#Acid Jazz

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

アシッド・ジャズの親玉といえば - Working Week 『Working Nights』

folder 以前、「アシッド・ジャズ四天王」というテーマで、ジャンルを代表するアーティスト2組、IncognitoBrand New Heaviesのレビューを書いた。なんとなく思いつきで「四天王」と銘打ってはみたけど、じゃあ残り2組に該当するのは誰なのか、ということを先日真剣に考えてみた。
 名実ともにジャンルを代表し、セールス実績や知名度、「これがアシッド・ジャズだ!!」とビギナーにも紹介できるほどのキャラクター・知名度を伴ったアーティストとして、真っ先に思いついたのがJamroquiだった。まぁこれはどこからも文句は出ないんじゃないかと思われる。ここまでは問題ない。要は最後の1ピースが誰なのか、ということ。

 もともとは90年代に隆盛を極めたジャンルであり、ダンス・ミュージックにカテゴライズされる音楽なので、長く続けてゆくことは難しいとされている。いわゆる「流行りモノ」なので、シングル1、2枚で解散してしまったり契約を切られたり、またはプロデューサー主導によってメンバーの流動が激しく、覆面プロジェクト的なユニットも少なくない。売れなければ即撤収、地道にコツコツ極める音楽ではないのだ。
 なので、アルバムを複数リリースできれば、それだけで充分大御所だし、ましてや前述3組のように活動を維持できてさえいれば、もはや奇跡的な確率とも言える。まぁこれはアシッド・ジャズに限った話ではないけど。

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 そういった厳しい条件をクリアしてきたアーティストとして、該当するのがCoduroyかJames Taylor Quartetという風になるのだけど、正直両名とも、前述3組と比べて大きく格落ちする感は否めない。Coduroyは断続的、JMQはコンスタントなライブ活動を行なっているけど、どちらもレコーディング音源という点においてはしばらく遠ざかっているし、現役感が希薄である。彼ら以外に敢えて挙げるとすれば、精力的な活動を続けているGilles Petersonだけど、彼はアーティストというよりはプロデューサー/オーガナイザー的なポジションであるし、現在の活動はアシッド・ジャズとの関連性は薄い。
 これをもう少し視野を広げ、日本国内に目を向けると、今年に入ってから俄然注目を浴びるようになったサチモス、または開店休業中のモンド・グロッソといったところか。サチモスはアシッド・ジャズのフォーマットにこだわって風はないし、大沢伸一のソロ・プロジェクトとなっているモンドもいつ再開するかわからないし。
 なので、今の時点だと4番目の席は空位となっている。誰かいねぇか、座りたいのは。今なら空いてるよ。

 四天王という括りとはちょっと外れて、その源流、アシッド・ジャズのパイオニアといった位置づけになるのがWorking Weekである。四天王の座争いについては意見が百出するだろうけど、プロローグを創ったのは誰なのか、という点において、この辺はあまり異論は出ないと思われる。
 もうちょっと遡ると、ポスト・パンク~UK発ガレージ・ロックのルーツ的サウンドを展開していたYoung Marble Giants → ジャズ/ラテン/ボサノヴァのエッセンスを加えたネオアコ・バンド Weekendを経たSimon Boothが、そのWeekendの発展形として結成したのが、Working Weekである。WeekendもWorking Weekも他ジャンルのリズムやメロディ進行の導入といったコンセプトは変わらないのだけど、いわゆるロック・バンド編成の域を出なかったWeekendではサウンド・メイキングにおいても限界があり、大きくセールスを伸ばすこともなく、単発プロジェクトに終わってしまう。
 方向性としてはどっちも一緒なのだけど、ネオアコの両巨頭であるOrange JuiceやAztec Cameraと比べてメロディのポップさは少なかったし、正直、Simonのビジョンを具象化するためには、ガレージ・バンドの延長線上では無理があったのだ。
 Weekendを終了させたSimonは、当時のロンドンで最もヒップなクラブ「Electric Ballroom」でヘビロテされていたフュージョン・サウンドに活路を見出し、Larry Stabbins (sax)とJulie Roberts(vo)を固定メンバーに据え、フレキシブルなユニット・スタイルのWorking Week結成へと動く。

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 SimonやGilles Petersonらが注目した70年代末のフュージョン・サウンドは、ハードウェアの進化とシンクロするように勢力を拡大し、80年代初頭には成熟期を迎えていた。由緒正しいオーソドックスなモダン・ジャズは過去の遺物となり、有能で目端の利いたミュージシャンらは、こぞってエレクトリック楽器への転身を図っていた。
 ポピュラー音楽の中での純正ジャズのシェアは大きく目減りして、絶滅危機にさらされた野生動物よろしく、一部のマニアによってどうにか支えられている状態だった。頑なにアコースティックにこだわる者も少なくなかったけど、そんな彼らも古色蒼然とした4ビートでは懐メロの対象にならざるを得ず、生き残ってゆくためにソウル/ファンキーのリズムを取り入れたり、また一周回って新鮮に感じるラテン・テイストを導入したりもした。どちらにせよ、旧来のジャズは場末のライブハウスかレコードの中でしか存在しなかった。ジャズにおいては保守派の多い日本だと、評論家界隈・ジャズ喫茶周辺で息をつける場所はあったけれど。

 で、70年代を通過してきたジャズ・ミュージシャンなら、誰でも1回くらいは通過しているフュージョンだけど、特に日本においては爆発的かつ根強い人気を誇っている。一般的に単調な響きであるアコースティック・ジャズより、電気増幅されたロック寄りのサウンドは耳触りもよく敷居は低い。プレイヤビリティを重んじるジャズをプレイしてきたミュージシャンらが、ロックと同じ機材を使うわけだから、当然アンサンブルの乱れは少なく、インプロやアドリブのパターンだって幅が広い。総じてテクニック的にはおおむねジャズ≧ロックだし。
 理路整然とした超絶プレイや機材スペックなどに強いこだわりと執着心を持つ日本のリスナーにとって、フュージョンというジャンルは親和性が高かった。時代的にソフト&メロウ、ライトなサウンドが嗜好されるようになった80年代に入ってからは、特にその傾向が強まった。

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 70年代後半のロック・シーン自体、現場感覚バリバリのパンク/ニューウェイヴの勃興によって、商業主義に飲み込まれた旧来のロックが、途端に時代遅れのものとされた。プレイヤビリティ重視という点においてはジャズとの共通点も多かった、ロック最後の牙城プログレも、Crimsonの解散 & ディシプリン、Yesの解散 & ロンリーハート、Asia大ヒットなど、時流に乗ってポップ化著しい有様となって、次第に形骸化していった。
 アーカイブ・ブームが到来するまで、旧来ロックにとってはある意味、冬の時代だった。先鋭的なミュージシャンはロック以外の何か、ライトで見栄えの良いフュージョンに手を染めていた。

 ただ、そんな栄華の日々もいつまでも続くはずがない。成功事例のデータベース化が進むと共に、そこには必勝パターンとしてのフォーマットが生まれるようになる。MIDI機材によるサウンドの画一化は、特定のシチュエーション・ユーザーへ向けての工業製品としては優秀だけれど、各アーティストの個性を殺し、記名性を奪う結果となった。
 レコード会社側もReturn to ForeverやWeather Reportの劣化コピー的な製品をアーティスト側に要求し、特に実績のない者へのマウンティングは容赦がなかった。基本、ジャズ方面のミュージシャンだからして、テクニック的には誰でも申し分がない。なので、売れてるグループと同じ楽器を使えば、それなりのクオリティの商品が出来上がってしまう。それぞれのオリジナリティによって、多少の差別化は図れるだろうけど、そんなのも誤差の範囲でしかわからず、営業サイドとしては大きな違いはない。安定した商品供給があれば、それで充分なのだ。商品そのものにエゴは必要ない。むしろジャマなだけだ。

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 ブームの終焉と共に、劣化コピーのさらなる焼き直しでお茶を濁していた連中は、次第に淘汰されるようになる。その後、フュージョンという音楽はテレビ番組のBGMくらいでしか耳にする機会がなくなり、食い詰めた連中はニューエイジやヒーリング・ミュージックなど、スピリチュアルな方面は活路を見出すことになる。彼らにだって生活がある。それはそれで、またひとつの生き方だ。
 生き残った連中は、以前のプログレが通った道をなぞり返すかのように、レコード音源と寸分違わず正確無比なプレイ、それを支えるバカテクのプレイヤー、歌詞カードやジャケット裏にやたらと詳細な機材スペックを乗せるようになる。地味ながらもフュージョンの需要が続く日本では、一部のマニアックなユーザーには歓迎され、細く長く生き続けてゆくことになるのだけれど、それはまた別の話。

 で、そういった表舞台へは出なかったジャズ系プレイヤーの一部は、ポピュラー系のセッション・ミュージシャンとして頭角を現すようになる。末期のSteely Dan、70年代のJoni MitchellやCarole Kingらのアルバムは、ほとんど彼らによって作られたようなものである。ロックの初期衝動ではなく、円熟したテクニックを希求した結果が、彼らをジャズ志向に走らせることになる。
 それらのコラボレーションは多くの奇跡を呼ぶ結果となり、特にSteely Dan『Aja』『Gaucho』はクオリティだけでなく、セールス結果としても充分な成果を残した。Joniもそのまんま、『Mingus』なんてアルバムを制作しているし。まぁ彼女の場合、当時付き合っていたJacoやLee Ritenour、その辺の絡みもあるのだけれど。

 こういった本来の意味での「フュージョン/クロスオーバー」から派生するように、ジャズ・サイドからのアプローチとして、今度はポピュラー側のシンガーをフィーチャーしたトラックを、フュージョン系バンドが制作する、というパターンが生まれてくる。これまでのモード・ジャズ+ジャズ・シンガーという組み合わせではなく、ソウルのフィールドで活躍していたシンガーとスタジオに入り、フュージョンのメソッドでトラックを制作する、という流れである。
 もともとはQuincy Jonesが70年代にMinnie Riperton やLeon Wareをフィーチャーしたアルバムを制作したことに端を発するのだけど、それよりもっとプレイヤー・サイドに重点を置くことで、インストゥルメンタル≧ヴォーカルといったポジショニングが可能となった。仕上がり具合はメロウR&Bと大差はないのだけれど、何よりバックトラックに重点が置かれているので、サウンド的にも厚みがまるで違ってくる。

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 ヴォーカル・トラックの利点として、アルバム構成的にメリハリがつくこともあるけれど、何よりもラジオでのオンエア率が格段に上がる。ジャズ専門局以外にも販路は広がるので、営業サイドとしても売り込みがしやすくなる。
 そんなハイブリットが最も上手くハマったのが、Crusaders & Randy Crawfordの「Street Life」である。
 以前もちょっとだけレビューしてるけど、ジャズとR&Bのクロスオーバーという試みにおいて、最も完成系に近いのがこの曲だと、俺個人的には思っている。フュージョンのヴォーカル・トラックで最良のモノを、という問いかけがあるのなら、これをピックアップする人は多いだろう。もっといい曲があるのなら、それは俺の勉強不足なので、誰か教えて。

 で、クロスオーバーという方法論は、何もジャズ+ソウル/ファンクだけに限ったものではない。アシッド・ジャズの発祥と同調するように、ロックの中でもミクスチャーというムーヴメントが興ったように、それらは同時発生的な現象でもある。
 いわゆるパンク後の旧来ロックの価値観崩壊以降、ロックというフォーマットが不定形,何でもアリの状態となってから、ラウドなサウンドのアンチテーゼとしてのネオアコが生まれ、その潮流の中にいたWeekendの発展的解消の先に、Working Weekは存在する。すっごく乱暴に言ってしまうと、「ロック以外なら何でもいいんだっ」という、旧来の価値観への強烈なアンチという点においては、パンクのイディオムに沿ったものである。

 この方法論を同時期に志向していた一人がJoe Jacksonであり、彼もまたストレートなパンク~ロックンロールでデビューしながら、次第にラテンやジャズのテイストを強めていった。この人ももう少しシャレオツ度が高ければ、Working Weekと同じ路線を辿ったかもしれないけど、彼らとちょっと違ったのは、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックで本格的に楽理を学んできたインテリであり、ロジカルな部分が強かった。体より頭、当然、ダンスに長けているわけではない。そこら辺がちょっと残念でもある。
 で、フィジカルな部分をクローズアップして、リズム面もクラブ・シーン仕様にアップデート、そこにアーバンなシャレオツ感を足して生まれたのが『Working Nights』であり、アシッド・ジャズの始まりとなった、という結論。


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1. Inner City Blues
 ご存じMarvin Gaye『What’s Going On』収録曲のカバー。後期Marvinのナンバーがカバーされる際の共通点として、アレンジはほぼそのまんま、ちょっとモダンにアップデートした程度で、原曲をぶち壊すほどの改変はあまり見られない。それだけ完成度が高いことの証明ではあるけれど、同時に、Marvinナンバーをカバーするアーティストの多くが彼へのリスペクトを包み隠さずにいること。言ってしまえば、誰もがこの世界観に憧れているのだ。
 コンガを多用したソフトで複合的なリズム、ゴージャスなストリングスの多用といい、「もし1984年にMarvinがリ・レコーディングしたとしたら」という仮説のもとに制作された、時空を超えて古びることのないアシッド・ジャズの基本フォーマット。シングルとしては、UK最高93位。



2. Sweet Nothing
 バンド・サウンドにこだわっていたなら絶対作れない、女性ヴォーカルJulie Robertsが情感たっぷり歌い上げるR&Bナンバー。広がりのある楽曲は映像的でもあり、『007』シリーズの劇中歌としても通用するクオリティ。こんな老成したナンバーを、つい数年前までガレージ・ロックを演っていた20代の若造が作ってしまうのだから、英国の底深さよ。

3. Who's Fooling Who
 そう、彼らを源流とするアーティストのひとつにSwing Out Sisterがいたのだった。フラッパーなジャズ・ナンバーは80年代の陰鬱としたゴシック・パンクの対極として位置し、またフェアライトやDX7で安易に作られたポップ・ソングへのアンチとしても機能する。
 Working Weekのジャズ的要素をポップに展開したのがSwing Out Sisterであり、R&B的な解釈を強調したその先に、Sadeがいる。

4. Thought I'd Never See You Again
 ラテンのビッグ・バンド、往年のボールルームを想起させる、こちらもタイムスリップしたかのような錯覚に陥るナンバー。狭義のアシッド・ジャズとは外れてラテン色が強く、長いアウトロでのホーン・セクションのインパクトが強い。ファンキーなだけじゃない、スウィングすることも大事だよ、と教えてくれるグルーヴィー・チューン。UK最高80位をマーク。

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5. Autumn Boy
 再びラテンが続く。テンポを落とし、グッと聴かせるスロウ・ナンバー。アーバンでトレンディな空間演出にはピッタリ。いや皮肉じゃなくて。
もう一人のメンバーであるLarry Stabbinsのソプラノ・サックスがまた哀愁を誘うトーンで、それでいてどこかドライな視点を忘れずにいるのが、時代に消費されずにいる証拠だろう。これがもっとウェットだと、Kenny Gみたいに下世話になってしまう。

6. Solo
 カリプソのテイストを加えたリズムは、踊りよりむしろ幕間の休息を強いる。そこに躍動感は必要ない。汗を冷やし、そして身体は火照る。Julieの歌声はダンスフロアの嬌声を鎮める効果を放つ。

7. Venceremos
 すべては、ここから始まった。
 ここでヴォーカルを取るのはRobert Wyatt、Claudia Figueroa、Tracey Thornの3人。Claudiaのことはよく知らないけど、プログレ・バンドSoft Machineのメンバーとして、俺的にはElvis Costello 「Shipbuilding」のオリジネイターとして有名なWyatt、そして伝説のインディーズ・レーベル、ブランコ・イ・ネグロの歌姫として、Everything But the Girlで活動していたTraceyが、下世話な話だけどノーギャラで参加している。
 スペイン語で「我々は勝利する」というこの言葉は、1973年、軍事政権下のチリで弾圧された末に射殺された反政府派のシンガー・ソングライターVictor Jaraのプロテスト・ソングと同名異曲で彼に捧げられている。まだWorking Week結成前のSimonによるレコーディング・プロジェクトに賛同したミュージシャンの中に、その3名のヴォーカリストがいた。ただのシャレオツなポップ・ソングじゃないところが、80年代UKの隠れた闇の一面でもある。伊達にパンクを通過してきた連中ではないのだ。
 何の後ろ盾もなかったプロジェクトにもかかわらず、クラブ・シーンでのヘビロテが草の根的に広まり、最終的にはUK最高64位をマーク。手ごたえを掴んだSimonは本格的なプロジェクト結成へ動くこととなる。



8. No Cure No Pay
 ラストはエピローグ的なインスト・ナンバー。華麗なるショウの一夜も終わり、新たな週末の夜が来るまで、ダンスと音楽はおあずけ。週明けからは、また仕事の始まりだ。



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アシッド・ジャズ界四天王の一人、重鎮担当 - Incognito 『Amplified Soul』

folder 2014年にリリースされた、なんと通算16枚目のオリジナル・アルバム。
 ちょっと中途半端な区切りだけど、この年が結成35周年のアニバーサリーとなるため、アルバム・プロモーションも兼ねて大々的な世界ツアーを行なっている。結構な大所帯にもかかわらず、全世界を股にかけてマメにドサ周りしている印象なのだけど、今の時代、パッケージ・メディアも含めた音源自体が売れない時代なので、店頭に置いて買ってもらうのを待っているよりは、アーティスト側が自ら現地に出向いてライブ・パフォーマンスを行なった方が、よっぽど見入りが良い。そういった傾向は全世界的な流れなので、こういった場合、すでに知名度を確立しちゃってるライブ・バンドは強い。地道な努力が直接実を結ぶので、彼等にとってはいい時代である。
 実はこのバンド、30周年を迎えた時もアニバーサリー的なアルバムをリリースしており、その記念作『Transatlantic R.P.M.』はChaka KhanやLeon Wareなど豪華ゲストを迎えてコラボレートした、オールド・ソウル/ファンク好きのユーザーにとってはたまらない内容だった。何かと理由をこじつけて大騒ぎするのはオメデタイ気もするけど、もともとの音楽性にラテンも含まれているため、そういったのもアリなんじゃね?とも思ってしまう。

 その創立35周年記念ということだけど、70年代末から活動を開始したUKジャズ・ファンク・バンドLight of the Worldがメジャー・デビューにあたってIncognitoに改名、1981年からキャリアがスタートする。デビュー・アルバムのタイトルはそのまんま『Jazz Funk』。直截的なタイトルから硬派で理屈っぽいフュージョン系のディープ・ファンクが想像されるけど、試しに聴いてみると何のことはない、今のIncognitoにも通ずるチャラいフュージョンである。ヴォーカルレスのため色気はないけど、ファンクの「ファ」の字もないライト&メロウなサウンドは、これはこれでアシッド・ジャズのルーツと言ってもいいくらい。
 ただ、当時はフュージョン自体が下火になりつつあり、スムース・ジャズ的な軽いサウンドはセールス的に目立った成果を上げることができなかった。最初から単発だったのか、それとも契約更新できなかったどうかは不明だけど、その後Talkin Loudと契約してアシッド・ジャズ・ムーヴメントの中核を担うに至るまでは、ほぼ10年のブランクがある。
 その10年の間、彼らがどのような活動を行なっていたのかは、俺の勉強不足もあるけどちょっと不明。その辺を突っ込んだレビューや記事を見たことがないので、誰か詳しい人教えて。

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 そんな空白期間を抜くと、それでも堂々と実質25年。まぁこっちの方がちょうど四半世紀でキレがいい感じもする。で、その中でほぼ1〜2年のペースで16枚もの新作アルバムをリリースし、それにベストだのリミックス・アルバムだのライブ・アルバムだのが加わるので、何かと忘れようがない。お歳暮とお中元を欠かさず寄越す律儀な親戚のような人たちである。
 とにかくアイテム数がめちゃめちゃ多いバンドなので、すべてを把握するのは不可能に近い。アルバムだけならまだしも、シングルのミックス違いや各国ヴァージョン違いにまで手を出したら、それこそキリがない。多分、自分らでも正確に把握してないんじゃないかと思われる。
 バンドとは言っても半分プロジェクト的な緩いメンバー構成のため、ミュージシャンやヴォーカリストらの負担はそれ相応にあるだろうけど、incognito の創設メンバーであり司令塔のMatt Cooper (key)とJean-Paul 'Bluey' Maunick (g)、実質彼ら2人がIncognitoそのものであり、この四半世紀はずっと働きっぱなしである。先に挙げたレコーディング作業に付け加え、さらにリリースごとにワールド・ワイド・レベルのツアーを行なうのだから、いつ休んでるの時給換算したらどうなっちゃってるの、とこちらが心配になってしまう。いや、多分こういう人たちって、きちんと節目ごとに長期バカンスを取ってリフレッシュし、プロジェクト開始と共に馬車馬の如くハード・ワークをこなすスタイルを作り上げているのだろう。じゃないと、ここまで長続きはしない。

 ただ結成30周年を迎えた辺りから、音楽的にも気持ち的にも何となくひと区切りついちゃったのか、Incognito 本体の活動ペースとはまた別にこの2人、Citrus Sunという別プロジェクトも始めちゃったりしている。リズム隊はほぼIncognito そのまんま、サウンド・コンセプトも「ちょっとメロウさを強めた70年代ソウル/ファンク/ジャズ/ラテンをベースにしたクラブ・ミュージック」といった具合なので、「Incognitoと何が違うのか?」と突っ込まれちゃうと、本人たちとしても「名前が違うだろ!」と半ばキレ気味に開き直るくらいしかないのだけど、あながち間違ってはいない。それって結構大事なことで。
 Incognitoクラスのバンドになると、その周りでサポートするスタッフやブレーンの数がハンパなく、もはやひとつの会社みたいなものになっちゃってるので、メンバーの独断だけで行動することが難しくなる。根拠のない新機軸は制止されるし、何かひとつアクションを起こすにも、会議やミーティング・稟議のやり取りというワン・クッションによって、フットワークは重くなる。
 クリエイティヴな作業をメインとしたアーティストとは相反する存在の彼らではあるけれど、ある程度メジャーになった海外アーティストにとって、周辺雑務をクリアにしてくれるエージェントの存在は必要不可欠である。彼らのような存在がいるからこそ、バンドはクリエイティブな作業に専念できるし、アニバーサリーごとの大規模イベントも滞りなく行なえる。それは理屈ではわかってはいるのだけど、時にそれがウザったく思えてすべてを投げ出したくなってしまうのも、またアーティストの性でもある。
 なので、時々こうやってIncognitoの看板をはずし、ちょっとしたガス抜き、友人を交えた気ままなセッション・バンドといった趣きでCitrus Sunは断続的に活動している。下手にセールスを上げてしまうとまためんどくさくなるので、言うなれば大っぴらな税金対策、セールスのプレッシャーから解放されて気ままな演奏を楽しむメンバーらがそこにいる。

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 で、このアシッド・ジャズ、基本は90年代を中心として広まったジャンルであり、さほど深い歴史はない。深さもそうだけど幅の広さもそれほどではなく、極端な話、アシッド・ジャズの2大巨頭であるIncognitoとJamiroquai 、それと前回レビューしたBrand New Heaviesを押さえてしまえば、このジャンルのおおよその概要は掴めてしまう。もうちょっとディープなエリアに踏み込むと、James Taylor QuartetやCorduroyなんかが後に続くわけだけど、そこまで深く掘り下げずに他のジャンルへ移行してしまう人の多いこと。ていうか、それが俺だけど。
 2大巨頭プラスワンの3組はそれなりにキャラも立っており、実際シングル・ヒットも多いのだけど、彼ら以外のアーティストになると、急に格落ちというか、ちょっと薄すぎて物足りなく感じてしまうことが多い。特にアシッド・ジャズの中でもサウンドに力を入れたインスト率の高いアーティストの場合、変にシャレオツに偏り過ぎてカクテル・ジャズみたいになってしまい、これなら本物のモダン・ジャズを聴く方がよっぽどいい、ということになってしまう。そんなフヌケたBGMを聴くのなら、もっとプレイヤビリティにこだわったジャズ・ファンクの方にシンパシーを感じてしまい、早々にアシッド・ジャズから足を洗っちゃう人も多い。ていうか、それも俺だけど。

 そんな経緯もあった俺の中で、アシッド・ジャズというのはいわゆるプラットホーム的なもの、そこを入り口として様々なジャンルへ向かう「通過点的なジャンル」だと勝手に理解している。雑多なジャンルの複合有機体として誕生したアシッド・ジャズ、その音楽性はあらゆる可能性を内包しており、ある意味過去の遺産へのリスペクトやオマージュが色濃く反映されている音楽である。
 そうしたアーティストらの強い想いに呼応して、彼らのルーツであるオールド・ファンクや60〜70年代のソウル・ジャズ、ラテンやレゲエへ遡り、さらにディープなレアグルーヴの広大な裾野に足を踏み入れた人も多いはず。これがダンスビートの方に興味が行くと、これまた広大な大平原となるヒップホップ方面へ向かうことになるのだけど、俺はそっちへは行かなかった。まぁそれこそ、人それぞれ。


Amplified Soul
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1. AMPLIFY MY SOUL (PART 1) 
 エロティック・ソウルのオリジネイター Marvin Gayeへの熱烈なオマージュ。あまり尾を引くとクドくなるので、サラッと3分弱でまとめている。プロローグで見せる引きの美学。

2. I COULDN’T LOVE YOU MORE 
 近作で重宝されることの多いVanessa Haynes がリードを務めるアシッド・ジャズの定番フォーマット的ナンバー。ちょっとハスキーなシルキー・ヴォイスは殿方の官能を刺激する、ってなんか安手のコピーだなこれじゃ。Incognito にはそういった下世話さがいい意味で似合う。ここぞとばかりに張り切る間奏のBlueyのナチュラル・トーンのギターはDavid T.Walkerを彷彿とさせる。

3. RAPTURE 
 ギターのカッティングがややファンキーだけど、ファンクと言い切ってしまうほど濃くはない。なんでも「ほどほど」がアシッド・ジャズの持ち味なのだ。
 ここ2作ではお休みしていた歌姫Imaani が復帰、若々しくグルーヴィーなヴォーカルを披露。UKだとこのタイプのシンガーって多いんだろうけど、きちんと記名性の高いヴォーカルをキープできるのは、やはりバンドのネーム・バリューと高い音楽性の賜物。

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4. HANDS UP IF YOU WANNA BE LOVED 
 今回初参加となるKatie Leone がリードを務めるマイナー・タッチのR&Bナンバー。Chaka Khanタイプのファンキー・ディーヴァは新参者にもかかわらず、グイグイバンドを引っ張っている。Blueyが太鼓判を押すのもわかる激情ヴォーカルは、案外しっくりサウンドに溶け込んでいる。

5. HATS (MAKES ME WANNA HOLLER)  
 誰が聴いてもわかるように、Pharrell Williams “Happy” を連想してしまう、軽快なモータウン・ポップ。ここまでストレートにやっちゃうと、逆に爽快ささえ感じてしまう。ここ最近はSadeのツアーでしばらく欠席していた男性ヴォーカルTony Momrelle が久々に復帰、Pharrellにも勝るとも劣らぬチャラさを披露している。そうだよな、まさかあのSadeの前でこんなはっちゃけた姿、見せられないもんな。



6. SILVER SHADOW 
 再びVanessa 登場。このアルバムでは唯一のカバー曲、1985年リリース、80年代モータウンを代表するグループAtlantic Starrのシングルで、UKでは最高41位の中ヒット。イイ感じに微妙なチャート・アクションのナンバーを持ってくるところあたりが彼ららしい。原曲が80年代特有のシンセ・ドラムまみれの軽いポップ・チューンだったのに対し、ここでは生演奏スタイルによってサウンドに厚みが増し、軽くオリジナルを凌駕している。



7. DEEPER STILL 
 ここにきてかなりジャジーなテイストのアーバンなスロー・ナンバー。Erykah Baduを彷彿させるヴォーカルは若干22歳、今回が初参加の Chiara Hunter。ていうか音源デビューはこれが初。こんな逸材がワラワラ集ってきて、その中から秀でた者をピックアップするのだから、オーディションだけでも大変そう。売り込みだっていっぱいあるだろうしね。
 そういった激戦を勝ち抜いて来ているので、実力は言わんと知れている。まぁ若いからだろうけど、もうちょっと場数を踏めば、もっと持ち味を活かせるんじゃないかと思えてしまう、可能性を感じさせる1曲。

8. AMPLIFY MY SOUL (PART 2) 
 第2章を告げるインスト・ナンバーはメロウなサキソフォンの調べ。なんかこう、Incognitoにはこういったトレンディな言い回しが似合う。ていうか俺がそんな気分になってしまう。ある程度以上の年齢層に向けて、ピンポイントで魅了してしまう色気があるのがこの人たち。

9. SOMETHING ‘BOUT JULY
 再びTony登場。先ほどはちょっとオチャラケ気味だったけど、ここでは本来の持ち味を活かしたオーソドックスなAOR風味のソウル・ナンバー。モダンジャズ・テイストの濃いシングル・ノートのピアノがジャジーさを与えている。ここはコンポーザーとして地味な役割だったMattがここぞとばかりにセンスを披露している。
 でも6分はちょっと長いかな。4分程度に収めたら、もっとタイトに仕上がったんじゃないかと思う。

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10. DAY OR NIGHT
 KatieによるIncognitoらしいミドル・テンポのジャジー・テイスト・ナンバー。歌いこなすのは結構難しい曲なのだけど、これをきちんと自分のモノとしてしまうこと、またこういったハイレベルな楽曲を彼女に委ねていることから、今後のIncognitoの中枢を担うヴォ―カリストとして認められてることがわかる。

11. WIND SORCERESS
 70分超のアルバムのため、LPで換算すると、この辺が折り返し、2枚組アルバムの1枚目が終わる頃。そういった計算でここに配置されたと思われるインスト・ナンバー。夕暮れの海沿いを思わせるトランペットの響きはメインストリーム・ジャズそのもの。俺的にはこういったトランペット・ソロはすべて「金曜ロードショー」のオープニングを連想してしまう。

12. ANOTHER WAY
 ここに来てやっと登場、Blueyと共にIncognitoを象徴する歌姫Carleen Andersonによるソウルフルなナンバー。ここまであらゆるヴォーカルが入れ代わり立ち代わりでニュー・タイプのIncognitoを彩っていたけど、やはりこの人が歌うだけで、バンドのレベルがグンっと上がる。もはやアシッド・ジャズと呼ぶこともできない、正当なソウル・スタンダード。たった4分、たった4分しかないのが惜しまれる。あぁもっと聴いていたいのに。



13. I SEE THE SUN
 初参加 Deborah Bondによる90年代Incognitoを彷彿とさせるR&Bナンバー。もともとソロでも2枚のアルバムを出しているため、それなりに実績はある。ただ、このメンツの中ではちょっとヴォーカルは弱いかな。ここで急に厳しい目線になるけど、こここはDeborahじゃないと、というパーソナリティが浮かび上がって来ないのだ。多分、彼女じゃなくてもそれなりに歌いこなせてしまいそうな曲だしね。
 もしかしてこれから重宝されるかもしれないので、単なる選曲ミスと思っておこう。

14. NEVER KNOWN A LOVE LIKE THIS
 これもIncognitoとしては手癖で作られたような、ほんと「らしい」曲なのだけど、ここは珍しくデュエット・ナンバー、TonyとVanessaによる掛け合いが絶妙。サビのベタな転調でも、長いことやってる2人、バンドのツボを心得たようなヴォーカライズを聴かせている。ちょっとラテンが入ってるのもまた官能を刺激する感じでグッド。



15. THE HANDS OF TIME
  引き続きVanessaのソロ。すっかりIncognitoで自分のポジションを築いてしまった彼女、やはりオイシイ曲は彼女に回ってくる。決して美声ではないけれど、その声の揺れがまたバンド・サウンドにうまくフィットするのだろう。歌のうまさは人並みだけど、どこか聴く者、プレイヤーの感情にダイレクトに響く性質とエモーションを内包している。やはりテクニックだけでは人を感動には導けないのだ。百戦錬磨のBlueyとMattにはその辺がよくわかっている。

16. STOP RUNNING AWAY
 ラストはなんとBlueyによるオーセンティックなソウル・ナンバー。「細い声質のソウル・シンガーはすべてCurtis Mayfieldになってしまう」という、俺の勝手な法則通り、彼もまた適所にファルセットを多用している。ほんとはMarvinになりたかったんだろうな、きっと。でもコンポーザー的資質の方が勝っていたため、本格的なシンガーにはなれなかったけど、ここはちょっとした特権乱用ということで。



 アシッド・ジャズ界四天王のうち、Jamiroquaiはパーリーピーポー担当、Brand New Heaviesはクラブ担当というイメージ。じゃあ最後の黒幕は誰なのかと言えば、ちょっと思いつかなかった。誰か勝手に埋めてくれたらありがたい。


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チャラいと思われてるアシッド・ジャズの中では男臭い方 - Brand New Heavies 『Forward』

folder 2013年リリース、オリジナルとしては多分6枚目か7枚目かのアルバム。結成されたのは1985年だけど、アシッド・ジャズの名門その名も「Acid Jazz」レーベルからデビューしたのが1990年なので、キャリアとしてはそれほど長いわけではない。
 なのに、なんでこんな曖昧なカウントになるのかと言うと、USとUKとで収録曲が違っていたりリミックス盤がリリースされていたりで、その辺がどうもはっきりしない。それに加えてヒップホップ・アーティストとのコラボものやライブ・アルバム、まぁこの辺はいいとしても、やたらとベスト盤が多いのもディスコグラフィを混乱させている要因である。しかもここに来日記念盤として、日本独自規格のアイテムもあったりする。
 それだけ粗製乱造寸前のリリース状況にもかかわらずこの『Forward』、前回のオリジナル・アルバム『Get Usedto It』から7年のインターバルがある。それだけニーズがあってのリリース・ラッシュという見方もできるけど、その辺は実のところそう簡単でもなく、何やら契約のトラブルによって、思うようなリリース計画が立てられなかった事情もあるらしい。その辺にケリがつくまでは、大人同士のキナ臭い取り引きもあったんじゃないかと思われるけど、それについてはこのインタビューでもある程度語られている。何かと複雑な経緯があったらしく、ここでも慎重に言葉を選んではいるけど、ほとんどの作詞・作曲を手掛けるリーダー兼コンポーザーのAndrew Levyが、その辺をできるだけ正直に語っている。
 まぁいろいろめんどくさい事情が絡んではいたのは察せられるけど、そういった権利関係をどうにかクリアして、久し振りにリリースされたのが、これ。この後はリリース関係も活発化して、コンスタントなリリースを続けている。

 「1980年代にイギリスのクラブシーンから派生したジャズの文化。ジャズ・ファンクやソウル・ジャズ等の影響を受けた音楽のジャンル」というのが、wikiから丸々コピペしたアシッド・ジャズの定義。代表的なアーティストとして、JamiroquaiとIncognitoがこのジャンルの2大巨頭として永く君臨しており、そこからちょっと遅れたところで後塵を拝しているのが、このBrand New Heaviesといった具合。彼らの後に続くのがJames Taylor Quartet やCorduroyらで、ここら辺から一気に小粒になる。
 ジャンル発祥から四半世紀が過ぎようというのに、未だ創成期のレジェンド達を超える存在が出てこない、ジャンルのピークが90年代でMAXに達してしまい、サウンドの進歩があまり見られないことも、イマイチ伸び悩みの要因でもある。
 21世紀に入ってからもSnowboy やOmarらの新世代がシーンの活性化を図っており、実際ファン層も拡大しているのだけれど、反面、彼ら自身はアシッド・ジャズにそれほど強い執着は無さそうにも感じられる。何も好きこのんで斜陽気味のジャンルに義理立てする必要もないし、逆にこだわり過ぎて小さくまとまってしまうのもつまらない。
 レコード会社サイドからすれば、何がしかのジャンル付けを行なわないとプロモーションがめんどくさくなるし、一時の勢いはないとはいえ、過去の実績と根強いニッチなニーズを考慮すると、大きな爆発力はないけど、確実な収益を見込めるジャンルであることは間違いない。なので、レジェンド枠のアーティストらはいつまでもアシッド・ジャズにカテゴライズされ続けることになる。アーティスト・サイドとしても、そういった看板の方が食いっぱぐれが少ないので、まぁいつも通りといった具合になる。

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 逆に言えばこのジャンル、あまり大幅な構造改革は歓迎されない傾向にある。どのバンドも基本、ヴォーカル&インストゥルメンタルといった構成なのだけど、アルバムごと曲ごとにヴォーカルが変わることも多いため、一見自由な音楽性として捉えられがちだけど、前述した定義のフォーマットを大きく逸脱することは、ほとんどない。一応、時代に即した音作りとして、流行りのエッセンスを入れることもなくはないけど、基本は「アーバンでトレンディでハイソサエティな世界」、独り暮らしの高層マンションや深夜のドライブのカーステが似合う世界観は変わらない。
 なのでこのアシッド・ジャズ、サウンドの基本フォーマットはライトな70年代ファンク&ソウルとファンキー・ジャズの程よいミックス、と相場が決まっている。有名無名を問わず、多くのアーティストはその配合比率の微妙な違いのみ、キャリアを通してもほぼ一貫した音楽性を維持している。他のジャンルだと、バンドの技術スキルや音楽性の変化に伴って、デビュー時と最新作とではまったく別物になっている場合も多いのに、このジャンルにおいては、はっきり言って新旧それほどの差は感じられない。そりゃ90年代の全盛期と現在とでは取り巻く環境も違うけど、ベーシックな部分は盤石である。ある意味、すでに完成され尽くしたジャンルとも言える。
 近年のジャズ・ファンクにも同じことが言えるのだけど、もともと高い演奏スキルが要求されるジャンルのため、基本、プレイヤビリティに長けた敏腕プレイヤーらが自然と集まることになる。もともとライブで演奏するのが好きな連中がほとんどなため、音楽性の進化なんて小難しいことは考えず、とにかく好きなプレイができてりゃそれでオッケーさ、というアーティストが多い。

 なんかこう書いてると、アシッド・ジャズとはほんと行き詰まりのジャンルのように思われそうだけど、それでも新陳代謝は図られているし、実際根強いニーズはある。カップ・ヌードルのCMにまで登場したJamiroquaiはお茶の間での認知度は上がったし、IncognitoなんてVenturesとタメを張るくらい、何かにつけしょっちゅう来日している。FMやテレビでのムーディーなBGMにおいても需要が高く、ちょっとシャレオツなショップやサロンにおいてもインテリアの一部として機能する、汎用性の高い音楽である。前述のアーバンでトレンディな空間演出には格好のアイテムでもある。
 なので、ある程度使用される空間が限定される分だけ、ちょっと損してるきらいはある。はっきり言ってしまえばバブリーな、チャラい印象が先立ってしまうジャンルである。先入観さえ抜いてしまえば、高い音楽性に裏づけされている完成度の高い音楽だというのに。

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 で、このBrand New Heavies、アシッド・ジャズの中では代表的ではあるのだけど、バンド・サウンドのベクトルが強いため、二大巨頭とは方向性がちょっと違っている。極端な話、ヴォーカルを入れなくても成立するトラックも多く、サウンドだけ取り出すと「ファンク成分多めのジャズ・ファンク」といったスタイルである。
 そもそもの成り立ちがインスト・ファンク・バンドとしてスタートし、メジャー・デビューにあたって女性ヴォーカルN'Dea Davenportが加入したといういきさつなので、よくある「サウンド・クリエイター+女性ヴォーカル」という構図とは微妙に違っている。バンド・サウンドを前提として楽曲が構成されているので、いわゆるウワモノであるヴォーカルをいろいろ変えても、根本的なところはほとんど揺るがない。アシッド・ジャズの常道であるソウルフルなヴォーカルにこだわらず、ヒップホップ/ラップ系のアーティストとも積極的にコラボしていたりするところが、他のアシッド・ジャズとの差別化となっており、ジャンルに収まらない活動を行なっている。
 まぁそれがすべてうまくハマっているわけでもなく、新機軸がイマイチ馴染まない時はN'Deaを呼び戻したりなど、それなりに試行錯誤しているようである。安定したバンド運営だけを考えるのなら、彼女固定で活動すればよいものの、きっとそういった路線だけでは彼らのアーティスト・エゴは満たされないのだろう。
 そういった意味で、Brand New Heaviesはアシッド・ジャズの範疇に収まらないバンドである。


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1. Forward
 ややオリエンタルなテイストなキーボード・ソロと、軽く心地よいリズムとの対比が絶妙なインスト・ナンバー。ただ心地よいだけじゃなく、構成的にもメリハリがあるので、飽きが来ない。こういうのってどこかで聴いたような…、そう、YMOだった。

2. Sunlight
 ここでディーヴァN'Dea登場。冒頭のハミングだけで、バンドの雰囲気を一変させる。そう、ここは輝かしかった90年代。サビに向かうに従って徐々に盛り上がりを見せるカノン・コードは日本人的にもめちゃめちゃシックリ来る。演奏陣もまた、時たま見せる白玉コード、荘厳かつリズミカルなストリングス、チャラいホーン・セクション.どれを取っても王道アシッド・ジャズ。下手な小細工も入れず、高らかに復活をアピールしている。



3. Do You Remember
 多彩なサウンドを展開するBrand New Heavies、今度は一気に80年代、プレ・ユーロビートな世界へ跳ぶ。ドラムは軽く、シンセ・ベースも当然軽い。すべての音はきちんと鳴ってるはずなのに、まるでここだけリマスターしていない80年代のCDのような響き。でもそこがStock Aitken Waterman的なレトロ・フューチャー。
 再びヴォーカルはN’Deaだけど、こういったライトなダンス・チューンも普通に歌いこなしてしまうのが、この人の味。

4. On The On
 と、ここでリズムのボトムが一気にグッと下がる。ここでのヴォーカルはドラムのJan Kincaid。正直、そんな上手いわけでもなく、さりとて味があるわけでもないまぁやりたかったんだろうね。正直、バック・ヴォーカルのDawn Josephがメインで歌った方がいいんじゃないかと思ってしまうのだけど、まぁやりたかったんだろうね。

5. A Little Funk In Your Pocket
 で、そのDawnがメインとなる、いい感じのアシッド・ジャズ直球ナンバー。レゲエを基本リズムにファンキーで泥臭いギターがミスマッチ感を煽っているけど、これはこれでうまくハマっている。やっぱりサウンド・デザインがしっかりしてるから、ちょっとハズした音でも受け止めちゃうんだよな、きっと。

6. Addicted
 一時期、FMのパワー・プレイとして流れまくったキラー・チューン。クレバーかつホットさを秘めたN’Deaのセクシーなヴォーカル。メロディ・パターンもほぼ固定、サビも大きな盛り上がりはないのだけど、これほどクールなダンス・チューンは久しぶり。やればできるじゃん。まぁすったもんだでできなかったんだけど。



7. Lifestyle
 再びDawn。ここまで聴いてみて、歌い上げるグルーヴ・チューンをN’Deaに、リズムの強いダンス・チューンを彼女に振り分けているみたいだけど、その辺は長い経験の上でいい判断なんじゃないかと思われる。Dawnの場合、そのハスキーさがライトなリズムとの親和性は高いのだけど、ある意味アシッド・ジャズのフォーマットとしてはやや定石をはずしている。ただ、「それでも俺たちがやりゃ全部Brand New Heaviesさ」とでも言いたげに、様々な挑戦を行なっている。

8. Itzine
 ドス黒いスラップ・ベースを前面に押し出した、ミドル・テンポのインスト・ファンク。ギターが入ると途端にフュージョンっぽくなってしまうのはご愛敬。ここは鉄壁のリズム・セクションの独壇場。ボトムがしっかりしているので、どうやっても上物のメロディが引き立つ仕組み。ホーン・セクションはアシッド・ジャズ・オールスターズ・プロジェクトSound Stylisticsからの絡みで参加しているので、そりゃもう手慣れたもの。
いわゆるスタジオ・セッション的なナンバーだけど、こんなのいくらでもできるんだろうな。

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9. The Way It Goes
 再びJan登場。ここで一気にガレージ・ロック的な空気になるのだけど、独特のコード進行にほどほどにファンキーなホーン・セクション、強いリズム・セクション。そう、この空間はSteely Dan。どうりで俺、居心地がいいはずだ。ほんといい意味でも悪い意味でも、Steely Danの新作といった趣き。俺的には好きな世界だけど、アシッド・ジャズ的には賛否両論だろうな。

10. Lights
 俺的にこのアルバムのキラー・チューン。演奏陣とDawnとの拮抗したセッションが一番堪能できるのがこのトラック。ややおフレンチが入ってるところもツボ。地味なんだけどクセになる。それこそがアシッド・ジャズの本質でもある。チャラくてキラキラしてるだけじゃないんだよ。



11. Turn The Music Up
 本編エピローグ的なインスト・ナンバー。と言いたいところだけど、Manhattan Transfer的にN’DeaとギターのSimon Bartholomewによるコーラスが入る。もしかして、メロディがうまく乗らなくて、こういった形でリリースしたんじゃないかと思ってしまうくらい、それほどキャッチーなナンバー。でも、これはこれでいいのかな。中途半端なメロディを乗せても、確かにこの享楽的な世界は壊れてしまうかも。

12. Heaven
 さて、ここからは男の世界。キラキラした本編が終わり、ここからは男性ヴォーカルが3連発。本来ならN'Deaが歌いそうなところを、なぜかコーラスから何から男性で固めている。なので、どこかデモ・テープ的にも聴こえてしまう。歌いたかったのかな?

13. Spice Of Life
 ここではさらにパブリック・イメージからかけ離れ、お子ちゃまの掛け声からスタートする、チープなリズム・ボックスを模したニュー・ウェイヴ的なナンバー。お遊び的なところを狙ってるのか、ここでのヴォーカルはギターのSimon。まるで脱力系オルタナのようなガレージ・サウンドは、まぁ真剣に取らない方が良い。

14. One More For The Road
 ラストは荘厳としたストリングスからスタート、ラウンジっぽいリズムとホーンがムードたっぷり。男性ヴォーカル・パートでは多分、これが一番じゃないかと思われる。Janのヴォーカルは決してうまくはないけど、ゆったりした横揺れリズムと脱力感とがうまくマッチしており、独特の世界を創り出している。
 気分はウエスト・コースト。70~80年代のAORが好きな人ならおススメ。



 アシッド・ジャズについてはもうちょっと書いておきたいので、続きは次回、Incognitoで。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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