうか、どちらにしろロクなことはない。

「昔の岡村ちゃんもいいけどさ、いまの岡村ちゃんもスンゴイんだぜ?」とリスペクトする若手たちをアゴでこき使い、手弁当でプロデュースさせ、しまいには共作までやってしまったのが、このシングルである。



 50近くになって、こんな歌を歌える岡村ちゃん、そして歌わせた小出君の功績はデカい。
 結果的に、少しずつではあるけれど、すべては良い方向へ向かいつつあるので、
 無理しない程度にがんばってね、岡村ちゃん。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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