好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

俺(殿下)が思うところのロック - Prince 『Chaos And Disorder』

folder 1996年リリース、殿下にとって18枚目のオリジナル・アルバム。そして、18年に渡って在籍してきたワーナーでの最後のアルバムでもある。
 チャート的にはUS23位UK14位、どの国でもゴールド・プラチナ認定さえされていない。なので、実売数は相当低かったかと思われる。まぁ言っちゃえば、契約消化のために作られたアルバムなので、売れようが売れまいが、どっちでもよかったんだろうな、お互いに。
 逆に、これが下手にバカ売れして、しかもやたら絶賛されて名盤扱いにでもされちゃったりすると、それはそれでまためんどくさくなる。取り敢えず「契約履行のために出しましたよ」的な既成事実さえあれば、ワーナーも殿下もwin-winだったわけで。「ファンがどう思おうが知ったこっちゃない」的な裏事情が当時から囁かれていたため、やっつけ仕事的に雑なな扱いをされている、実はとてもかわいそうなアルバムでもある。

 まともなプロモーションもなければ、ツアーもなし。強いて言えば「ワーナー最後のアルバム」というのが唯一の売り文句であり、誰もまともにプッシュしようとしなかった。しかも、当事者であるはずの殿下の心は、リリース前からすでに別の方を向いていた。
 『Chaos And Disorder』がリリースされたのが7月で、そしてほぼ間を空けることなく、11月には怒涛の3枚組『Emancipation』 がリリースされている。「解放」というタイトル、呪縛から解き放たれたことを露骨に出したジャケット・デザインといい、やたらハイになった殿下がここにはいる。よほど嬉しかったのか、異例のプロモーション来日までしてしまうくらいだし、内容的にもやたらポジティヴな楽曲が多い。リリース当初、「これを作るために生まれてきた」と言わしめたくらいだから、その気張りようが窺える。
 でもね、殿下って大風呂敷広げることはしょっちゅうだけど、畳むことまで気が回らないんだよね。NPGのネット配信スタートした時もそうだったけど、始めるまでが一番テンション高いんだよな。そんなだから、長く続かずすぐ覚めちゃうし。

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 よくわからないうちに副社長として持ち上げられたり、リリース・ペースを抑えられたり、何かと不満の多かったワーナー時代だったけど、変に情に流されないビジネスマンらの抑止力によって、殿下のアーティスト・ブランドが護られていたこと、乱発によって時価総額の低下を防いでいたことも、また事実である。「ある程度、制約を設けた方が名作が生まれる」というのはよく聞く話で、逆にリミッターがはずれてやりたい放題振る舞った挙句、駄作となってしまうのも、これまたよくある話で。
 なので、ワーナー離脱以降の殿下。
 誤解を恐れずに言っちゃうと、結構な数の駄作を連発している。

 3枚組というボリュームばかりが喧伝された『Emancipation』だけど、正直、内容について書かれたレビューは驚くほど少ない。よほどのコアなファンじゃない限り、総収録時間180分に及ぶ大作の詳細をつかむのは至難の業。俺だって、そんなしょっちゅう聴くわけじゃないし。第一、3枚とも収録時間を60分ピッタリに収めることに、一体何の意味があるというのか。まぁ殿下のことなので、我々下々の民には理解しえぬ意図があったのかもしれないけど、でももう少し曲数絞ってコンパクトにまとめてもよかったんじゃないかと思われる。
 その後にリリースされた3枚組『Crystal Ball』も同様。これまたワーナーの横ヤリで一旦ボツになり、なぜかだいぶ後になってから、突然正規リリースされたものだけど、これまたとにかく「長い」。本編でさえてんこ盛りな物量なのに、さらにおまけとして、アコギ弾き語りの『The Truth』、もひとつオマケでインスト作品『Kamasutra』までくっつけてしまう大盤振る舞い。『Emancipation』同様、体調を万全に整えておかないと、確実にヤラれてしまう大作である。
 その後も、なぜか突然ジャズにハマった殿下、NPG限定で趣味全開のインスト・ジャムを、3作立て続けにリリースしたりしている。正直、殿下の作品コンプ目的でもない限り、購入意欲の湧かない作品群である。俺もまともに聴き込んでないし。
 晩年近くになってからは、フュージョンに手をつけたりお姉ちゃん3人とバンド結成したりなど、一貫した活動を行なっていない。その時に興味が湧いたものを、後先考えず手をつけて、できちゃったらやりっ放し。

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 「駄作」と言い切ってしまったけど、あくまで「殿下の通常フォーマットのアルバムと比較して」の話である。二流アーティストの「渾身の力作」と比べれば、完成度・エンタメ度は段違いに高い。ただ、世間一般が思うところの「Prince」のアーティスト・イメージ、イコール市場のニーズとは全然別のベクトルを向いた作品が多かった、ということであって。
 本人的には、どれも意味のある作品なのだろうけど、正直、ユーザーの立場からしてみれば、何度も聴き返すには辛いものだってある。いま挙げたものは、不特定多数の聴き手を想定した音楽ではないのだ。
 内に閉じた作品というのは、自己修復あるいは回復プログラムの一環として製作されたものであって、幅広いマスへ向けられたものではない。その影響力は、極めて限られた範囲でしか作用しない。そもそも、第三者に聴かれることを想定した作品ではないのだ。

 で、『Chaos And Disorder』。制作サイドとしては「駄作」の部類なのかもしれないけれど、楽曲が放つベクトルは、そこまで内にこもっているわけではない。
 一般的に評価の低いアルバムではあるけれど、俺個人としては、それほど嫌いなわけではない。歌モノであるおかげもあって、前述のインスト群と比べれば、一般性はずっと強い。
 アマゾン・レビューを見ても、そこまで酷評されているわけではない。「キナ臭い裏事情を背景に持つ作品」という周知が広がっているせいもあって、むしろ同情的な意見も目につく。代表作とまでは言わないけど、ある程度、殿下への理解が深いユーザーだったら、受け入れられる作品なのだ。

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 「後ろ向きな動機で作られた」という事実は変わらない。自暴自棄となった殿下の天衣無縫ぶりが炸裂した作品なので、ユーザーに対しての配慮というのはないはずである。なのに、ごく一部のユーザーからの支持が根強い『Chaos And Disorder』。
 やっつけ仕事であるにもかかわらず、放出されている強烈な「怒り」、そして、制御しきれぬ野放図なパワーの放出が、逆に「負のパワー」として昇華、強いエネルギー磁場として鎮座している。

 「どうせ契約消化」と割り切るのなら、適当なシンセ手弾きのアンビエントや、バンド・メンバーをスタジオに押し込んで、適当にセッションさせたのを適当に編集したものでお茶を濁してもよかったのだ。ワーナーとの確執は誰もが知る事実だった。そんな裏事情は誰もが知っていたのだから、誰も殿下を責めることなどありえない。
 そういった安易な策を選ばなかったのは、殿下本来の「真摯に音楽に向き合う姿勢」、音楽のミューズを決して裏切らないスタンスに尽きる。

 結局、我々は殿下の掌の上で転がされているだけなのだ。
 その神通力は、いまだ衰えを知らない。


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1. Chaos and Disorder
 『1999』以降の殿下は、黒人=ファンク/R&Bという枠を壊してゆくため、なかば意図的にロック・ナンバーを増やしていったけど、その到達点と言うべき完成形が、この曲。「黒人がロックをプレイする」のではなく、「俺(殿下)が思うところのロック」として、オリジナル形態のハード・ロックがここに誕生した。既存ロックの模倣ではなく、「現在進行形のロック」として提示することによって、彼は真の意味でのプログレッシヴなアーティストであることを証明した。
 まぁそんな御託は抜きにしてもノリの良いグルーヴ・チューン。心臓の鼓動によるラストも完璧。

2. I Like It There
 と思ったら、これはもう少しベタなロック。「黒人によるロック」は3分程度なので疾走感はメチャメチャある。ていうかギター弾きたかっただけなのかな。まぁこの辺がやっつけ仕事的に思われちゃったのかもしれない。アベレージは十分クリアしているのだけど。最後の銅鑼は何だ?

3. Dinner with Delores
 なぜかUKのみでシングル・カットされた、久々のアコースティック・バラード。『Parade』~『Sign “o” the Times』あたりに入ってても違和感ない、ファニーな一面をのぞかせている。時々見せる穏やかな曲調は、ちゃんと聴いてみるとイレギュラーなメロディがJoni Mitchellからの影響を窺わせる。間奏でハードなギター・ソロを挿入したりなど、短いながらもメリハリが強い構成が印象的。
 UK最高36位ってのは中途半端な数字。どうせなら1.をカットした方がよかったんじゃ…、いや変に好評だったらまずかったのか。

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4. The Same December
 キャッチ―なロッカバラード。ギターのフレーズがグランジっぽいのとオープニングの調子っぱずれなパワー・ポップ以外は、光るところは結構あるのだけれど、支離滅裂な構成やアレンジが惜しいところ。きちんと練り上げればキラー・チューンにもなりそうだけど、適当にまとめちゃったんだろうな。

5. Right the Wrong
 大味なロック・チューンのバッキングに乗せてつぶやくモノローグ。こういった曲調のセオリーとして、普通ならもっとベースの音を膨らませてボトムを強調するはずなのだけど、そこはベースの音が嫌いな殿下、なんか腰が入ってないパワー・ポップになっちゃってる。ドラムもあまりラウドなのは好まないし、これはこれでひとつの個性と言える。
 「何か変」=「差別化」というモデルケースのひとつ。良い意味だよ、もちろん。

6. Zannalee
 タメのきいたメタル的ギター・ソロから始まる、ブルース・タッチのロックンロール。普通にやったら無難な仕上がりだけど、やはり殿下が演じられるだけあって「どこか変」。
 どの曲もそうだけど、構成・アレンジ的にはいくつものアイディアが詰め込まれており、とても1週間で作っちゃったとは信じられないサウンドの洪水。出し惜しみせず感情の赴くままに作っちゃったんだろうけど、まとまりがないのがすごく惜しい。売れる要素をきちんと仕分けしてトリートメントしてやれば、もっと売れたかもしれないのに。
 あ、売れちゃったらまずいのか。

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7. I Rock, Therefore I Am
 そういったアイディアをもうちょっと整理して、きちんとまとめ上げたのが、これ。ロック<ファンク寄りのサウンドはやはり肌に合っており、挿入されるラガマフィンやラップのエッセンスも違和感なく溶け込んでいる。80年代テイストなシンセのリフに絡めた殿下の多重ヴォーカル&コーラスも、すべてが強いインパクトを放っていながら突出せず、特有のグルーヴ空間を作り出している。
 やっぱりヒットさせたくなかったんだろうな。こんなキラー・チューンを地味なポジションに置くだなんて。もし売れたって、ワーナーの懐が潤うだけだし。

8. Into the Light
 荘厳としたピアノ・バラードから、徐々に曲調がアップ・テンポに差し替わり、オーソドックスなロッカバラードに変化してゆく、アメリカン・ロックの王道パターン。あまり事前に決め事のないジャム・セッションならではだけど、殿下の場合は事実上独りでレコーディングすることが多いので、こういうのってやっぱ多人数でプレイした場合をシミュレートしてるんだろうか。晩年は特にそういった傾向が強かったけど、どこかでバンド・マジックを欲していたのかもしれない。それにしては曲調は目まぐるしく変化するけど。

9. I Will
 ハードな曲が続いたので、アクセントとしてのバラード小品。やっぱ完全に手を抜けないんだな、この人。やっつけ仕事とはいえ、バランスを考えた構成でまとめちゃうし。インタールードとしても優秀。でもギター・ソロはやっぱり泣きまくっている。弾きたかったんだよな、きっと。

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10. Dig U Better Dead
 タイトル・コールのサビを延々と発展させた、殿下得意のワンコード・ファンク。こういった曲ならいくらでもできるはずだし、コアなファンのニーズもまさにこの辺り。クールなリズムをバックに無限ループで続くグルーヴのさざ波。

11. Had U
 ラストはエピローグ的な独白。ミュージカルの挿入歌のような雰囲気を醸し出しており、どこか不穏げ。ハッピー・エンドというわけには行かないよな、コンセプト的に。



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邦題は『ブラックロック革命』(笑) - Earth, Wind & Fire 『Head to the Sky』

folder 1973年にリリースされた、4枚目のオリジナル・アルバム。前作『Last Day and Time』邦題『地球最後の日』がビルボード最高89位止まりだったのが、今回はいきなりビルボード最高27位をマークしたうえプラチナまで獲得、彼らにとって出世作となった。
 それまではブラック・チャートでどうにかトップ40に食い込む程度、一般的には地味なポジションに甘んじていた彼らだったけど、突然何の前触れも下準備もなくブレイクしたわけではない。そこに至るまでには、客観的な自己分析と冷静なシーン分析とがあったわけで。
 『地球最後の日』から彼ら、所属レーベルをワーナーからコロンビアに鞍替えし、これが大きな転機となったのは間違いない。移籍に伴ってバンド・コンセプトの抜本的な練り直しを行ない、その成果が実ったのが『Head to the Sky』だった、というわけで。

 デビュー当時は、アフロ〜ジャズ・ファンクをベースとしたブラス・ロック的な特性が強かったEarth。土着性の強いアフロ・ジャズ・サウンドは、もっぱらリーダーMaurice Whiteが持ち込んだものだった。緻密に組み立てられたインプロビゼーション主体のサウンドは崇高なものだったけど、商業的に成功する類のものではなかったし、しかも評論家筋にもピックアップされることはなかった。黒歴史だよな、要するに。
 この時代のソウル/ファンク系アーティストにありがちだけど、Whiteもまた、「意識の高い音楽が既存の社会や政治に一石を投ずることができる」ことを盲信していた。なので、サウンドはシリアスで遊びのないもの、メッセージ性やコンセプトに比重が置かれている。当然、全体のクオリティは高く筋も通っているのだけれど、正直何回も聴き直したくなる音楽ではない。サウンドよりメッセージ、フィジカルよりロジカルを優先した構造である。
 要するに、つまんないのだ。

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 ある意味、プログレ的な構造を持つ初期のEarthが好きな人もいるのかもしれないけど、多分ごく少数と思われる。賛否両論はあるけれど、70年代ソウル/ディスコ・シーンにおいては確実に足跡を残したアーティストなので、一応すべてのオリジナル・アルバムが再発されてはいるけど、一般的なEarthファンが手を伸ばすには、ちょっと危険な内容である。ジャズ寄りのレアグルーヴが好きなクラブ・ミュージック・ユーザーか、よほどのコア・ユーザーでもない限り、購入する人は少ないだろう。
 実際、俺も持ってないし。

 で、コロンビアに居を移したEarth、心機一転もつかの間、まずは結果を出さなければならなかった。リリース契約もそうだけど、売上次第ではバンド運営が危ぶまれるため、策を講じなければならなかった。今も昔も変わらず、ホーン・セクションを自前で抱えた大所帯バンドは、右から左へ一歩進んだだけでも経費がかかるのだ。
 ワーナー時代の中途半端なサウンド・アプローチの反省を踏まえ、まずWhiteが行なったのがヴォーカル・パートの補強である。
 古参メンバーであるSherry Scottだけを責めるわけじゃないけど、彼女がWhiteに比肩するほどのキャラクターを確立できなかったことは、歴史が証明している。正統なソウル・バラードを持ち味とする彼女のスタイルに、演奏陣が十分に対応しきれなかったのも、互いに悲劇だったけど。まぁやっぱりWhiteだよな。「I Think About Lovin' You」なんて珠玉のバラードなんだけど、これって別にEarthじゃなくてもいいしね。
 低音パートを主としたWhiteとの相乗効果を生み出すには、力強い高音が必要だった。そんなわけで引っ張ってきたのが、ご存知Philip Bailey。単なるシャウト中心のタイプではなく、曲によって硬軟使い分けられる彼の声質は、アフロ・ベースのリズム・セクションとも相性が良かった。タイプの違う男性ヴォーカルの双頭体制は、サウンドの土台となるボトムにメリハリをつける結果となった。

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 ただ変なところでバランス感覚を気にしてしまうWhite、フロント2人が男性だとむさ苦しく思ったのか、アクセント的に使う目的で、女性シンガーJessica Cleavesを加入させている。なんか不安になっちゃったのかな。
 女性シンガーを置く利点として大きいのが、ライブでの場持ちの強さである。見栄え的にも華が一輪あった方が野郎臭さを抑えられるし、演奏陣だって力の入れようが違ってくる。音楽的な利点としても、コーラスやハーモニーに厚みを持たせることができ、数曲メイン・ヴォーカルを受け持つことで、ショー全体の流れにメリハリをつけることができる。JBだって必ずショーには一人、デュエット・シンガーの女性をフィーチャーしていたよな。まぁ色んな意味を含めてだけど。
 ただ、レコーディングとなると話は別で、高音パートのBaileyとカブってしまうため、コンビネーションがうまくいかなかった。レコードではフィーチャーされることが少なかったため、結局Jessicaは2年弱でバンドを去ることになった。
 Earthとは肌が合わなかったけど、彼女自身のスペックが低いわけではなかったため、脱退してすぐGeorge Clinton に見出され、P-Funk 中心の活動にシフトしていったことは、互いにとって良い落としどころだったと言える。

 ヴォーカルの補強はどうにかなったので、さらにWhite、次はもっと大掛かりなサウンド・コンセプトの路線変更に手をつける。
 カリンバを始めとしたアフリカン楽器によるエスニック・テイストは、Whiteが描いた揺るがぬ初期構想だったため、そこには手をつけたくなかった。その部分はアクセント的に残し、より同時代的なサウンドへのシフト・チェンジを図った。時に冗長となりがちなジャズ~インプロヴィゼーションの要素をバッサリ切り捨て、ソウル・シーンを凌駕しつつあったダンス/ファンクのサウンドを導入することにした。ここで登場するのが、ギターのAl McKay。
 世紀を超えて今も続く、繊細かつ大味なEarthのダンス・ビートの土台作りに大きく寄与したのが、このMcKayであることは、誰もが認める事実。もちろん、彼独りの力でいきなり形作られたわけじゃなく、各メンバーの尽力があってこそだけど、McKayの持ち込んだカッティング技術が触媒となって、バンドの潜在能力をポテンシャル以上に引き出した。
 そんなメンツが『地球最後の日』で勢揃いした。その後は手探りしながら独自のサウンドを固めてゆき、遂に大きく花開いたのが、この『ブラックロック革命』といった次第。ちなみに、タイトルに「ロック」というワードが含まれてはいるけど、実際にはロックっぽさはほとんどないので、その辺は誤解のないように。

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 一般的にEarthといえば、70年代後半のディスコ路線が全盛期とされ、実際、代表曲も多い。それは確かだけれど、プレ=ディスコ期に当たる70年代前~中盤の作品もまた、根強い人気がある。特にレアグルーブの流れを経由してEarthを再発見した90年代以降の新規ユーザーは、前述のワーナー時代や80年代の低迷期と比べて、コア・ユーザーの中でも大きな割合を占めている。
 全盛期から多用されたシンセ系のキラキラしたアレンジは少ないけど、ファンクとアフロとのハイブリッドなリズム・コンビネーションや、ツイン・ヴォーカルの使い分けによるサウンドのバリエーションの豊富さなどは、スペイシーなハッタリや大仕掛けに頼らない分だけ、クオリティは高い。
 そりゃ「Fantasy」やら「September」やら「Boogie Wonderland」などの定番キラー・チューンと比べればインパクトは弱いけど、そういった代表曲が生まれる土台となっているのが、この時期の試行錯誤や音楽的な実験による賜物なのだ。
 なので、このプレ=ディスコ期のメロウ・グルーヴ全開のナンバーたちが埋もれてしまうのは、ちょっともったいない。

Head to the Sky
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1. Evil
 シングルカットもされたオープニングは、ジャジーなエレピがスムース・ジャズ的な効果を生み出しており、そこからさりげなくソフトなラテンのリズムをからませることによって、後世にも評価されるメロウグルーヴ的な味わいを演出している。今もそうだけど、当時もカリンバの音色をポピュラー・ミュージックに使用することは珍しく、それが逆に新鮮な感触。でも当時の邦題「悪魔の血」はちょっと…、という気がする。



2. Keep Your Head to the Sky
 アルバム・タイトルを含んだ2曲目、これもシングルカットされている。さらにテンポを落とし、ジャジーなメロウグルーヴが展開されている。ここでの主役は巧みなファルセット使いのBailey。シルキー・ヴォイスに合わせたコーラスも絶妙。メロディーを喚起させるベース・ラインとやたら前に出るシタールの調べ。そっと寄り添うエレピのオカズ。なんだ、もう完成されてるじゃん。でもやっぱり、邦題「宇宙を見よ!」はないと思う。コーダのアカペラ、Jessicaとのファルセット対決は聴きどころ。



3. Build Your Nest
 で、ここからが彼らの新境地となる。あくまでジャズ~アフロとちょっぴりラテンの順列組合せだったところに、McKayが持ち込んだファンク要素を大幅に増やしたことによって、グルーヴ感てんこ盛りのダンス・チューンがここに誕生した。どこかお上品に構えていた演奏陣にMetersばりのセカンド・ラインが注入され、ブラコン・ファンクの祖となった。

4. The World's a Masquerade
 フィリー・ソウルにスロウ・ファンクのリズムをねじ込んだような、比較的オーソドックスな仕上がりのソウル・バラード。レコードA面最後を飾るには、いい感じにドラマティック。ここは完全にWhiteの独壇場。

5. Clover
 B面トップは荘厳なピアノ・ソロ、そこから妖しげなラテン・フレーヴァーのメロウなグルーヴィー・チューン。サウンドの主体となるフルートとコンガがまた、Earthの別の側面を際立たせている。凡庸なラテンで終わらせていないのは、絶妙なコーラス・ワークと、案外転調の多い複雑な構成。3分過ぎから突然現れる、哀愁漂うギター・ソロがSantanaを連想させる。この辺が「ブラックロック」なのかな。

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6. Zanzibar
 ラストはなんと13分に及ぶ大作。ブラジルのアーティストEdu Loboのカバーということを、今回レビューを書くにあたって調べてみて、初めて知った。YouTubeにあった原曲を聴いてみたのだけど、結構リズムにアクセントがあって、何にも知らない俺のようなビギナーでも入りやすい楽曲である。ラテンでしかもファンキー、レアグルーヴ好きな人なら抵抗なくスルッと入ってゆけるはず。
 原曲は3分程度なので、ここでのヴァージョンはジャム・セッション風に各メンバーのソロ・パートが長くフィーチャーされている。主要テーマをもとにアドリブを膨らませるのは、もっぱらジャズのメソッドであり、なのでダンス/ファンクの要素はバッサリ切り捨てられている。ホーンの活躍がちょっぴり多めかな。
 こういったアプローチはこれが最後、次作『Open Our Eyes』からは、コンパクトにまとめられた楽曲が主流となる。



Greatest Hits
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ポップ路線のスライダーズ最終コーナー - ストリート・スライダーズ『Screw Driver』

news_xlarge_streetsliders_screwdriver_jk 1989年リリース、リミックス・ベスト・アルバム『Replays』を挟んだ7枚目のオリジナル・アルバム。前作の『Bad Influence』、これがオリコン初登場3位と、愛想もサービス精神もない彼らとしては、なかなかの好記録をマークしている。特別、メディアに積極的に出演するわけでもなく、トップ10に入るようなシングル・ヒットがないにもかかわらず、快挙とも言えるチャート・アクションを見せた。
 『天使たち』リリース頃から地道に続けていた、ソニー家内制手工業的な「パチパチ」「ビデオ・ジャム」を活用したビジュアル展開が実を結び、スライダーズのアルバムが大きくヒットする機運は盛り上がっていた。アルバム・リリースと合わせて全国ツアーを敢行、レコード売上に大きく寄与するはずだったのだけどしかし。
 ツアー直前になって、ドラムのズズがバイク事故によって大怪我を負い、予定はすべてキャンセルとなる。ソニーとしては、チケット売り上げも好調だったため、ドラムの代役を入れることも提案したのだけど、バンドの総意として、メンバー以外の音を入れることを拒否、そのまま活動休止状態になってしまう。

 ソニーからやんわりと、「助言」という名の上から目線な提案やら、外堀を埋めるようなソフトな圧力もあったのだろうけど、その辺はどこ吹く風、彼らがまともに聞くはずもない。だってハリーだもん。
 取り敢えず「蘭丸がやりたがってるから」「バンドみんなで決めたことだから」、これまではメジャー展開も渋々受け入れてきたけど、1人欠けるとなると話は別。アンサンブルは最初から組み直しになってしまい、バンドは別物になってしまう。失礼を承知で言うけど、テクニカル面だけで言えばズズよりうまいドラマーはいるだろうけど、ハリーや蘭丸が求める音やリズムを即叩けるかと言えば、これも話は別になる。そこら辺がバンド・サウンドの難しさであり、醍醐味でもあるのだけど。
 どちらにせよ、人見知りでぶっきらぼうで不愛想なハリーが、そうそう新メンバーと馴染めるはずもない。

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 ドラム・ベース・ギターという最小限の編成で、ブルースをルーツとしたロックンロール・バンドは星の数ほどいるけど、長らくその頂点に君臨し、最も成功しているのRolling Stones。異論はないよね。
 シンプルなブルースのカバーからスタートして、多少の紆余曲折はあれど、「ロックがビジネスとして成立する」ことを証明したのは、彼らの功績である。ライブのエンタメ化やパッケージング、ディスコやドラムンベースなど、旬のサウンドをちょっとずつ取り入れてアップデートし続け、彼らは不動の地位を築いた。単にコツコツ同じブルースばっかり演じていたわけじゃないのだ。
 魑魅魍魎が跋扈するエンタテインメントの世界をサヴァイヴしてゆくためには、戦略を司る参謀が必要不可欠となる。その役目を担っていたのが、ご存知Mick Jaggerだったというわけで。

 「ロックが金になる」というビジネスモデルは、70年代以降に定番フォーマットとして、急速な発展を遂げることになる。AerosmithもAC/DCもRCサクセションも、キャリアの節目で積極的にメディアとコミットし、広く世に知られることによって大衆性を得た。どれだけ良い音楽をやっていようとも、多くの人に伝わらなければ、バンド運営は先細りしてしまうのだ。
 スライダーズ自身、本当にそういった途を望んでいたのかどうか―。まぁ売れないよりは、売れる方がよっぽどいいに決まってる。できるだけ自分たちのスタンスを崩さぬまま、当時のソニー戦略に乗っかったことによって、スライダーズは思惑以上の支持を得るようになる。多分に蘭丸あたりが一番乗り気で、それでハリーが「しゃあねぇなぁ」といった風に付き合ってたんじゃないかと思われる。ズズとジェームズ?「まぁ好きにしろよ」ってな感じで。

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 もし彼らがソニー・メソッドに乗らず、細々と小規模のライブハウスを回る途を選んでいたとしたら―。
 それほど語り継がれることもなく、せいぜいアングラ・シーンの片隅に記憶される程度の存在で終わっていたことだろう。もともとハリー自身、レコード契約にはあんまり乗り気じゃなかったみたいだし、もっとマイペースな活動を望んでいた節がある。そのまま解散せずに細々と活動し続けていたかもしれないし、それともいつの間に自然消滅していたかもしれないし。

 で、この活動休止というハプニングが、彼らにとってのターニング・ポイントとなった。特にハリー。
 取り敢えず蘭丸に付き合う形で、これまでイヤイヤながらソニー・メソッドに乗っかっていたけど、なんかもうめんどくさくなっちゃったんだろうな。彼のテンションは急速に冷めてゆく。もともと、自由奔放にギターをかき鳴らして「ゴキゲンだぜベイベー」と歌っちゃうタイプなので、それ以外の些事にはとんと興味がないのだ。
 まぁ不謹慎ではあるけれど、「これまでさんざん振り回されてきたんで疲れちゃったし、バンドも稼働してないんだから、これを機にゆっくり休もうかな」とでも思ってたんだろうな。
 蘭丸もまた、スライダーズがメジャーになったことによって注目を集め、ソロ活動が増えている。人を寄せ付けない雰囲気を撒き散らしていたハリーに比べ、蘭丸は外部とのコミットにも積極的だったため、自然と人脈は広がってゆく。そうすると自然、これまでのようなベーシックなロックンロールだけじゃなく、ファンク・ビートなど他のジャンルにも興味を持つようになるのは、いわば当然の流れ。

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 一度動き始めてしまったシステムを止めるには、最初に投入した以上のエネルギーが必要になる。望む/望まないにかかわらず、すでにソニーのヒット・システムに取り込まれていたスライダーズもその例に漏れず、開店休業というバカンスの間にも、何らかのアクションを求められることとなる。
 「せっかくだったらスライダーズと違うことやろうぜ」といった経緯かどうかは不明だけど、何となく始めたのが、ハリーと蘭丸2名によるアコースティック・ユニット「ジョイ・ポップス」である。
 バンド再開までの繋ぎというか暇つぶしのユニットであったため、具体的な成長戦略やらビジョンやらをきっちり決めてスタートしたわけではないので、残された音源はシングル1枚のみ。しかも、スライダーズと蘭丸ソロとの抱き合わせによるシングル・セットでの販売である。言っちゃ悪いけど、在庫処理的なやり方だよな。バンド側としては大して売る気なさそうだし。

 ジョイ・ポップスとしての活動はほぼフェスやイベントに限定されており、ソロでのライブは行なわれていない。なので、生で見られた人は、かなり限られている。
 さらに数は少ないけど、テレビ出演時の動画が残されており、今ではYouTubeでも簡単に見ることができる。シンプルな白一色のスタジオで、溝口肇ストリングス・カルテットをバックに、ハリーと蘭丸はアコギを掻き鳴らしている。無精ヒゲを生やしたハリーを見るのは、かなり珍しい。やっぱ気持ちの中ではオフなんだろうな。
 アコギを弾く彼らの姿というのはかなりレアで、バンドではまず見られないアプローチである。グルーヴ感とは対極のサウンドであり、これはこれで枯れた趣きがあって良いのだけど、まぁ彼ら手動のアイディアじゃないよなまず。斜め上のスカしたディレクターの発案に、蘭丸が乗り気だったから一応話には乗ったのだろうけど、ハリーにとっては暇つぶし程度の余技だったんじゃないかと思われる。

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 そんな課外活動を経てズズが復活、再度スライダーズのメジャー化戦略は仕切り直しとなる。その成果として形になったのが『Screw Driver』なのだけど、前2作とは違って原点回帰的なロックンロールが大きくフィーチャーされている。反面、『天使たち』〜『Bad influence』で展開されていた、ロックンロール以外のアプローチをバンバン持ち込んでいた蘭丸のカラーは、ちょっと薄れている。
 キャッチーなメロディを持つ曲は、シングルカットされた「ありったけのコイン」くらいで、他の曲では骨太な4ピース・ロックへの回帰が窺える。言っちゃえば地味だよな。
 ちなみにアルバム・リリースを控えたスライダーズ、この時期には記念すべき「夜ヒット」初出演を果たしている。そこでは最も知名度の高い「Boys Jump The Midnight」を披露しており、既存ファンが狂喜乱舞したことは当の然、新規ファンの獲得にも大きく寄与した。お茶の間で家族が集まってテレビを見ている時間帯に、彼らのようなガレージ系のサウンドが流れることが少なかった時代だったため、そのインパクトはかなりのものだった。
 なので、彼らのレパートリーの中では最も聴きやすい「Boys Jump The Midnight」のようなナンバーを期待した新規ファンにとって、この『Screw Driver』は、ちょっととっつきにくいアルバムである。何十回も聴いてきた俺でも、たまに聴きたくなるくらいだし。
 聴けば聴き込むほど。新たな発見も多いアルバムではあるのだけれど、一見さんにはちょっと敷居が高いのかな。

 もしもの話、ズズの事故がなくて、彼らがそのままメジャー路線を突き進んで行ったとしたら、一体どうなっちゃってたのか。
 バブル期というご時勢ゆえ、化粧品のCMソングに起用されていたかもしれないし、「笑っていいとも」のテレフォンショッキングにも出演していたかもしれない。いやないか、あんな無口なハリーが生放送を承諾するとは思えないし。
 多様な方向性として、ハードでラウドなスライダーズ本体と並行して、ブルース・フィーリングを漂わせるアコースティック路線のジョイ・ポップスとの両立も、実験の一環として面白い試みだったんじゃないかと思われる。

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 ほんと最近になってハリー、蘭丸と電話で会話をした、とのこと。やっぱメールやラインじゃないんだな。特別、具体的にどうこうではなく、「最近どう?」と、軽く言葉を交わした程度。ただそれだけだ。
 もともと、言葉が多いタイプではない。言葉がなくても通じるのがこの2人だし。ギターがあれば、もっと近づけたかもしれないけど、まだその時期ではないのだろう。
 ハリーは蘭丸のことが気になり、そして蘭丸は淡々と、でも嬉しそうにTwitterでつぶやいた。
 まぁゆっくりと。前を向いて一歩ずつ。

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1. 風の街に生まれ
 まんまStonesオマージュのロックンロールがオープニングを飾る。セミアコっぽい間奏のギターは、わりと珍しい。
 基本、ノマドなスタンスのハリーなので、ロックンロールのキャラクターとしては典型的に、「お前しだいさ」と突き放した言葉を投げかけている。一聴すると無愛想な態度だけれど、ちゃんとその後、「誰かが呼んでるはずさ」と付け加えている。単なる破滅キャラではないのだ。

2. Oh! 神様
 ホーン・セクションと絡むギター・プレイが粋でいい。これもStonesだよな。ブルスとホンキートンクとのハイブリッドを聴かせるバンドは、当時の日本では彼らかボ・ガンボスくらいだったよな。

3. かえりみちのBlue
 カントリー・ロック的にゆったりしたビートの、抒情的なナンバー。ファンの間では根強い人気がある。ぶっきらぼうな口調ながら、どこか人間くささが感じられるのが、親近感が湧いてしまう。そりゃそうだ、ハリーだって仙人じゃないし。まぁこれ以降の90年代はなかば世捨て人みたいな感じだったけど。

4. Baby, Don't Worry
 アルバム・リリース直前にリリースされたシングル。ここまでちょっとポップだったりルーズな曲調が多かったけど、ここに来てタイトなリズムとソリッドなギター・プレイがギュッと凝縮されている。アンサンブル全体に緩急がつけられているため、音の奥行きが生まれている。手クセみたいなコードやメロディなのに、なんでこんなカッコいいんだろう?



5. Hey, Mama
 こちらもソリッドなリズムをベースとしたハード・ブギ・チューン。蘭丸を中心としたコーラスが相変わらず脱力してしまうけど、サウンド自体はめちゃめちゃグルーヴィー。

6. Yooo!
 スライダーズ流のダンス・チューン。だって「踊れ」って言ってるんだもん。蘭丸のカッティングがファンク・マナーなので、演奏だけ抜き出せばファンキーさ満載なのだけど、やっぱりハリーの声は踊れるムードが出ない。まぁ縦ノリじゃなくて横ノリのリズムだから、それはそれでいいか。

7. おかかえ運転手にはなりたくない
 ハリーの個人的色彩が強い、ファンの間でも地味に人気の高いブルース・タッチのバラード。彼が書くバラードのメロディはバタ臭さが少なく、むしろ日本人にとっては親しみやすい歌謡曲的なとっつきやすさがある。こういったところが大衆性を勝ち得たところなのだろう。
 いくら友達や仲間とはいえ、彼の中には誰も踏み込めない境界線がある。もちろん、そんなのは誰にだってあるのだけれど、ハリーの場合、その範囲がとてつもなく広いのだ。我々が知っているハリーとはほんの一部でしかない。どれだけ距離を詰めようとも、彼は自我の中心でひっそり膝を抱えている。一番近い存在だった蘭丸でさえ、伸ばした手は届かない。
 それは今も続いている。

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8. Rock On
 シンプルなリフを中心に組み立てられた、アルバムに必ず1曲は入っている、他メンバーによるナンバー。最初は蘭丸かと思ってたけど、これってジェームスなんだってね。どうりでなんか違うと思った。指摘してくれた人、ありがとう。
単純な構造のブギだけど、それが逆に良い方向へ向いているんだよな。だからと言って好きというほどじゃないけど。

9. ありったけのコイン
 アルバム・リリースよりだいぶ先行してリリースされたリード・シングル。オリコンでは最高34位を記録しているように、ビギナーにとっても間口の広いサウンドに仕上げられている。「Boys Jump the Midnight」に代表されるアッパー・チューンとは対極的に、日本人にもなじみの深い情緒あふれるフォーク・ロック調にまとめられていることによって、新たな一面が鮮烈に浮かび上がった。
 「ありったけ コインかき集めて 飲んだくれ お前とどこへ行こう」
 金はないけど時間だけはたっぷりある、モラトリアムな青春時代の情景を切り取った、リア充でもオタクでもない、大多数のコミュニティとは無縁の所で生きてきた者たちへのノスタルジーが刻み込まれている。



10. いいことないかな
 ヴォーカルにもバッキングにも薄くエフェクトをかけた、スライダーズの十八番と言えるハード・ブギ。全員に見せ場があるアンサンブルは、ラストを飾るにはふさわしい。古典ブルースにならった歌詞はネガティヴだけど、それを笑い飛ばしちゃうようなサウンドのグルーヴ感が濃い。やっぱバンドが好きなんだな、ハリーは。


ホット・メニュー ~ベスト・オブ・ストリート・スライダーズ
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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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