好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

電気を使って何が悪い? - Miles Davis『Miles in the Sky』

folder 前回取り上げたGainsbourgが、「晩年のレコーディングはほぼ若手に投げっぱなしだった」と書いたけど、ジャズの場合はそれどころじゃないくらい、もっとアバウトだった。簡単なコード進行とアドリブの順番、テーマのフレーズを決めてチョコッと音合わせすると、もうとっとと本番である。何テイクか録ってしまえばハイ終了、その場でギャラを受け取って解散である。
 場合によっては、レギュラー・バンドに匿名のゲストが参加する場合がある。お呼ばれしたはいいけど、契約の関係で大っぴらに名前が出せず、適当なニックネームにしたりなんかして。実質、リーダーシップを奮ったレコーディングにもかかわらず、これまた契約のしがらみでメイン・クレジットにすると何かと面倒なため、苦肉の策で他メンバー名義のリーダー・アルバムとしてリリースしたりなんかして。そんな経緯を経て世に出してみたところ、思いのほか好評だった挙句、遂には稀代の名盤として後世に伝わってしまったのが『Somethin' Else』。

 60年代半ばくらいまでのジャズ/ポピュラーのレコーディングといえば、大部分が一発録り、個別パートごとのレコーディングは技術的に難しかった。ほんの少しのミス・トーン/ミス・タッチですべてがオジャン、最初からやり直しになってしまうため、現場の緊張感はハンパないものだった。
 今のように安易にリテイクできる環境ではなかったため、当時のミュージシャンは「失敗しない」高い演奏レベルが求められた。当然、そんな迫真のプレイを記録するエンジニアも、下手こいたら袋叩きに合っても文句が言えず、自然と技術スキルが向上していった。マイクの立て方や位置、針飛び寸前まで上げるピーク・レベルの調整具合など、ちょっとした加減ひとつで仕上がりが変わってしまうため、こちらもシビアにならざるを得なかった。
 60年代後半から、マルチ・トラックによるレコーディングが大きな革命をもたらし、パートごとのリテイクやダビング、ベスト・テイクの切り貼りといった新技術が出てくるようになる。楽器や機材の進歩によって、ミュージシャンの表現力の幅も広がってゆくのと同様、エンジニア側も録音機材の技術革新によって、単なるオペレーターにとどまらず、アーティスティックな視点によるレコーディングを志すようになる。

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 作詞作曲を行なうコンポーザーがイニシアチブを執るロックやポップスと違って、ジャズの場合、プレイヤーが楽曲の出来を大きく左右する。楽譜で細かく指定された他のポピュラー音楽と比べて、アドリブやインタープレイなどの不確定要素がかなりの割合を占めているため、テイクごとに演奏内容が全然違ってしまう場合も多々ある。ただ違っているだけではなく、没テイクと判断されたモノでさえ、のちに発掘されて名プレイ扱いされてしまうケースが多いのも、ジャズというジャンル固有の特徴である。
 そんな未使用テイクの需要が多いのもジャズ・ファンの大きな特徴で、やたら詳細な演奏データや未発表テイクの発掘リリースなど、何かとマニアックに掘り下げるユーザーが多い。John ColtraneやCharlie Parker なんて、未だにオフィシャルでもブートでも新音源が発掘されているし。
 マニア以外からすれば、ほとんど見分けもつかないフレーズの違いを「歴史的大発見」と称して悦に入るなど、ちょっと着いていけない感覚はカルト宗教的でさえある。
 書いてて気づいたけど、これって近年の鉄道マニアとロジックが似ているのかな。

 で、同じく発掘音源やブートのリリースが未だ尽きないのがMiles。キャリアの長さも手伝って、彼もまた大量のテープ素材を残している。前述2名の音源が、主にライブやメディア出演をソースとしているのに対し、マルチ・レコーディング時代にも精力的に活動していたMilesの場合、未発表スタジオ・セッションの音源も多数残されている。
 どうせ編集で何とかなるんだから、とにかくテープを回して片っ端から録音し、後はプロデューサーTheo Macero に丸投げ、というパターンがめちゃめちゃ多い。逆に言えば彼の場合、頭からケツまで通して演奏された楽曲が、そのまま商品化されることは極めて少ない。エフェクトやらカットアップやら、何かしらスタジオ・ブースでの加工が施されているのが、60年代以降のMiles Musicの特徴である。

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 ただこういった特徴も、「Miles Davis」という多面体を構成するひとつの側面に過ぎない。違う見地で言えば、レコードに記録されたテイクとはあくまでかりそめのものであり、いわば発展途上における中間報告に過ぎない。商品化テイクをベースにライブを重ねることによって完成に近づいてゆく、というのもまた、Milesに限らずジャズという音楽の真理のひとつ。
 ライブにおける偶然性やハプニングが、ジャズの先鋭性を後押ししていたことは歴史が証明しているけど、50年代ハード・バップによって一応のフォーマットが完成してからは、そのラジカリズムに翳りが生じ始める。
 安定した4ビートと順次持ち回りのアドリブ・プレイは、次第にステレオタイプとしてルーティン化してゆく。何となく先読みできる展開を内包した様式美は、マス・イメージとしてのジャズを伝えるには有効ではあったけれど、未知なる刺激を求めるすれっからしのユーザーにとっては、満足できるものではなかった。目ざとくヒップな若者がロックへ流れてしまうのは、自然の摂理である。

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 そんな自家中毒にはまり込んだジャズに見切りをつけ、「俺は次に行っちまうぞ」と言い放ったのが、この『Miles in the Sky』。特に声高く宣言したわけじゃないけど、旧態依然としたジャズにしがみついているプレイヤーやファンを置き去りにした、ターニング・ポイントとなった作品である。
 モードやシーツ・オブ・サウンド以降、方向性で足踏みしていたモダン・ジャズ、60年代に入ってからは、ロックやポップスにポピュラー・ミュージックの王座を追われて久しかった。黒人音楽というカテゴリーに限定しても、モータウンに代表されるライトなポップ・ソウル、クリエイティヴ面においてもJBやSlyらによるファンク勢への対抗策を打ち出せずにいた。
 それでも、クリエイティビティに前向きな若手アーティストによる、ソウル・ジャズやフリー・ジャズなどの新たな潮流が芽生えてもいたのだけど、その流れは極めて限定的なものだった。その嵐の勢いは、「ジャズ」というちっぽけな器の中で収まってしまうものでしかなかった。シーン全体を巻き込む、大きな流れには育たなかった。
 そんな小手先の変化がまた、Milesの不遜さに拍車をかけた。申し訳程度にソウルのリズムを取り入れたって急ごしらえでは底が浅く、いかにも借り物的なまがい物感が拭えなかった。
 過去のジャズを壊すプレイ?とっくの昔にくたびれたジャンルを壊すって、一体どうやって?ちょっと押せば崩れ落ちるようなものだよ、ちっとも前向きじゃないじゃん。
 もっと強力に、シーン全体を揺らがすほどのインパクトがないとダメなんだって。

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 60年代Milesサウンドのパーマネント・メンバーだったのが、Wayne Shorter (ts) 、Herbie Hancock (p) 、Ron Carter (b) 、Tonny Williams (d) らによる、通称「黄金のクインテット」。当時はほとんど無名だった彼らが中心となって、ていうか帝王のスパルタ・トレーニングについて来れた、選ばれし精鋭である。
 当初は従来のモダン・ジャズの枠内で、アンサンブルの完成度を高めていったMilesバンド。時代を経るにつれて、前述のポピュラー・ミュージック環境の変化に刺激され、遂にはアコースティックからエレクトリック楽器へのコンバートを指向するようになる。まメンバーは全員いい顔をしなかったため、最終的にはMilesの力技が勝つのだけれど。
 ただ最初からMiles自身、エレクトリック化への移行に関して明確なビジョンがあったわけではない。変化は段階を経て緩やかに、そして機を見て唐突に実行された。
 「電気を使って何が悪い?俺が演奏すりゃ、ぜんぶMiles Musicだ」。

 電化Miles第一のピークとされている『Bitches Brew』において使用機材のコンバートが完了し、それ以降のサウンドは、リズムの解体とスピリチュアリズムとが同時進行していくことになる。最終到達点である『アガ=パン』においては、不可知論が支配するカオスな状況が自己崩壊を引き起こすのだけど、それに比べてここでのプレイは、「楽器変えてみました」程度の素朴な実験にとどまっている。
 アコースティックに片足を突っ込んだまま、試行錯誤の跡が克明に記録されているのでまだ帝王としてのスタンスを確立していなかったMilesの葛藤が窺える。まぁ本人に聴いても、悩んでるだなんて、絶対口にしないだろうけどさ。
 「俺の最高傑作?それは次回作さ」。
 この言葉に込められているように、完成された作品なんて、ひとつもない。
 彼にとって、過去のアルバムはすべて、そんな過渡期の記録である。

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1. Stuff
 ほんの少しのフィル・イン以外は踏み外すこともない、単調な8ビートを刻むTony。ただ当然だけど、これまでより手数が多くなった分、曲全体のスピード感は旧来ジャズにはなかったもの。6分近くなってから繰り出されるMilesのソロは、ジャズ・マナーに沿った力強いブロウ。Ronのベースは…、アップライトから持ち替えて間もない分、まだ慣れてないんだろうな。音も小さいし、あまり目立ってない。
 力強いMilesのプレイは時空を超えてエモーショナルなプレイ。これ以降はここまでオーソドックスな力強さは見せなくなってしまう。続くWayneのソロは一聴するとColtraneの影響下から抜け出てなさそうだけど、後半に行くにつれてリズムが変調、そこにうまく合わせるテクニックの妙が楽しめる。
 Herbieのソロは正直面白くないのだけど、サイドに回ってる時のアクセント・フレーズにスケール感の大きさがにじみ出ている。やっぱりジャズだけに収まる人じゃないんだよな。
 エレクトリックといってもまだ手探りの状態だったため、従来ジャズと比べてそこまでの差別化ができているとは言い難い。後半のTonyのハイハット・プレイなんて、電化とはまったく関係ないし。むしろ、その後のリズム解体に向けてのプロローグとして受け止めた方がわかりやすい。



2. Paraphernalia
 『Miles in the Sky』のレコーディングは、主に1968年5月15~17日に行なわれたセッションを素材としているのだけれど、この曲のみ同年1月の録音となっている。
 OKテイクではGeorge Benson (g)が参加しているのだけれど、ほんとはJoe Beckを起用したかったらしい。実際、スタジオにも姿を見せたとか見せなかったとか、証言はいろいろあるけれど、なぜかしらこの時はBensonをフィーチャーしたかった理由でもあったのか。
 作曲したのがWayneのため、必然的に彼のパートが多い。俺的にはソロイストとしてのWayneはあまりピンと来ないので、引き付けられるのはどうしても他のプレイヤーになってしまう。とは言ってもBensonの影が薄すぎて、正直存在意義がちょっとわかりかねる。特別大きくフィーチャーされてるわけでもなし、目立ったフレーズを弾いてるわけでもない。一体、彼に何を求めていたのか、それともこういった起用法が意図だったのか。
 どちらにせよこれ以降、彼はMilesセッションにはお呼びがかからなかったのだから、深入りする前じゃなくて良かったと思われる。

3. Black Comedy
 なので、変に新機軸を求めるのではなく、従来のフィールドできっちりまとめたこの曲を聴いてしまうと、なんか安心してしまう。1.と違って決して進歩的ではないけれど、4ビート・ジャズの規定フォーマットの中で存分に発揮されるクリエイティヴィティは、安定したクオリティである。
 ここまで探り探りなフレージングだったWayneも、生き生きとしたプレイを見せている。不慣れなエレピからアコースティックにチェンジしたHerbieも、オーソドックスにピアノの限界を引き出すようなプレイを見せている。
 実験的な試みを敢行する反面、従来ジャズの深化という点において、つい熱くなってしまう佳曲。

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4. Country Son
 デキシー・ジャズみたいな音色はトランペットではなく、コルネットによるもの。激しい4ビート~静寂なワルツ~ロッケンな8ビートとリズムが目ぐるましく変化する、ある意味Tonyが主導権を握ったナンバー。
 こういった曲を聴いてると、やはりジャズとはリズムがすべてを支配するのだな、と改めて思い知らされる。どれだけ流麗かつキャッチーなフレーズをつま弾こうとも、繊細かつ大胆なハイハット・ワーク、強烈なバスドラの響きの前では無力だ。自在のリズム感覚を操るTonyが、長らくMilesの参謀として鎮座していたのも頷ける。
 ここではまだ手探りではあったけれど、自身の音楽を先に進めるためには、未知のリズム・パターンが必要であることを、本能的に見抜いていたのだろう。


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ゲンズブールの「逮捕しちゃうぞ♡」 - Serge Gainsbourg 『You're Under Arrest』

folder 1987年にリリースされた17枚目、オリジナルとしては最後のアルバム。御年59歳だったにもかかわらず、母国フランスでは最高2位にチャートイン、プラチナ・ディスクを獲得している。
 フランスのプラチナ・ディスク基準は10万枚以上なので、数字だけ見ると「えっ、そんなもん?」と思ってしまいがちだけど、そもそもフランスのCD/レコードのマーケット規模は意外に小さく、日本と比較するとほぼ4分の1程度。人口が日本のほぼ半分という条件にしても、あまりに少なすぎる購入率ではある。
 ただこのようなデータがあるからといって、単純に「フランス人って音楽を聴かないの?」という状況ではない。記録メディアの購入は少ないけど、オペラやミュゼットの勃興からわかるように、劇場やカフェなどの生演奏でのリスニング・スタイルが、伝統的に続いている。「街に音楽があふれている」とはよく言ったもので、某団体にガッチガチに縛られた日本と違い、音楽との接し方に違いが表れている。

 単純計算で日本に置き換えると、プラチナ・クラスで40〜50万枚程度の売り上げということになる。ポツポツとミリオンが出ていた80年代日本だと、いわゆる中堅どころといった成績である。
 でも考えてみれば、すでに還暦に近いベテラン・アーティストが、現役バリバリの若手と競り合うほどのセールスを売り上げていたのだから、それがやはりアーティストの地力なのか、それとも当時の若手の不甲斐なさだったのか。
 セールス・ポジションとキャリアを基準として、今の日本で例えれば小田和正や山下達郎あたりなのだろうけど、作風や素行でいえば…、かつての遠藤ミチロウやパンタあたりだろうか。そのくらいこの親父、パンクよりパンクイズムが突き抜けている。

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 つい最近まで、音自体まったく縁がなかったのだけど、Serge Gainsbourgというアーティストがいるのは、一応知っていた。ただ、今も昔もラジオでオンエアされることはほとんどなかったので、聴く機会がなかった。もしかして、NHK-FMのディープな番組を漁れば見つけられたかもしれないけど、どちらにしろ北海道の中途半端な田舎の高校生が進んで聴く音楽ではなかった。

 「女優Jane Birkinの内縁の夫。ちなみに、どんな女優なのか、何の映画に出てるのかは知らない」
 「同じく女優であり歌手Charlotte の親父。一時、Lenny Kravitz と付き合ってて、一度2人でロキノンの表紙を飾った」
 「無数の女性と浮き名を流した、めちゃめちゃプレイボーイ」
 「エロい歌詞や言動で、何かと物議を醸した人」

 彼についてパッと思いついたことを、ほぼそのまんま書き出してみると、こんな感じになる。ほぼ雑誌の斜め読み程度の情報だけど、多分あながち間違ってないはず。
 こんな俺に限らず、大抵の日本人が持っている彼についてのトリビアは、せいぜいこの程度と思われる。音楽活動がメインのアーティストであるはずなのに、肝心の音楽がほぼ伝わっていないことが、Gainsbourgの低い知名度と直結している。

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 今でこそDaft Punkを筆頭に、世界でも有数のテクノDJを輩出しているフランスだけど、アメリカ/イギリスが中心だった80年代洋楽シーンでは、ほぼ黙殺された状況だった。70年代を駆け抜けたMichel Polnareff の全盛期はとうに過ぎ、フランスで活動するアーティストの情報が入ってくるのは、ほんと稀だった。
 「フランスといえばシャンソン、シャンソンといえばアダモ」といった具合に、21世紀に入るまでは、まともなインフォメーションが成されない状態が続くことになる。一応、「フランス 音楽 アーティスト」でググってみると、90年代ロキノンでちょっとだけレコメンドされていたTahiti 80や、「えっ、この人たちもフランス出身?」とちょっとビックリしたGipsy Kingsなどが検索でヒットする。でも、マニアックな支持に終わった前者もそうだけど、後者なんてフレンチっぽさ全くねぇし。

 で、改めてレビューするにあたり、俺の浅い先入観の真偽を確かめようと、前述のトリビアを改めて調べ直してみたところ、まぁ大体間違っていなかった。上っ面の知識だったけど、案外覚えてるもんだな。当時は大して興味なかったはずなのに、ゴシップ的な記事って忘れないものだ。
 さらにも少し深く突っ込んで、wikiやら個人ブログなんかで調べてみると、まぁ出てくること出てくること。世に出た作品よりGainsbourg本人の方が面白いんじゃないかと思ってしまうくらい、何かとネタの宝庫である。

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 「エロいことはほとんど知らない(という設定の)18歳の少女アイドルFrance Gallに、フェラチオを想起させるエロい暗喩を含めた歌「Les Sucettes」(邦題「アニーとボンボン」)を提供、後になって歌詞の内容を知ったGall、あまりの恥ずかしさと怒りのあまり、数ヶ月に渡って引きこもるほどのショックを受ける」
 「フランス革命を讃えた国歌「La Marseillaise」を、革命をイデオロギーとして含む音楽であるレゲエ・ヴァージョンにアレンジして発表、当然各方面からブーイング。特に某退役軍人からは、コンサート会場に爆弾を仕掛けた旨の脅迫電話があったが、「俺は屈しないぞ!」とステージで名言、男を上げる。ちなみに後日、その退役軍人とは飲み仲間になる」。何だそりゃ。
 「高額な重税への抗議行動として、生放送のテレビ出演時、「どうせ税金で取られちまうんだから」と、500フラン札(日本の1万円札に相当)にライターで火をつけて燃してしまう。ある意味、強烈なパンクイズムだけど、大多数の庶民からは「金持ちのお遊び」としてしか見られず、逆に顰蹙を買う」

 反骨精神あふれる50代を経て、円熟の60代へ移行したGainsbourg。
 名実ともに国民的スター/大御所となって、少しは丸くなったのかと思いきや、今度は当時13歳だったCharlotte を引っ張り出し、結構エグい内容の近親相姦ソング「Lemon Incest」をレコーディング、併せて、何かと誤解を誘発するエロいPVまで発表しちゃったものだから、またまた良識派を含め多方面から非難を浴びることになる。ブレない人だよな。
 その後も丸くなる気配を見せず、大衆にも良識派にも右にも左にも迎合しない「俺流」を貫いたGainsbourg。ジゴロ的な振る舞いで一世を風靡した青年期を経て、無精ヒゲまじりで毒舌を吐きまくるその風貌は、日本で言えば晩年の勝新太郎とその姿がダブる。
 そういえば彼もずっと「俺流」だったよな。自我を貫くとみな、あんな風貌になるのだろうか。

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 実際のところは不明だけど、その風貌や生き方から察するに、恐ろしく孤独な人だったんじゃないかと思われる。それでいて、退屈なのをひどく嫌って。そんなやり切れない想いが、晩年は露骨に態度や言動に出て。勝新にも通ずるよな、これって。
 自己愛が強い、猛烈な構ってちゃん。ほんとは独りでいるのが好きなのに、それでいて無視されるとヘソを曲げ、歩み寄られるとソッポを向いてしまう。
 そんな人間にとって、すべての事柄は刹那的なものでしかない。奇抜な言動で世間を騒がせても、また逆に、どれだけ賞賛を浴びる作品を産み出したとしても、満足することはなかったのだろう。すべては自分の上っつらを通り過ぎてゆくものでしかないのだ。
 どうにもならないことをわかっていながら、黙って何もしないでいると、それはそれで退屈で、抑え切れない衝動が悪意に形を変えて、口から飛び出す。
 あぁめんどくさい人。

 そんな偏屈オヤジとして人生を折り返したGainsbourg。80年代に入るといろいろ悟ったのか、音楽的オピニオン・リーダーとしてのポジションから自ら身を引くようになる。
 「自分でいろいろ仕切っても不満が出てくるし、エネルギー消費だってハンパない。どうせ何をしたって不満が残るんだから、だったらいっそ、周りにお膳立てしてもらった方が楽なんじゃね?」
 ほんとにそう言ったのかどうかは不明だけど、晩年に差し掛かった80年代の2作品は、どちらもアメリカでレコーディングされている。
 ここでの彼はちょっぴりピアノを叩いているだけで、バック・トラックはほぼプロデューサー任せ、ヴォーカルに専念している。ヴォーカルといったって、メロディを奏でることはほとんどなく、しゃがれた声でボソボソ聞き取りづらい独白を連ねるだけ。
 クレジットに目を通すと、名の通ったミュージシャンは参加していない。ていうか、ほぼ無名のプレイヤーばかり。多分、プロデューサーBilly Rushの人脈でかき集められた、「取り敢えず間に合わせ」臭が隠せない。ただ唯一、Jeff BeckやJohn McLaughlin らのレコーディングに参加していたTony "Thunder" Smith というプロのドラマーが全面参加しているおかげもあって、演奏全体はメリハリがあってボトムもしっかりしている。
 まぁシーケンス・ビートを基盤としているので、どうやったって、そこそこのクオリティは保てるのだけど。

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 二日酔いの余韻を引きずりながら、朦朧とした状態でマイクの前に立つGainsbourg。無機的なビートをバックに、殴り書きした自筆のメモ紙を見ながら、覇気もなくボソボソ物語を紡ぐ。
 無名のナレーターとジャンキーの黒人少女サマンサを中心に展開するコンセプト・アルバムということだけど、当然フランス語が主体なので、訳詞が必要になる。英語と違って、何となく知ってる単語をピックアップして大よそを理解する、という手法が使えない。俺が入手した盤は輸入モノなので、当然意味はほとんどわからない。ググってどうにか概要を掴むことで精いっぱい。でも、それでいいんだよな。意味なんて、わからなくてもいいんだよ。

 誰が聴こうが聴くまいが、もうそんなことはどうでもいいのだろう。彼ほどのアーティストになると、人に聴かせるというより、むしろ自身の内なる声との対話がメインとなる。我々にできることは、ただその呟きに耳を傾けるだけだ。
 歌声とも言えない言葉の礫は、フランス語を介さない者さえ、強引に振り向かせる。もちろん、BGMには適さない音楽だ。

 ― あぁ退屈だ。
 サウンドにかき消された声なき声は、そう呟いている。

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1. You're Under Arrest
 60近くになって、こんなヒップなトラックを作ってしまうとは。てかプロダクション任せだったんだろうな。ステレオタイプにファンキーなベーシック・トラック、そして無愛想なモノローグ。そう思い出した、スネークマン・ショーだ。ジングルでこんな感じだったよな。もちろんGainsbourgが後出しだけど、サックスのブロウが本家と比べてクール。



2. Five Easy Pisseuses
 1.のベーシック・トラックをまんま流用して、タイトル・コーラスを入れたような曲。要は彼が紡ぎ出す物語が重要であって、サウンドなんてどうでもいいのだろう。それでいて、やたらクオリティの高いデジタル・ファンクに仕上がっているのだけど。「Pisseuses」はもちろん英語「Pieces」のフランス語なのだけど、少女性愛「Pissy」とかけているらしい。やっぱりエロだった。

3. Baille Baille Samantha
 邦題「悲しみのサマンサ」。「バイバイ」に聴こえるから単純に「悲しみ」という言葉をあてたのだろうけど、「Baille」とはどうやら「桶」のことらしい。Gainsbourgのことだから、エロい隠喩だと思ってしまうのは深読みしすぎなのか?

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4. Suck Baby Suck
 Chuck BerryやBill Haleyなど、往年のロックンローラーへのリスペクトを歌い上げてるっぽいのだけど、基本はエロ。「ベイビー」を「吸う」んだから、結構直接的にエロいことを呟いている。これが許されるんだから、芸風って大事だな。勝新もある意味、何したって許されたもの。

5. Gloomy Sunday
 邦題「暗い日曜日」。国民的シャンソン・シンガーDamiaが初出の、知ってる人は知ってるはずの「自殺ソング」。「暗い日曜日に女性が亡くなった恋人を想い嘆くというもので、最後は自殺を決意する」といった救いのない曲は、何百人もの自殺者を産み出した(諸説あり)。日本も含め各国で放送禁止・発禁を食らったにもかかわらず、カバーをする者が絶えないという、何かとお騒がせなこの楽曲。その不吉さゆえ、優秀なアーティストを引き付ける魔力があるのだろう。
 モダン・サウンドのシャンソン、といった趣きで、俺的には結構気に入っているのだけど、訳詞を読んだらドン引きなんだろうな。なので、訳詞も読んでないし、自分で訳す気もない。



6. Aux enfants de la chance
 「Come Together」みたいなイントロから始まる、しっとりAOR的なスロー・ファンク。もうサウンドだけで俺好みの世界なのだけど、これがカラオケだけだと気が抜けた感じになるんだろうな。やはり頑固オヤジのモノローグがあってこそ、曲全体が締まる。

7. Shotgun
 大味なアメリカン・ロックっぽいイントロが安っぽく感じられ、タイトル・コーラスも陳腐なアレンジだけど、やはりGainsbourgの肉声が入ることによって、どうにか聴くことができる。しかしコードや旋律とは無関係のところで淡々と告白するGainsbourg。レコーディング・ブースという空間でうなだれながら、無造作に言葉を繰り出すその様は、ある意味王者の風格である。ただ、家来のいない王者だけれど。

8. Glass Securit
 これだけメロディを想起させるようなサウンドなのに、頑なに旋律を奏でることを拒むクソ親父。爽やかなギターの調べもシルキー・ヴォイスのコーラスも関係ない。彼の心は彼らの前にはいない。その居場所は孤独な暗所、深く寒い海の底だ。

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9. Dispatch Box
 タイトルは「アタッシュ・ケース」の意。手クセの多いカッティングもだいぶ慣れてきて、ライトなファンク・サウンドはヒットチャートにフィットする。3分弱ながらヒットの要素は可能な限り詰め込まれている。ヴォーカルは抜きにして。シンセポップ/ファンク路線はもう何枚か続けて欲しかったな。

10. Mon legionnaire
 ラストはÉdith Piafも歌ったシャンソンの古典のカバー。チープなDX7サウンドと軽いギター・カッティング、エコーの効いたバスドラの3点セットは、俺を含む80年代サウンド愛好家にとって、手放しで絶賛してしまうサウンド・メイキングである。逆に言えば、多少楽曲やヴォーカルに難があっても、これさえ揃っていればそこそこ聴けてしまうというのが、俺の悪いクセでもある。しかも間奏で、なかなかエモーショナルなサックス・ソロまで入った日には、もう垂涎もの。
 ちなみにストーリーのラスト。ナレーターはサマンサと一夜を共にした後、彼女を置き去りにして、フランス外人部隊に参加する。

 陳腐なストーリーだな。でもいいんだよな、これで。


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誰が何を言おうと、「俺は俺」。 - Van Morrison 『Poetic Champions Compose』

folder 1987年リリース、17枚目のソロ・アルバム。Themを脱退して間もなくレコーディングされた『Blowin’ Your Mind』が1967年なので、20年間ほぼ一定のリリース・ペースを守っていることになる。それに加えて何枚かライブ・アルバムや2枚組オリジナルもリリースしているので、アイテム数は相当な量にのぼる。なので、軽い気持ちで「ちょっと集めてみようかな」と思うのは早計。とんでもない量だから。
 ちなみに、そんな大量のオフィシャルもほんの氷山の一角に過ぎず、ブートの世界に足を踏み入れたら、そりゃもう奥深い迷宮から抜け出せなく恐れがある。Grateful Deadのファン・コミュニティーによって確立されたテープ・ツリー・システムが御大のコミュニティー内でも運用されており、比較的初期の未発表音源も聴くことが容易となっている。今じゃ普通にトレント・ファイルでも出回っているので、コンプしようと思ったが最後、一生を棒に振ってしまう。
 ダメだよな、これからレビューするのにこんなこと書いてちゃ。

 以前、布袋寅泰『Guitarhythm』をレビューした際、「問答無用の音楽」と形容したことがあったけど、デビューから一貫してその「問答無用の音楽」ばっかり作り続けてきたのが、Van Morrisonである。
 日本のアーティストで例えれば、浜田省吾あたりが最も近いポジションなんじゃないかと思われる。「団塊ジュニアの演歌」とも例えられる彼の楽曲は、その長い熟成を経て余分な雑味や脂が削ぎ落とされ、バラード系は一聴して判別がつきづらい楽曲も多いけど、それを「拡大再生産」と指摘するものは少ない。彼が奏でるのは、真摯に音楽と向き合った姿勢の末、紡ぎ出されたものだ。安易に一朝一夕で仕上がる、そんなお手軽なものではない。
 80年代中葉の『J. Boy』で心を鷲づかみにされた俺世代以上からは、熱烈な支持を受ける浜省だけど、全盛期を知らない若造にとっては、堀内孝雄との区別がつかないかもしれないし、人によって「合う/合わない」や「好き/嫌い」もあるだろうけど、でもそんな瑣末な個人の嗜好を鼻で笑い飛ばしてしまうのが、浜省の音楽であり御大の音楽である。
 多分、浜省なら言わないだろうけど、「ゴチャゴチャ言わんでいいから黙って聴けやっ、嫌なら聴くな」と言い放ってしまえる豪快さこそが、御大のキャラクターである。

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 年季の入ったヴォーカリストのアルバムというのは、「圧倒的な存在感を有する歌声」と、「あくまで引き立て役としてしゃしゃり出ず、それでいてそこそこのオリジナリティを付与した堅実なバッキング」という構図が一般的となっている。なので、それほど興味のない人にとっては楽曲の優劣がつけづらい。要するに、どれを聴いても同じに聴こえてしまうのだ。
 浜省のバラード系同様、御大もまたビギナーにとってはハードルの高いアーティストである。「一貫した音楽性」ということはイコール「初期の段階である程度、基本フォーマットが完成されている」のと同義である。時を経るにつれて熟成加減は深まるけど、その作品群は時系列とは無関係の座標にある。繰り返すけど、どれを聴いても同じに聴こえてしまうのだ。
 微妙な声の若さやアレンジの素っ気なさなんかで、「これは60年代後期のアルバムかな?」というのは判別できるけど、これがリマスターされたものになってしまうと、どっちが1976年モノでどっちが2015年モノなのか、ちょっとわからなくなってしまう。
 たまにちょっと寄り道して、アイリッシュ・トラッドやジャズ、カントリーに手をつけたりはしてるけど、基本、ブレの少ない人である。ていうか、「俺が歌えば全部Van Morrison なんだから文句ないだろ?」という無言のプレッシャーが、音から滲み出ている。その辺の圧は浜省よりかなり強い。

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 そういった人なので、どの時代から入ったとしてもクオリティは高く、一度馴染んでしまえば居心地の良い環境は保証されている。ただ、いくら同じような作風といっても前述の深化とリンクして、時代を追うごとに微妙に変化しており、当然好みも分かれてくる。
 一般的に間口の広さとして、ロック名盤ガイドなんかで紹介されることの多い『Moon dance』〜『Astral Weeks』を入り口とする場合が多い。実際、俺もワーナーの廉価版CDで入ったクチだし。
 その2枚を入手したのは確か20歳頃で、当時はロックの歴史をなぞるように、名盤ガイドに載ってるアルバムを片っぱしから聴き漁っていた。最初は、上位にランクインしているBeatlesやStones、Dylanなどの手堅いところを攻めてゆくのだけど、聴き進めるにつれて、あまり興味のないモノが残るようになる。そのうちリストを埋めることが目的化してゆき、一応下位打線のアイテムも聴くことは聴くのだけれど、そう何回もプレイヤーに入れることもなく、早々に売っ払ってしまう。

 当時の俺にとっての御大が、その中古レコ屋行き物件に当たっていた。その渋く地味な作風を受け入れる準備が、俺にはまだ整っていなかったのだ。結局のところ、自ら望んだモノでないと身につかない、という教訓は得た。汎用性の高い教訓だよな。
 「『Moonsance』周辺の70年代の作品群を抜きにして、Van Morrison を語ることはできない」という空気が、昔から日本の権威的メディア周辺では蔓延している。Stonesだったら『Let it Bleed』、Pink Floydなら『Dark Side of the Moon』が最高傑作だ、という論調。前評判や絶賛のレビューによって期待値が上がり、で実際に聴いてみると…、で、速攻中古レコ屋行き。そういった「何か思ってたのと違う」名盤をかき分けて、ずっと底の方で打ち捨てられた「真の名盤」たちよ。

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 Van Morrisonの場合だと、初期の泥くさいブルー・アイド・ソウル路線と併せて、本線から大きく逸脱したフォークロア作品『Irish Heartbeat』なんかも、評論家筋に結構持ち上げられている。民俗学的には貴重な記録かもしれないけど、正直、聴いてて面白いものではない。どうせやるのなら、大滝詠一『Let’s Ondo Again』ぐらいまでパロディーに噛み砕いてくれればまだ聴けるけど、あまりにアカデミック過ぎるそのスタンスは、ちょっと肩が凝ってしまう。

 そんな彼の音楽をきちんと聴けるようになったのは、ほんとここ数年、60〜70年代のソウル/ファンクを通過した耳を持ってからである。評論家の見当違いな絶賛に惑わされず、能動的にジャンルの開拓を行なうことによって、やっと自分のフィーリングとシンクロしたVan Morrisonサウンドを見つけられた、といった経緯である。単純に、年を取ったおかげもあるんだけどね。
 最大公約数的に、70年代派がファンの多勢を占めるのは事実だけど、それでも80年代以降の洗練されたAOR的サウンドを好むユーザーも多いのも、また事実である。俺がよく聴いて入るのも、ちょうどそこら辺だし。
 特別なギミックや小技もなく、単純に良い曲を素直に、感情の赴くまま歌い上げるだけ。
 たったそれだけなのに、お腹いっぱいになるくらいのクオリティが保証されている。あまりに安心できる仕上がりなので、良い意味で高機能なムード・ミュージックとしても活用できるのが、80年代Van Morrisonの大きな特徴である。

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 そういったわけで、この『Poetic Champions Compose』も品質保証付きのクオリティである。いつも通りなので特別な新機軸はないのだけれど、ちょっと御大、この時はジャズをやってみたかったのか、自らサックスを吹きまくったインストを3曲も収録している。アルバム構成上、ほんとは大して必要ないパートであり、無理やりねじ込んだ感もあるのだけど、でも案外サマになってるのはキャリアの為せる技。
 何かに似てるかと思ったらアレだ、部下の結婚披露宴の余興で自ら立候補して楽器演奏してしまう上司。やらせてみたら案外うまくて注目を集めてしまい、ドヤ顔で席に戻って酒を煽る中年男。いつも上から目線だけど、でも何だか憎めないんだよな。


Poetic Champions Compose
Poetic Champions Compose
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1. Spanish Steps
 
2. The Mystery
 御大自身によるサックスを大々的にフィーチャーしたインストの後に広がるのは、雄大なアイルランドの地を思わせる、スケール感のある力強いバラード。広々とした農作地帯を思わせる奥行きは、ストリングスの音色さえフィドルのような響きに変えてしまう。

3. Queen of the Slipstream
 その肥沃たる大地をクローズアップしたかのような、古き良き19世紀の情景を振り返るような、懐かしささえ感じさせるバラード。考えてみりゃバラードばっかりだよな、この時期って。さらにカントリー志向が深まって、御大自ら弾くギターの音色も時々バンジョーっぽく響く。一応、シングル・カットはされているらしいけど、チャートインせず。



4. I Forgot That Love Existed
 ノスタルジックなムードから趣を変えて、もう少しリズムの効いたミドル・バラード。ヴィンテージ・ソウルからインスパイアされたメロディもフックが効いており、俺的には好きな世界。
 ほんと色づけ程度にシンセが使われているのだけど、この程良さ加減が絶妙である。同時代のアーティスト、例えば名前を出しちゃ悪いけどDylanのこの時期の作品なんて、変に時代に色目を使ってしまったのが仇で自爆しちゃってるし。
 ボトムがしっかりしてれば、無理にトレンドを追うことはないのに、つい目先に食いついて黒歴史化してしまったのが、多くのシンガー・ソングライター系のアーティストである。

5. Sometimes I Feel Like a Motherless Child
 こちらもメロディにメリハリがついたバラードで、ヴォーカル・スタイルはもう少しソウル寄り。基本のドラム・ビートに加えてアンビエント・テクノっぽいシーケンスが裏でなっているのだけど、こういった使い方ってあまり注目されてないけど、生音とのミックス具合はもっと注目されても良いと思う。スローなのに程よい疾走感がうまく表現されている。

6. Celtic Excavation

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7. Someone Like You
 B面冒頭のインスト、ていうか御大の独演会をプロローグとして、多分、一般リスナーも含めて最も良く聴かれている正統派バラード。最近になって、どこかで聴いたことがあると思ってたら、映画『ブリジット・ジョーンズの日記』でフィーチャーされていたのだった。そりゃ知名度あるよな。
 もう少し調べてみるとこの曲、映画挿入歌としてかなり優秀らしく、他にも6本の映画で何かしらのシーンで採用されている。クセがなくて、それでいてセンチメンタルで熱いバラードなので、ビギナーにも入りやすいんじゃないかと思われる。



8. Alan Watts Blues
 女性ヴォーカルが入ると、やっぱりゴスペルになるのは定番。タイトルにブルースって入るくらいだから、サウンドはほんと黒い。手クセの多いギターも粗い響きのドラムも、すべてがアメリカン。知らされずに聴いてると、ほんと黒人のヴォーカルと勘違いしてしまう。

9. Give Me My Rapture
 ニューオーリンズ風味は再び続く。アーシーなオルガンと強いリズムが曲をリードする。しかしこういった曲を聴いてると、ほんと演歌と同じ土着性の強さを感じさせる。

10. Did Ye Get Healed? 
 これまでの曲より洗練された、サックス・ソロからリードするジャズ・タッチのミドル・チューン。心もちヴォーカルの圧も抑え、オールディーズ・スタイルの女性ヴォーカルとのコンビネーションがレトロ・フューチャー。間奏のソロも軽やかだし、聴いてるとついついスウィングしてしまう。
 いい年だけど、ちょっぴりファニーで一皮むけた大人の茶目っ気を見せる御大。こういった大人に憧れてしまう。ていうかリリース当時の御大は42歳。今の俺よりだいぶ下じゃないの。まずいな。

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11. Allow Me
 ベッタベタなカクテル・ジャズだけど、まぁムード・ミュージックとして捉えれば充分な仕上がり。最後くらい、好きにやったっていいじゃん。あ、でも全部好き放題か。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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